安倍元首相の銃撃死により、1990年代初頭以来途絶えていた旧統一教会に関する報道が堰を切ったようになされています。殊にその異常な献金の実態が再び注目を集めていますが、「宗教は太古の昔からお金に汚く政治に絡んできた」とするのは、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。大村さんは自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で今回、キリスト教の成立時から存在するという「教会税」がいかに世界中の人々を不幸にしたかを明らかにするとともに、霊感商法的なやり口が繰り返されてきた証拠を挙げています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2022年8月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
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宗教とお金と政治の問題
安倍元首相の銃撃事件以来、「宗教と政治」「宗教とお金」の問題が大きくクローズアップされるようになりました。この「宗教と政治」「宗教とお金」の問題というのは、実は今に始まったものではありません。
宗教は太古の昔から「お金に汚く」「政治に絡んでくる」という問題があったのです。それは一部のカルト教団だけではなく、キリスト教や仏教などもそうだったのです。そして、宗教は世界の政治経済に大きな影響を与え続けてきたのです。
今回はそのことについてお話したいと思います。
まずはキリスト教から。キリスト教には「教会税」(十分の一税)というものがあります。キリスト教徒たちは、教会に必ず収入の十分の一を税として払わなくてはならなかったのです。これは旧統一教会にもあるそうです。この教会税は、けっこうキリスト教徒たちの負担になっており、古代から現代までのキリスト教徒たちの生活に大きな影響を与えてきました。それどころか、ヨーロッパ諸国の歴史にも大きな影響を与えてきたのです。
この十分の一税は、旧約聖書にその起源があります。旧約聖書というのはもともとはユダヤ教の聖典ですが、キリスト教、イスラム教の聖典でもあり、この三つの宗教のもっとも基本的な教義を記したものです。この旧約聖書には、古代ユダヤ人たちが収穫の十分の一を教会に献納していたことが記されています。たとえば、創世記には人類の祖とされるアブラハムが分捕り品の十分の一を司祭王メルキセデクに捧げたと書かれています。またアブラハムの子孫たちも、収穫物の十分の一を司祭に貢納したと書かれています。
それらの記述により、ユダヤ人には、収入の十分の一をパレスチナの教会に納めるということが、だんだん義務になっていったのです。このように、ユダヤ人にとっては、十分の一税というのは、重要な義務だったわけですが、これがキリスト教にも引き継がれるのです。そしてキリスト教というのはユダヤ人のイエス・キリストがユダヤ人社会で広めた教えです。キリスト教は、ユダヤ教から大きく変革した部分もありますが、基本的な構造は似ていました。どちらも、同じ旧約聖書を聖典としていますので、当然といえば当然です。そして十分の一税も、そのまま慣習として引き継がれたのです。
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利権化する教会税
この十分の一税は、当初は、ユダヤ教徒やキリスト教徒の自発的な義務でした。が、キリスト教がヨーロッパに広く普及し、教会組織が大きくなってくると、十分の一税はキリスト教徒における「明確な義務」とされるようになっていきました。585年には、フランク王国において、第二マコン教会会議というキリスト教の会議が行われました。この会議上で、「十分の一税」がキリスト教徒の義務として明文化されました。十分の一税を納めない者には罰則さえ与えられるようになりました。罰則には教会への立ち入り禁止、破門、はては家屋の接収までありました。
そして、十分の一税の使途も明確化されるようになりました。十分の一税は四分割され、一は現地の教会の運営資金、一は建物の費用、一は貧しい者などへの慈善事業、一は司教に送られるということになっていました。司教というのは、地域の教会を管轄する本部のようなものです。
