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国民民主“存亡の危機”も。何が玉木代表を危険な賭けに走らせたのか?

衆院本会議で本予算案に賛成した国民民主党の玉木雄一郎代表の「意図」を巡り、さまざまな憶測が飛び交っています。この行動を「危険な賭け」とするのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、野党が本予算に賛成する意味について解説するとともに、玉木代表が賭けに打って出た背景を推測。さらに公明や維新の反応を紹介した上で、国民民主の動きが参院選に与える影響を考察しています。

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新年度予算に賛成した玉木代表の危険な賭け

新年度予算の採決がおこなわれた2月22日の衆議院本会議。締めくくり総括質疑で、各党の予算委員会のメンバーが次々と壇上で予算案に対する意見を述べてゆく。

最後に登場した国民民主党の発言者は、予算委員の前原誠司氏ではなく、代表の玉木雄一郎氏だった。

「賛成の立場から討論いたします。正直申し上げて、本予算は100点満点ではありません。何が今の国民生活にとって最良かという観点から…」

野党なのに本予算案に賛成を唱えたのである。連立与党入りの布石か、いや自滅への第一歩ではと、さまざまな声が交錯する。

本予算に賛成するということがどういう意味を持つのかを確認しておきたい。

4月1日から翌年の3月31日までの1年間に、政府が国庫からどんな施策に支出するかを記した計画表が本予算である。

それに賛成するということは、異存はないのでどうぞ政策を予定通り進めてくださいと早々に認めてしまったことになる。国民民主党の議員たちはこれから1年間、国会で何を議論し、何を提案するというのだろうか。

予算案の審議は参議院に移ったが、衆院で予算案に賛成した国民民主党の質疑は、甚だ迫力に欠けるものとなるだろう。今夏の参院選で、国民民主党の候補者は何を争点に自民党と戦うというのだろうか。

玉木代表は柔軟な思考のできる政治家だと思う。財務省出身らしく財政健全化信仰に囚われてきたが、長期不況から脱出するため、積極財政策論に転じている。4%くらいの賃金上昇、4万円台の株価をめざすという。憲法改正にも前向きだ。

要するに政策は自民党とさしたる違いはない。とりわけ岸田政権とは相性がよさそうだ。ならば、このまま、うだつの上がらない野党でいるより、できることなら与党の一角を占めてみたい。そう考えても不思議はないだろう。

だが、そうした野心が、危険な賭けに走らさせたようにも見える。予算案への賛成と引き換えに、獲得しようとしているのは、トリガー条項の凍結解除という、耳慣れない政策である。しかも、玉木代表は、岸田首相の確約をとりつけたかのように言うが、今のところ、見送りになる公算のほうが大きいのだ。

レギュラーガソリン価格の全国平均が1リットル160円を3カ月連続で超えた場合、ガソリン税(53.8円)のうち25.1円分を引き下げる仕組みが「トリガー条項」だ。

東日本大震災からの復興に莫大な資金が必要になったので凍結されたままになっている。その凍結解除、つまりトリガー条項発動によるガソリン値下げを国民民主党が提案してきた。

2月18日の衆院予算委員会で「トリガー条項も検討するということでいいか」と何度もしつこく迫る玉木氏に対し、岸田首相は「あらゆる選択肢を排除しない」と繰り返して答弁した。

この場面を玉木代表は独自に解釈した。事前に岸田首相と電話で交渉していたことを記者会見で明かし、「一国の首相と公党の代表である私との間で結んだことがすべてだ」と、いかにも話がついているかのように語った。

しかし、高市早苗自民党政調会長は「トリガー条項の凍結解除のためには法改正が必要で、迅速性はない」と否定的な見解を示している。むろん、税収減に対する財務省の激しい抵抗は避けられない。

もし、岸田首相に梯子を外されたら、玉木代表の面目は丸つぶれとなり、国民民主党の存亡にかかわる恐れすらあるのではないか。

国民民主の所属議員全員が玉木氏を支持しているわけではない。前原誠司代表代行は22日の衆院本会議で予算案への反対討論をする予定だったが、玉木代表が予算案賛成の姿勢を曲げなかったため、予算案採決の本会議を欠席、代わりに玉木代表が賛成討論を行った。

