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米国から逃避か。厳しい国内事情を放置して訪日したバイデンの崖っぷち

5月22日からの3日間の訪日中、QUADの首脳会談やIPEFの発足式等々精力的なスケジュールをこなしたバイデン大統領。しかしながら、今回の訪日自体を懐疑的に見る識者も存在するようです。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』では著者でジャーナリストの伊東森さんが、バイデン大統領の訪日がアメリカからの「一時退避」にしか見えないとしてその理由を解説。米政権が難しい舵取りを強いられている現実を詳述しています。

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バイデンは日本に来ている場合か? 荒れ狂うアメリカから一時退避 もはや“政治内戦”~1~不発に終わったクアッドとIPEF プーチンフレーション?

米国大統領ジョー・バイデンが日本にやってきた。米国の大統領としては2019年以来、そしてバイデン自身としては、大統領就任後、初めての訪日となる。

岸田首相とバイデン大統領は東京の元赤坂の迎賓館で会談した。バイデン大統領は22日から24日までの訪日中、クアッド(QUAD)という日米豪印(日本、アメリカ、オーストラリア、インド)による首脳会談にて対中国の軍事的包囲網の確認・強化するほか、新しく発足するIPEFというインド太平洋経済枠組みを通じ、経済的な面においても対中包囲網を形成するという。

また、ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受け、対ロシア制裁などの面においても日本との連携を図る。

しかしながら、このような表向きの外交のなか、米国では内政面においてとんでもないことが、“いくつも”起きている。

ただでさえ政治的には米国は半年後に中間選挙を控えるが、バイデン率いる民主党は劣勢が伝えられている。もし、ここで負ければもともと、「指導力がない」「少々天然ボケ」といわれるバイデン大統領はさらに追い込まれ、“レームダック”化は必至だ。

目次

クアッド

24日、日米豪印のクアッド(QUAD)の首脳会合が開かれた。ロシアによるウクライナ軍事侵攻による国際秩序が揺らぐなか、会合は「力による現状変更」についての反対では一致したが、成果文書になった共同声明では侵略したロシア、あるいは覇権主義的な動きを強める中国には触れなかった。

このことは、インドに配慮したものだろう。結局、日米が期待したような中ロへの“けん制”は不発する。

クアッドの首脳会合では、まず、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、今後5年間でインフラの整備に500億ドル(約6兆3,800億円)以上の支援や投資を目指す。

そして、共同声明において、「悲劇的な紛争」と表現。主権の尊重や平和的解決の重要性を強調したものの、しかし「ロシア」とは名指しはしなかった。

ほか、中国が進出する東・南シナ海において海洋秩序への挑戦に対抗。違法漁業監視で、周辺国による海洋状況の把握能力の向上を支援することも約束した。

クアッドは、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国で安全保障や経済を協議する枠組みで、首脳や外相の会合がある。

クアッドの名称は、英語で「4つの」を意味する「QUAD」に由来。参加する4カ国で、軍事・防衛費は中国の4倍に相当、インド洋と太平洋を取り囲むように、自由や民主主義、法の支配といった共通の価値観を重視。

クアッドの構想は、安倍元首相が2006年に4カ国で戦略対話を訴えたのを契機に膨らんだ。

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IPEF

新たな経済圏であるIPEFが23日に発足した。協議を進める発足メンバーには、米国や日本、韓国、インドなど13カ国。半導体などのサプライチェーン(供給網)の強化などを推進するが、TPP(環太平洋連携協定)などと異なり、関税の削減は課題としない。

トランプ前政権以降、TPPと距離を置く米国が、IPEFで地域を巻き込み中国をけん制する狙いだ。

参加する国は、日本、米国、韓国、インド、オーストラリア、ブルネイ、インドネシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの13カ国。この13カ国で世界のGDP(国内総生産)の4割を占める。

しかし、台湾は入らなかった。バイデン政権はあくまでも「一つの中国」政策を堅持、台湾の参加を認めれば、中国を刺激しかねないと判断したという。

ただ、TPPや地域的な包括的経済連携(RCEP)が貿易拡大のために互いの関税の引き下げに踏み込んだ一方、IPEFはあくまでも米国内の産業保護を優先。そのため、関税の削減は議論の対象外とした。結果、輸出の増加にはつながりにくく、利点は乏しいとの見方が強い。

プーチンフレーション?

しかし、このような外交的な目的は、荒れ狂う米国政治からの“一時退避”としてしか、映らない。

「プーチンフレーション」という言葉がある。バイデン大統領は2月、インフレの高騰について、「プーチン大統領のウクライナ侵攻が要因」との見解を主張。するとすぐさま、ホワイトハウスのケイト・ベディングフィールド広報部長は「#PutinPriceHike(#プーチンによる値上げ)」とSNS上でキャンペーンを展開。

民主党支持者の間では、プーチン大統領(Putin)とインフレ(Inflation)とを結びつけた「プーチンフレーション(Putinflation)」といった造語も拡散した。

一方、共和党議員の多くは、ロシア産原油の禁輸措置は支持したものの、ウクライナ危機によるエネルギー価格の上昇はプーチン大統領ではなく、バイデン大統領自身にあるとし、「プーチンフレーション」ではなく、「バイデンフレーション(Bidenflation)」だと主張する

ただ、アメリカ経済研究所のウィル・ルガー所長は、「Insider」に、

「インフレ問題の最大の原因は、目先のことだけでなく、ここ数年の我々自身の政策にある」(BUSINESS INSIDER、2022年3月29日)

と語った。

実際には、ロシアがウクライナに侵攻するはるか前から、米国経済は高いインフレ率にあった。

「我々はすでに問題を抱えていた。たとえ明日平和になったとしても、この先、いくつかの問題を抱え続けるはずだ。その大きな要因は、金融政策と財政政策がしばらくの間、軌道に乗っていなかったことだ」(BUSINESS INSIDER、2022年3月29日)

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アメリカのガソリン価格 過去最高を記録

米国においてもガソリン価格が高騰、市民を悩ませ、それをバイデンの不人気に拍車をかける。

3月7日の集計で1ガロン(約3.8リットル)あたり平均4.14ドル(約480円)と、過去最高を記録した。

全米自動車協会(AAA)にデータを提供している調査会社の石油価格情報サービス(OPIS)が、全米のガソリンスタンド14万カ所からのデータに基づき算出。

これまでで最も高かったのは、2008年7月の4.11ドルだった。ロシアがウクライナ侵攻を始めた2月24日からの上げ幅は、3月7日時点で60セント、7日までに1週間で52セント上がる。

この値上げ幅の加速は、2005年に大型のハリケーン「カトリーナ」がメキシコ湾沿いの石油施設を直撃したときを上回るほどだ。アナリストは、今後、4.50ドルまで上がり、場合によっては5ドルにまで達すると指摘する。

ただ、国際エネルギー機関は5月12日に、「ウクライナ侵攻のロシアの減産で世界的に石油が不足することはない」との見方をする。

石油精製の能力不足の影響により、ガソリンの在庫の管理がうまくいっていないことが、高騰をもたらしたとも。今夏には1ガロン=6.2ドルにまで達するともいわれる。すでに州によっては、日本の価格を上回るところまで高騰しているという。

参考文献

● 「米ガソリン価格、過去最高値を記録 さらに高騰の見通し」CNN.co.jp 2022年3月8日
● Zahra Tayeb「インフレはプーチンのせいだけではない…最大の原因はアメリカの政策にある」 BUSINESS INSIDER 2022年3月29日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年5月29日号より一部抜粋)

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image by: 首相官邸

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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