1億の個人商店が生む3億人の雇用。李克強首相が語った中国経済の懸念

 

身近にあった個人商店やレストランがつぶれれば人々は敏感に反応する。先行き不透明な感覚が刺戟されるからで、この気持ちの冷え込みは消費にも水を差す。会見でも中国新聞の記者が「通っていた店が閉店になった」という体験をぶつけているのだが、これは政府がこの問題を気にしていて、首相が発言する機会を必要としていたことを示唆している。

李首相は「われわれはすでに40以上の支援策を打ち出してきた。わずかに減税だけとってもレストラン、カフェ、旅游、交通、文化などの業界に計1800億元が出されている」と説明した。

目下、中国の経済テコ入れ策は、減税と企業の負担軽減という2本柱から成っている。企業の負担には起業コストの削減も含まれ、行政手続きの簡素化がメインディッシュだ。大雑把にいえば、前者は短期的な効果を、後者は長期的な効果を期待した対策だと考えられる。

すでに改革により1000以上の行政許可を取り消したり権限移譲を行ったと李首相は胸を張る。事実、「経営許可の取得に必要な日数は過去には数十日。多くは100日以上も待たされていた。しかしいまでは全国平均で4日間で終わり、最も早い地方なら1日でも出る」というのだ。その結果、「個人商店の数は10年で1億店も増えた」というから効果もあったのだろう。

減税に関しては、新型コロナウイルス感染症への対策をきめ細かな減税で乗り切った経験から、中国の最もよく使うテコ入れ策となっている。企業サイドからも減税が好まれているとして、李首相は企業経営者たちとの会合でのエピソードを披露している。それは景気刺激策として3つの選択肢(大規模投資、消費券の配布、減税)から1つを選ばせるという試みだ。結果、すべての経営者が「減税を選んだ」というのである。減税が効果的なのは、弱っているところに確実に届き、かつ直接的だからだという。

雇用や物価と並んで頭の痛い問題である不動産市況の低迷とそれが地方財政へ与える影響については、地方財政への支援策として言及される場面があった。

中央政府から地方への財政的な支援は対前年比で18%も増加される。財源の心配はないという。コロナ禍にあっても減税の効果として増収があったので、財源の問題には悩みがないのだから、そういう選択になるのだろう。しかし不動産業界が従来の勢いを完全に失えば、地方政府のゾンビ化という新たな問題になるのかもしれない。

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image by:Alexander Khitrov/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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