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プーチン失脚は1年以内か。全てを失う前に新興財閥軍団が起こすクーデター

3度目の停戦交渉も合意に至ることなく、無辜の市民の命が危険にさらされ続けているウクライナ戦争。もはや完全に「全民主主義国家の敵」となったプーチン大統領ですが、国内でも支持も失いつつあるようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、これまでプーチンを支えてきた3つの支持基盤が雪崩を打つように離れつつある現実を紹介。さらに「プーチンの1年以内の失脚」の可能性を指摘する記事を取り上げるとともに、その信憑性を考察しています。

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プーチンは1年以内に失脚?実は大分裂している支持基盤

2022年2月24日は、間違いなく歴史の教科書に載るでしょう。私たちが、「ナポレオンがどうした」「ヒトラーがどうした」と歴史の教科書で学んだように、未来の子供たちは、「2022年2月24日、プーチンがウクライナ侵攻命令を出した」と学習することになるのです。

プーチンは、ウクライナ戦争に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。ですが、プーチンの決断で、ロシアが【戦略的に敗北する】のは決定事項です。

すでにロシアの一部金融機関はSWIFTから排除され、世界の大手企業のほとんどが、「ロシアからの撤退」を表明している。

ロシアの知人たちは、「ソ連時代に逆戻りだ」と嘆いています。

さて、今回は、「プーチンの政権基盤が揺らいでいる」という話を。

プーチン、3つの支持基盤

プーチンの支持基盤1は、「軍、諜報機関、警察」など。日本でも「シロビキ」(ロシア語の発音はシラヴィキ)という用語が使われています。

プーチンの支持基盤2は、新興財閥です。プーチンは2000年に大統領になると、90年代ロシアの政治経済を牛耳っていた新興財閥を打倒しました。やられた代表的新興財閥は、ベレゾフスキー、グシンスキー、ホドルコフスキーです。いずれもユダヤ系。

そして、プーチンは、自分の手下や友人を、新たな新興財閥に育てていった。代表的人物は、国営石油会社ロスネフチのトップ、セーチン。国営ガス会社ガスプロムのトップ、ミレル。さらに、ロッテンベルグ、ティムチェンコなどが有名です。

ちなみに、ロシアの新興財閥は、「譜代新興財閥」と「外様新興財閥」にわけることができます。「譜代新興財閥」は、プーチンが大統領になる前からつながっている。東ドイツでスパイをしていた時、サンクトペテルブルグで副市長をしていたとき。

では、「外様新興財閥」とは誰でしょうか?これはプーチンが大統領になり、ベレゾフスキー、グシンスキーを倒した後に忠誠を誓った人たち。たとえば、イギリスのサッカークラブ「チェルシー」のオーナーだったアブラモビッチ。アルファグループのフリードマンなど。「外様新興財閥」には、「ユダヤ系」が多いのです。

プーチンの支持基盤3は、メディアと国民です。プーチンは2000年代、テレビを完全に支配下に置きました。テレビでプーチン批判は、絶対に流れません。プーチンは、ロシアの3大テレビ局「ロシア1」「ペルヴィーカナル」「NTV」を使い、自由自在にロシア国民を洗脳します。それで、今回のウクライナ侵攻も、テレビ世代、つまり年齢が高い世代から支持されているのです。

どういうロジックなのでしょうか?

まず、ウクライナは、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を8年間ジェノサイドしつづけてきたという話。「ロシア系住民を助けなければ!」ですね。

もう1つは、「今のウクライナ政権は、ネオナチだ。核兵器をもつという野望をもち、反ロシア軍事同盟NATOへの加盟を目指している。ゼレンスキー政権は、ロシアにとって本当の脅威なので、転覆しなければならない。これは自衛の特別軍事作戦だ!」と。

ちなみにロシアでは、「戦争」とか「反戦」という言葉を使うことを禁じられています。今ウクライナで起こっているのは、「特別軍事作戦だ」といわなければならない。「戦争反対!」といえば、冗談でなく捕まります。

以上、プーチンの支持基盤3つ。

  1. シロビキ(軍、諜報機関、警察など)
  2. 新興財閥
  3. メディアと洗脳された国民

でした。

シロビキ内の分裂

さて、シロビキ内で分裂が起こっています。1月31日、全ロシア将校協会が、「ウクライナ侵攻反対」「プーチン辞任」を求める公開書簡を発表しました。

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なぜ将校たちがウクライナ侵攻に反対かというと、長期的にロシアが負けるからです。

この公開書簡には、ウクライナ侵攻の結末予測が記されています。

ロシアは間違いなく平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類され、最も厳しい制裁の対象となり、国際社会で孤立し、おそらく独立国家の地位を奪われるだろう

これ、侵攻の約1か月前に出されていることに注目です。

現状

この3つはすでに実現しています。最後に残っているのは、

これは、どうなるかわかりませんが。

※ この件詳しく知りたい方は、「全ロシア将校協会が『プーチン辞任』を要求…!キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない」をご一読ください。

いずれにしても、シロビキ内で分裂が起きていることは間違いありません。

外様新興財閥がプーチンに反逆

そして、新興財閥の不満も高まっています。

なぜでしょうか?

