中小企業にとって信用は命だと言われます。万が一、失ってしまった信用はどの程度で回復させることができるのでしょうか。今回は、メルマガ『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』の著者で事業再生コンサルタント、作家、CTP認定事業再生士の顔を持つ吉田猫次郎さんが、 さまざまなパターンの信用回復について解説。回復までの手段と期間について語っています。
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信用回復にかかる時間
「中小企業は信用が命」といいます。しかし、これも度が過ぎると、ただの強迫観念のようになってしまいます。「信用を失ったら、もう廃業するしかない」と思い込んでいる人も多いし、「死ぬしかない」と思い詰める人も少なくありません。
先週は自殺防止団体主催の講演会で講師をさせていただきましたが、講演後の個別相談で、信用を失って自殺まで思い詰めたことのある方がいらっしゃいました。
そこで本号では、今一度、信用回復について解説してみたいと思います。
1.自己破産した場合の信用回復
これはなかなかシンプルです。破産手続きの流れは大きく分けて「弁護士に依頼」→「裁判所の破産開始決定」→「免責決定」の3段階と言えますが、個人信用情報機関(KSC、CIC、JICC)に官報情報、いわゆるブラックリストが登録される期間は、CICとJICCが5年です。KSCつまり銀行系信用情報機関だけは10年です。起算日は、多くの場合、「免責決定の日から」と考えていいでしょう。
具体的には、破産・免責から数えて、5年も経てばクレジットカードや自動車ローンなどが組めるようになります。住宅ローンは10年かかりますが、審査のゆるい金融機関では、5年で組める場合もあります(私の知っている最短記録は2年でした)。
2.ちょっとした延滞歴がある場合の信用回復
月をまたがない程度の軽微な遅延の場合、信用の傷もさほど深刻ではないと言えるでしょう。これも具体的に書きますが、銀行の事業資金借入が数日間遅れた程度なら、まだ追加融資してもらえる余地があります(但し決算書の内容や遅延の回数などによって総合判断される)。
クレジットカードやリースの場合、1回でも自動引落ができないと、その事実がCICをはじめとする信用情報機関に載ります。強制解約にはならないものの、枠を減らされたり、次のカードやリースを組むときに審査で難儀するおそれがあります。
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ちなみに、CICの軽微な延滞の履歴は、1ヶ月単位で24ヶ月分載ります。言い換えれば、24ヶ月が経過すれば、軽微な遅延の履歴は、表から押し出されるようにして、消えます。
3.長期延滞した場合の信用回復
銀行でも、カードでも、リースでも、延滞が3ヶ月以上の長期にわたった場合、「期限の利益の喪失」といって、強制解約&一括請求の憂き目にあいます。こうなると、信用情報は事故扱いになり、業界用語でいう「異動情報」がつきます。
異動情報は、その契約が完了しないかぎり、いつまでも更新されます。契約が完了すれば、それが完済であれ和解であれ、完了後5年で消えます。
例えば私などは、あるカード会社に長期延滞して異動情報がついたものの、自力交渉で値切って和解し、それを全額支払って(250万円を25万円に値切ったこともありました)、そこから起算して5年ジャストで、そのカード会社の異動情報が消えました。
4.債務整理した場合の信用回復
カードやローンの任意整理は、「完済してから5年」と考えたほうがいいでしょう。個人再生手続きも同様です。ある意味、自己破産よりも信用回復に時間がかかると言えます。
5.銀行の事業資金借入をリスケした場合の信用回復
これは個人の信用情報にはほとんど影響をきたしません。リスケ実行中は新たな資金調達が困難でしょうが、リスケを終えれば、またすぐに借入可能です(というか通常の審査に戻るので、会社の数字が好転していれば借入可能です)。
6.保証協会に代位弁済された場合の信用回復
CICやKSCなどの個人信用情報機関には載らないことが多いですが、代位弁済になったという事実は、いくら隠そうとしても、決算書の随所に見え隠れしてしまうので(例:支払利息や借入先内訳の欄や、過去3期分の借入金の増減具合などから見抜くことができてしまう…)、どうしても新たな資金調達が困難になります。
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しかしこれも、業績が回復して保証協会へ完済すればたちまち信用回復しますし、あるいは完済できていなくても、会社の業績が回復すれば正常化に向けてのメニューが用意されています(求償権消滅保証制度など)。
7.取引先への支払が滞った場合の信用回復
これは明確な決まりはありません。どんなに遅れてもお付き合いしてくれる仏様のような取引先もあれば、1回でも遅延したら即取引停止のところもあるでしょう。
8.約束手形や小切手を不渡りにしてしまった場合の信用回復
私はこれをやらかしたことがあります。忘れもしない、平成12年2月末のことでした。経験があるので容易にイメージできますが、1回でも不渡りを出したら、金融機関の信用も、取引先からの信用も、大きく毀損します。2回不渡りを出すと、銀行取引停止処分になり、その後2年間は、与信の伴う銀行取引が全部ストップになります。借入金は一括請求、預金口座はロックされるでしょう。世間的にも、事実上の倒産などと書かれますから、信用回復は極めて困難です。
但し、販売先が一般個人の場合は、不渡りを出したかどうかなど無関心なお客さんも多いことでしょうから、たとえ2回不渡りを出しても商売を続けられる可能性があります(ちなみに銀行取引停止処分になっても、普通預金口座の出し入れはできます)。事実、私の顧問先の某温泉旅館は、2004年に不渡りを2回出して、今なお事業継続しています。
9.従業員、友人、知人、家族間などの信用回復
これが最も難しいかもしれませんね。どんなに親しくても、あっという間に人間関係が壊れてしまうこともあります。逆に、どんなに大喧嘩しても、不義理しても、翌日にはヨリを戻せることもあります。
上記1.~6.や8.と違い、マニュアル化されていないので、相手次第、そしてあなた次第と言えるでしょう。
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