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たった月6万円で生活できるか?維新「ベーシックインカム案」の無理筋

日本維新の会が「日本大改革プラン」の中で導入を謳うベーシックインカム案。基礎年金や児童手当、生活保護を廃止し月6万円の支給を検討しているとのことですが、果たしてこの金額で暮らしは成り立つのでしょうか。今回、元経済誌『プレジデント』編集長で国会議員秘書の経験もあるITOMOS研究所所長の小倉健一さんは、維新案の問題点や疑問点を指摘するとともに、一月を6万円で生活できるかを具体的に検討。その結果は予想を上回る厳しいものでした。

プロフィール小倉健一おぐら・けんいち
ITOMOS研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。

維新のベーシックインカム支給額「月6万」で人は生きていけるのか

月7万円を支給する代わりに年金も生活保護も必要なくなるとして、元経済財政担当相でパソナグループ会長の竹中平蔵氏がぶち上げたベーシックインカムの導入論。ツイッターでは<#竹中平蔵は月7万円で暮らしてみろ>というハッシュタグがトレンド入りを果たした。

今回、日本維新の会が導入を検討しているベーシックインカムの支給額は、月6万円(高齢者は8万円)だという。この金額の設定について、「国民年金の満額支給額である<月6万5,000円>を念頭においている」(NHK・竹田忠解説委員)という指摘がある。

維新ホームページ「日本大改革ってホントに必要なの?」には、こういう記述がある。

複雑な制度の中で、現金で支給されている部分はベーシックインカムに統合し、シンプルなものにしていきます。これは行政コストの削減にもつながります。こうした整理統合を進めても、医療・介護・福祉など社会的困窮者に必要な多くの制度は残りますので、安心してください。

として、<基礎年金・児童手当・生活保護の現金部分・etc>を<ベーシックインカム(最低所得保証制度)>によって、月6万円(高齢者は月8万円)を支給し、<医療・介護・福祉など多くの制度はしっかり!維持>ということだという。

ベーシックインカムの導入を支持する経済評論家の山﨑元氏は、「自治体が、支給対象者の所得や資産を調べて、受給資格があるかどうかを判断するような仕組みだと、生活保護をあてにしていてもそのお金をもらえないかもしれない。セーフティーネットとして不安定だし、所得や資産の調査等に手間とコストが掛かる」(「維新の会に教えたい!ベーシックインカムの要点」東洋経済オンライン)と現行制度の問題点を挙げているが、<多くの制度はしっかり!維持>されている維新の案では、これらの問題点はそのまま残ることになる。

生活保護には、「生活扶助(日常生活を送る上で必要な費用)」「住宅扶助(住居に住むための家賃)」「教育扶助(子供が義務教育を受けるのに必要な用)」「医療扶助(生活に困窮している人が医療サービスを受けるための費用)」「介護扶助(生活に困窮している人が介護サービスを受けるための費用)」「出産扶助(出産にかかる入院費や衛生用品の費用)」「生業扶助(就職に必要な技能の習得にかかる費用)」「葬祭扶助(遺族が生活に困窮していて、かつ他に補助してくれる人がいない場合の葬式費用)」という8つの扶助がある。このうちベーシックインカムに代替される「現金部分」は「生活扶助」のみだ。

「複雑な仕組みをシンプル」にするのが、本来のベーシックインカムの役割であるはずだが、維新がベーシックインカムだと主張するこの案では、生活保護制度において、ほとんどシンプルになっていない。維新の政策責任者である衆議院議員・足立康史政調会長(国会議員団)は「維新は小さな行政を目指している」というが、この仕組みで「行政コスト」がどこまで下がるのかはかなり不明だ。

もう一点、不思議なのは、月々の給付額が現役世代よりも高齢者の方が2万円高いところ。経済を回す目的なら現役世代に手厚く給付すべきだし、消費支出の平均額(医療費を含む)は50代が最も高く、次に40代、60代、30代、70代、20代と続く(総務省「家計調査年報」/2020年)。また、生活保護世帯であれば、そもそも医療費は国費であり、無料だ。高齢者に給付を手厚くする理由が見当たらない。複雑な仕組みをシンプルにするという制度趣旨にも反する行為だ。

維新の足立康史議員によれば、ベーシックインカムの導入にともない毎年36兆円規模の資産課税を導入することになる。資産課税の詳細は別稿に譲るが、端的に言えば、貯金や国債をはじめとする日本人が持つあらゆる資産に1%の課税をするもので、ネットでは「貯金税だ」として批判の声が上がっている。36兆円とは、消費税約18%相当の税収であり、国民の負担額では、「消費税28%時代」が到来するということになる。

もし維新が政権を担い、ベーシックインカムが導入された場合、貧困層には、どのような生活が待っているのだろうか。年収100万円未満で生計を立てている人の支出額の平均を元に考えてみたい。

総務省「全国家計構造調査(旧全国消費実態調査)」の「2019年全国消費実態調査 / 全国 / 家計収支に関する結果 / 単身世帯」における、現金給付該当箇所について考えてみたい。維新案では、生活保護制度における「住宅扶助」「教育扶助」「医療扶助」「介護扶助」「出産扶助」「生業扶助」「葬祭扶助」はこれまで通り国費で支給される。

