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なぜ春先は詐欺やマルチ商法に騙されやすいのか?誰でもカモになりうる巧妙なマインドコントロールの手口とは

春は新しい一年がスタートする季節。どんな人との出会いがあるか、ドキドキワクワクしている方も多いでしょう。しかし、そんな環境の変化を付け狙う悪人たちがいることも事実。彼らにとっては“カモ”にする格好のタイミングだといいます。悪徳宗教やマルチ商法などに騙されないための方法を教えてくれるのは、さまざまなメンタルケアを行う産業医・精神科医の井上智介さん。井上さんは詐欺を働く人間たちの勧誘手口を詳しく紹介し、マインドコントロールされないための方法を解説しています。

なぜ、春先が悪徳詐欺に騙されやすいのか?

4月になって新生活を迎えた人も多いのではないでしょうか。新しい環境になって、心機一転として何か新しいことを始めてみようかなと思う人も少なくないでしょう。

しかし、新しい環境というのは、慣れていくのも大変だし、新しいこと覚えたり身につけたりする必要も多くて、思った以上に心身ともに疲弊してしまいます。

さらに『このままで大丈夫かなぁ…』、『上手くやっていけるかなぁ…』という不安や心配が芽生えやすいです。

ほかにも、このような明確な環境に対するネガティブな気持ちではなく、『このままではいけないけど、何をしたらいいか分からない…』、『自分には何か足りないけれど、何が足りないのか分からない…』のような漠然とした不安などを持つ人も少なくありません。

とくに春先のような周りの人の新しい生活や活動が目につきやすい時期には、このような“心のスキマ”が空きやすい時期なのです。

このようなときに、あなたにそっと忍び寄るのが悪徳宗教やマルチ商法の人たちです。

このようなお話しをすると、『さすがに、そんなものには引っかかりませんよ』と思われる方がほとんどでしょう。しかし、実際にはそのように高をくくっている人ほど要注意なのです。

そもそも、この手の悪徳集団は、最初から怪しい雰囲気などは一切醸し出すことなく、あなたに接触してきます。

たとえば、ボランティアなどの慈善事業の活動やスポーツのサークルや社会的なセミナーのような形で近づきます。

そして、いきなりその活動に参加するように誘うのではなく、『週末に、活動案内や歓迎会も兼ねたパーティがあるから来ませんか』という、参加するのに低いハードルを用意して誘い出してきます。

この時点で怪しさを感じて、きっぱりと断れるならいいのですが、だれもがそうではありません。そもそも、「春になったことで新しいことをやってみようかな」と思っていたり、「自分の中でなにか変わるキッカケになるかも知れないな」といった期待をもっていたり、さきほど挙げたような心のスキマが大きい時期に接触されると取り込まれやすいのです。

たしかに、悪徳集団に騙されやすい人というのは個人の素質もありますが、それ以上に接触されるタイミングも大きな要素になることは知っておきましょう。

悪徳宗教やマルチ商法の人達は、あなたと接触がはじまったらマインドコントロールをしかけてきます。これによって、今まで自分が身につけてきた価値観や道徳などから成り立っている思考回路が、ゆっくりと時間をかけて新しいものに置き換えられていきます。

あなた自身が、その新しい思考回路を使えば使うほど、どんどんその考え方は強固になっていきます。時間をかけて、今まで正しいと思っていたことが、間違っていたことなんだという意識になり、いつの間にか今までとは、まったく異なる思考回路を持つような人になってしまうのです。

その典型的な手法としては、あなたに与える情報を隠したり、ウソを織り交ぜながらコントロールして、いかにも自分たちの集団の信念が正しく素晴らしいものなのかを伝えていきます。

具体的には、あなたを救ってくれる可能性のある友人や家族との接触をやめるように助言します。これは世間の正しい認識が、あなたに届きにくくするためです。自分たちの信念は絶対なので、それ以外の思考は敵対視するように誘導していきます。

さらには、『今までの人間関係を全て切らないと、あなたは何も変われない。』、『ここで新しいことを学ばないと、一生搾取される側になる』というように巧みに心のスキマをついて、今までの人間関係や日常生活を破綻することすらも恐れさせないのです。

傍からみていると、ここまで情報をコントロールされているのに、なぜもっとその集団の信念を疑わないのだろうかと疑問に感じると思います。

日本人は騙されやすい教育を受けてしまった

そもそそも、私たちは疑うことに慣れていません。これは幼少期や学童期の学校教育から、すでに大きな影響があります。日本での勉強というのは、正解がある問題に取り組むことがほとんどであり、どのように正解にたどり着くかという論理的な思考力を鍛えることに多くの時間が割かれます。

社会にでたら1つの正解に定まらない問題は多数あるのに、学校教育では『それも正解だけど、これも正解だよね』というような、多面的な考え方や多様性を受け入れる教育はまだまだされていないといっても過言ではありません。

とくに、親や学校の先生などの自分にとって権威がある人から『これが正解です』と言われたら、一般的にはそれ以上を考えることはしません。正解と言われたものを、正解と受け取るだけで、ほかにもこのような考え方や捉え方があるのではないかとは考えることはしません。

それは、大人になってからも同じで、誰が書いているかも分からないのにインターネットに掲載されているというだけで“権威あるもの”と捉え、『ネットに載ってるから、それが正解』と考えてしまうのです。

ときには、SNSでいいねの数がたくさんついているだけで、何も考えずに『それが正解』と思い込んでしまう人も少なくありません。それだけ、1つのモノゴトを『本当にそうなのかなぁ』と批判的に吟味したり、疑ったりする経験が圧倒的に少ないのです。

その結果、このような悪徳の集団からコントロールされた情報を与えられて、そのなかの権威者から『これが正解ですよ』と伝えられると、『あぁ、そういうモノなんだ』とそのまま鵜呑みにしてまって、どんどん信じ込んでしまうのです。

このように、私たちは限られた情報を疑うことなく信じやすい動物なんだという自覚をもつところからマインドコントロールされない予防策が始まります。

相手の話を聞いていて『あれ、なんか変な集まりだな』、『聞いていたセミナーとは全然ちがう内容だな』といった自分のなかから生まれるちょっとした違和感を大切にしてください。

それを無視したままだと、ずっと制限された情報のなかで、あなたの思考はどんどんコントロールされていき、その集団から抜け出せなくなってしまいます。

決してマインドコントロールはテレビやドラマの中の話ではなく、あなたの身近に優しい顔で潜んでいるので注意してくださいね。

プロフィール:井上智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医。島根大学医学部をを卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動。毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加え、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員への精神的ケアを行う。うつ病、発達障害、適応障害などの疾患の治療だけではなく、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも尽力。『大雑把に笑って生きる』をモットーに、明るく心が軽くなる話をブログやSNSで毎日発信している。ツイッター、ブログ

image by : shutterstock

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