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ウクライナとロシアの紛争。日本人として何を考えればいいのか?

終わりが見えないロシアとウクライナの紛争。連日メディアで報道される中、さまざまな思いを巡らせている人も多いでしょう。では、日本人として何をすればいいいのでしょうか。そこで今回は、メルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』の著者でiU情報経営イノベーション専門職大学教授を務める久米信行さんが、読者からの質問に答える形で意見を述べています。

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オトナの放課後相談室:東欧で戦争が起きています。日本人として何をすれば良いのか?

東欧で戦争が起きています。日本人として何をすれば良いのか、どのような気持ちでいれば良いのか分かりません、どうしたら良いのでしょうか?

(東京都/29歳/男性)

【久米信行さんからの回答】

ニュートラルな姿勢で情報を吟味。インフレやバブル崩壊にも備えて自衛しましょう。

メディアは連日のように ウクライナ紛争 の戦況と惨状を報道しています。

みなさんの眼には どう映っている でしょうか?
ゼレンスキー派 でしょうか? プーチン派 でしょうか?

デリケートな内容ですので、 最初に私の立場を明確にしておきましょう。

1 私は平和を希求する理想主義者の一人です。尊敬するジョン・レノンの名曲、イマジンやハッピー・クリスマスで歌われているように、人種も宗教の違いも超えて、世界がひとつになればいいと願っております。

2 一方で、人間が人間である限り、戦争はなくならないと考える現実主義者でもあります。見かけ、信条、言語、暮らし方などが違う人たちを、ついつい警戒したり避けたりするのが人間の悪い性癖。そして、人は土地に縛られ、因縁のある国境で区切られているので、隣り合わせの国は仲が悪くなりがちというのが、地政学の教えです。

3 政治的にはニュートラルで、右翼でも左翼でもありません。双方に親しい友人もいるので、互いの良い点・悪い点を冷静に見つめつつ、特有の政治家や政治団体からはなるべく距離を置くようにしています。

4 戦争の理由には、表向きの理由の他に、軍事的な戦略上の話や、資源など経済的な利権の話が複雑に絡み合っていることに着目します。その戦争で得をする人・企業・国が、ニュースに出てくる表向きの主人公の裏側で、暗躍していることも少なくないので、そこも合わせて考えています。

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5 戦争がはじまると、流される情報の多くは、どちらかの側に立って歪められたプロパガンダになりがちです。さらに戦争は人々を興奮させるので、冷静な判断ができなくなり、どちらかに傾いた意見に集約されます。SNSがそれを一層、加速していることに恐怖を感じています。

6 経済がグローバル化、金融化しているので、地球の裏側の局地的戦争でも、自分たちの暮らしに直結します。商品が売れなかったり買えなかったり、はたまた高騰したり暴落したりするのです。それだけでなく、為替、金利、株式市場に大きな影響を与えることに留意しています。

7 歴史を見れば、戦争前後の混乱で、ハイパーインフレが起こると、その国の政局は主義主張に関わらず不安定になります。そこで、英雄待望論が高まり、人心掌握が上手な独裁者が台頭して、次なる災いを呼ぶことが一番の恐れていることです。

8 ですから、こんな時こそ、「みんなが良いと思っている考え」に疑いを向け、あえて反主流派の意見に耳を傾けバランスを取ります。同時に、今回の混乱が起きた後に、どんなことが波及効果で起きるか予想して対処します。特に、自分、家族、所属企業・団体、地域、国にいかなる被害が及ぶか考え、早めに手を打つようにします。

さて、そんな観点で、今回のニュースを見てみると、 ほぼ一方的に、プーチン大統領とロシアが悪く 報道されています。 ゼレンスキー大統領とウクライナが被害者 で、何とか応援しなくてはという気分にさせられます。
そんな時こそ、バランスを取るべく、 ロシア側の言い分にも耳を傾けるべき でしょう。国連で見られたように、 相手のスピーチを聞かずに退場 などという子供じみた行動はとりたくないのです。不快に思われるかもしれませんが、 あえて大勢と違う意見を積極的に集めないと、ニュートラルな見方はできません。

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ミンスク合意をもし進めていたら?

