MAG2 NEWS MENU

真相解明の意思はあるか?東京高専の学生自死事件で発覚した第三者委の不誠実

2020年の10月に東京高専で起きた、当時3年生だった学生の自死事件。その原因が教員によるパワーハラスメントであったことは、以前掲載の記事「いじめ探偵がパワハラ教員を告発。東京高専の生徒を自殺に追い込んだ悪魔の所業」でもお伝えした通りですが、当事件を調査するために設置された第三者委員会でも大きな問題が発覚し、遺族の方々の不信感が増大しています。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、呆れ返らざるを得ない内実を詳しく報告。さらにこの件に限らず、教育現場における第三者委員会の機能的・根幹的な問題点を指摘するとともに、その改善を訴えています。

【関連】いじめ探偵がパワハラ教員を告発。東京高専の生徒を自殺に追い込んだ悪魔の所業

この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

東京高専パワハラ自死事件続報

7月4日に私のところにメッセージが来た。

明日7月5日は陽向の月命日、来週7月11日は陽向の誕生日です。時間は過ぎていきます…。

以前、「伝説の探偵」で第一報を出した、東京高専パワハラ自死事件のご遺族である野村さんからのメッセージだ。

本日は、野村さんの意向を得て、現状開催中の第三者委員会でおきた委員辞任劇を加えて、今何が起きているのかを報じることにする。

東京高専パワハラ自死事件の概要

【関連】いじめ探偵がパワハラ教員を告発。東京高専の生徒を自殺に追い込んだ悪魔の所業

野村陽向くんは、東京高専の1年生で学生会に立候補し、2年生から学生会の会長を務めるなど人望があり優秀な学生であった。人望の高さは折り紙付きで、2回目の会長選挙で当選し、学生会の会長に再任されている。

野村陽向くん

事件は2020年当時のことである。陽向君は東京高専3年生で、学生会の会長であった。

当時は新型コロナウイルス感染症の蔓延で、各イベントが中止決定をする中、陽向君は学園祭の開催の中止を申し入れた。理由は、十分な感染症対策を行うのが困難であり、感染者が出た場合の責任を取ることができないからであった。

当時は、消毒用のエタノールなどが売り場から消えて、マスクの入手すら困難であった時期だ。しかも、学生の中には受験期であったり、就活生もいるわけで、感染による機会損失など重大なリスクがあったわけだ。

通例、これは英断と評価されるべきであるが、1人の教員から、学生会の暴走で、信頼されなくなるぞなどの中傷を受けはじめ、立場を利用したパワハラ行為が相次いで起きた。

結果、陽向君は教員からのパワーハラスメントについて申し入れ書を作り、これを提出した。こうした申し入れは異例中の異例であり、当時の教員が謝罪をする形で取り下げて欲しいという学校側の要望を陽向君が受け入れて、取り下げることになったのだ。

しかし、取り下げても教員のポジションや立場は変わらないわけで、当然のごとく、この教員は陽向君への陰湿な攻撃を始めたわけだ。

そもそも学生会は陽向君が就任する以前から使途不明金などがあり、これは繰り越しで会計されていた。陽向君の時期にこの使途不明金などについての処理が進むが、元々の土台は弱いことは誰もが知っていることであった。

このパワハラ教員は、この会計処理に目をつけ、これまで行われてこなかった監査をする名目で、陽向君らの上級生を使って監査を厳しく始めたのだ。

このような監査の調査は、深夜に及ぶこともあった。特に、問題視しようとしていることも明白で、学生会がその業務で使うiPadなどを私用で使っているという疑いだ。

学生会の仕事を持ち帰ってやるためにiPadを持ち帰れば、それは私用に当たるとでもしたかったのであろう。

こうした不当な調査などを受け続け、確実に何らかの責任を負わせられるだろうと学生会のメンバーも確信していたに違いない。

責任感が特に強い陽向君は、板挟みになるような形で精神的に追い込まれていき、2020年10月5日に自死してしまったのである。

この事件を受け、東京高専の設置者に当たる「高専機構」は、第三者委員会の設置を決めた。

この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

あまりに短い調査期間

第三者委員会の設置までには紆余曲折あり、設置までも難航した。

今もそうだが、当時はコロナ禍の真っただ中で、世の中も混迷していた。移動の制限や働き方の変革など、委員の推薦なども時間と手間が異常にかかっている様子であった。

なかなか委員が決まらず、時間だけが過ぎていった。

2021年8月8日やっと第三者委員会の第1回目が開催されることになる。

しかし、ご遺族である野村さんによれば、問題点はいくつもあるが、大きな問題があったということであった。

それは、以下のとおりだ。

第三者委員会の期間を、2021.8.7~2022.3.31として、高専機構がHPに2021.8.17に公表。

 

短すぎると抗議し高専機構と協議したが、対応した〇〇参事が遺族側の案は飲めないと拒否され、その後、〇〇参事は〇×高専に異動。大島商船の第三者委員会でも、3年掛かっているのに、本件は8ヶ月で報告書が出るといい、早期解決を謳い、衆人環視から背けたい意向があったと考えている。高専機構が設置者として第三者委員会を設置したのは、息子の自死の件が初めて。

