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中国・香港・台湾から見たウクライナ侵攻。明らかに異なる三者三様の想い

ウクライナへの攻撃の手を緩める姿勢を見せないプーチン大統領。ウクライナとロシア両国による落としどころは一向に見えてきません。そうした状況の中、中国出身で日本在住の作家として活動する黄文葦さんは自身のメルマガ『黄文葦の日中楽話』で、中国・香港・台湾の人々が抱く、この危機への想いについて明らかにしています。

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ロシア・ウクライナ危機:中国、香港、台湾の人々の注目度の違いとは?

ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切った。ロシアのウクライナ侵攻は世界中で大きな議論を呼んでおり、中国、香港、台湾の人々も事態の進展に強い関心を寄せている。しかし、地理的・政治的などなどの相違によって、この危機に対する注目度は、中国、香港、台湾の人々には大きく異なっている。

ロシアのウクライナ侵攻に対する懸念は、中国世論では非常に高かった。ネット検閲があっても、ソーシャルメディアはこの話題で持ちきりだそうだ。

中国政府はロシアの行動を非難せず、「侵略」という言葉の使用も避けている。ところで、中国民衆は様々な角度からこの問題を議論している。

中国版ツイッターの微博の検索では紛争に関する最新情報が得られ、議論では戦争に関連する外国との交流についても触れられ、特に中国ではロシアのウクライナ侵攻が正しいのか不義なのかが注目される。多くのネチズンはロシアを支持し、紛争の重要な要因として米国の関与を挙げている。

ある微博ユーザーは「ロシアが戦わずしてウクライナがNATOに加盟すれば、次はNATOと米国がロシアを脅かすかもしれない。中国政府は、いざとなったら必ずロシアを助ける。 もし戦わなければ、NATOとアメリカが一緒に中国と戦うことになる」と述べている。

しかし、微博でもしばらくは反ロシアのレトリックが蔓延していた。「ロシアが占領した中国領土の順番表」がSNSで拡散され、ネットユーザーが歴史を引き合いに出して議論に介入している。

「ロシアが他国を侵略するのをわが政府が密かに支援するのは本当に理解できない。ロシアの行為は、日本が中国を侵略して偽満州を建国したのと同じではないか? 以前、NATOがわが大使館を襲ったのは、まさに民族的な恨みだが、しかし、我々の政府は、ロシアの侵略をまだ支持しており、いつかこのように攻撃されることを恐れていないのだろうか?」ある微博のユーザーが書いた。勿論、そういう議論はまもなく消された。

興味深いのは、数日後、ロシア批判が次第に反米的なレトリックに取って代わられ、一部のユーザーは反ロシアのユーザーを「アメリカのスパイ」と呼ぶ。

あるユーザーは、アメリカがインディアンとメキシコ人から土地を盗んだと歴史上のアメリカを指弾した。

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香港:2019年の香港逃亡犯条例改正案反対デモを連想

香港のソーシャルメディアでは、現在のウクライナ危機と、近年香港で起きている反中の抗議運動を関連付ける人が多くいた。

2019年以降、香港では逃亡犯条例改正案に反対するデモが行われ、その際に激しい衝突が起こり、次第に広い要求を持つ社会運動へと発展してきた。

2013年から2014年にかけてウクライナで起こった公民権運動を93日間にわたって記録したドキュメンタリー映画が、香港のデモ参加者から共鳴された。

今回のウクライナ危機の中、香港のソーシャルメディアでは、戦地に行く前に、残る娘に別れを告げるウクライナ人の父親を撮影した短い動画が話題になっている。

ある香港のメディア関係者は、「香港市民として、その映像を見た時、無関心でいられるわけがない。確かに、私たちはとても無力で、国際社会からの支援はウクライナの状況に限定されていると理解しています。祈るだけでなく、香港の人たちがもっとウクライナに関心を持ち、気にかけてくれることを願っています」。

ウクライナ危機と香港の運命を結びつけて考える学者もいる。

「国際関係の角度から見れば、もともとウクライナの独立と領土保全は国際協定で保証されていたが、それが破られると効力がなくなった。それと同じように、香港問題に関する英中共同声明も引き裂かれた」と発言した。