例えば、ロシア通の元外交官作家、 佐藤 優さん は、侵攻が始まる前から、 プーチン大統領の思惑 について語っていました。曰く、 ロシアの多くの人たちは、ウクライナ東部に住む人々を同胞 だと考えており、 その人たちを見捨てれば、政治的にプーチン大統領が非難され、政治的に危うくなる というのです。また、ウクライナの前大統領と締結した 「ミンスク合意」 についても、佐藤さんの説明で知りました。 その合意を守れば紛争を回避できるとも進言 していました。

ウクライナ情勢、解決の鍵を握る”ミンスク合意”を佐藤優が解説

今はヒーローのように扱われている ゼレンスキー大統領ですが、今回の紛争を回避する道もあった のではないでしょうか? 国内でのロシア語の使用などを認める など譲歩しながら、 ミンスク合意を粛々と進めつつ親ロシア派の過激派をロシア軍で抑えて欲しい と頼むこともできたはずです。

NATO加盟という劇薬の是非

ところが、ゼレンスキー大統領は、前大統領が認めた 「ミンスク合意」を無視 するどころか、 NATOに加盟 すると言い出したわけですから、 プーチン大統領ならずともロシアの要人は強烈な危機感を抱いた でしょう。おそらく、 ウクライナとロシアの国境付近に核ミサイルが並ぶ光景 が想起されたはずです。

ここで思い出すのは、 第三次世界大戦勃発寸前だったキューバ危機 です。旧ソ連の フルシチョフ第一書記 が、 キューバに核ミサイルを配備しようという時に、米国のケネディ大統領が英断して回避した という事件です。

キューバ危機:ケネディ大統領全米放送

もしも、私が、ウクライナの大統領で、 善良な市民の平和を守ることを第一 にするなら、 NATOに加盟して、EU諸国の盾になる選択をせず に、 ミンスク合意を執行する引き換えに、内戦の鎮圧とウクライナの他国からの保護など 、 いくつかの要求をロシアに したでしょう。もっとも、そんな 生ぬるい公約を訴えたところで 、人心をつかむのがうまい元コメディアンの大統領に、 ウクライナの選挙で勝てるわけはありませんが。

みなさんは、 スウェーデンやフィンランドが、ロシアとの外交上の判断でNATOに加盟していない のはご存じでしょうか。 歴史的にロシアや旧ソ連に侵略されてきた両国ですが、あえて東西の陣営から適度に距離を置いてバランスを取ることで、平和を維持しよう としているわけです。つい先日も スウェーデンのアンデション首相が、NATO加盟に否定的な声明 を発表しました。

他国を間に挟み、さらに海を隔てている同国でさえ、こうした 高度な外交術でバランスを取っている のですから、 国境を接しているウクライナが、一気に西側に歩みよればどうなるか、想像に難くありません。

スウェーデン首相、NATO加盟に否定的 「欧州一段と不安定に」

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自衛のためとは言え市民に武器を配る是非

さらに、 ゼレンスキー大統領の行動に共感できない点 があります。それは 市民に自動小銃などの武器を配って戦えと煽っている ところです。

例えは悪いかもしれませんが、まるで、 第二次大戦時に竹槍で戦えと市民に強要していた日本軍のよう ですし、その 武器の殺傷力が竹槍と比較にならない ものであるところが問題です。 米国が銃依存社会になった がゆえに、 どれだけ悲劇が繰り返されたことか。 今さら 銃を持たない国になることなどほとんど不可能 であることを考えてみてください。この 武器拡散が、将来の新たな紛争や国内の内戦の火種となり、犯罪の温床になる ことは想像に難くありません。

本来なら、様々な寄付にも応じる私ですが、 ウクライナを支援する気になれないのは、その寄付が武器になるのではと勘ぐってしまうからです。市民であれ、ロシア兵であれ、人殺しには使われてほしくない のです。

