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ホンマでっか池田教授が指摘。露呈したEU「エネルギー政策」の嘘

ロシアからのエネルギー調達が難しくなったドイツが、石炭火力発電所の再稼働を発表。「SDGs」のお題目の下、EUとイギリスが主導してきたCO2削減の流れに綻びが生じ始めました。そもそも「SDGs」は、化石燃料に乏しいEUとイギリスがエネルギー大国への対抗策として流行らせた“いかがわしいもの”と指摘するのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみ、生物学者の池田清彦教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、SDGsもCO2削減も崇高な理念などではないことをドイツの方針転換が証明しているとし、今後のエネルギー戦略の行方を論じています。

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ウクライナ紛争後のEUのエネルギー戦略の行方

少し前に『SDGsの大嘘』と題する本を出版した。発売1か月で発行部数が3万2千部に達したので、拙著としては結構売れている方で嬉しい。2時間もあれば読めるので、是非紐解いてほしい(まあ紐で縛ってあるわけじゃないけどね。昔は、本は貴重品で、普段は帙{ちつ}という覆いで保護してあって、読むときにはこれを解いたのだ)。一番大事な論点は、SDGsといういかがわしいお題目を流行らせたのはヨーロッパ(EUとイギリス)の政治経済的な戦略だということだ。

ヨーロッパは化石燃料の埋蔵量が少なく、世界中で、化石燃料を自由に使っているうちは、化石燃料を沢山埋蔵している国に対して経済的に勝ち目が薄い。石炭の可採埋蔵量は、2018年の統計では、アメリカが一番多く(全世界の23.7%)、ロシア(15.2%)、オーストラリア(14.0%)、中国(13.2%)、インド(9.6%)と続き、インドネシア(3.5%)、ドイツ(3.4%)、ウクライナ(3.3%)である。ヨーロッパの中ではドイツの埋蔵量が比較的多い。

石油はどうかと言うと、同じく2018年の統計で、中東(48.3%)、ベネズエラ(17.5%)、北米(13.5%)、ロシア(6.1%)と続き、ヨーロッパは0.8%である。天然ガスの埋蔵量はロシア、イラン、カタール、トルクメニスタン、アメリカ、サウジアラビアと続き、ヨーロッパの埋蔵量は少ない。

また最近話題になっている、シェールガス、オイルに関しても、シェールガスの可採埋蔵量は上位から、中国、アルゼンチン、アルジェリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、オーストラリア、南アフリカ、ロシア、ブラジルがトップ10。シェールオイルはロシア、アメリカ、中国、アルゼンチン、リビア、ベネズエラ、メキシコ、パキスタン、カナダ、インドネシアがトップ10である。

ここから分かるように、ヨーロッパは化石燃料が乏しく、化石燃料が豊富な、北米、ロシア、中国、オーストラリアなどのエネルギー大国と、エネルギーの供給において見劣りするのは避けられないのである。

そこで、化石燃料は地球温暖化の元凶だという理屈を振りかざし、化石燃料をエネルギーの供給源から締め出してしまえば、エネルギーの調達に関し、ヨーロッパは他の大国と、この点に関しては対等な立場に立つことができる。それがSDGsの裏の本音である。というわけで、再生可能エネルギーに力点を移し、徐々に化石燃料を締め出す政策を、国連などの働きかけて進めようとしていたわけだ。

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EUの盟主的存在であるドイツとフランスではエネルギー政策が全く違っているが、化石燃料を締め出そうという点では軌を一にしていた。2021年の上半期のドイツの発電量の割合は再生可能エネルギー47.9%(風力23.4%、太陽光11.2%、バイオマス8.9%、水力4.4%)、石炭26.3%、原子力12.8%、ガス火力12.2%である。一方、フランスは原子力77.7%、火力5.0%、水力12.6%、風力3.1%で、ほぼ原子力に頼っている。

その結果、少し古いが2016年の統計では、フランスは一人当たりのCO2排出量も年間約4.4トンと、OECD加盟国の平均の7.6トンよりずっと少ない。一方ドイツは再生可能エネルギーを進めているにもかかわらず8.9トンと、日本の約9.0トンとさして変わりはない(ちなみにアメリカは14.9トン、中国は7.1トン)。ドイツの冬は寒いので、ロシアからの天然ガスを家庭用の暖房に使っているので、CO2が出るのは分かるとして、それと同時に再生可能エネルギーのインフラ整備の際にCO2が沢山出るのだろう。

そうやって、ヨーロッパ諸国は着々と化石燃料の締め出しを画策していたのだが、2022年2月24日に勃発したウクライナ紛争によって、状況は全く変わってしまったのである。特にロシアから天然ガスを大量に輸入していたドイツは紛争によってロシアからの天然ガスの供給が止まると死活問題なので、ここに来てなりふり構わず、エネルギー確保に奔走しているようだ。

この先、紛争が長引けば、ロシアからの天然ガスや石油・石炭の供給が先細りするのは確実なので、とりあえず、できるだけたくさんの化石燃料をロシアから買っておこうと、紛争勃発後の100日間で、日本円にして2兆円近くの化石燃料をロシアから買ったのである。一方で、ウクライナを支援し、一方でロシアから燃料を買うことで、ロシアの戦費を賄っているという矛盾したことをしているわけだ。背に腹は代えられぬということだね。

EUはロシアからの石炭を2022年の8月から輸入禁止にした。もともと石炭火力はCO2を排出するということで、EUのエネルギー戦略からは廃止の方向で検討されていた。ところがエネルギー危機に直面しているドイツは、休止中の石炭火力発電所を再稼働すると発表した。これはCO2削減というEUの基本政策に対する反抗である。

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先に述べたようにSDGsというお題目の下にCO2を削減するというのは、EUの対世界戦略で、別に崇高な理念に基づいてやっているわけではないことがよく分かる話である。ロシアはウクライナの肩を持つEUへの対抗措置として天然ガスの供給を意図的に絞って、EUを兵糧攻めにしようとしているが、これに対抗するには原発、火力、再エネなどでの発電を推進するほかはない。

CO2の削減を政策に掲げている手前、普通に考えれば、火力発電の選択肢はなさそうに思える。フランスは、既存の原発が老朽化して発電能力が低下していることもあって、原発を最大14基新設して、脱炭素社会のトップランナーにならんと意気盛んである。フランスやドイツは地震が少なく、原発の設置はそれほど危険ではない。日本のように地震が頻発する国では、原発は危険極まりない装置である。地震の多い台湾やイタリアでも原発を最終的には廃止する方針を固めている。本題から外れるけれども、日本も原発は最終的には廃止した方が国の安全保障に資すると思う。

安全保障と言うと、戦争のことだけを考える人が多いと思うが、国民の命を守ることが、何であれ最も大事な安全保障であり、原発は戦争の時の標的にされるという危険性を割り引いても速やかに廃止した方が賢いと思う。それに、戦争は外交的な努力によって回避することができるが、地震は人間の努力によっては回避できない。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2022年7月8日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください、初月無料です)

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image by: Shutterstock.com

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