2013年9月に施行されたものの、守られなかった場合の罰則・処罰規定がないためその改正が待たれているいじめ防止対策推進法。しかしその流れは「改悪」へと向かっている可能性が高いようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、いじめ防止法が被害者置き去りのまま骨抜きの方向に流れつつある状況を告発。その迷走ぶりを強く批判しています。
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この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ
改悪の可能性が極めて高い、骨抜き「いじめ法改正」
被害団体や遺族会の界隈では、いまだ「いじめ防止対策推進法(以下「いじめ法」という)の改正の機運は感じられないが、永田町界隈、霞が関界隈と呼んだ方が良いだろう、こうした界隈では「いじめ法の改正」についてがささやかれ始めている。
ただし、その改正は改悪の可能性が極めて高い視点であるのだ。
2019年、いじめ法の改正時期に行われた有識者や遺族会、議連との勉強会や会議により、いじめ法改正のたたき台が作られていた。
ここには、いじめ自死などの問題も話し合われ、いわゆる「罰則の強化」などが盛り込まれていた。
このままいけば、いじめ法施行から問題が指摘されていた部分が大幅に改善できるという期待は多くの活動団体が抱けるほどの改正たたき台ができていたのだ。
しかし、当時の座長が、全てを骨抜きにする「座長試案」を出したのだ。当時、座長試案の説明を聞いた記者らには、試案段階だから外には出さぬようにというかん口令まで敷かれたという。
詳しくは過去の「伝説の探偵」を読んでもらいたい。
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いじめ防止基本方針の変化
「どうやら次のいじめ法改正は骨抜きになるらしい」
その表れなのか、様々な学校が設置している「いじめ防止基本方針」に変化が生じているのだ。
いじめ防止基本方針とは、いじめ法によって各校や自治体などが、いじめの予防や起きた場合の対応、生命の危機などの重大事態が起きた場合の対応などを個々に示すために作られるもので、ある意味、学校などのいじめ対応マニュアルの基礎と言えるものだ。
これを自治体や教育委員会など作り、学校の各校作って、設置することになっており、ほぼ100%の学校が、「いじめ防止基本方針」を設置し、原則公開でホームページにリンクを貼って公開していたりする。
文科省は「いじめの防止等のための基本的な方針」という58頁にも及ぶガイドラインを作成し、ホームページで公開しているが、全ての項目がいじめ対応においては重要なことであり、およそこうしたガイドラインに沿って作れば、各校の「いじめ防止基本方針」は5-10頁は必要になるであろう。
ただし、ガイドラインから逸脱していても何らのお咎めはないわけで、そもそも当初から感度の低い私立校などでは、1頁わずが15行しかないというのも確かにあった。
ほとんどの公立校は、文科省のガイドライン通りに作っており、コピペも目立ったが、一定のルールを、表面上でも当初は守っているように思えた。
しかし、2021年ごろから様子がずいぶん変わってきたことに私は気づいた。
以前対応した学校の「いじめ防止基本方針」が大幅にカットされ、5頁から2頁になっていたのだ。
思わず、以前とずいぶん変わりましたね。と聞いてしまうほどであったが、校長は「自分で作った無理なルールに縛られることになるので」と説明していた。
つまり、文科省がいじめ法に則って作ったガイドラインの通りだと、そもそも「いじめ防止基本方針」がある事をアナウンスしていなかった頃は、保護者も生徒も、「いじめ防止基本方針」を知らないから、問題となることもなかったが、いざ、問題になると、自分で作ったルールが自分の首を絞める形となり、「不作為」であることが明白になってしまうため、大幅にカットしたというわけだ。
「これは生徒の命を守るため、安全な学校生活を送るためのルールですから、生徒のためのものです」
とは言ってみたのものの「はじめて言われました」というほど、驚く校長にこちらが驚く始末であった。
実際、様々な事案で関係者に確認してみると、本来記載しなければならない「重大事態いじめ」についてが全面的にカットされていたという話も耳に入ってくる。
すでに現場レベルで、こうしたルール作りから歪みが生じてきていることは明らかであろう。
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一方、永田町霞が関界隈はどうか
ささやかれている内容は、いわゆる骨抜きになる内容ばかりだ。
例えば、第三者委員会の設置については大いに現行法でも問題が生じている。いじめ問題で第三者委員会が設置となるいうのは、生命の危機や財物についての損害など犯罪行為も伴う「重大事態いじめ」に対するものなど、社会問題にもなるいじめ問題ばかりだ。
こうした酷い事案では、学校の対応や教育委員会の対応、学校の設置者にあたる学校法人の対応など、いじめ当事者以外の問題も調査対象になるケースがほとんどだ。
しかし、第三者委員会の設置権限は、学校の設置者にあるので、公立校であれば教育委員会、私立ならば、学校法人となるが、この教育委員会などが設置権限を持ちつつ、一方で、その対応が調査対象となるわけだ。
調査対象が設置権限をも持つこと自体違和感を覚えるだろう。
