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日本人の年収は、なぜ25年で「550万円」が「372万円」まで下がったのか?

毎日のように様々な物の値上げや値上げ予定のニュースが伝えられていますが、一部の大企業を除けば、政府が目指す賃金上昇の気配は見えてきません。そもそも日本人の年収の中央値は、この25年で「550万円」が「372万円」になったというデータがあり、激減した理由を3つの要因に求めるのは、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さんです。河合さんは、「残業」「米国」「投資」というキーワードで日本の経営者による間違った方針を指摘。働いても楽にならない現状を変えるには「人への投資」が必要と訴えています。

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働けど働けど賃金上がらず

値上げラッシュが止まりません。国内の主な食品や飲料メーカーの、すでに値上げしたか、今後値上げする予定の商品が、8300品目以上に上ることが民間の信用調査会社の調べで分かりました。

値上げ予定の商品は6月と7月だけで3000品目を超え、最も多い加工食品では平均13%、調味料は平均10%、酒類・飲料は平均15%の値上げになっているそうです。

ガス代や電気代もいつの間にか上がっているし、どれもこれも生活必需品なので厳しい。一方で、賃金は一部の大企業以外、上がる見込みがほとんどありません。

日経平均株価が一時、600円以上値下がりする~なんて報道もありましたが、14日の終値は2万6629円86銭です。2017年11月9日に、2万3000円をうわまったとき、約26年ぶりだ!高度成長期の「いざなぎ景気」を超えた!とメディアは大はしゃぎしましたが、その2万3000円より高いのです。

何度も書いてますが、日本国内の富裕層と超富裕層の割合は、「アベノミクス」が始まった2013年以降、広がり続け、日本の超富裕層(純資産5000万米ドル超)は世界最大の伸び率を記録しています。

これは日本が格差社会よりはるかにシビアな「階層社会」に突入したことを意味し、「現代版カースト」ともいえる理不尽な世界の始まりでもあります。

そもそもなぜ、日本の賃金は上がらないのか?いや、上がらないどころか下がっているのはなぜか?バブル崩壊後の1994年から2019年までの25年間で年収の中央値が「550万円から372万円へ」と著しく減少し、年齢別では、“働き盛り”である30代後半~50代前半までの世帯の年収が激減しているのは、なぜ?

「経営者がきちんと経営をしてこなかった」という一言に尽きるのですが、それは「残業」「米国」「投資」の3つの要因に大きくわけることができます。

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1つ目の「残業」は、高度成長期に「メイド・イン・ジャパン」の製品が世界で評価され、需要が急激に拡大したときに、追いつかない供給をカバーする目的で生まれました。90年代にデフレで供給過多になり、生産設備と共に人も減らしたのに、残業文化だけは残りました。

週50時間以上働くと労働生産性は下がり、63時間以上働くと仕事の成果も下がるという研究結果もあるのに、過労死基準を越えようとも関係なし。挙げ句の果てに、「残業月100時間未満」という、過労死を合法化するような制限まで加えたのです。

人をロボットと勘違いした経営者は、その後もコスト削減に奔走します。米国=世界と盲信した経営者は文化も国民性も違うのに、さまざまなアメリカ産を導入。これが2つ目の要因です。成果主義も、裁量労働制も、「世界は~」という枕詞をつけて「これでコスト削減になる!」という期待を込め、取り入れたのです。

さらに、「人への投資」も渋るようになりました。日本の「人材育成投資」のピークは、バブルが崩壊した直後の1991年です。その後徐々に低下し、1997年、1998年の金融危機を経ると一層減少が大きくなり、2015年の人材育成投資額は、ピーク時のわずか16%です。

人に投資すれば人は成長します。投資は「あなたに期待しています」というトップからのメッセージです。期待された社員は想像力を駆使し、「買いたい!お金を払いたい!」とお客さんが思う商品を生み出します。企業も、働く人も、お客さんもニコニコで三方良し。これこそが生産性向上の極意です。

生産性向上=コスト削減ではないのに、目先のコスト削減に走った結果、付加価値のある商品を作る地盤を弱体化させた。十分な休養や余暇を与える投資、スキルや知識を習得するための研修を強化させる投資に目をむけなかった末路が、上がらぬ賃金であり、減り続ける所得です。

そして、今度は「ジョブ型」をスローガンに掲げれば、生産性は向上するという勘違いも生まれています。ジョブ型の勘違いについては長くなりますので、またの機会に取り上げますね。

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いずれにせよ、「働けど働けどなお、わがくらし楽にならざり」状態から日本が脱するには、基本に戻る以外ありません。基本とは、人への投資であり、「日本人の特性」を活かすこと。日本の強みは、チーム力です。かつてのセル生産方式のような、チームを基準にした思考を経営に取り入れるのです。

トヨタ生産方式を体系化した大野耐一氏は、「コストを下げたきゃ、コストをみるな。流れをみろ!川の流れ、よどみをみろ!」が口ぐせでした。セル方式で生産性があがったのも「よどみ」をなくしたからであり、人の可能性を経営者が信じたからです。

かつて米スタンフォード大学経営大学院教授を務めた組織行動学者のジェフリー・フェファー氏は、経営学を労働史から分析しこう説きました。「企業経営で一番の問題であり、経営者が気をつけなくてはならないのは、経費削減が実際には錯覚でしかないことだ。この錯覚こそが企業の力を弱め、将来を台無しにする」と。

そして「人件費を削るなどの経費削減が、長期的には企業の競争力を低下させ、経営者の決断の中でもっともまずいものの元凶であることは、歴史を振り返ればわかる。経営者が新しいと思っている大抵の決断は、ちっとも新しいものではなく古いものである場合が多い。歴史の教訓を全く生かさないと過ちが何度でも繰り返される」と。(『人材を活かす企業』より)

さて、みなさんは日本の賃金が上がらない理由、どうお考えでしょうか?それぞれのお立場でのご意見、ぜひお聞かせください。

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image by: tuaindeed / shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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