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プーチン後継者はナワリヌイ氏?ロシア政府内で議論が進む「戦後」

6月27日にはウクライナ中部のショッピングセンターにミサイルを撃ち込むなど、蛮行を重ねるプーチン大統領。しかしこのまま戦争を続ければ、先に待つのは敗戦であることは間違いないようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、これまでの戦況を詳細に解説するとともに、今後の紛争の行く末を予測。さらにロシア政府内で話し合われているという「敗戦プラン」と、その席で上がっている仰天と言っても過言ではない戦後の指導者の名を紹介しています。

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ロシア軍全縦深攻撃への対抗処置

ウクライナにやっと、欧米の重火器が届き、これから反撃開始のようですが、ロシア軍はセベロドネツクを掌握し、次の全縦深攻撃に移る。ウ軍の体制立て直しはどうすればよいかを検討する。

ウクライナ東部での戦争は、ロシア軍はセベロドネツクを制圧し、アゾット工業団地からもウ軍は撤退し、リシチャンスクで防衛して、それでもスラビアンスクからリシチャンスクへの補給路T1302高速道路の防衛が難しくなったら、スラビアンスクまで撤退になるようだ。

これでルハンスク州の大部分をロ軍は制圧することになる。1つの目標をロ軍は達成することになる。

ロ軍の戦車などの装甲兵力、203m自走カノン砲やTOS-1多装ロケット弾砲を多数、この地域に集めて、ロ軍が全縦深攻撃したことで、ウ軍の装甲兵力や火力の10倍以上の差で押したことで圧倒した。しかし、ロ軍の損耗も大きく、ルハンスクとドネツク人民軍の兵員の55%が失われたという。

ロ軍の全縦深攻撃は、1ケ所に多数の戦車大隊戦術群(BTG)と203m自走カノン砲やTOS-1多装ロケット弾砲を集めて、戦車部隊を複数群にして、最初にウ軍陣地と後方の155mm榴弾砲を叩き、次に第1軍でウ軍陣地を突破させ、その後方の第2・3軍が突破した箇所から進撃する方法である。今までの1戦車BTGではできずに、複数のBTGを集めて攻撃を行う方法にロ軍は攻撃方法を変更した。

この方法でポパスナ周辺地域でウ軍陣地が攻撃されて、一度の攻撃で10キロ以上も侵攻された。ロシアは久々の戦術的勝利を得た。

ウ軍に欧米兵器が実戦に出てくると形勢は分からなくなるが、全縦深攻撃を受けると、ウ軍の消耗も大きくなり、脱走兵などが出て、そのような攻撃を受けないようにウ軍も対応策を立てる必要がある。

ウ軍にも、米からのM777榴弾砲、仏からのカエザル、独からのPzH2000砲、他からのFH-70、M109、AHSクラフなど多数の大砲が供与されたが、これらを足してもロ軍の火砲の数には、大きく及ばない。

重大なのは、ロ軍の電子戦兵器クラハ8が効果的に機能したことであり、電波妨害でウ軍のUAVが使えない事態や砲管理システムでの通信ができない事態になっていることだ。このため、早期に電子戦兵器を叩く必要がある。

この電子戦兵器を叩くには、長距離の射程をもつロケット砲と電子戦兵器の場所を探知するレーダーをケーブルでつなぎ同位置で運用する必要がある。

もう1つが、ロ軍の集中場所を察知して、その個所の防衛を厚くして、突破されても次の陣地を構築して、そこで第2・3軍を抑えることである。

それでも、リシチャンスクの防衛を強化して、そこで反撃を開始することになる。

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一方、南部ヘルソンへのウ軍反撃は、ウ軍の報道管制で情報が出てこないが、ヘルソンに向けて進軍しているようだ。

ザポリージャ方面では、ウ軍は偵察隊を出して、ロ軍の手薄な所を狙って、攻撃をしている。ロ軍の主流部隊はセベロドネツク周辺に持っていかれているので、手薄である。それはウ軍も同様で、手薄であるようだ。

またハルキウ方面では、ボルチャンスクへのM777榴弾砲で攻撃できる範囲をロ軍は再度占領した。そこで攻撃を止めている。ボルチャンスクはロシアからイジュームなどの方面への補給路である鉄道の要所であり、そこの確保をロ軍は重要視している。

