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「むし豚」「豚足」で大ヒット。京都発祥の居酒屋が東京で大繁盛の訳

都内最古と言われるコリアンタウンを擁する上野の街で、韓国料理の定番メニューを看板に掲げる、京都発祥の大衆居酒屋「マルミヤ亭」が人気となっています。同店の何が東京の居酒屋通を惹きつけているのでしょうか。今回、「マルミヤ亭」大ヒットの秘訣を探るのは、『月刊食堂』『飲食店経営』両誌の編集長を経て、現在フードフォーラム代表を務めるフードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは同店の魅力的なフード・ドリンク両メニューを紹介するとともに、努力が報われる店舗運営法を高く評価しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

ニッチな大衆居酒屋を個人事業主が運営する強い飲食店スキームで大ヒット

「豚足」(=チョッパル)、「むし豚」(=ポッサム)は韓国料理の一つ。しかも、手が込んだ料理で、酒のつまみとなると格別である。豚足は美容効果のある「コラーゲン」で注目されていることから、熱烈な女性ファンも多い。

この二つを看板メニューとする店が昨年12月、東京・御徒町にオープンした。店名は「マルミヤ亭」。この上野・御徒町界隈は韓国系の飲食店が多数ある。老舗の焼き肉店から、家庭料理、チェーン系の韓国料理店と、利用動機に合わせてさまざまな“韓国”を楽しむことができる。そんな中にあって「マルミヤ亭」はこのエリアの“韓国料理”を一層奥深いものにした。黄色の背景に黒い文字とよく目立つ看板で、「創業昭和四十六年」「京都発祥」「むし豚」「豚足」を文字が並んでいて、長く庶民に親しまれている飲食店であることが伝わってくる。

黄色に黒い文字でよく目立つ看板で、特長の要点を適格にアピール


「レモンサワー」でブーム巻き起こす

同店を経営するのは株式会社ライト(本社/京都市左京区、代表/岩本俊一)。同社代表の岩本氏は、全国チェーン展開する外食企業で店舗開発を担当していた人物。2017年7月京都・河原町に「酒場エビス」を立ち上げ、飲食業で起業した。同社の店舗運営は個人事業主に運営を委託するという方式を採っていて、この同社1号店からこの仕組みで運営している。個人事業主は、売上と利益の中から決められた比率での報酬を受け取る。そこで、日々の営業で本来の力が発揮される。この仕組みの店舗は現在4店舗となっていて、東京の「マルミヤ亭」を運営するのは株式会社BASE(本社/京都市中京区、代表/定國陽一)。

BASE代表の定國氏は大阪の料亭で修業を積んだ料理人で、岩本氏とは前職であるチェーン化外食企業で知り合った。前述の通り岩本氏は店舗開発担当、定國氏は商品とダイニング事業を担当していた。

ライトの1号店である「酒屋エビス」は定國氏が店舗運営することでたちまち繁盛店となった。フードメニューの看板商品は「近江牛タン刺し」をはじめとする近江牛の肉刺し料理や、「名物肉豆富」といった京都の大衆酒場メニューをラインアップして、大衆的な業態でありながらクオリティの高さをアピールした。

定國氏の持ち味が発揮されたのは「レモンサワー」。定國氏は日ごろ大手メーカーの担当者、日本酒研究家、酒場女子などとレモンサワーの研究にいそしみ、そのアイデアを同店に生かした。レモンの産地を直接訪問するなどブラッシュアップに努めて、京都にレモンサワーブームを巻き起こした。

韓国料理の街からブランディング

さて、岩本氏が「マルミヤ亭」を開業することになったのは、京都の地元で「ある名店が営業を止める」という噂を耳にしたことに始まる。それが京都・東九条の「マルミヤ亭」であった。岩本氏自身が大好きな店で同店には何度も足を運んだ。創業者の故・宮本和子氏が体調不良となったことから焼き肉店としての「マルミヤ亭」は休業していて、看板商品であった「むし豚」「豚足」「豚ホルモン」は子孫によってテイクアウトのみの営業を続けていた。そこで、岩本氏が「マルミヤ亭」の後継者に名乗り出た。2019年のことである。