 

(ご遺族談)

第三者委員会開催について、調査期間を半年程度1年未満で設定してくる設置者(設置者は学校の設置者)は確かに多い。

しかし、それ以上に期間を要する場合は多くあり、期間の設定は不十分な調査結果を招く場合がある事はよく指摘されている。

委員の退任劇

職能団体などから実績ある専門家を慎重に選任していったはずの第三者委員会の委員選任であったが、2022年に入り、とんでもないことが発覚する。

それは、委員の1人が前任の学校長と新任の学校長と面識があり、中立公平が担保できないという理由で、辞任したのだ。

確かに際立って懇意にしていた間柄ではなく、委員自体も記憶になかったという理由は一定の理解はできるが、遺族にとっては、強い疑念を生じることになった。

委員の選任過程は他の委員会を比較しても、かなり厳重にしていたという印象がある。

勝手に委員を決めて進めてしまうなどのそこらのいい加減な教育委員会では、委員の選任について保護者に口出しさせないというケースが目立つが、この委員会の場合は、ご遺族との面会を設けていたりする。

それでも、委員が調査を進め内に、経歴上での一致点などが見つかって、よく確認していけば、面識があったとなったわけだ。

結果、第三者委員会からこの委員は辞任し、代わりの委員の選任が行われることになったのだ。

この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

教育機関などの第三者委員会の問題

学校でのトラブルは、その校種によって様々であるが、大きくは、「学校」か「学校の設置者」が第三者委員会を設置する。

学校の設置者とは、公立校であれば管轄の教育委員会、私学であれば学校法人、高専であれば国立高専機構である。

しかし、いじめやアカデミックハラスメント、パワーハラスメントなどの問題では、保護者や被害者が学校や学校の設置者に相談しているケースが多く見受けられ、第三者委員会の機能としては、その学校、その学校の設置者に対応についての問題を調査することになって、結果、第三者委員会の設置者が調査対象ということもある。

一方で、第三者委員会の設置の窓口であった学校の設置者の幹部が人事異動で他の学校に移動することもある事をみれば、学校と学校の設置者に明確な組織差はなく、ほぼ同一の組織を構成する者であるとも言える。

第三者委員会においては企業の不祥事などではかなりの効果を発揮しているが、ここには、取締役、従業員の他、株主などもいて、ステークホルダー同士の力の均衡や利害関係の均衡など様々な要因があって、中立公平な委員会の実現が可能になると言われている。

しかし、上のように学校と学校の設置者は大きくは同一組織であると言え、調査対象が第三者委員会の設置者になることも多数の事例があることから、真に中立公平な調査が行われているかを、被害者やご遺族という個人がチェックしていかなければならないという機能的、根幹的な問題点があるのだ。

また、多くの第三者委員会の委員報酬は極めて低額であり、専門家である弁護士さんや大学教授はほぼボランティアに近い状態で大量の資料や長時間拘束がある仕事をする事になる。

当然に、専門家は空気を食べてカロリーにするとか、葉っぱを紙幣に変えるという妖術を使えるわけはなく、本業もあるために、日程調整が難しく、そればかりを受けることはできないのである。

つまり、それ専門でそれで飯を食っているいる状態にはならない割に、高い専門性が求められ、さらに報酬はあるとはいっても小僧の小遣い程度なわけだ。

こうした第三者委員会の問題は何度も取り上げている。実際、この問題は専門家界隈では周知の事実になっているが、改善案が出ても検討で立ち消えている。

どの地域でもどの校種や組織体でも、第三者委員会の問題起きているのだから、それこそ、こども家庭庁なり、文科省なりで、学校に関連する問題についての専門家のリストストックをしておき、各問題の解消のために委員会を派遣するなど具体的な策を、何よりも早く施行してもらいたいところだ。

最後に、野村さんは私に、「もしも陽向が生きていれば、7月11日で二十歳になって、親父と息子で一杯やりたかった。」と話してくれました。

父にとって、我が子が二十歳になったら、大人同士として一杯やりたいねというのは、きっとどの親も思うことだと思います。

読者の皆様にも、ほんの少しの時間だけでも、本件のご遺族の思いや陽向君のことを考えてもらえたらと思います。

編集後記

改めて、私は今現在、命の現場にいます。

月命日はなるべく故人を思い、祈るようにしていますが、月の3分の2がそういう時間があるようになっています。

誰かの苦しみやその真実を背負うということは、誰かがやらなければならない重責であるとは思いますが、ここまでたくさんの重責を自分が負うとは思ってもみませんでした。

あるカウンセラーが、自分のケアを何よりも先にやりなさいとアドバイスしてくれましたが、きっと彼にはあの時、私がどういう役割になっていくのか予想ができたのかもしれませんね。

色々が重なり、心が重たいですが、7月11日、野村陽向君の二十歳の誕生日には、早めに帰宅して、普段はほとんど飲まないお酒でも飲んでみようかと思います。

この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 阿部泰尚メルマガ「伝説の探偵」 』

【著者】 阿部泰尚 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 9日・23日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け