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もはや“政治内戦”状態のリアル・エヴァンゲリオン国家アメリカを襲う大分断

今や取り返しのつかない状況にまで深化し、修正不可能な地点にまで到達してしまった米国社会の分断。なぜ自由の国アメリカは、これほどまでの重病を抱えるに至ってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』では著者でジャーナリストの伊東森さんが、米国の分断を「予想以上に深刻」とした上でその歴史的経緯を紹介。さらに11月に控えた中間選挙の情勢と、次回大統領選におけるトランプ氏再登場の可能性を考察しています。

【関連】米国から逃避か。厳しい国内事情を放置して訪日したバイデンの崖っぷち

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バイデンは日本に来ている場合か? リアル“エヴァンゲリオン”なアメリカの止まらない分断

現在のアメリカ政治を支配しているのは、キリスト教福音派だ。福音派はプロテスタントが発展する過程でカルヴァン派から派生した宗派のひとつであり、アメリカ国内においてはプロテスタントの中でも「非主流派」という位置づけになる。

しかし、その数はアメリカの全人口の30%~35%、約1億人にのぼり、単一の宗派としてはカトリックを抜いて、アメリカ最大の宗教勢力となっている。

就任直後は50%台を維持していたバイデン大統領の支持率は、現在は40%台前半から30%台にまで急落している。この不人気状態で、11月の中間選挙に突入し、現在は上下両院において優位に立つ民主党が過半数を失えば、バイデン大統領は早くも2年目にして“レームダック化”する。

その責任をバイデンひとりに負わせることは不可能だが、しかし議会のうち上院では与野党の勢力が拮抗しているため、結果、与党である民主党からひとりでも反対を出すと法案を成立させることが難しい綱渡りの状態がつづき、民主党内の急進左派と中道寄りの一部の議員の対立が激化しており、“決められない政治”に拍車をかける。

■前回までの記事

バイデンは日本に来ている場合か? 荒れ狂うアメリカから一時退避 もはや”政治内戦” ~1~ 不発に終わったクアッドとIPEF プーチンフレーション?
バイデンは日本に来ている場合か? 荒れ狂うアメリカから一時退避 もはや”政治内戦” ~2~ 相次ぐ銃乱射事件 中絶をめぐる最高裁の草案がリーク 永い眠りから覚めたネオコンが復活

目次

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「リアル・エヴァンゲリオン」なアメリカ

米国では、キリスト教の一派である「福音派」と呼ばれる勢力が勢いをまし、いまやアメリカ政治を支配するまでになっている。とくに福音派は、「トランプ現象」を作り上げた。

アメリカ大陸への入植の歴史では、まず16世紀にカトリックが大陸に伝来、スペイン帝国がフロリダに最初のカトリック教区を設立した。

一方、16世紀に起きた宗教改革により、英国国教会が誕生したが、教会を改革しようとするピューリタンが英国から宣教活動を目的に、メイフラワー号でマサチューセッツに1620年に到着。

その後、英国では1641年から1649年にかけてピューリタン革命が起き、宗教的内戦を経て、王政が復活する。

しかしこれを不満とするピューリタンたちは、続々と新大陸であるアメリカに渡る。そして国教会よりも、より“ピュア”なキリスト教にとって理想の国である「神の国」をアメリカ大陸において、共和制体制下で設立させたのだ。

そして、1730年~1970年までに4度の信仰覚醒運動(リバイバル)を経て、現在でも米国の基盤ともいえるプロテスタント信仰が形成され、そのなかでも福音派が米国特有のキリスト教の“土着化”した宗教ともいえる独自の発展を遂げた。

福音派はプロテスタントが発展する過程でカルヴァン派から派生した宗派のひとつであり、アメリカ国内においてはプロテスタントの中でも「非主流派」という位置づけになるが、その数はアメリカの全人口の30%~35%、約1億人にのぼり、単一の宗派としては今やカトリックを抜いて、アメリカ最大の宗教勢力となっている。

その信者は主に「バイブルベルト」と呼ばれるアメリカ南部の州が多く、なかでもテネシー州、アーカンソー州、アラバマ州などでは福音派の信者数が人口の4割を占めている。一方、米国北東部のニューイングランド地方や西部各州では信者数が人口の10%に満たないなど、地域的な偏りもかなりある。

またニューヨークやシカゴ、ロサンゼルス、ボストンといった大都市圏では信者の数はさらに減少する。

さらにその人口に福音派が占める割合は、共和党の支持率や2020年の大統領選挙でトランプを支持した人の比率とほぼ比例する。

福音派の割合が高い州は、ほぼ例外なく人工妊娠中絶に厳しい制限がかけられていたり、あるいは同性婚やLGBTに対する差別意識が高いことも、世論調査でわかっている。

この地域は、軒並み新型コロナウイルスの感染率が高い。福音派はとくに南部で「メガチャーチ」とも呼ばれる1万人規模の大規模な礼拝を通じて、信者を増やしてきた。

そのため、コロナ禍においても大規模な礼拝を続けてきたことが、感染の拡大と関係しいている可能性がある。また、福音派の人々はワクチンに懐疑的な人やマスクの装着率も低く、そのことも感染拡大の要因となったと考えられている。