こうした問題を孕むから、第三者委員会の設置は中立公平、専門性や独立性をしっかり担保した委員会を設置すべきであるが、被害者やご遺族に無断で第三者委員会を設置してしまったり、答えありきで委員会を進めてしまう事例が相次いで起きている。
もしも、ここで第三者委員会が「いじめとは認められない」としたり、「いじめと不登校に因果関係はない」などを出してしまえば、次は再調査を求めるといういじめ法の道筋はあるが、公立校の問題だと、こうした設置は税金から賄われることになるから、「ゴネている親」のせいで予算が削られるではないか!という批判をなぜか被害保護者やご遺族が受けることもあるわけだ。
地方分権の予算問題にも確かに当たるため予算確保が難しい自治体では、充実した調査というのはなかなか大変であろう。
つまり、現場レベルでもニュースなどで挙がる問題点でも、第三者委員会の問題はよくあるのだが、巷で語られるのは、より公平かつ中立を重要視し、その構造から改めていけばいいという意見が大半だが、冒頭の界隈では、その逆もささやかれているのである。
第三者委員会の常任化、教育委員会直下組織にすることをより強め、委員の選定に、被害側から口を挟めないようにしよう、何よりも早さを求めるなら、これしかない。など。
いじめ法の大前提である「被害者の立場に立って」が、「学校の立場にたって」にすり替わってしまっているのである。
当然に、こうしたささやきなど、無視する動きもあるし、厳正化しないと改正はあり得ないという立場の人もいることは確かだが、現実をみれば、「いじめ防止基本方針」の改悪に続くように、悪化の方向へ向かっているという兆しばかりなのだ。
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被害保護者の多くは大変な苦労を強いられる
そもそも、いじめは加害者の選択によって起きる。被害者は悪くないのだ。
だから、被害者からすれば、ある日突然、被害者になり、エスカレートして、対応せざるを得ない立場になるのだ。
学校がそもそも対応に消極的であれば、その対応にも大変な苦労を強いられ、教育委員会が隠ぺい体質であれば、さらに苦労をする事になる。
弁護士さんが少ない地域であれば、弁護士さんを探すのにも苦労をするわけだ。
交渉に時間がかかり、調査もなかなかしてくれないという事態は、あるあるな問題だ。
さらに、第三者委員会の設置が決まっても、委員の中立公平性や専門性などを知るための、経歴や職能団体の推薦状などの情報を提供しないケースはざらにあり、名簿すら見せないケースもある。
設置要綱がない(つまり第三者委員会のルールがない)状態でスタートしてしまうこともある。
こうしたことは、いじめ法の条文に細かに載っていなくても、いじめ法設置の際の付帯決議や委員会内の答弁などを確認をすれば、違反していることは明らかなのだが、別段罰則があるわけでもないから、強引に進められてしまうこともあるのだ。
こうして被害者側は個人、一家庭として、身銭を切って弁護士さんを雇ったり、活動団体に交通費を払って支援を頼んだりしなければならないということになるのだ(ちなみに私が代表理事の「NPO法人ユース・ガーディアン」は完全に無償なので、交通費すらかからないが…)。
時間も労力もかかる、被害保護者の中にはこうしたことに対応していくために、仕事を辞める方や転職する方もいる。
一方で、データとしての数字にはなかなか見えてこないが、こうしたことをシミュレーションして、引っ越しなどをして環境を変更した方が早いと考える方もいる。
こうした方々は、もはやその地域を捨てた方がいいと考えるわけだ。
いじめ被害者やその家族を見ていれば、その苦労が大変なものであることはよくわかるのだが、なぜか、「保護者の義務強化」ということも法改正ではささやかれ始めているのだ。
もちろん、保護者は加害者も傍観者もいるわけだが、当然に被害者にも保護者がいるわけだから、義務強化となれば、さらに負担を強いることになると予想できるだろう。
確かにこども家庭庁スタートなど、関連するところは多いので、機運があってもよいだろうが、被害者置き去りのまま、大前提が被害者の立場にたってのいじめ法が迷走してはならないはずだ。
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編集後記
現在、様々ないじめ事案の資料が届いています。まだ、開封にまで至っていない資料もあり、我々からの連絡を待っている方も多いと思います。
順番にやっておりますので、今しばらくお待ち頂ければというところです。
学生は夏休みに入りますね。
こうした時期は、水の事故や連れ去りなど子どもが被害を受けたという報道が次々に流れてきます。親世代の方々には十分注意してもらいたいし、こどもたちにも、十分に注意してもらいと思います。
例えば、不審者などの問題、防犯ブザーの所持率はかなり低いと思われます。ランドセルにつけっぱなしとか、そもそも持ってないという子も多いでしょう。
一方で持たせておいたから大丈夫ということはなく、防犯ブザーを鳴らす練習は欠かせません。
理由は、そうした緊張するシーンでは、気が動転したり、思考が働かず、防犯ブザーを鳴らすという行動を取るのがなかなか難しいからです。
何事も、訓練や準備が大事です。訓練しているときは、何が重要かわからないということも多いかもしれませんが。
特に小さいお子さんには、防犯ブザーを持たせたり、位置がわかる携帯を持たせたり、目を離さないようにして頂き、安全第一でこの夏を楽しんでもらえればと思います。
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