2020年2月末、京都の「マルミヤ亭」は昔ながらの“ホルモン屋”としてリニューアルオープン。同店をよく知る人たちの間では「30年ぶりの営業再開」ということで大いに歓迎された。同時に「プレミアムむし豚」と「プレミアム豚足」の通信販売も始めた。創業当初からの「マルミヤ亭」に親しんできた人たちにとっては、より身近に感じられるようになった。

「マルミヤ亭」の2号店を東京に出店したのは、ずばり店舗展開の構想を抱いているから。フードメニューでは伝統の「むし豚」540円(税込、以下同)、「豚足」600円の二品を「まずはコレ!!」とアピール。さらに、ハツ、せんまい、コブクロの「肉刺し」、ホルモンの「七輪焼」、もやしナムル、チャンジャといった韓国料理の一品料理をラインアップした。

「むし豚」540円はサムギョプサルとは趣を異にした格別のおつまみ

「豚足」600円、お一人様の女性客がこのメニューを目当てに来店する

輝きのある美しい存在感が肉刺しのフレッシュ感を伝える

オーナーの岩本氏によると「名物料理とメニューの絞り込みによってオペレーションの安定化を図り店舗展開につなげていきたい」としている。そこで「マルミヤ亭」を多種多様な韓国料理店がそろう上野・御徒町に出店することはブランディングに役立つと考えた。

ニッチな商品に根強いファンが存在

東京の「マルミヤ亭」はオープン4カ月が経過、よく知られる存在になった。まずインスタグラマーによって情報が拡散した。大衆居酒屋のホッピングを楽しみとする人にとって、上野・御徒町エリアに立ち寄る店が新たに加わったという感覚だ。

客層は類似の大衆居酒屋の中では比較的に年齢層が低い。20代から40代が主流を占める。“20代女性お一人様”というパターンもある。これは「豚足」目当てのお客で、豚足を堪能して帰路につく。ニッチな商品だがこのように根強いファンが存在する。また、すでに常連になった顧客の場合、看板商品の逸品とドリンク一杯で「さくっと」利用するパターンも見られるようになった。

オープン4カ月にして多くのリピーターに愛されている

そして、ここでも定國氏によるドリンクメニューの技が効果を大きく発揮している。それは焼酎の品揃え。まず「芋」では「だいやめ」640円、「フラミンゴオレンジ」650円、「蔵の師魂 The Pink」650円、「きろく」540円。「麦」では「泥亀」540円、「スパニッシュオレンジ」650円。さらに「スパイス」として「カルダモンTAKE7」650円というラインアップである。

焼酎品揃えに対する研究が同店のファンづくりにつながっている

これらの焼酎はいずれも特長がはっきりとしたものばかり。「だいやめ」は蔵元独自の熟成技術から生まれた「香熟芋」による新鮮な香味「フラミンゴオレンジ」はグラスに注いだ瞬間からみずみずしい洋梨とオレンジの詰め合わせが目に浮かぶような香りが広がる。「蔵の師魂 The Pink」はワインに似た香りの酒質。「麦」をスキップして「カルダモンTAKE7」は、カレーのスパイスのカルダモンでつくったリキュールで、スパイスが効いたエスニック料理などによくマッチする。

これらの焼酎の特長を定國氏がお客に魅力たっぷりに伝えることから、焼酎を求めるお客は「次はこれ」という具合に飲み進めていく。同店のメニュー構成では客単価4,000円当たりが想定されるが、焼酎の飲み比べを楽しむお客は8,000円、1万円になることもあるという。定國氏も、魅力的な焼酎の品揃えに余念がなく、複数の業務用酒販店と取り引きするほか、蔵元に直接出向いて仕入れを行っている。

「マルミヤ亭」のオーナー岩本氏が推進する個人事業主による運営委託の仕組み。そして、個人事業主が自分で店舗を構えることなく自身の強みをいかんなく経営に反映できるというこれらのスキームは、これまでの店舗展開にはない強みを発揮していくことであろう。

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社ライト , 株式会社BASE

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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