例年以上の酷暑が続く中にあって、政府により節電要請が出されるほど切迫した状況にある電力不足。原発の再稼働に解決を求める声もありますが、そもそもなぜここまでの電力需要逼迫を見ることになってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』では著者でジャーナリストの伊東森さんが、その原因として我が国のエネルギーシステムの問題点や日本の住宅事情を指摘。さらに原発を「欠陥品」とし、その再稼働に異を唱えています。
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
全国で電力需給がひっ迫 原発再稼働は必要か?求められる分散型電源と再生可能エネルギー 残念な日本の住宅 核燃料も結局は「ロシア頼み」という現実
政府は6月7日、7年ぶりに全国規模での節電協力要請を行うことを決めた。
対象となる季節は、夏と今冬。とくに厳しいエネルギー需給が予想される冬には、数値目標の設定や電力使用制限令の発出、あるいは、万が一に備えた場合の準備も検討されている。
節電要請は、2011年の東日本大震災から2015年までの冬の需要期に行われていた。しかし、近年では太陽光発電の普及や一部の原発再稼働により電力の供給を増やすことができたことから、要請は出されていなかった。
ただ、昨今の社会情勢の変化により、電力需給が再び逼迫。再び、節電要請が出されることになったのだ。
一応、政府はさまざま対策を取っては来た。たとえば、2015年には電力広域的運営推進機関が設立されている。
これは、2011年の東日本大震災時、東日本と西日本の周波数の違いから電力の融通ができなかった教訓から、全国規模での電力を融通可能とする組織だ。
一方、さまざまな点で、「原発再稼働やむなし」との声は上がる。しかしながら、日本はエネルギー供給において、近代化が遅れている。具体的には、再生可能エネルギーと分散型電源の仕組みが取られていない。
また、住宅の近代化も遅れ、相変わらず、「夏は暑く、冬は寒くなりやすい」建築物を生み続けている。
目次
- 普及しない分散型電源と再生可能エネルギー
- 「夏は暑くて、冬は寒い」日本の住宅の非近代性
- 原発の再稼働は必要か? 核燃料もロシアに依存 「トイレなきマンション」状態は変わらず
普及しない分散型電源と再生可能エネルギー
そもそも、今回の今回の電力需給の逼迫以前に、日本のエネルギーシステムの課題は指摘されていた。
2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、北海道全域で国内初の全域停電である「ブラックアウト」を引き起こす。このことは、日本のエネルギーシステムが「一極集中型」であったために起こった。
エネルギーの安定供給のためには、従来のような大規模な発電所から「一方向的に」電力を供給する一極集中型のエネルギーシステムだけでは限界がある。その対応策として、考えられているが、「分散型電源」だ。
他方、日本ではいまだ再生可能エネルギーの普及も十分とはいえない。再生可能エネルギーによる発電の比率は、2020年には欧州やアメリカのカリフォルニア州などで40%を超えた(*1)。その原動力となったのは、主に風力と太陽光発電。
小規模な再生可能エネルギーを各地に設置し、分散的に組み合わせる。これが、分散型電源のシステムだ。ただ、日本では相変わらず、既得権益が守られているため、同じことができないでいる。
とくに風力発電は、発電のコストが安く夜間も動くため、原発や石炭火力と競合する。そのため、大手の電力会社は、風力発電を急に導入すると、経営基盤が揺らぐと考えているという。
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「夏は暑くて、冬は寒い」日本の住宅の非近代性
「夏は暑くて、冬は寒い」という日本の住宅も問題。残念ならが、日本の住宅のレベルはとても低い。ヨーロッパとは比べものにならないほど低く、アジアの中でも韓国や中国と比べても低い水準だ。
その原因は、日本の住宅の断熱性や気密性が低いため(*2)。
つまり、「大量の熱が逃げたり、侵入したりする」ので、壁や床、天井の断熱性が低いばかりではなく、建物に隙間が多く気密性が低いため、外の冷気や熱気は入りやすい。
日本の住宅の窓の構造も問題であるという(*3)。実は、「暑さの7割、寒さの5割」は窓が原因だそうだ。その要因は、日本で当たり前のように普及しているアルミサッシと単板ガラスの窓。
とくにアルミサッシの熱伝導は問題がある。海外ではアルミサッシの代わりに断熱性の高い木製のサッシや樹脂サッシが広く普及。樹脂の熱伝導率は、アルミの約1/1,000。日本の樹脂サッシ普及率は約22%だが、環境大国ドイツでは約58%だ。
また国が定める住宅の省エネルギー基準が、常に「時代遅れ」のままになっていることも大きな問題があるという。
原発の再稼働は必要か?核燃料もロシアに依存 「トイレなきマンション」状態は変わらず
一方、政財界では「原発再稼働」を求める声が政財界で上がっている。しかし、原発の再稼働は安全保障の面からみても進めるべきではない。
そもそも、このウクライナ危機によって、「原発の非安全性」というものが再び、顕著となった。
ウクライナ戦争では、史上初めて、原発が戦場となった(*4)。
「暗闇の中を激しい閃光(せんこう)が飛び交い、煙が立ち上った――。」(毎日新聞デジタル、2022年3月4日)
ウクライナ南東部のザポロジエ原発がロシアによる攻撃を受けた。そもそも、現実に稼働中に原発への軍事侵攻は、過去にも例がない。
原発を動かすための核燃料が、「ロシア頼み」という現実も。EU統計局によると、EUは天然ウランの約2割をロシアからの輸入に頼る。
ウランは主流の軽水炉で使用するために濃縮するが、ロシアは濃縮ウランの生産でも世界の4割を占める(*5)。
稼働するにしても、「トイレなきマンション」といわれる原発の欠点はいまだ解消されぬまま。実際に「トイレがないマンション」は欠陥品なので、それと同様、原発も欠陥品であることは間違いない。
■引用・参考文献
(*1)妹尾聡太「再生エネルギー発電、日本が伸び悩む理由は?」東京新聞 2021年3月9日
(*2) 「断熱&気密 大解剖[第4回]家がこんなに寒くて暑いのは、先進国では日本だけ」住み人オンライン
(*3)「「夏は暑くて冬は寒い家」3つの改善方法とは? 建築家に相談してみた」HUFFPOST 2021年5月27日
(*4)前谷宏、鳥井真平、八田浩輔、吉田卓矢「原発が戦場 史上初、稼働中に攻撃 世界激震 『安全の根本揺らぐ』」毎日新聞デジタル 2022年3月5日
(*5)「欧州、核燃料もロシア依存 原発再評価に課題」時事ドットコムニュース 2022年4月24日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年7月10日号より一部抜粋)
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