これは教会だけで決められた税ではなく、国家的に認められた税になっていきました。ローマ帝国がキリスト教を国教と認めて以降、ヨーロッパ諸国の多くの国がキリスト教を国教としてきましたので、必然的にそういう流れになったのです。
現在の西ヨーロッパ諸国の元となる国、フランク王国のカール大帝は、779年に「国民は教会に十分の一税を払わなくてはならない」と明言しています。そして納税の方法も細かく定め、「証人の前で自分の収穫の十分の一を分割しなければならない」としました。つまりは、自分の申告が正しいかどうか証人の前で証明しなければならないわけです。国王がそういうことを言っているのですから、もう完全に「強制税」となったわけです。
そして、この十分の一税により、キリスト教会(カトリック教会)は潤沢な資金を持つことになり、それは勢力拡大につながりました。
この教会税が、税として社会に確立していくうちに、「教会ビジネス」といえるような動きもでてきました。というのも、教会のない地域に教会をつくれば、十分の一税などの教会税を徴収できるのです。教会税の大半は、税を徴収した地元の教会に入ります。
司教に「上納」するのは、教会税の四分の一だけです。だから、地域の有力者や、少し金を持っている者が、新たに教会をつくるようなことも生じはじめました。ヨーロッパ中に、新しい教会がつくられたのです。そのうち、教会同士による教会税の縄張り争いのようなことも生じてきました。
するとキリスト教の司教たち(上層部)は、地域の教会同士の縄張りを決め、「新しくできた教会は、元からあった教会の十分の一税を横取りしてはならない」などの規則が定められました。こうして十分の一税が、利権化するようになったのです。
また貴族たちが教会を私有し、十分の一税の徴収権を得るということもよく起こるようになりました。やがて、十分の一税は、それ自体が債券のように扱われるようにもなりました。教会が、自分の地域の「十分の一税を徴収する権利」を売りだすのです。かのシェークスピアも、老後の生活のために十分の一税の債権を購入した言われています。
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世界中を不幸にした教会税
この教会税は、キリスト教普及の原動力ともなりました。新しい教会をつくれば、地域から教会税を徴収できるのですから、まだ教会がない「未開の地」に、どんどん教会が建てられていくことになります。
教会を建てる側には「これはキリスト教の布教のためだ」という大義名分があります。教会税利権が欲しくて教会を建てていても、「人のためになっている」と自分自身に言い訳できるわけです。だから良心の呵責などもなく、どん欲に教会を建てることができるわけです。
この「教会を建てれば徴税権が生じる」という「教会税システム」は、やがて人類に大きな災いをもたらすことになります。というのも、この「敬虔なキリスト教徒たち」が、ヨーロッパ内に飽き足らず、世界中に教会を建て始めたからです。
ご存知のように、15世紀から17世紀にかけて、スペインやポルトガルなどが新しい航路をどんどん開拓し、世界中に植民地を建設します。いわゆる大航海時代です。
この大航海時代は、前にも述べたように、「アジアの香料を求めていた」というのが最大のモチベーションでした。が、もう一つ、「キリスト教の布教」ということも、彼らの大きなモチベーションだったのです。
15世紀、ポルトガル、スペインは、羅針盤、造船技術などの発達により、世界各地への航路を開拓しました。この大航海時代は、ポルトガルのエンリケ航海王子など国家的スポンサーなしではあり得ませんでした。つまり彼らの大航海は国家事業でもあったのだ。そしてこの国家事業にはキリスト教の布教が付随していたのです。
1494年、ローマ教皇は「アメリカ大陸は、スペインとポルトガルの二国で半分ずつ分け合いなさい」という命令を出しました。これは、スペインとポルトガルの間で締結されたトリデシリャス条約と呼ばれるものです。この条約は西経46度36分を境界にして、世界をスペイン、ポルトガルの両国で二分するというもので、形式の上ではアメリカ大陸のみならず、全世界が二分されることになっていました。そのため当時、日本もこの両国に分割されたことになっているのです。