そして、リシチャンスクの防衛に重要なのが、英からのMARSと、米からのHIMARSである。どちらも80キロ射程のロケット弾が使えることで、ロ軍203m自走カノン砲や電子戦兵器クラハ8を叩く手段ができることになる。この2つがウ軍の防衛を厳しくしていたので、重要である。

ロ軍は、シベリアからT-62戦車BTGを南部に送り増強し、南部のTー72戦車BTGを東部に送り、兵員は予備役の大量徴集で、国民総動員法の発動をしないようである。

ロ軍は大規模な消耗を大量動員でカバーして、攻撃を続行するようであるが、その資源もあと数か月で尽きることになると英国情報機関は見ている。

これに対して、ウ軍はロ軍の全縦深攻撃で人員の犠牲を出さない戦術に変更して、電子戦兵器を叩きTB-2やSU-25攻撃機などの航空勢力や砲管理システム「GISArta」などを利用して、ピンポイントでの攻撃をして、自軍の損害なしに、敵をたたく戦法にしないといけない。

ロ軍は、電子戦兵器を除くとベトナム戦争当時の米軍であり、60年以上前の誘導弾がない状態の軍隊で、絨毯爆撃や都市の無差別攻撃など、当時問題になった方法でしか攻撃ができない。このため、火力、兵力を大量投入して、力で押す方法になる。それでは損耗も大きくなる。

ウクライナ戦争とは、近代兵器対60年代兵器の戦いでもある。

その上、ロ軍では、航空機の墜落事故が多発している。墜落したのはロストフ州とベルゴルド州で訓練中のSU-25で、立て続けに墜落したが、とうとう、部品不足や航空機メンテができずに、機材トラブルになってきた。ロ軍VKSの動きが鈍いのは、航空機メンテができなくなっているからのようだ。

次に、ロシアのリャザンでIL-76大型輸送機の墜落で、エンジン故障という。工作機械精度が欧米企業のメンテがないため出ずに、このような事故になっている可能性もある。

また、ロシアの自動車最大手「アフトバズ」が主力車「ラーダ」の最新モデルを発表したが、エアバッグやABSなどの装備はないし、エンジンの排ガスも、最新の規制には適合しないという。欧米日からの部品供給がないことでこうなる。

ロシアでは、欧米の制裁で貧困層が14.3%も増加し、2,090万人もの食糧が買えない国民が出ているという。ロシアの庶民の生活では変化がないが、欧米的な豊かな生活をする人たちには、大きな影響が出ているようだ。このため、豊かな生活をする技術者やオリガルヒなどの富裕層は、ロシアから出ていくことになる。

この状況で、リトアニアは、カリーニングラードへの鉄道貨車便の通過を禁止したが、これに対して、ロシアのニコライ・パトルシェフ安保会議議長が、リトアニアに対抗処置を取ると警告した。

しかし、ロ軍は、ウクライナ侵攻で手一杯であり、かつ、リトアニアはNATO加盟国でもあり、ロ軍がリトアニアに手を出すと、NATO対ロシアの戦いに発展する。これは第3次世界大戦になるので、できない。

カリーニングラードには、ロシア・バルチック艦隊基地があり、大きな制約を受けることになる。バルト海の勢力図が大きく変わることになる。

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この事態をベラルーシのルカシェンコ大統領は「リトアニアによるカリーニングラード州の封鎖は事実上の宣戦布告である」として、リトアニアに対する防備に集中しないといけないのでウクライナには出兵できないとプーチンに言っているようだ。ロシアの同盟国ベラルーシも大変だ。ウクライナ国境には大量の木製の戦車を置いて、いつでも攻撃が出ることを見せつけている。

反対に、ウクライナとしても心配な事態が起きている。フランスのマクロン大統領など西欧諸国は、ウクライナがロシアとの交渉につくため、ウクライナをEU加盟候補国にした。まだ、マクロンの「プーチン氏に屈辱を与えてはならない」という言葉が生きている。