今回の経済制裁で、もっとも打撃を受けるのが彼らだから。SWIFTから外されて、ビジネスが厳しい。欧米のビジネスパートナーがどんどん去っていく。欧米で資産が凍結されている。豪邸、高級マンション、スーパーヨット、プライベートジェットなどが没収されている。

彼らは問います。

なぜ?

答えは、「プーチンがウクライナ侵攻を決断したからだ」となるでしょう。

毎日新聞3月4日。

ロシア第2の石油大手ルクオイルは3日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する声明を発表した。ロシアの主要企業でウクライナ侵攻を公に批判したのは初めてとみられる。

 

英紙フィナンシャル・タイムズなどによると、ルクオイルは3日に「ルクオイルの取締役会はウクライナで起きている悲惨な出来事に懸念を表明し、この悲劇の影響を受けた全ての人々に深く同情する」との声明をホームページに掲載。「私たちは武力紛争の迅速な停止を求め、外交手段を通じた交渉による解決を全面的に支持する」とした。

これは、プーチンから見れば、明らかな「反逆行為」です。

つづいてCNN3月2日。

ロシア実業界の大物として知られるミハイル・フリードマン、オレグ・デリパスカ両氏が2月27日、それぞれウクライナ侵攻の中止を求める声を上げた。

フリードマンは、ロシア金融4位アルファバンクの会長。デリパスカは、「アルミ王」と呼ばれ、「ルサル」のトップ。彼らにとってプーチンは、「自分たちの資産を守ってくれる存在」でした。ところが、ウクライナ侵攻後は、「自分たちの資産を激減させる迷惑な存在」になっています。

国民もプーチンから離れはじめる

ロシア国民も分裂しています。

ロシアを見ると、

という構図があります。そして、40代、50代は、テレビとネット両方から影響を受けている。ロシアのテレビ世代は、

ここまでは、圧倒的に支持していました。庶民は、「国際法がどうの」とかあまり考えないものです。

しかし、流れが変わったのは、ロシア軍が、ウクライナの首都キエフ、第2の都市ハリコフをはじめ、全土を攻撃しはじめてから。テレビとネットの間を揺れる中年、あるいはテレビ世代も「いや~、キエフに侵攻するのは、やりすぎでしょ。意味不明すぎる」という感じになってきた。「ルガンスク、ドネツクを守るために、キエフを攻撃する」というロジックが、なかなか理解されていないのです。

それで、ロシアでは毎日反戦デモが盛り上がっています。逮捕されたり、失職するリスクをとって、反戦デモに参加する人たち。勇気があります。

そして、地獄の制裁の影響がこれからでてきます。クリミア併合後の制裁で、すでに全く成長していないロシア。今回の制裁で、ルーブルは大暴落し、ひどいインフレが国を襲うでしょう。そして、外国の大手企業が続々と撤退していることから、失業者もすごい勢いで増加することでしょう。

というわけで、鉄壁に思われたプーチンの基盤。

というわけで、プーチン政権は、もはや盤石とはいえないのです。

プーチンは、1年以内に失脚?

ブルームバーグ3月7日には、「プーチンは、もって12か月」という話がでています。

マルコ・パピック氏は、政治指導者がしようとしていることを評価する場合、その人物の願望を重視しない。むしろ「物理的制約」、望むものを手に入れようとする指導者の能力がどんな要因で制限されるかに着目する。

 

ヘッジファンドに投資するオルタナティブ資産運用会社クロックタワー・グループのチーフストラテジスト、パピック氏はポッドキャストで、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻で物理的制約を無視しており、最終的に失脚につながる恐れがあると主張した。

 

『地政学的アルファ:将来予測のための投資フレームワーク』(原題)の著者パピック氏は、これまでの制裁がプーチン大統領の行動に影響を及ぼしたり、打倒したりするために十分と考えられるかとの質問に対し、「プーチン氏に私が与える時間は12カ月未満だ。政策担当者が物理的制約を無視する並外れて悪い決定を下せば、罰を受ける」と指摘した。

「12か月以内にプーチンが失脚する」

私もその可能性は、大いにあると思います。プーチンのせいですべてを失いつつある新興財閥軍団が、クーデタを画策してもおかしくない状況になってきました。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年3月8日号より一部抜粋)

image by: Alexander Chizhenok / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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