紛争で得をするのは誰か

続いて、 ウクライナ紛争でどこの誰が得をするか 考えてみましょう。

まずは、 圧倒的に儲かるのは米国 です。 原油価格が高騰したため、石油業界はもちろん、一時期経営危機の話も訊かれたシェールサンドの業者まで息を吹き返した ことでしょう。石油業界のロビイストたちは、さぞバイデン政権に効果的な働きかけをしたことでしょう。 エネルギーが乏しい上にロシアのパイプラインに依存しているEUの国々とは、持っているカードも違えば、儲け方も違います。

もっと直接的に儲かるのは 軍事産業 です。なにせ ゼレンスキー大統領から武器を送ってくれとラブコールされた のです。 正義の御旗の下、米国兵を送ることなく、最新のドローンや対戦車砲を売り込め、実戦で試せる のですから、 産軍複合体も大喜び でしょう。タカ派に見える共和党の トランプ元大統領が軍縮して中東からの撤兵 をした後で、なぜかハト派に見えた民主党の バイデン大統領が中東に変わる新たな火種に武器を送り込む のですから皮肉なものです。

軍事がらみで言えば、 ドイツやフランスも国防費を増やそう としていますから、 ウクライナ紛争は、軍事増強をしたかった政治家・軍部・軍事産業にとって、絶好の機会だった のかもしれません。

また、当然の帰結として、 ロシアと中国の関係が強化 され、 EUに向かうはずのエネルギー資源が中国に向かう ことになりました。 金融決済もヨーロッパの金融システムから中国のシステムに置き換わる ことになり、 軍事連携も強まる でしょうから、ますます 東西冷戦 の構造が鮮明になってしまいました。

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紛争によるインフレで泣きを見るのは市民

さて石油産業や軍事産業が潤う中、その とばっちりを食うのは、各国の市民 です。 ガソリンの値段は上がるは、食糧から日用品まで値上げラッシュになるはで、生活が直撃 されます。ただでさえ コロナ禍で厳しい状況 に置かれている人が多いのに、まさに 「泣きっ面に蜂」 といった状況です。

今年1月7日の日経産業新聞に「2022年の展望」 コラムを書かせていただきましたが、 悪い予感が当たり、予期せぬウクライナ紛争により、さらにひどい展開になって しまいました。

「(前略)世界の分断が進む余波で、半導体から原油・天然ガス・木材に至るまで、円安も重なってコストプッシュインフレに見舞われている。

これまでは国際分業体制を構築し、安い国で作り、売れる国で売る経営戦略が主流だった。国内生産が空洞化しても、相互依存が高まることで自国の安全が保障されると考えられた。

しかし、ともすれば一触即発の世界情勢を目の当たりにして、国内を振り返れば、エネルギーやワクチンのみならず衣食住の国内自給率が低い現況に気づく。

食糧はカロリーベースで4割弱、木材の自給率は3割強、衣料品に至っては自給率2%台と絶望的だ。

有事に備えた軍備拡大やエネルギー、ワクチン自給の議論が喧しいが、安全保障を考えるなら、衣食住の自給率を高め必要最低限は確保する政策も重要だ。(後略)日経産業新聞1月7日付寄稿コラム草稿より」

コロナ禍の混乱 で、 悪いコストプッシュインフレが進んでいたのに、ウクライナ紛争が、さらにインフレを加速する でしょう。

ですから、 ウクライナ支援を考える前に、日本国内の衣食住とエネルギー自給について考える必要 があります。例えば、 フランスのマカロン大統領が次の選挙公約を発表 しましたが 「ウクライナ情勢を受けてエネルギーや穀物などの供給不安が広がる中、再生可能エネルギーの拡大や原子力発電所の新設を推し進めるとともに農業分野でも投資を強め、エネルギーと食料生産の両面でできるかぎり自立を進める」 とあります。

フランス大統領 来月の大統領選へ公約発表 防衛費を大幅増額

ちなみに、 ロシアではダーチャと呼ばれる家庭菜園が食糧自給のセーフティネット になっており、こうした弾力的な仕組みを、 日本にも有事に備えて導入できれば良い と考えています。