このローマ教皇の傲慢ともいえる命令は、「キリスト教の布教」という大義名分がありました。「未開の人々にありがたいキリスト教を教えてあげなさい」ということです。そして、未開の地に教会を建てれば、そこで徴税権が発生するわけです。
ローマ・カトリック教会としても、信者は増えるし、上納金も増えるので、万々歳だったのです。
しかし、不幸なのは現地の人々です。スペインなどは、教会税を拡大解釈し、アメリカ大陸で植民政策を進めるために「エンコミエンダ(信託)」という制度を採りました。
「エンコミエンダ(信託)」とは、スペインからアメリカ大陸に行くものに現地人(インディオ)をキリスト教徒に改宗させる役目をもたせ、その代わりに現地での自由な徴税権を与えるというものです。
ざっくり言えば、「キリスト教の布教」という建前を掲げる事で、現地人からどれだけ収奪してもいいという許可を与えたのです。
だからアメリカ大陸に渡ったスペイン人たちは、「キリスト教布教」を隠れ蓑にして、収奪と殺戮を繰り返しました。アメリカではたくさんの鉱山が発見されましたが、そこから取れる金銀はすべてスペインが持ち帰りました。それだけではなく鉱山開発には、多くのインディオたちが奴隷労働を強いられたのです。
その結果、1492年からの200年間で、インディオの人口の90%が消滅したといわれています。この時代、スペインやポルトガルなどは、競ってアフリカやアジア、アメリカに侵攻し、過酷な略奪行為をしました。彼らとて、単なる略奪では気が引けます。が、彼らには「キリスト教の布教」と「教会税の徴収」という大きな大義名分があったのです。だからこそ、思う存分、略奪ができたわけです。
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キリスト教が分裂した理由
日本人にはあまりなじみがありませんが、キリスト教というのは、大きく二つに派に分かれています。そしてそれがさらに枝分かれして様々な派があります。
キリスト教が分裂した大きな理由があの有名な免罪符なのです。
1517年、ドイツの神学者マルティン・ルターなどが、教会の形式化した教義を元に戻し、聖書に立ち返ることを旨とした改革運動を起こしました。この「宗教改革」によりキリスト教は分離し、今までのものが「カトリック教会」、新しくできたものが「プロテスタント教会」になりました。この宗教改革の大きなきっかけが「免罪符」だったのです。
教会に巨額の寄付をすれば、すべての罪を許してもらえるという、どう考えても罰当たりなあの制度です。キリスト教会は、それまでも、十字軍の遠征費用などをねん出するために、何度も免罪符を発行してきましたが、16世紀の初頭に、イタリアの聖ピエトロ大聖堂の建設費を集めるという名目で、大々的に免罪符が発行されたのです。
前々から免罪符のことを「おかしい」と思っていた人たちはたくさんいたわけで、そういう人たちが、このときに爆発したのです。もともと教会は、世界中のキリスト教徒から十分の一税を徴収しており、莫大な収入があったはずなのです。にもかかわらず、免罪符などという罰当たりなものを発行したものですから、怒りが爆発したのです。
ではプロテスタントはまったく清廉かというとそうでもなく、宗教改革を主導したルターは、その一方で徹底したユダヤ人の迫害、略奪を行い、後のナチスにも影響を与えました。
このように宗教というのは、危ない面を持っており、我々の社会、歴史に大きな影響を与え続けてきたということは、心しておくべきです。宗教は、神との橋渡しの役割を果たすとされているので、そこで利権が発生しやすいのです。つまりは「天国に行きたければ金を払え」ということです。こういう霊感商法的なことは現代に始まったことではなく太古から繰り返されてきたわけです。
ちなみにキリスト教の開祖とされるイエス・キリストは、教会の組織化や巨大化などは微塵も考えておらず「祈るときには人が見ていない奥の部屋で一人で祈りなさい」と言っていたほどなのです。
こういう問題はキリスト教だけではなく、日本の仏教にもあります。次回は、日本史における「仏教の金と政治の問題」を取り上げたいと思います。
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