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ウクライナに学べ。国を守るため日本に必要な「攻撃を躊躇わせる」3つの能力

岸田首相は日米首脳会談で防衛費の増額を表明。ウクライナ情勢を受けて、防衛力強化の方針を打ち出しました。中国、ロシア、北朝鮮を隣国に持つ日本が危機感を抱くのは当然でも、何をどういう順番で備えるか整理が必要と説くのは、静岡県立大学特任教授で軍事アナリストの小川和久さんです。今回のメルマガ『NEWSを疑え!(無料版)』で小川さんは、相手に攻撃を躊躇わせる「平時の戦争」に必要な3つの能力を上げ、ウクライナのようにアメリカから必要な武器・装備を借り受ける具体的なプランを提示。何年先になるかわからない導入計画を練っている時間はないと、「平時の戦争」への自覚を促しています。

BMD艦とトマホークを友軍から借りる

ウクライナ戦争の戦況を眺めていて、気になってならないことがあります。

ロシアのウクライナ侵攻に触発されて、中国が従来の姿勢をエスカレートさせ、台湾にも軍事的な触手を伸ばしはしないか、日本にも狙いを定めはしないか、という懸念が生まれているのは、もっともなことです。日本は同様な考え方を持つ中国、ロシア、北朝鮮に囲まれているから、それに備えなければならないというのも、正しい認識です。

しかし、順序正しく備えるとなると、少し整理が必要になります。まず、中国、ロシア、北朝鮮とも日本を占領するだけの大軍を渡洋上陸作戦させるだけの能力は皆無です。一方、その気になれば日本を攻撃できるだけのミサイルの能力は備えています。

そのように考えれば、日本は(1)ミサイル防衛、(2)反撃、(3)サイバー防衛の3点について、同時進行で、それも可及的速やかに能力を備えなければなりません。

その場合、前提となるのは「平時の戦争を戦っている」という発想です。手出しを躊躇わせるだけの抑止力を備えるというのが「平時の戦争」の基本で、それを実現できれば血を流す戦争を避けることができ、外交的な発言力も強化することができるのです。

日本が平時の戦争の戦場にいると認識を持つことができれば、現状では不足している装備品や能力について、同じ戦場にいる友軍である米軍に借りるというのは当然のことです。日本が敵に圧倒されれば米国にとっても不利な状況が生まれるからです。逆の立場なら、米国は日本に能力や装備品の提供を求めるはずです。

これまでミサイル防衛については、イージス・アショアに代わるミサイル防衛用の艦船が実戦配備されるまでの5~10年ほどの期間、空白状態は許されませんから、米海軍の89隻のイージス艦のうち、50隻のミサイル防衛能力を備えたBMD艦から2隻を借り受け、東北地方と中国地方の日本海沖に展開し、艦長ら幹部要員以外の人員はイージス艦の運用とミサイル防衛の経験者を民間軍事会社から派遣させる形をとり、システムのバージョンアップを含む費用を日本側が負担することを提案してきました。日本政府が提案すれば米国が受け入れるのは間違いありません。

反撃能力については、日本列島防衛のスタンドオフ能力としても位置づけることのできるトマホーククラスの巡航ミサイルの保有が相応しいと提案してきました。ここでは、反撃能力もトマホークそのものを友軍である米軍から提供を受けることによって配備までの時間を圧縮することを考えてみたいと思います。

保有の規模は、横須賀を母港とする米海軍の空母打撃群と米太平洋艦隊の巡航ミサイル原潜が搭載するのと同じ500発としましょう。これを海上自衛隊の護衛艦に簡易型の発射装置で搭載していくのです。

トマホークが登場した1980年代中盤、米軍の艦船は4本の発射筒を組み合わせた装置を搭載していました(巡洋艦・駆逐艦12隻は2セット、戦艦4隻は8セット)。これならVLS(垂直発射装置)のない護衛艦にも設置可能です。概数を弾き出すため、ここではVLS艦にも発射筒8本を搭載することにしますが、海上自衛隊の護衛艦47隻が搭載できるトマホークは合計376発になります。21隻ある潜水艦への8発程度の搭載も、そのための改修に取りかかる必要があるでしょう。

これが完了すれば、総計は544発になります。最初は米海軍が保有するトマホークを融通してもらい、同時に製造元のレイセオン社に発注していくのです。これなら、短期間に反撃力の整備が進もうというものです。

さらに増強する場合は、陸上自衛隊の特科(砲兵)部隊に配備していけば、「1発撃ってきたら1000倍返しをする」という韓国のキルチェーン(主力は短距離弾道ミサイル)なみの反撃力になるはずです。

ロシアと互角以上の戦いを見せているウクライナから、日本は友好国からの装備品の提供がいかに必要で、有効かを学ばなければなりません。平時の戦争を戦っているという自覚がないから、日本政府は何年先になるか不確かな装備品の導入計画を描いたりするのです。与党はこの角度からも防衛計画の大綱の改定などに斬り込んでもらいたいと思います。(静岡県立大学特任教授 軍事アナリスト 小川和久)

image by:Extra_Photographs111111/Shutterstock.com

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