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中国「ウクライナに同情」の意外。プーチン“報告なき軍事侵攻”に不満の隣国

アメリカとの対決では共闘姿勢を見せる中ロですが、ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の受け止め方は複雑なものがあるようです。今回、中国とウクライナの親密な関係性や、中国国営テレビ局CCTV4の報道内容を記しているのは、拓殖大学海外事情研究所教授で国際教養大学特任教授も務める名越健郎さん。名越さんは政府の統制下にあるCCTV4のウクライナ侵攻に関する報じ方が、日本や欧米のメディアと変わらぬ点に注目するとともに、旧ソ連圏諸国においては両国が覇権争いを繰り広げている現実を紹介しています。

プロフィール:名越健郎なごし・けんろう
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。主な著書に、『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)など多数。

ロシアのウクライナ「侵略戦争」、平和勢力・中国が不満か

ロシアがウクライナに侵攻し、凄惨な市街戦が進む中、ウクライナに居住する中国人も路頭に迷っている。欧米や日本政府はウクライナ在留国民に事前に退去を求めたが、中国政府は注意喚起を呼び掛けただけだった。プーチン政権は2月24日のウクライナ攻撃の最高機密情報を、準同盟国・中国に報せていなかったことになる。

ウクライナの中国人は6,000人

中国はウクライナとも緊密な関係を築いており、「一帯一路」の拠点国と位置付けていた。2020年の貿易総額は154億ドルで、ウクライナにとって、中国が最大の貿易パートナーだ。

ウクライナ在住中国人は、コロナ禍で減少したものの推定6,000人。うち留学生が1,000人という。キエフ、ハリコフ、オデッサの3大都市を中心に居住し、商港のオデッサには富裕層の中国人が多いという。

キエフとハリコフでは市街戦が起きており、中国人もウクライナ市民とともに逃げ回っているはずだ。

中国メディアによれば、在ウクライナ中国大使館は26日、滞在する中国人に、みだりに身元を明かさないよう呼び掛けた。中国政府がロシアの欧州安保構想を支持するなど、ロシア寄りの立場を取ったことから、中国人留学生が脅迫を受けるケースがあるという。

ロシア軍の攻撃で中国人に犠牲者が出れば、中国で反露感情が高まるだろう。

中国TVはロシアの侵略を報道

ロシアと中国のメディアでは、ウクライナ戦況報道が異なる。

ロシアの国営テレビは、キエフなどウクライナ各地の戦況は一切報道せず、東部でロシア系住民がウクライナ政府の迫害を受けているといったプロパガンダ報道を長々と伝えている。

これに対し、中国国営テレビ局CCTV4(国際放送)はウクライナ各地の惨状や庶民の嘆き、ゼレンスキー大統領の悲痛なアピールを大きく報じているという。プーチン大統領の姿が映されることはほとんどなく、ウクライナ側に立つような報道ぶりという。これは、日本や欧米のテレビ報道と変わらない。

● 遠藤誉『中露間に隙間風――ロシアの軍事侵攻に賛同を表明しない習近

政府の統制下にある国営テレビの報道ぶりは、ウクライナへの中国の同情を示唆している。

プーチン政権下でチェチェン戦争、ジョージア戦争、シリア戦争、一連のウクライナ戦争を推進し、好戦的なロシアに対し、中国は1979年の中越戦争以降、本格戦争をしていない。中国の方が「平和勢力」なのだ。

中国の王毅外相は侵攻前、ミュンヘン安保会議で、「ウクライナの主権、領土保全の尊重」を訴えていた。

ウクライナ美人とのお見合いが人気

中国人男性の間で、ウクライナ人女性との結婚が密かな人気であることは、あまり知られていない。中国は女性の人口が男性より少なく、結婚できない独身男性が3,000万人に上るとされる。その点、ウクライナは世界有数の美女の産地だ。

BBC放送(ロシア語版、2019年2月14日)によれば、新型コロナ禍の前まで、中国人男性数百人が常時ウクライナを訪れ、業者の案内でウクライナ人女性とお見合いをしていたという。

ウクライナで花嫁を探す中国人男性は、富裕層が多く、相手の家族に多額の財政支援を行う。経済危機のウクライナは、平均月収は2、3万円程度で、外国人と結婚する女性が多い。ただし、言葉などの障害も多く、業者が2年間で誕生させたカップルは約40件だった。

しかし、ウクライナ人美人妻の写真がSNSでアップされると、羨望の書き込みがあふれるという。業者はコロナ禍が終わると、ツアーを再開したい意向だ。しかし、ロシア人がミサイルと戦車で「美女の里」を台無しにしてしまった。中国人独身男性はプーチン政権の侵略戦争にあきれているはずだ。

農業開発からICBMへ

中国は2013年にウクライナと友好協力条約を締結後、積極的に進出した。中国の人民解放軍系企業は穀倉地帯のウクライナで、農業開発を計画しているほか、ウクライナ東部の防衛産業や宇宙航空技術を傘下に収めることを目論んでいる。

東部ドニプロにあるユージュマシュはソ連時代最大の大陸間弾道ミサイル(ICBM)工場で、最盛期には120基のミサイルを製造し、米ソ軍拡競争を支えた。

しかし、ロシアはミサイル輸入を中止し、工場の多くは閉鎖に追い込まれた。ICBMでは米露に大差をつけられている中国にとって、ユージュマシュは魅力だ。中国は東部の航空機エンジン工場、造船工場なども狙っている模様だが、ロシアの侵略戦争が中国の計画を台無しにしてしまった。

旧ソ連で中露が覇権争い

準同盟関係にある中露関係で、不協和音が広がる分野が旧ソ連地域の勢力圏争いだ。

今年1月、カザフスタンで起きた反政府騒乱と政変では、ロシアが率いる集団安保条約機構(CSTO)の平和維持部隊が介入し、親露派・トカエフ大統領の指導体制の確立を支援した。習近平国家主席と親しいナザルバエフ前大統領、中国に留学したマシモフ元首相ら親中派は失脚した。

中国はベラルーシの首都ミンスク郊外に巨大な工場団地を建設中で、ファーウェイなど大手先端企業が進出。欧州向けの輸出拠点にしようとしている。

2020年夏、ルカシェンコ大統領に反対する市民の大型デモが吹き荒れた時、中国はロシアに対し、ベラルーシに武力介入しないよう申し入れたとの情報がある。

中国はウクライナにも経済進出を進めていたが、ロシアは軍事力で進出した。

中露は反米で共闘するものの、旧ソ連圏諸国への進出方法は正反対だ。旧ソ連諸国としても、人民元とインフラ開発で進出する中国人と、ミサイルと戦車でやって来るロシア人のどちらを選ぶかは一目瞭然だろう。

image by: Siarhei Liudkevich / Shutterstock.com

名越健郎

プロフィール:名越健郎(なごし・けんろう)1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。主な著書に、『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)など多数。

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