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プーチンに“恩を売る”習近平の思惑。「無礼」な米国の要請を拒否する隣国

ロシアの一方的な「力による現状変更」の開始から3週間余り、その間の国際社会のさまざまな働きかけも虚しく多くの一般市民が犠牲になり、出口が見通せないウクライナ紛争。なぜこの戦争はここまで長引き泥沼化してしまったのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、その理由を各国の動きや思惑を分析しつつ考察。さらにウクライナ紛争の展開の中で見えてきたという、「笑う米中と泣く日欧」という構図についても解説しています。

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ウクライナ紛争が映し出す国際協調の力と限界

開戦から約3週間経った3月16日の夜(日本時間22時ごろ)、ウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカ連邦議会に対してvideo linkで演説を行いました。

ウクライナを襲う惨状(その際に真珠湾攻撃の話と9.11のエピソードが例に出されたのは、かなり複雑な心境になりましたが、ここではこれ以上は申しません)。

ロシアからの容赦ない攻撃と民間人の悲劇。

友好国からのサポートに心から感謝しつつも、国際協調の限界を匂わせたフラストレーション。

米国連邦議会に対して演説し、希望を託すことで、最後の賭けに出た訴え。

そして、その演説の途中に流された動画は、議会で聞いていた議員やスタッフ、そしてテレビを通じて観ていた私たちにも大きなショックを与えました。

数週間前まで平和だったころのウクライナ各地の人々の様子と、破壊し尽くされ、絶望と恐怖、涙にくれる人々の姿が対比されるように映し出されていました。

その内容には心を打たれ、「何かせねば!」という気持ちを沸き立たせました。

しかし、正直なところ、同時に、私自身がコソボ紛争の対応をした際に“経験”した巧みなメディア戦略と印象操作という記憶がフラッシュバックし、何とも不気味で心地の悪い感触も襲ってきました。

ロシア側・ウクライナ側双方から出される戦果や相手の被害状況などについての情報(大本営発表)に対しては、そのまま鵜呑みにできないことは皆さんもお分かりだと思いますが、メディアを通じて映像で伝えられる“事実”に対しては、なかなか抗うことができず、無意識のうちに印象を植え付けられている気がします。

ところで皆さん、今週報じられたマリーナ・オフシャンニコワさんの“勇気ある”映像を見てどうお感じになったでしょうか?

ロシア国営ニュースの人気ニュース番組の“生放送中”にNO WARと書かれたプラカードを持って映り込み、ロシアの視聴者に向けて(主にSNSに頼らないシニア層)「プロパガンダの嘘に騙されないで」と訴えかけた映像です。

ロシアを含む各国のSNSで瞬く間に拡散され、各国のメディアは【ロシア国内で起きている反プーチンの動きの典型例】として取り上げて、何度も何度もそのクリップを流しました。

「こんなことをして…彼女、恐らく…」と生命の危機まで心配した矢先、日本円にしてたった3万2,000円ほどの罰金刑を受けただけで、迅速に釈放され、おまけに裁判所の前でインタビューを受けるという、非常に珍しい状況を目にしました。

今回、鬼・冷徹・悪魔と表現されるプーチン大統領とその周辺に対して、国営メディアを通じて公然と非難するという、恐らく国家反逆罪に問われるような内容で、通常ならとてつもなく恐ろしい状況下に置かれるはずなのですが、一体何が起きたのでしょうか?

一応彼女は「当局から寝る間も与えられず14時間連続で激しい尋問を受けた」と語っておりますが、このように公然とメディアの前で自由に語れるということも非常に珍しく感じませんか?

そして、ご存じの方も多いですが、私が知る限り、ロシアの国営メディアで“生放送”は存在せず、大体8分から10分間の遅延配信が一般的だそうです。これだけのタイムラグがあったのに、“そのまま”放送したのは、どのようなニュアンスを感じるでしょうか?

ちなみに2月24日にロシア軍がウクライナ全土に“侵攻”した際、ロシア国内で起きた戦争反対のデモに対しては、同胞ロシア人たちを、年老いたご婦人を含め、容赦なく弾圧し、その方針は不変なはずですが、今回はどうしたのでしょうか?