フランスの選挙でマクロンの与党は過半数を取れずに、野党の主張に配慮する必要が出ている。イタリアでは、与党ポピュリスト政党「五つ星運動」が親ロ派と反ロ派で分裂したが、西欧諸国の足の乱れが顕在化してきている。米国も同様であり、共和党内でトランプ派が力を持ち始めている。

英国でも過去30年間で最大規模の鉄道ストライキが起き、インフレへの対応が、世界各国で国民の不満の原因になっている。この大きな原因がエネルギーと食糧不足であり、ウクライナの小麦やロシアの小麦、天然ガスと石油の依存度が高いことによる。

この中、ドイツのショルツ首相は、ウクライナ復興に第2次大戦後の「マーシャルプラン」と同様の大規模な資金援助が必要であり、「何世代にもわたる課題」になるとしたが、ドイツが中心で進めるようであり、ドイツが欧州の主役として出てきた。どちらにしても、停戦の条件をウクライナと詰めることになりそうである。同時に戦闘が続く間は、ウクライナを支えるという。

もう1つ、ロシアからの天然ガス供給をなくすというロシアの警告に、西欧諸国は、慌てている。ドイツのハーベック経済相はロシアとのガスパイプライン「ノルドストリーム1」について、7月予定の点検後に稼働を再開するかは確信が持てないとしたが、ロシアは保守部品がないことを理由にする可能性がある。

これに対して、ドイツは石炭火力発電所廃止の延期などで天然ガス供給停止の事態に備える。

もう1つ、ドイツのショルツ首相は、欧州はロシアからの化石燃料輸入への依存解消を加速させるとして、ノルドストリーム2でLNG運搬船から天然ガスを引き込めるように改造するという。LNGシフトに舵を切った。

このため、6月26日から始まるG7首脳会談で、米国LNGを中国が買わない分を欧州に回して需要を賄うが、足りない分として、欧州は日本・韓国に中東からの天然ガスの一部を譲ってほしいと依頼される可能性がある。どちらにしても、早急に対応を取る必要は出てきたようだ。

欧州諸国がウクライナ支援を続けられるか否かは、冬に向けて天然ガスの備蓄を積み上げられるかにかかっている。このため、日本も応分の負担を受けるしかない。そして、日本は原発を再稼働して、来年の冬を乗り切ることである。それしか、ウクライナ防衛戦争を支援する方法がない。欧米日のような民主国は、国民の不満があると、政策を変えるしかなくなるからだ。

ロシアは天然ガスや石油設備のメンテができずに、減った天然ガスを中国に優先的に供給するようである。石油はインドと中国に優先的に供給することになる。

しかし、国際金融取引SWIFTへのアクセス禁止の制裁処置で、中印以外のBRICS諸国との貿易が正常にできないので、プーチンは、西側諸国が「金融メカニズムを利用」し、「自国でのマクロ経済政策における過ちを全世界に転嫁している」と批判しているので、ロシアの石油輸出に支障がでているのであろう。

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このような事態であり、新興5カ国(BRICS)の会議でも、習近平やプーチンが欧米の経済制裁は世界経済の発展を妨げているという。ロシアがウクライナへの侵攻を止めればよいのに、それは言わない。さらに、「ロシアとウクライナ間の対話を支持する」方針を示したが、戦闘終結に向けた道筋の提示しなかった。

ロシアはルハンスク州の制圧で一応の目標は達したことになり、停戦の方向に舵を切る必要がある。このため、BRICS諸国も巻き込み、停戦協議をウクライナに要求していくことになる。

そして、早期に停戦ができないと、戦争継続で全縦深攻撃への対抗処置を取り、近代兵器を持つウクライナに負けるために、プーチンからFSBのボルトニコフ氏に替え、国内の混乱を抑えつつ敗戦を迎えて、民主派のナワリヌイ氏に代えるしかないと、ロシア政府内部では話をしているようである。どちらにしても、ロシアに勝ち目はない。

このため、中国も親ロ派の楽玉成外交部常務副部長を左遷して、ウクライナと話ができる環境を整えて、停戦交渉を促進したいようである。このまま、同盟国のロシアが戦争を継続すると、最終的には負けるとみているからである。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2022年6月27日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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