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ジンソーダ飲み放題が無料の衝撃。それでも儲かるマグロ料理店のからくり

新鮮なマグロ料理がお手頃価格で味わえる上に、流行りのジンソーダが卓上サーバーで飲み放題無料という、消費者にとって夢のような飲食店が快進撃を見せているのをご存知でしょうか。今回、会計時にあまりの安さにお客が驚くというその繁盛店を取り上げているのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは店舗運営会社代表取締役へのインタビューを通して、最高級クロマグロを提供しながらドリンク飲み放題無料でも儲けが出る仕組みと、彼らが果たしている「大きな地域貢献」を紹介しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

「ジンソーダ無料・飲み放題」で儲かるマグロ料理店のからくりと地域貢献経営とは

日本一長い商店街、大阪・北区の天神橋筋商店街は北から南まで2.6㎞。大阪の中心部、梅田からJRで一駅離れた隣町でありながら、近代的な梅田の光景とは真逆の下町の風情が漂う。

この商店街に5月10日「鮪酒場 まぐろじん」という居酒屋がオープンした。メニューの特徴はフードがマグロの希少部位を使用していること。店頭には「本日の希少部位入荷しました!」と看板が掲げられ「肝(キモ)、白子、ほほ肉」とある。ドリンクはいまサントリーが強く推しているジンの「翆」(すい)の強炭酸ソーダ割を卓上サーバーから飲み放題で注いで、それを“無料”にしていること。こんなことで利益が出るのだろうか。

平日16時開店(土日祝は12時開店)から常に満席状態の「鮪酒場 まぐろじん」。1分もかからない距離に「新鮮組 まぐろ屋」が営業している

デザインはGCの内製。「外国人に受ける和風」ということで「花札」をモチーフにしている

細長い物件を細長いコの字型のカウンターで構成し、作業効率を高めている

この店をオープンした背景と同店の儲けの仕組みについて、同店を経営する有限会社GC代表取締役の石原義明氏に伺った。

テーブルに備え付けてあるサーバーからジンソーダを注ぐGC代表の石原義明氏

長崎の産品で「マグロ」の可能性に着眼

石原氏は1982年11月生まれ、長崎県出身。空手に打ち込みK-1の選手に憧れ、26歳でK-1にスカウトされ大阪に移る。K-1の活動を続けながら28歳の時に飲食業の会社を設立、2015年に父の事業を引き継ぐことになり、飲食店をすべて当時の店長に譲渡。自分は長崎に戻り、飲食事業をテコ入れするなど事業を再構築した。ここからヒット業態が生まれていく。コロナ禍の2020年11月大阪にオープンした「レモホル酒場」が大ヒットしてチェーン展開を進めていく。「レモホル酒場」は卓上サーバーでサワー飲み放題・ホルモン食べ放題という業態。客単価3,000円で主に20代30代のファンが多い。

その石原氏に、昨年の暮れ、長崎県からオファーがあった。それは、同社が長崎および九州で展開している「レモホル酒場」をはじめ、同社の飲食店のことを「ブランディングが上手い」とかねがね長崎県が注目していたという。調べていくと、ここの会社の社長は長崎出身だという。そこで石原氏は「お宅の会社で長崎の産品を売ってほしい」と長崎県から依頼をされた。

これらの産品はカタログになっていて、これらの中で「マグロが売れるのではないか」と石原氏は考えた。海外の特に中国のお客はマグロを好む。インバウンドが戻ってきたら、この業態は確実にヒットするだろうと。

長崎県の担当者の話では、「離島振興法」の補助金が国からたくさん出ているが、それをうまく使いこなせていないという。「離島振興法」とは、人口減少が継続し、高齢化が急速に進展している離島の人々の生活の安定と福祉の向上を図るためのもの。そこで、補助金を活用することで雇用促進が進むことが期待されている。

離島振興法を活用すれば、産品を届けるための送料に補助金が出て、送料を下げることが可能となり対馬のマグロを大都市で売ることができる。対馬のマグロは養殖のクロマグロで、大都市での販売ルートができると、養殖業者は事業を大きくして、雇用を増やすことができる。市場では「長崎県産のクロマグロ」という商品力で戦うことができる。

そこで石原氏は「マグロ専門店」をつくろうと考えた。

コロナ禍にあって、天神橋筋商店街でも物件が出るようになった。GCではここに13坪と82坪の物件を確保した。小さい方の物件では2月19日にファストフード系のマグロ専門店「新鮮組まぐろ屋」をオープンした。この店はカウンター12席でオープン初日に400食を販売するという大繁盛店となった。その後、長崎市内、京都・四条烏丸、大阪・梅田、東京・新橋と展開していく。客席4~8席の軽装備なフォーマットで、テイクアウト販売も期待されている。商品はマグロ丼で部位によって価格が変わるが中心価格帯は1,500円あたり。

最も繁盛しているのが京都・四条烏丸の店舗、6席の店舗で6月17日のオープン初日に210人が来店した。いまも一日20万円程度を販売している。

マグロの内臓が「希少部位」として人気

今年の1月、石原氏は対馬のクロマグロの養殖場を訪ねた。漁師さんは船上でマグロの解体を行ったが内臓を次々と海に捨てた。石原氏は「それは食べられないものか」と尋ねたところ、「漁師の中で好きな人は食べる。ただし、掃除をしたり調理をするのはすごく面倒だ」という。捨てているので市場には出回らない。しかし、その捨てられる内臓に興味を抱いた石原氏は後日店に届けてくれるようにお願いした。

