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もらえる金額が違う?同じような年金記録なのに支給額に差が出るワケ

年金記録はそこまで変わりはないのに、支給される遺族年金があまりにも違う…そんなケースが起きることが少なくないようです。なぜそのような事態が発生するのでしょうか?そこで今回は、メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、2組の例を挙げて遺族厚生年金の仕組みをレクチャーしています。

あの人の年金記録とあまり変わらないはずなのに、なぜ遺族厚年金額がこんなに違うのか

遺族年金には国民年金から支給される遺族基礎年金と、厚生年金から支給される遺族厚生年金があります。

遺族基礎年金は「子のある配偶者」または、子に支給される年金です。

子というのは18歳年度末までの子を指しており(障害等級2級以上の子は20歳になるまでを言う)、子が高校を卒業するまでの有期年金となっています。

なので、子が18歳年度末の翌月になると遺族基礎年金は消滅します。

年金額は定額になっており、例えば妻に子が3人いる場合は777,800円(令和4年度定額)+子の加算223,800円×2人+74,600円(3人目以降の子の加算)=1,300,000円(月額108,333円)が妻に支給されます。

子のある配偶者に支給されている間は、子への年金は停止されている状態です。

万が一、妻が再婚や死亡などのような事があれば、妻の遺族年金は消滅してしまうので子への遺族基礎年金の停止が解除されます。

その時の子への遺族基礎年金は、3人兄弟であれば777,800円+223,800円(子の加算金)+74,600円(3人目の子の加算金)=1,076,200円となり、この金額を3人で分けてそれぞれ358,733円(月額29,894円)ずつ受給します。

3人兄弟の内、上の2人が18歳年度末を迎えると、残った一人が777,800円(月額64,816円)を受給する事になります。

次に遺族厚生年金ですが、こちらは過去の厚生年金加入期間や加入時の給与や賞与額が年金額に影響します。

その前にまず遺族厚生年金を受給する要件として、次の4つがとても重要です。

ア.老齢厚生年金受給者もしくは老齢厚生年金の受給資格期間を満たした者の死亡(原則25年以上の年金期間がある)
イ.厚生年金加入中の死亡
ウ.障害厚生年金2級以上の受給者の死亡
エ.厚生年金加入中の初診日の傷病で5年以内の死亡

のどれかを満たしている必要があります。

さらに、イとエは死亡の前々月までの間に一定の保険料納付要件を満たしておく必要があります。

前々月までに国民年金の被保険者期間がある場合は、その3分の1を超える未納があったら遺族厚生年金を貰う事は出来ません。

この要件は最初に書いた遺族基礎年金の場合も必要になってきます。

年金は保険なので、死亡という保険事故が起きる前にちゃんと自分の努力である程度保険料を納めてきましたか?というのを見られるわけです。

例えば20歳から国民年金に加入して保険料を納めなければいけなくなりますが、仮に死亡したのが32歳の時であれば12年間のうち8年間は未納にしてはいけないよという事ですね(4年間の未納)。

もし3分の1を超える4年1ヶ月以上の未納があれば、遺族年金は請求不可となります。

ついでに上記のアとウについてですが、アはもう25年も保険料を納めたもしくは免除期間があるからわざわざ過去の納付記録は見なくていいよねという事ですね。

ウは障害厚生年金の受給者が死亡したら、過去の納付記録は見ませんという事です。

障害厚生年金を請求する時に一度過去の納付記録を見るので、遺族年金を支給するかどうかという時にまた過去の納付記録を見るような二重な事はしないという事です。

また、イ~エの場合の死亡の場合の遺族厚生年金は最低保障として300ヶ月で計算されますので、あんまり年金額が低くなりすぎるのを防止しています。

なお、遺族厚生年金を受給できる資格がある人は、配偶者、子、父母、孫、祖父母の順で最優先順位者が受給します。

ただし夫や父母、祖父母が受給者になろうとする場合は、本人死亡時に55歳以上でなければいけません。そして実際の受給は60歳からという結構厳しい制限があります。

妻にはそういう制限は無い(子は18歳年度末未満である必要がある)。

さて、遺族年金を受給してる人はとても多いのですが(遺族厚年は約500万人で、遺族基礎は十数万人くらい)、人によって結構金額の違いがあります。

遺族基礎年金は定額なので、金額の違いがあるとすれば子供の人数の違いだったりするのですが、遺族厚生年金は過去の給与額とか加入期間や最低保障を付けたりするので金額はバラバラです。

よって、死亡した家族が同じくらいの加入期間だったのに、金額が全く違う!という事もあります。

なんでそんなに金額が違うのか、一例で簡単に比較してみましょう。

1.令和4年2月に58歳になったA夫さんは、今までの年金加入記録は国民年金24年と厚生年金8年です。現在は保険料を未納にしています。

厚生年金は20代の時に加入していましたが、その後は父の店を継ぐようになってずっと国民年金に加入しています。過去の給与平均は25万円とします。

A夫さんは令和4年3月10日の未納期間中(国民年金加入中)に私傷病で他界しました。

死亡時に残された遺族は54歳の妻と、16歳の子1人です。

なお、妻はA夫さん死亡時は同居しており、妻の前年収入は自営業として約700万円ほどありました。

この妻や子には遺族年金は支給されるのでしょうか?