当方から見れば、香港とウクライナは比較にならないし、同じ立場ではないだろう。中国はロシアではなく、同じ行動がありえないこと。中国はすでにしっかり、香港をコントロールしているとみられる。

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台湾:「今日のウクライナ、明日の台湾」の思考

台湾のメディアの多くは、現在のウクライナ危機と北京による台湾攻撃のリスクとの間に「著しい類似性」を見出している。

独立派は、中国による台湾侵攻に備えるよう、台湾に呼びかけた。親中の側は、台湾は大陸に対して敵対的でない政策をとるべきだと主張した。

12月24日に「自由時報」が掲載した社説では、北京による台湾侵攻の際に、バイデン政権が軍事的冒険主義を抑制するために台湾に十分な支援を提供できるのか、むしろ北京に無謀なリスクテイクを促すのではないかと疑問を呈している。

「自由時報」の英語版「Taipei Times」は23日の社説で、ウクライナ事件を「台湾への前触れ」とし、モスクワの対キエフ戦略と北京の台湾侵略に関する戦略の「著しい類似点」を指摘し、侵攻する前に、「革命的外交政策」の確立や「浸透と不安定化の戦術」などを挙げた。

これに対し、親中派のマスコミは、欧米のウクライナに対する「空疎な支援」を強調し、台湾の対北京政策に現実味を持たせるよう促した。

2月24日付の「中国時報」は、ロシアが「ウクライナを粗末に扱う」場合に西側が軍事行動を取りたがらないのは、「米国の力が衰え、取り返しのつかないことになる」ことを示唆しているというフリーライターの沈氏の論評を掲載した。

沈氏は、台湾の人々に「健全な考え方が必要で、台湾海峡の向こう側の統一への決意を決して過小評価せず、国際社会の中、米国が台湾を助ける可能性を決して過大評価しないこと」と主張した。

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良識ある中国歴史学者が不義の戦争に反対するメッセージを発した

2月26日、中国の5人の歴史学者が連名でロシアを批判するメッセージを発表し、注目を集めている。メッセージを発信した五名の大学教授は南京大学の孫江(スン・ジィアン)教授、北京大学の王立新(ワン・リーシン)教授、香港大学の徐国埼(シュ・グォチー)教授、清華大学の仲偉民(ジョン・ウェイミン)教授、復旦大学の陳雁(チェン・イェン)教授だ。

そのような平和を求めるメッセージを本来中国政府が発するべきだと当方は考える。残念ながら、5人の学者によるメッセージは、ネット上で3時間足らずで検閲によりブロックされた。

メッセージの一部は以下の通りだ。

「私たちは、ロシアがウクライナに対して行っている戦争に強く反対します。ロシアにいくら理由や言い訳があっても、主権国家を武力で侵略することは、国連憲章に基づく国際関係の規範に違反し、既存の国際安全保障体制に抵触するものです」。

「私たちとしては、ウクライナの人々が自国を守るために行う行動を強く支持します。私たちは、ロシアの武力行使がヨーロッパおよび世界全体の情勢の不安定化につながり、より広範な人道的大災害を誘発することを懸念しています」。

「私たちは、ロシア政府およびプーチン大統領に対し、戦争を止め、交渉によって紛争を解決することを強く訴えます。強権は、文明の進歩の成果と国際正義の原則を破壊するだけでなく、ロシア民族に大きな恥と災難をもたらすわけです」。

「平和は、心の願いから始まる。私たち、不義の戦争に反対します」。

五人の中国歴史学者を誇りに思う。それ以外に、北京大学、清華大学、復旦大学、中国人民大学、山東大学など中国の名門大学の卒業生130人が2月28日、ロシアのウクライナ侵攻に断固反対する共同声明を発表し、中国政府に対し、1994年の核廃絶後にウクライナと結んだ宣言とウクライナへの安全保証の約束を守るよう強く要請した。

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image by: Shutterstock.com

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在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。

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