「ダーチャ」のある暮らし─コロナ時代の生活モデル

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インフレが高金利とバブル崩壊を呼ぶ

もう既にその兆候が始まっていますが、 米国などでインフレ対策の金利上昇 が始まっています。これがじわじわと 株式市場や不動産市場にボディーブローのように効いて きて、いずれ バブル崩壊 に至るでしょう。

日本でも、少しずつ物価上昇 が始まっており、おそらく、これから コロナ収束後のリバウンド好景気なども手伝って、いずれ金利上昇局面を迎える ことになりましょう。

私が怖いのは、 コロナ禍からウクライナ紛争を経て引き起こされる経済のクラッシュです。

もしも、 株式や不動産投資に興じている方 がいらっしゃったら、 バブル崩壊に備えて、利益の出ている間に売却 しておいた方が良いでしょう。

私は、 日興証券勤務時代にバブル崩壊を体験 しましたが、 金利が上がっているにも関わらず、経済評論家の多くが日経平均は4万円になると楽観的な予測 をしていました。詳しくは、 バブル崩壊直前の日本経済新聞・日経ビジネス等のバックナンバー を見てください。きっと勉強になるはずです。

ハイパーインフレは、革命や独裁者登場の引き金に

歴史をひもとけば、 ハイパーインフレで市民の不満が爆発すると、大きな革命や独裁者出現につながりやすい ことがわかります。

直接、ウクライナ紛争に関わっていない国でも、 ハイパーインフレに見舞われれば、政情が不安定 になります。そんな国で、 体制が大きく変わったり、独裁者が出現したりすれば、また新たな紛争が始まる かもしれません。

日本発のグローバル企業も、今は南米からアフリカまで新興市場に進出 していますが、そんな ヨーロッパ以外の新興国でもカントリーリスクが高まる可能性が高い のです。

まだその心配はありませんが、 日本までもハイパーインフレになって英雄待望論が高まった時に、弁舌さわやかで人当たりのいい新進政治家が出てきたならば、警戒しなくてはなりません。 次なるヒトラーを選ばないように。

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私が心がけていること

最後に、 私個人が、ウクライナ紛争を目前にして、留意していること、実行に移そうとしていること をご紹介しましょう。

  1. 大勢に流されず、少数意見にも着目して、ニュートラルに判断する
  2. エネルギー危機に備えて、自宅屋根にソーラーパネルを乗せてEV車に
  3. 金利上昇に備えて、住宅ローンなどは長期固定金利に切り替える
  4. バブル崩壊に備えて、投資はやめて、下落しそうな資産は売却処分する
  5. 衣食住は、なるべく国内生産のものを選び、できればネット直売で応援する
  6. 偏った政治思想や、大衆人気の高い政治家が現れたら警戒する
  7. 健康も考え簡素な食事を心がけ、物よりも事を大切にシンプルな暮らしをする

いずれにしても、 両首脳が相互に歩みより、停戦合意に至って、これ以上酷いことにならないよう、心から願って おります。

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image by: Shutterstock.com

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1963年東京墨田区出身。87年慶応大経済卒。イマジニア新卒一期で飛込営業と株式投資ゲーム開発。88年日興證券でAI相続診断システム開発研修統括。91年家業の国産Tシャツメーカー久米繊維工業入社。94年三代目社長就任(現相談役)。97年日経インターネットアワード、05年経産省IT経営百選、09年東商勇気ある経営大賞等受賞。10年APEC中小企業サミット日本代表。20年開学の新大学iUでは起業家教育・地域創生担当教授。明治大、多摩大の授業や企業団体研修に即した25万部超の「すぐやる技術」シリーズ等著書15冊。内外情勢調査会等で毎年数千人に講師。東京商工会議所墨田支部副会長、墨田区観光協会理事、墨田区文化振興財団 評議員として地元振興。新日本フィルハーモニー交響楽団・NBS日本舞台芸術振興会・日本吟剣詩舞振興会 各評議員として文化芸術振興。

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