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(A夫さんの生年月日ですが、令和4年がもし昭和だったら昭和97年になるので、97-58歳=昭和39年2月が生年月日です)

さて、死亡したA夫さんの年金記録を見てみると、すでに25年以上の未納以外の年金記録があるので過去の保険料納付記録は見ません。

既に老齢の年金の受給資格期間を満たした者の死亡という事になるからです。

また、A夫さん死亡時に原則として住民票が同じだとか妻の年収が850万円未満である必要がありますが、それは満たしています(A夫さん死亡以降に年収が850万円を超えてもそれは遺族年金に影響しない。死亡時点しか見ない)。

では何の年金が貰えるのかというと、この妻は18歳年度末未満の子が居るので遺族基礎年金と、A夫さんが加入した8年分の遺族厚生年金です。

・遺族基礎年金→777,800円(令和4年度定額)+223,800円(子の加算)=1,001,600円

・遺族厚生年金→25万円×5.481÷1,000×96ヶ月÷4×3=98,658円

よって、遺族年金総額は1,100,258円(月額91,688円)となります。

その後は子が18歳年度末を迎えると、遺族基礎年金は消えるので遺族厚生年金年額98,658円(月額8,221円)のみとなります。

子が高校卒業した後はガクンと年金が減りますね^^;

過去の年金記録が25年以上ある人が死亡した場合に厚生年金期間があれば、その厚生年金は遺族厚生年金として支給されますが最低保障はなく実際の加入期間で支払われます。厚生年金期間が少ないとかなり低い遺族厚生年金額になってしまいます。

なお、A夫さんに過去の厚生年金期間が20年以上あったならば、子が18歳年度末を迎えた後に40歳以上なので妻の遺族厚生年金に年額58万3,400円(令和4年度価額)の中高齢寡婦加算が加算されていました。

では次の人はどうか。

2.A夫さんとほぼ同じく令和4年3月に58歳を迎えるB男さん。

過去の年金記録は20歳から50歳までは未納にしてきてしまい、その後は厚生年金に加入していてもう8年になります。平均給与は25万円です。

B男さんは厚生年金加入中に私傷病で亡くなりました。

その時に残された遺族は妻45歳と、子21歳、B男さんの父母どちらも80代です。

誰に遺族年金がいくらほど支払われますか?

さて、B男さんは過去の未納が30年もあり、厚生年金の8年しかありません。

よってA夫さんのように全体の年金受給資格期間25年以上を満たしていません。

25年を満たしていないなら受給できないというわけではなく、死亡日の前々月までに国民年金の被保険者期間がある場合は、その3分の1を超える未納が無ければそれでもいいです。
しかし全体の38年のうちの30年が未納なので、未納率はほぼ80%近くもあります。

じゃあ、遺族年金は諦めるのかというと、死亡日の前々月までの直近1年間に未納が無ければそれでもいいです(特例)。直近1年間には未納は無いので、保険料の条件は満たしています。

次に遺族ですが、このメンバーだと妻のみになりますね。

子はすでに成人してるので、「子のある妻」にはならないので遺族基礎年金は支給されない。

※ 参考

令和4年4月1日からは民法改正で成人年齢が20歳から18歳に引き下げられるが、年金には影響はない。

よって、支給されるのは遺族厚生年金のみ。

・遺族厚生年金→25万円×5.481÷1,000×300ヶ月(最低保障月数)÷4×3=308,306円

さらに、B夫さん死亡時に妻が40歳以上の場合は中高齢寡婦加算583,400円も加算される。

遺族厚生年金総額は308,306円+583,400円=891,656円(月額74,304円)となる。

この金額は妻が65歳になるまで支給されます。

妻は65歳から自分自身の老齢基礎年金70万円と、老齢厚生年金20万円が支給されるとします。

65歳以降は遺族厚生年金と老齢の年金が併給になりますが、中高齢寡婦加算は65歳で消滅する。

遺族厚生年金は老齢厚生年金分が停止となる(308,306円ー20万円=108,306円)。

・65歳以降の年金総額→老齢基礎年金70万円+老齢厚生年金20万円+遺族厚生年金108,306円=1,008,306(月額84,025円)

このように、A夫さんとB夫さんの厚生年金期間は同じ8年であり、どっちかというとA夫さんのほうが真面目に保険料を納付していました。

今回明暗を分けたのは、厚生年金加入中の死亡であったかどうかという点ですね。

厚生年金加入中の死亡は最低でも300ヶ月で計算しますし、夫死亡時に妻が40歳以上であれば中高齢寡婦加算を支給したりと至れり尽くせりでした(最低でも300ヶ月で計算しますが、300ヶ月を超える期間があるならその期間で計算します)。

まあ、B男さんは過去の保険料納付期間が危なかったですが、直近1年に未納が無かったのが幸いでした。

※ 追記

A夫さんは25年以上の期間があった事で、実際の厚生年金加入期間での支払いとなってしまいました。そんな人でも厚生年金加入中に死亡した場合は、B男さんと同じような計算をしていました。

25年以上を満たした人が厚生年金加入中に死亡したような場合は、厚生年金加入中の死亡として最低保障などを盛り込んだ計算で支給します。

ただし、25年以上の期間を満たした者の死亡のケースで計算したほうが有利な場合は、そちらを選択して支払います。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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