これに対してのこれ以上の考察は、もう陰謀論のような内容になりかねないのであえて避けますが、正直申し上げて、とても違和感を抱いたことだけは、お伝えしたいと思います。

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いろいろと思うところはありますが、今回のウクライナ戦争・紛争は、間違いなく、これまでに報じられてきた中では最悪と言っていい状況を生み出しています。そして、まだ、それがいつ止まるのか、だれにもわからない状況です。

3月16日現在、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、ウクライナから周辺国に避難したウクライナ人は300万人を超え、それは全人口の7%を占めるレベルにまで悪化しました。

そしてあまり報じられませんが、自宅を追われても国内に留まっている国内避難民(Internally Displaced People)の数は、伝えられているだけで130万人から140万人に上るそうです。

難民となって逃れた人たち、そして国内にとどまった人たちの大多数は、子供や子連れの女性(母親)、61歳以上のシニア層とのことで、18歳から60歳までの“現役世代の男性”は母国のために戦っています。

そしてこの国の特徴ですが、戦闘訓練を受け、実際に戦闘に出ている女性の数は、恐らく他国で例を見ない数に上っています。

それはここにきてロシア軍が民間施設を無差別に攻撃している状況が強く疑われる中、悲劇の拡大は加速度的に起こっています。

マリウポリの産院へのミサイル攻撃、キエフのアパートへのミサイルの着弾、あえて誘導装置を付けない爆弾を投下して無差別に広範囲を破壊することを意図した攻撃。そして、原子力関連施設への攻撃。

これらは超えてはいけない一線をロシアが越えてしまったことを表す内容ですが、これにより、ウクライナ軍の抗戦意識は高まり、そして欧米や国際社会からのシンパシーも一気に盛り上がってきました。

非難覚悟でちょっと穿った見方をしますが、これらの一部が自作自演の攻撃でないことを祈ります(かつて調停に携わった紛争ケースで、何度も繰り返し自作自演を目撃してきたので…)。

しかし、それがどうであれ、ウクライナの一般市民や家族が非常につらい状況にあっていることは疑いようのない事実で、ポーランドをはじめとする周辺国は、押し寄せるウクライナからの避難民に対して、本当に手厚いサポートをしていますが、そのポーランドでは、すでに130万人以上の受け入れが行われており、実際にはそろそろキャパシティーの限界にきているという情報も入ってきています。

ルーマニア、チェコ、スロベニア、モルドバ…それぞれすでに数十万人単位で受け入れを行っていて、“人々のやさしさ”のクローズアップの裏では、ウクライナから逃げてきた非ウクライナ人、特にアフリカ系移民とアジア系移民に対する冷遇の情報もあり、UNHCRおよび国連人権高等弁務官事務所も懸念を表し始めています。

我が国日本も、国際的な流れに沿って、特例措置でウクライナ人の難民受け入れを行っており、個人的に非常に素晴らしいと感じますが、これまで“難民に冷たい国”として知られている日本の難民受け入れ態勢は、今後、これを機に転換していくことになるのでしょうか?ウクライナの悲劇が収まった後、しっかりと議論されなくてはならない問題だと考えます。

シリア難民のケースでも、アフリカでの紛争の多くでも、難民の移動問題は、新たな紛争や紛争の拡大の要因になることが多くなっています。

それが人種差別という社会問題に発展することもあれば、民族ベースでの迫害行為への発展というおぞましいケースも多く引き起こしてきています。

今回のウクライナ難民危機が、新たな火種を作らないことを祈りますが、残念ながら、欧州にとっては、多少なりとも今後の火種となると思われます。欧州委員会もそれに気づいたのか、今週に入って、ウクライナ後の欧州地域のintegrityの維持について対策を練り、どの時点で線引きをするのかを検討しだしたとのことです。

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各地で激しい戦闘が繰り広げられ、ロシア軍による無差別攻撃も目立ってきている中、和平協議も両国間の間で開催されています。

当初はベラルーシ仲介での協議でしたが、明らかにロシア側に付いていると思われるベラルーシでは公平性が欠けると判断されたのか、それとも外交的な駆け引きなのか、今はトルコ政府による仲介努力がされています。