国民民主には前原氏に追随する議員も一定数いるはずで、玉木氏がトリガー条項でつまずけば、その責任を問う声も出てくるだろう。

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また、国民民主党が連立を望むからといって、自民党も、おいそれとは受け入れられないのではないか。無視できないのは、公明党の反発だ。

そもそも憲法改正や敵基地攻撃能力などをめぐり、自公には、はっきりと温度差がある。それを見透かしたかのごとく、連立に割って入る素振りをみせる国民民主党。その玉木代表と岸田首相がにこやかに肘タッチするシーンを、公明党の山口代表らは苦々しい思いで見ていたのではないだろうか。

このところ自公両党には厄介な問題が持ち上がっている。選挙協力の軸である相互推薦の話し合いがストップし、連立にひびが入っているのは以前の当メルマガにも書いたとおりだ。

【関連】自公の選挙協力にヒビ割れ。創価学会が自民党にかけた脅しの内容

山口代表は「自公の連立政権の枠組みには影響を与えないことを岸田首相との間で確認した」と記者たちに語ったが、そんな発言をすること自体、自民と国民民主の接近への警戒感を示すものといえよう。

このところ、岸田内閣の支持率が急降下している。夏の参院選で与党が過半数割れして衆参ねじれが起きる可能性がないとはいえない。そうなると、自民党は日本維新の会や国民民主党との連立も視野に入れざるを得なくなる。

維新はそういうことも念頭に、公明党に替わりうる勢力として、国民民主との連携を模索していたフシがあった。文書交通滞在費の使途公開を可能とする法案を共同提出したのもその一つだ。ところが、両党の連携を進めていた前原氏が、予算案の賛否をめぐって玉木代表と対立してしまったのである。

維新の松井一郎代表(大阪市長)は「連立をめざしているんだなということがひしひしと伝わってきた。与党になるというなら、もう連携はできない」と玉木氏を批判し、参院選での自公との対決姿勢をアピールしてみせた。

維新は岸田政権とそりが合わないとしても、安倍元首相や菅前首相との親密な関係は変わらない。連立入りへの色気を持っているがゆえに、抜け駆けしたような玉木氏の行動が許せないのではないだろうか。

国民民主党の与党化で、ますます見通しがきかなくなったのが、参院選における野党共闘だ。32の「1人区」で統一候補が立てられるのかどうか。立憲民主と国民民主の候補者調整ができなければ、支持母体である連合の対応も難しくなる。

連合傘下の自動車総連、UAゼンセン、電力総連、電機連合出身の参院議員は国民民主党に、官公労出身議員は立憲民主党に所属している。改選を迎える国民民主党の現職議員のなかには、6年前に野党統一候補として当選した人も何人か含まれている。

連合には自民党に接近する動きもみられ、問題を複雑にしている。自動車総連傘下のトヨタ労組は昨年の衆院選愛知11区に現職の組織内候補を擁立せず、自民党候補に議席を明け渡した。

芳野会長が、国民民主党の玉木代表から予算案賛成について説明を聞いた直後、「予算案に反対していない」と、玉木氏に理解を示したような発言をし、メディアがざわついたのも、そういう経緯があるからだ。

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連立狙いとなれば、国民民主党と小池都知事の関係もがぜん気になってくる。

昨年12月、玉木氏は都庁で小池知事と会い、「都民ファーストの会」との勉強会開催など、連携を深めていくことで合意した。2月28日には、「都民ファーストの会」との共通政策を発表している。

巷では、小池氏を参院選に担ぎ出すのではないかという噂がある。かねてから初の女性総理の座を狙っているといわれてきただけに、参院選への出馬はピンとこないのだが、政界、一寸先は闇である。

ともあれ、本予算案に賛成した玉木代表の行動が危険な賭けであることは間違いない。下手をすれば、国民民主党は与党でも、野党でも、ゆ党でもない存在となり、分裂さえしかねない。目下のところ、玉木氏は岸田首相の曖昧模糊とした“口約束”の履行をひたすら祈るしかなさそうだ。

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image by: 玉木雄一郎 - Home | Facebook

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