MAG2 NEWS MENU

疑わしい効果。マスク着用率「世界一」の日本が、感染者数“世界最多”の謎

多くの人がマスクを外した生活を送っている欧米と比べ、未だ国民のほとんどが律儀にマスク着用を続けるも、7月第4週にはコロナ新規陽性者数が世界最多となってしまった日本。ネット上などでは感染予防効果を疑う声が多数上がっていますが、マスク着用の是非を問う前に議論すべき重要な事柄があるようです。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』では著者でジャーナリストの伊東森さんが、マスクを巡る科学やその歴史を詳しく紹介。さらに日本において、マスクの着用で「安心安全」を求めるしかない事情を解説しています。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

新型コロナ第7波が到来 マスクをめぐる科学 もとは「ファッションアイテム」として日本に定着 マスク着用の是非の前に必要なこと 検査と病床の確保

新型コロナウイルスの第7波の到来とともに、今一度、「マスク」問題についての議論をしたい。

感染対策の徹底が求められる一方、猛暑が続く中で、ただやみくもにマスクをつけていては、体調の悪化につながる。

日本救急医学会は、健康な成人の場合は、マスク着用の有無で熱中症へのリスクは変わらないとはしているものの(*1)、しかし、炎天下でのマスクの着用は息苦しいことは間違いない。

実際、世界における「マスク着用率」は、日本が突出(*2)。

日本リサーチセンターがイギリスのYouGov社と提携し実施した新型コロナへの予防策としてのマスク着用率の調査では、調査対象となった世界14カ国・地域の中で、2022年4月までの1年間、日本が85%以上と最も高かった。

WHO(世界保健機関)は、マスクの着用について、

「『できることは全てやろう!』という包括的アプローチの一環として行われる必要」WHO 2022年3月31日(*3)

とはいうものの、

「マスクをしていれば、人と密接に接触して良いというわけではありません」

とし、「マスクをすれば、すべてOK」とはいっていない。

目次

マスクをめぐる科学

当初、マスクの着用について、WHOの見解は、

「症状がなければマスク着用は必要ない」

とのスタンスだった。

事実、WHOは従来から、自覚症状のない人も含め、広範なマスクの利用は、

「効果が明らかでない」

と否定的。また、現在においても、十分なデータがないとする姿勢には変化がないという。

ただ、新型コロナが潜伏期間中も感染する可能性も判明してきたことから、

「発症前の人から感染するリスクを減らせる」

などの利点を示し、これまでの見解を修正。ただ、このWHOの指針の特徴として、あくまで、無症状の感染者からの感染の拡大を阻止するためにマスクが着用であること。

すなわち、「他人に感染させないために」マスクが必要であり、自分自身が感染しないためにマスクをするものではない。

一方で、のちに東京大学医科学研究所の河岡教授らのグループから、「新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果」の研究成果が公表された(*4)。

この研究では、適切にマスクの着用を行なえば、ウイルスの吸い込みを軽減できるとする。

ただ、マスク着用の効果を過信することなく、丁寧な手洗いを行うこと、そしてソーシャル・ディスタンスを保つことなど、複数の対策を組み合わせることで、感染の広がりを抑え込むことができるとする。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

マスクの歴史 ファッションアイテムとして日本に定着

近代のマスクの原形は、1836年のイギリスに誕生(*5)。

もとは、呼吸器を患う人のために開発されたもので、鼻と口を布で覆い、布の中に格子状の金属が入った構造。それを患者が着用すると、温かく湿った空気を吸うことができた。

これが日本にも輸入、1880年ごろまでに都市部で広がっていたという。ただ、現在のマスクのように「感染予防」という意味とは、少し違っていた。

当時、日本では急速に近代化が推し進められ、西洋からやって来たマスクは、“先進性”の象徴であり、あこがれの存在であった。

そのため、時代の先端を行く人たちがファッションとして着用し、防寒も兼ねた“トレンドアイテム”として、徐々に広がっていったという。

他方、19世紀末にアジアで肺ペストが流行。その対応を協議するために1899年にドイツでペスト会議が開かれた。このとき、マスクを推奨すべきか議論されたものの科学的根拠は不明とされた。

しかし1900年に、大阪で肺ペストが拡大。同年1月に地元の医師らが死亡すると、検疫官がマスクを着けるようになり、大阪ではマスクが普及。これが感染症対策のために人々がマスクを着けた初めての可能性であるという。

マスクの着用の是非以前に大事なこと 検査と病床の確保

先週の新型コロナウイルスの新規の感染者は日本が最多に(*6)。本当にマスクに感染予防効果があるのか、疑わしい。

物事には優先順位というものがある。新型コロナ対策でいうなら、第1に検査、第2に病床確保だ。残念ながら、日本ではそのどちらもが完遂できていない。

そのために結局、「誰もが目に見える形で、簡単にできる対策」であるマスクの着用をし、「安心安全」を求めるしかないのだ。

日本のPCR検査数は、先進国最低水準にとどまったまま。安倍元首相以降の歴代総理が、いくら「増やせ」と言っても、その数は一向に増えない。

無症状者にもPCR検査を行うことの議論がいまだ行われているが、どの医療の教科書を見ても、「感染源の特定」が感染症対策の基本中の基本。しかし、そのことすら、いまだにできていない。

民間ではいくらでも検査ができる体制が整っているのにもかかわらず、あくまでも保健所によるコントロールにこだわるために、検査の数が増やせないでいる。

同様に、日本は世界最多の病床数を誇るにもかかわらず、コロナ病床への転換が一向に進まない。結果、第7波を迎えてもなお、医療崩壊が続く。

本当なら、マスク着用をめぐる議論の前に我々はやるべき“議論”が多くあるはずだ。

引用・参考文献

(*1) 西日本新聞7月22日付朝刊

(*2)「世界14ヵ国の『マスク着用率』比較、日本は突出の85%以上、欧米は1年間で大きく減少 ―2021年4月~2022年4月」トラベルボイス 2022年5月30日

(*3)「新型コロナウイルス感染症(COVID-19):マスク」WHO

(*4)「新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果」東京大学医科学研究所 2020年10月21日

(*5)宇田川恵「『マスク=日本人』が世界的に浸透 なぜ外さないのか」毎日新聞 2022年6月19日

(*6)テレ朝news「先週のコロナ新規感染者 日本が世界最多に」Yahoo!ニュース 2022年7月28日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年7月31日号より一部抜粋・敬称略)

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

image by: Fiers / Shutterstock.com

伊東 森この著者の記事一覧

伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版) 』

【著者】 伊東 森 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け