この福音派は英語で「エヴァンジェリカル」と呼び、「エヴァンゲリオン」と同義だ。まさに、アメリカは「リアル・エヴァンゲリオン」な国家なのだ。

福音派の最大の特徴は、聖書の福音書の内容を文字通り、“一字一句”解釈し、絶対視するところ。そのため、進化論を認めず、人工妊娠中絶や同性婚、LGBTに強い拒否反応を示す。

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止まらない分裂

いずれにしろ、米国の“分断”は予想以上に深刻。もはや、「政治内戦」ともいってよい。米国社会の分断は、共和党・民主党の2大政党が分極化しているため。両党の支持者の間に、強烈な敵対意識と恐怖、憎悪がある。

1970年~1980年代は、民主党が共和党よりも左派という意味においては違いがあっても、両者が“嫌い合う”というところまではいたらなかた。

両党の支持者はいずれも「白人のキリスト教徒」が大半を占め、文化的も大差はなかった。しかし2000年以降に対立が深まっていく。きっかけは、1990年代の共和党の下院議長であったニュート・ギングリッチだ。

彼は共和党の指導者となり、党員に対し“規範破り”をするようにけしかけた。とくに民主党を「裏切り者」「非愛国者」「反米」と呼ぶ論法を広める。

対立が際立ったのは、オバマ政権の8年間だった。共和党の代表的な政治家までもが、オバマ大統領を「非米国人」「社会主義者」などと呼ぶようになった。

分断の背景にあるのが、ここ50年間の2大政党の支持基盤に起きた3つの大きな変化だという。

第一に、南部の白人票が共和党に移り、選挙権を得ることができた黒人の大半が民主党員になったこと。第二に、中南米やアジアからの移民の大半が、民主党員となったこと。第三に、共和党・民主党の両党に支持が分かれていた福音派が、とくにレーガン政権以降、圧倒的に共和党支持になったことだ。

そのことにより、両党が誰の利益を代弁しているのか、明確になった。民主党は都市で暮らす教育を受けた白人と、ラティーノやアジア系、アフリカ系という人種的な少数派や性的少数派の人々。

一方、共和党の支持者となるのは、ほとんどが白人でキリスト教徒。彼らは有権者として多数派だったわけでなく、かつては経済も政治も支配していた。しかし、それが劇的に変わってきた。

1992年に有権者の73%を占めた白人のキリスト教徒は、2024年には米国で50%を割る。このことは、支配的な地位を失うことを意味するだろう。多くの共和党支持層が「生まれ育ったころの米国が奪われた」と口にするという。このような思いが共和党の過激化の引き金となり、分極化を煽る。

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レームダック化するバイデン

いずれにしろ、バイデン大統領は「人気がない」のだ。そして、それを招いた責任の一端が、バイデン大統領の指導力の欠如にあると米国人は考えている。

結果、就任直後は50%台を維持していたバイデン大統領の支持率は、現在は40%台前半から30%台にまで急落している。この不人気状態で、11月の中間選挙に突入し、現在は上下両院において優位に立つ民主党が過半数を失えば、バイデン大統領は早くも2年目にして“レームダック化”する。

バイデン大統領の支持率が急落した契機となったのは、昨年夏のこと。アフガニスタンからアメリカ軍を撤退させるなかで、タリバンが復権し、現地が大きな混乱に陥った。アメリカ軍の兵士13人を含む多くの人が亡くなったテロをも起き、バイデン政権の対応に大きな批判が集まった。

また、現在の高いインフレもバイデン批判を招く。そして、「豊かな政治経験」が売りだったバイデンは、「決められない政治」に陥る。

バイデンひとりにはすべての責任は負わせることは不可能だが、しかし議会のうち上院では与野党の勢力が拮抗しているため、結果、与党である民主党からひとりでも反対を出すと法案を成立させることが難しい綱渡りの状態がつづき、しかも民主党内の急進左派と中道寄りの一部の議員の対立が激化しており、“決められない政治”に拍車をかける。

ある世論調査では、バイデン大統領の支持率が歴代大統領のなかでトランプ前大統領につぐ低さとなった。とくに第2次世界大戦後に就任した歴代の大統領の就任から1年を比べると。バイデン大統領を下回るのはトランプ氏だけだった。

バイデン政権は、どのような態度で中間選挙に臨むだろうか。戦後、中間選挙では、ブッシュ(子)(2002年)とビル・クリントン(1998年)を除き、全ての大統領が野党に下院を奪還されている。

バイデン大統領の場合、下院で5議席、上院で1議席を失うだけで多数党の座から転落することになるが、現在の情勢では間違いなく、下院は奪還されるだろう。

だからといって、トランプに出る幕はないようだ。事実、これまでトランプとの関係が強かった共和党は、最近は一部、ミッチ・マコーネル上院院内総務を中心に、トランプの影響力の弱体化を図っている。ウクライナ危機のよるトランプのプーチン擁護の姿勢も明らかにリスクだ。

いずれにしても、米国の“分断”は止まらないだろう。

■参考文献

● 「キリスト教右派から読み解くアメリカ政治』SYINODOS 2017年2月27日
● 高木優「【詳しく】バイデン大統領はなぜ不人気なのか?」NHK NEWS WEB 2022年1月20日
● 佐藤由香里「バイデン大統領を待ち受ける中間選挙へのいばらの道~転換期の米国内情勢」論座 2022年3月11日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年6月11日号より一部抜粋)

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image by: Shutterstock.com

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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