MAG2 NEWS MENU

有能な人々はロシアから既に脱出。崩れた「プーチン失脚」のシナリオ

ウクライナ東部でロシア軍の攻勢が伝えられるものの、ウクライナの激しい抵抗により、戦争の終わりは見えてきません。戦争の長期化で経済制裁が功を奏し、プーチンが失脚するという欧米のシナリオは既に崩れたと見ているのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、その理由として、有能な人々が政権中枢から退けられたか国を脱出していることをあげます。そしていまのロシアはミッドウェー海戦後の日本のようだと評し、無能な指導者のせいで悲惨な末路を迎えるロシアを憂い、「日本も気を付けた方がいいよ」と意味深な言葉を綴っています。

「ホンマでっか!? TV」でおなじみの池田教授が社会を斬るメルマガ詳細・登録はコチラ

 

ウクライナ紛争と穀物価格の高騰

ウクライナ紛争は杳として終結の兆しが見えない。ロシアはウクライナの首都キーウの奪取に失敗し、東部に戦力を集中しているが、ウクライナの抵抗も激しく、一進一退の攻防が続いていると報じられている。ロシアが攻勢を強めるといった報道があるたびに、西側からウクライナに強力な武器が供給され、この紛争はロシア対西側の戦闘といった様相を呈しており、西側は面子にかけてもロシアの一方的な勝利を許さないだろう。

戦闘を続けるには戦費が必要だが、ロシアは、欧米諸国の経済制裁によって、経済的に追い込まれており、長期的には戦争を継続できなくなると思われるが、それが1年先か2年先か5年先かは分からない。

紛争前にロシアにいた優秀な人材、例えばIT技術者などの科学者、起業家、資産家はすでにロシアを離れている。独立系ロシアメディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」が5月9日に報じたところによると、2022年1~3月に388万人がロシアから出国したという。現在、この数はもっと大きくなっているだろう。

プーチンに批判的な官僚や軍人は左遷されたか、国外に脱出したか、しているだろうから、政権中枢に残っているのはプーチンに忠誠を誓う以外に生き延びる術がないと思っている無能な人々だけだと思う。

西側が経済制裁を始めた直後は、ロシアの人々は日々の生活に困って、プーチンの始めた戦争を怨んで、プーチンは遠からず失脚して、新しい政権とウクライナの間で停戦が成立して紛争は終結するだろう、との希望的観測が一部で流れていた。

プーチンが失脚した後の新生ロシアとしては、紛争の原因を一人プーチンに負わせて、和解交渉が成立すれば、紛争によるロシアのダメージを最小限に抑えられるし、惨めに敗北するよりも、はるかにロシア全体としての面子も保てる。西側としてもプーチンが失脚して、とりあえず紛争が収まれば、ロシアを経済制裁する必要もなくなる。天然ガスや原油などの化石エネルギーをロシアから自由に輸入することもできるようになり、双方にとってウィンウィンになるというシナリオだ。

しかし、このシナリオが成立するのは、プーチンのやり方を快く思わない有能な人々が、政権の中枢に残っている限りにおいてなのだ。恐らく今は状況が異なっていて、例えプーチンが死んでも、残った政権中枢の人々は、プーチンに洗脳されている(というよりもプーチンに賛成して戦争路線を擁護していた自分の意見を変えることが難しい)ので、プーチンの引いた戦争路線をクラッシュするまで走るしか選択肢がないという状況だと思う。太平洋戦争の半ばに、ミッドウェー海戦で大敗北を喫した後の日本みたいなものだ。

「ホンマでっか!? TV」でおなじみの池田教授が社会を斬るメルマガ詳細・登録はコチラ

 

考えられる最悪の状況は、プーチンがこのままトップに留まり続け、戦局はロシアにとってじり貧になり、やけくそになって核兵器を使用するという事態になることだろう。実際には、このまま和平に応じないと核兵器を使うぞ、という脅しをかけるだけで、使うことはないと思うけど、ウクライナや西側が挑発すれば、プーチンが怒り狂って核のボタンを押すことがないとは言えない。そうなっても世界は終わらないだろうが、ロシアは終わってしまう。

幸か不幸か、ロシアはエネルギーと食料を国民に供給することだけはできるし、紛争前に比べれば減ったとはいえ、まだ原油や天然ガスをヨーロッパに売っており、インドなども原油を買い付けているので、暫くは戦費が底をつくことはない。国民の生活は苦しくなったとはいえ、もともと貧乏な人達は、暫くは耐え忍ぶことができると思う。

しかし、このまま戦争を続ければ続けるほど、国際的な経済制裁は厳しくなり、戦死者は増え続け、輸入に頼っていた生活用品や贅沢品は枯渇して、国民の間には厭戦気分が広がり、いずれ戦争の継続はあきらめざるを得なくなり、和平交渉をするにしても、ロシアにとって極めて不利な条件にならざるを得ないだろう。

紛争が長引けば長引くほど、紛争が終結した後のロシアは、より悲惨になっていることは間違いない。指導者は権威主義的で国民は洗脳されている人ばかりといった、大きな北朝鮮のような国になっているかもしれない。敗北を認めて、西側のコントロール下に入れば、建前上は民主主義的な国になるということもあり得るが、経済の発展に必要な人材は払拭しているので、立て直すのは容易ではなく、最貧国から脱出するには時間がかかるだろう。

一人の愚かな指導者のために、国がここまで悲惨になるということが、まさか21世紀の世界で起こるとはね。日本も気を付けた方がいいよ。もう手遅れかもしれないけれどもね。

ところで、紛争が始まって以来、ロシアからのエネルギーの供給ばかりでなく、ロシアやウクライナからの穀物の供給も滞っているので、世界全体におけるエネルギーの価格と穀物の価格は高騰している。アフリカでは、ウクライナ侵攻を受け、小麦の価格が45%も上昇しているという。日本でも、輸入小麦の政府売り渡し価格を、2022年4月から17.3%引き上げた。

ウクライナは肥沃で、穀物の栽培に適し、小麦の生産高は、紛争前は世界7位(ロシアは4位)、大麦は世界5位(ロシアは2位)、トウモロコシは世界6位(ロシアは11位)で単位面積当たりの収量は、ロシアよりはるかに多い。ウクライナの穀物は、輸出拠点の黒海沿岸をロシアが封鎖しているために、容易に輸出できない。ウクライナは外貨の獲得を穀物輸出に頼っているため、紛争で穀物生産量が落ち、さらに輸出できないのは大きな痛手である。(『池田清彦のやせ我慢日記』2022年6月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

「ホンマでっか!? TV」でおなじみの池田教授が社会を斬るメルマガ詳細・登録はコチラ

 

image by: Gil Corzo / shutterstock.com

池田清彦この著者の記事一覧

このメルマガを読めば、マスメディアの報道のウラに潜む、世間のからくりがわかります。というわけでこのメルマガではさまざまな情報を発信して、楽しく生きるヒントを記していきたいと思っています。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 池田清彦のやせ我慢日記 』

【著者】 池田清彦 【月額】 初月無料!月額440円(税込) 【発行周期】 毎月 第2金曜日・第4金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け