長崎・対馬のクロマグロの養殖場。「新鮮組 まぐろ屋」から進展した「鮪酒場 まぐろじん」の発想は現地でひらめいた

店にマグロの内臓が届いて、早速試食会を開催。しかしながら、「お先にどうぞ」と言っても進んで箸を出す人がいない。おそるおそる食べてみると、これがまた絶妙な食味であった。特に白子は絶品。そこでこれらを「希少部位」として売ろうと考えた。

「白子ポン酢」780円(税抜)。「白子の天ぷら」も同額でラインアップ

業態開発のパートナーであるサントリーの担当者はGCの新業態で「翆」を推して売りたいという。同社では「レモホル酒場」でサワーを卓上サーバーで飲み放題にしている経験から、「翆」のジンソーダをこの売り方にしようと考えた。しかし、これが90分500円で飲み放題(税別、以下同)のままでは新鮮味がないと考えて、思い切って「75分飲み放題無料」にした。「75分で飲み放題終了」と区切るのではなく、75分になったらお客に「〆の一杯いかがですか」と声をかける。お客にとっても時間に縛られている感覚が緩くなって好感を抱かれるようだ。客単価は現状2,000円程度。お客は会計の時にみなびっくりしているという。

ちなみにメーカーからの協賛は一切ない。卓上サーバー関連に400万円がかかったが、これも同社で負担した。

フードは、マグロの場合、赤身よりも希少部位がよく売れている。一番人気は「対馬まぐろ希少部位3種食べ比べ」880円、試食会で絶賛された「白子ポン酢」は780円。マグロ関連以外では、「まぐろじんだし巻」490円、「和風フライドポテト」390円という具合に、原価率が低いものがよく売れている。

「対馬まぐろ希少部位3種盛り」880円

とは言え、飲み放題のお酒が無料で客単価2,000円。これで利益は出るのだろうか。

「宴会が取れない時代」80坪に二業態

そこで利益が出るからくりは、GCが「新鮮組まぐろ屋」(以下、まぐろ屋)、と「鮪酒場まぐろじん」(以下、まぐろじん)を同時に営んでいるということから可能になっている。

「まぐろ屋」はマグロの赤身だけを使用したファストフード系の業態。「まぐろじん」はそもそも捨てられていた希少部位(=内臓)を使用し、一般の居酒屋メニューも入れている酒場業態。二つの業態によっていわばマグロの「一本買い」を行っている。「まぐろ屋」で赤身を大量に使用することに連れて、内臓も大量に送られてくるようになる。内臓の掃除は面倒なことと前述したが、赤身を大量に使用してくれるから、現地の生産者は喜んで内臓の掃除を行ない、送り届けてくれる。

そこで「まぐろ屋」は原価率65%、「まぐろじん」は41%となっている。赤身と内臓をセットで使用することでこのメリットが生まれることから、出店は二つの業態がセットになっていることでより効率的になる。6月3日東京・新橋に「まぐろ屋」をオープンしているが、同じ新橋に8月ごろ「まぐろじん」をオープンする。

さらに、天神橋筋商店街の「まぐろじん」は80坪という細長い物件の中にあって、「モツトキャベツ」という業態とシェアしている。

石原氏はこう語る。

「これからの時代は宴会が取れないということで、まず宴会に頼らない業態を考えた。しかしながら、80坪を1つの業態で営業するのはヘビーではないかと。幸いにも、この物件には入口が二カ所、商店街側とその反対側にもあって、この二カ所からお客様を取り込むことができる。だから、別々の店の営業が可能となる。店の中で二つの店がキッチンとトイレを共有することで、さらに効率は高まる」

「まぐろじん」の業態が出来上がり、もう一つの店舗はホルモン焼肉の「レモホル酒場」にしようと考えたが、煙が出る業態はできないということで、以前から構想を温めていたちりとり鍋の店にした。深さのある鉄板で牛肉と野菜をお客が煮る業態。こちらは「レモホル酒場」を担当しているアサヒビールの発案で、卓上タワーはサワーとハイボールの二連にしている。は90分飲み放題で500円。店内は“韓流”の世界観のPOPな雰囲気にしている。

「まぐろじん」と「モツトキャベツ」は見事に客層が異なっている。「まぐろじん」は老若男女で意外にもお客同士で静かに会話を楽しんでいる。「モツトキャベツ」はほとんどが20代女性。

「鮪酒場まぐろじん」とスペースを共有する「モツトキャベツ」の客層は20代女性がほとんど

「まぐろじん」は44席、「モツトキャベツ」は36席の規模、この二つの店で構成されている事業所は、オープン2カ月が経過していま一日5回転近くしている。「社内的には日商100万円を目指そうという状況」(石原氏)にあるという。

コロナ禍にあって、マグロ生産者を支援するというスタンスで取り組んだ新事業が、ほかが真似ることが難しい仕組みをつくり上げ高収益の体質をもたらしている。まさに奇跡の飲食ビジネスと言えるだろう。

image by: 千葉哲幸
協力:有限会社GC

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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