最新情報によると、ロシア・ウクライナ双方共、「妥協に向けた進展あり」との認識を示しているそうですが、その内容についていろいろとメディアで報じられているものの、本当の内容についてはなかなか明らかにはなりません。

まあ、当事者は両国で、私も含めた大多数は、直接的な当事者ではありませんので、協議の本当の中身が外部には伝わらないのは、紛争調停官的な視点からは、当然のことなのですが。

ラブロフ露外相やクレバ外相などから出てきている“前向きに聞こえる”内容が共通の認識であることを祈ります。

しかし、どうしてここまでウクライナにおけるロシアの試みは長引き、ロシアはあきらめないのでしょうか?

「ウクライナ側の抗戦がロシアの予想をはるかに上回っていた」
「欧米諸国が挙って提供した軍備が、ロシアの戦意を挫いている」
「欧米主導の制裁がロシアに効いてきている」
「中国からの支援が、思いのほか、乏しい」

といったものから、

「ロシア軍は数でも装備でも凌駕しているが、攻撃に統率がない」
「戦端を開き過ぎて、兵站がうまく機能していない」

といった内容まで、いろいろと理由が“専門家たち”によって挙げられています。

実際にはどうなのでしょうか?

確かにロシア側が意図し、協力国のベラルーシや、2月4日にプーチン大統領自ら仁義を切りに行った中国に伝えたとされている「数日でウクライナ全土を掌握し、3月6日までに占領を終結させる」という当初のプランが大崩れし、予想以上にロシア側に被害を出しているのは、“計算外”だったと思われます。

また幾重にも課される欧米諸国と日本やその他の国々からの対ロシア制裁、特にロシアの国際社会と経済からの排除を目的とした制裁措置は、じわりじわりとボディブローのようにロシア経済に効いていることは確かなようです。

実際に、親プーチン大統領のオリガークの中からも、対ウクライナ戦争への非難が出だしたことは、情報戦として仕組まれているアレンジでない限りは、ショックでしょう。

しかし、ロシア経済の息の根を止めるには至っておらず、まだプーチン大統領の行動を変えるまでには至っていない理由は、対ロ制裁は、制裁を課す側にとっても諸刃の剣と呼ばれるほど、ネガティブな影響が大きく、G7内でもconcerted actionsと呼べるほどの一体感は得られていません。

例えばSWIFTからのロシア系金融機関の排除も、欧州各国へのエネルギー安全保障の観点から、最大のズベルバンクへの制裁は見送られています。

そしてエネルギー関連では、米英がロシア産原油の禁輸措置に出る半面、他のG7各国にまでその輪は広がっていません。例えば、今回、安全保障政策を大幅に転換したと言われるドイツ政府内では、財務大臣が「天然ガスはドイツ人のエネルギー安全保障上必須であり、自国民の日常を犠牲にしてまで、制裁に出ることは賛同できない」と発言していますし、緑の党出身のベアボック外相も、忌み嫌うはずの石炭火力発電所の廃止年限の先送りを示唆し、今年末までの全廃を目指す原子力発電所についても、立場を曖昧にしだしました。

日本については、エネルギー安全保障上、ロシアからの天然ガスは、割合こそ少ないものの、すぐに転換できるものではないとのことですし、イラン核合意関連時に、米政権からの圧力で泣く泣く手放したイランの油田の利権を、すぐさま中国に持っていかれた苦い記憶から、サハリン1と2からの撤退圧力に対し、二の足を踏む状態になっています。

欧米との連帯とロシアへの抗議は否定しませんが、ここで手を退いたら、また中国に吸収されるだけという状況になるでしょう。現実的な判断が、日本政府および企業には期待されます。

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では、“その”中国はどうでしょうか?