※年収100万円未満の平均月額支出。生活保護では免除となる医療費や住居費等は除いた。

  • 食費 27,783円(一日あたり926円)
  • 電気代 4,954円(一日あたり165円)
  • ガス代 2,502円(一日あたり83円)
  • 水道代・その他 2,708円(一日あたり90円)
  • 家事用品・家具 2,792円(一日あたり93円)
  • 衣服代 2,361円(一日あたり78円)
  • 交通費 5,651円(一日あたり188円)
  • 通信費 5,730円(一日あたり191円)
  • 文具・書籍・レジャー代(教養娯楽)10,818円(一日あたり361円)
  • 理容代・石けん代 2,530円(一日あたり84円)
  • タバコ 720円(一日あたり24円=約1本弱)
  • 交際費 5,536円(一日あたり185円)
  • 雑費 4,440円(一日あたり148円)

合計で、月額78,425円(一日あたり2,614円)となる。維新の6万円では到底足りない結果になった。年収100万円未満の世帯の平均支出より、全体で24%を削らないと収支が赤字になる。現状の生活保護制度でも単身40代の生活扶助基準額は、76,420円(東京都・府中市)、68,430円(北海道・留萌市)だ。現状の生活保護給付基準ですら、低所得生活者の平均支出からすれば赤字であり、その東京基準よりも24%低い6万円の給付。どうしたものだろうか。

ネットに月6万円以下で生活している人がいないか探したところ、「月5万円だけで毎日を楽しく生きる」というブロガー紫苑さん(70)の生活が公開されていた。

それによれば、食費は11,564円、外食費1,500円、光熱費(水道代含)7,392円、通信費7,560円、医療費600円、交通費3,000円、雑費5,000円、合計3万6,616円。住宅費は購入済みなので家賃は発生しないので、医療費だけ計算に入れなければ、維新のベーシックインカム案に近い形で考えられるだろう。先の平均額と比べると、水光熱費は削減が難しい。まずは食費を1日500円以下にし、1日1本のタバコをやめ、1日200円程度の交際費を100円にする必要が出てくる。

ブロガー紫苑さんは、節約術として「賞味期限切れショップをよく利用する」「(欲しいものがあっても10分待って)冷静さを保つ」「買い物のときに、いちいちこれはうどん何杯分かを考える」「新しい服をほとんど買わない」「野菜が一度に使い切れない場合は干し野菜にする」のだという。

私のTwitterには「炊き出しに並べば、腹一杯食べれる」という情報も寄せられたが、炊き出しに並ばねば破綻する支給額というのは、セーフティネットとは呼べまい。

やはり、維新が政権を取るからにはこれまでの平穏な人生をそのまま送るなどという「甘い」考えは捨て、生活設計の根本から自己変革を求められるのだろう。

ヒントは、ブロガー紫苑さん以外にもある。月5万円で生活しているというミニマリスト「なにおれさん(30)」だ。氏のブログから、維新の給付該当部分の支出額を抜き出してみる。

  • 電気:3,000円
  • ガス:500円
  • 水道:1,500円

「電気代は夏場の2ヶ月くらいを除ければそれほど難しくはありません」という。通信費は、楽天を使い3,000円で抑えるという。

  • 食費:15,000円

「朝食は食べない」「昼食200円、夕食300円」「基本は完全自炊」「閉店間際の半額商品を狙う」ことで「食費15,000円はそれほど難しくありません」という。

「現実的に、娯楽や交際費に使えるお金はほとんどありません」と氏が振り返るように、人間と会うから交際費・衣服代がかかる。移動をするから交通費がかかるのだ。「電車に乗らずに歩く」「消費に娯楽を求めず、お金のかからない創作活動を趣味に持つ」ことが決め手になろう。お酒、タバコなどもってのほか。「シャワーは太陽の光で水を温めるか、数日に一度銭湯にいく」という覚悟が大事だ。

これで雑費8,000円を加えても、月の支出はトータルでわずか3万1,000円。1日1,000円で過ごせる。維新案でも2万9,000円の貯金ができる計算となった。

二人の達人の支出を探ったが、こんなことができるのはごく少数である。

ネットで検索すると、低所得者には、計画的な支出ができず、また意思も弱い人が多い。お酒をやめられなかったり、外食をしてしまうなどした結果、その金額を捻出するためにエアコンは基本つけない。携帯は解約し、1日1食、シャワーも週に1度などで暮らす人などが頻出する。支給日が近づくと生活費は底を尽き、米だけで過ごすこともしているようだ。平均の支出額から考えてもこちらのほうが実態に近い。

紫苑さんやなにおれさんという、節約の達人による万全の計画を立て、実行能力、そして信念がない限り、月6万円では破綻が待ち構えている。

食費は1日500円までで、賞味期限切れショップをよく利用し、シャワーを太陽の水で温める、など一般人の想像を絶するノウハウを積み重ねてやっと生きていける世界。明治維新、昭和維新に続く、令和維新では、働けない貧困層に支出24%カットの現実が待つ。

image by: 日本維新の会

小倉健一

プロフィール:小倉健一(おぐら・けんいち) ITOMOS研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。

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