ウクライナ外相(クレバ外相)から直に仲介依頼を受け、今週にはローマでアメリカのサリバン国家安全保障担当大統領補佐官と中国の外交トップである楊潔篪氏が会談し、ロシアに対して中国が軍事支援をしないようにアメリカが圧力をかける試みを行ったのですが、以前、バイデン政権誕生後、初めての米中会談時に大きな失敗をした教訓は生かされておらず、サリバン氏は楊氏に対して圧力をかけてしまいました。

これがどうしてうまくいかないかは、ここ3週間お話ししております【1】の『無敵の交渉・コミュニケーション術』の内容をお読みいただければご理解いただけるかと思います。

礼を失したアメリカ側からの要請をさらりと交わし、具体的にはコミットしない中国は、プーチン大統領から来ている軍事支援の要請に、何らかの形で応じ、自国の有事の際のサポートを期待して恩を売ることになるかと思います。

もしプーチン大統領からの要請を断るような事態になり、欧米サイドとの共同歩調をとるような場合には、台湾有事の際に中国が経験する究極の孤立の際に、ロシアは一切手を貸さないどころか、隙を突いて中国の持つ権益を狙いに来るでしょう。中国人も恩も仇も忘れませんが、それは国民性こそ違いますが、ロシア人も同じだと言えます。

その中国が、対ロ制裁における国際社会でのconcerted actionsを眺めていて、予想外だったらしいのが、SWIFTからの排除ではなく、海外に点在するロシア関連資産の凍結が迅速かつ厳格に実施されたことで、一部では、「SWIFTからの排除どころではない攻撃」という分析が出ています。

年々、米中対立が厳しくなり、欧州各国も中国包囲網に加わりだした最近の状況を見て、中国政府も対応に苦慮しているようです。

そのような中でも、今回のウクライナ紛争の展開の中で見えてきた構図があります。

正しいか否かは、はっきりと分かりませんが、一言で表すと【笑う米中と、泣く日欧】でしょうか。

アメリカについては、日に日に語気を強め、表現も敵対的になってきているように思われるバイデン大統領ですが、対ロ制裁の音頭を取っても、実際に被るコストは、欧州各国や日本に比べると、小さいと思われます。

特に悩みのエネルギー問題については、シェール革命のおかげで自給可能な状況に達しており、欧州の“友人たち”を救うためにLNGの生産・供給量を大幅に増やすという芸当まで可能になります。

そのうえ、「アメリカの力は弱体化している」と言われる中、今回の紛争を機に、ワールド・リーダーへの回帰ができるのではないか?とのうわさもあります。まさに、バイデン大統領が就任前に語ったAmerica is backでしょうか。

中国については、オリパラを盾にこれまで目立ったコミットをしてきませんでしたが、その裏で欧米日が脱退するロシアの石油天然ガス案件やほかのビジネスの権益を瞬く間に総ざらいし、エネルギー危機と戦う他国を尻目に、自国のエネルギー安全保障は確保するというおいしいポジションにいます。

そして、ウクライナから直接仲介を頼まれたことで、外交上の影響力も増大し、憎きアメリカでさえ、「本件の解決には中国の力が必要」と言わせ、今週のローマでの米中会談を、アメリカ政府からの要請で、開催させています。外交的な勝利と考えられているようです。

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では日欧はどうでしょうか?

国によって負のインパクトの度合いは異なりますが、エネルギー価格の高騰が続き、そこに穀倉とも例えられるウクライナが戦禍にあえぐ中、小麦・食用油の価格の高騰も止まらず、今後、自らの生活の保護と、ウクライナを守れという高邁な思想との間でのバランスに悩まされることになります。

また対ロ圧力として課した在ロ資産の撤退や投資の回収の放棄は、様々な数字が飛び交う中で、最低でも4兆円規模も資産が吹っ飛ぶことになるようで、予測によってはその数値は大幅に増えるとのことです。

コロナ禍にあえぎ、復活しようとしていた矢先の経済への冷や水に、どのような感情が働くか、懸念しています。

ところで今週のもう一つのサプライズと言えば、戦禍にあえぐキエフを電撃訪問したポーランドのモラビィエツキ首相、チェコ共和国のフィアラ首相、そしてスロベニア共和国のセンシャ首相の姿勢でしょう。

ゼレンスキー大統領は「非常に勇気づけられた」と称賛し、多くの国々でも「とても勇敢な行動で、自らの危険を顧みずに連帯を示した姿にリーダーとしての姿を見た」と称賛が寄せられていますが、皆さん、どう思われましたか?

勇敢だったのか?それとも、首相という立場にありながら、向こう見ずな無謀な賭けだったのか?そして、ただの政治的なアピールに過ぎなかったのか?

3名共に「EU首脳との協議の上、訪問した」とのことでしたが、肝心のブリュッセルは「勇気は与えたが、特にEUとして依頼したものではない」と突き放し、一定の距離を置いています。

いろいろと聞いてみると、この3か国はすでにキャパシティーを超える人数のウクライナ人を受け入れており、各国内での友好ムードがその内、反転した場合の混乱に対する懸念を伝え、対ロ戦線で陣頭指揮を執るゼリンスキー大統領に対応を要請した、とのお話もあるようです。

感動に水を差しているとお叱りを受けるかもしれませんが、各国が挙ってウクライナの悲劇を利用しているように見えてなりません。

実際に悲劇に直面し、家族が引き離され、毎日多くの犠牲者を出し続けながらロシアと戦うウクライナの市民に寄り添っているのは、現在は、周辺国で避難してきたウクライナ人を保護している市民“だけ”かもしれません。ちょっと偏った見方かもしれませんし、ちょっと否定的な皮肉に思われるかもしれませんが、何とも言えない違和感を抱いています。

今、テレビをつければウクライナの悲劇が報じられ、いつしかコロナも忘れられたかのようにニュースから消えることもありますが、ウクライナでの悲劇の裏側では、決して報じられることはないようですが、多くの、別の悲劇が現在進行形で進んでいます。

以前、何度かお伝えしたエチオピアのティグレイ紛争は、国内の分断に繋がり、ティグレイ人を中心にさらに死傷者は増え、周辺国(特にスーダン)への難民の数も増える一方です。

紛争ぼっ発からウクライナ危機に至るまでの期間は、スーダンに支援を送るアメリカ政府からのサポートがありましたが、ウクライナへの対応を優先するアメリカは、スーダン国内およびティグレイ州での支援活動が疎かになっていると言われています。

「アメリカの責任じゃない」という声も聞こえますが、しっかりと口出しをし、混乱を助長させた後は、一気に見捨てるアメリカの手法は、イラクやアフガニスタンでの失敗を受けても、変わらないようです。

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ミャンマー情勢も最近、あまり耳にしなくなりましたが、それは状況の改善があったからではありません。ミャンマー国軍による市民・少数派民族への蛮行は勢いを増し、武装化した民主派グループとの紛争は激化し、ミャンマー市民を取り巻く状況は悪化の一途を辿っています。

国際社会からの締め出しや孤立を意に介さず、中国からの支援を得ながら、ミン・フライン総司令官(暫定首相)と国軍は“わが道を行く”方針を変えず、問題の解決の糸口はたっていません。まさに国際社会から見捨てられた悲劇の一例です。

東アフリカの不安定化。中東・北アフリカ地域で広がる不穏な動き。ISの勢力拡大。アフガニスタンの国家破綻状態への“無関心”…。

例を挙げればきりがないほど、ウクライナ危機と並行して、世界各地で悲劇が拡大しています。それらは“報じる価値がない悲劇”なのでしょうか?

そのような状況に、私たちは対ウクライナ問題と同じレベルの連帯を持つことはできないのでしょうか?

ウクライナをはじめ、世界各地で連発している数々の悲劇とその犠牲となる一般市民の皆さんに、連帯と一日も早い事態の解決に尽力することを申し上げたうえで、最後にオープン・クエスチョンを投げかけて、今週号を終えたいと思います。

ウクライナ戦線で、ロシア軍の停滞とスランプが伝えられる中、宗谷海峡、そして今週には津軽海峡を、ロシア海軍の艦船が通過しました。ウクライナ戦線にシベリアの部隊を投入するものと思われますが、領海内を悠々と軍艦に通過させた我が国は、実際にどのような立ち位置を国際社会で選ぼうとしているのでしょうか?

残念ながら、私には分かりません…。

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image by: Gabriel Preda RO / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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