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ペロシ訪台で大儲け?日本メディアが伝えない「保護費」バラ撒き問題

中国で起きている問題を伝える際に、先進諸国のメディアは「民主主義は正しい」との原則に沿わない出来事について、詳細を報じない傾向があるようです。具体例を示してメディアによる欺瞞の弊害を訴えるのは、メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で拓殖大学教授の富坂聰さん。先日のナンシー・ペロシ米下院議長の訪台についても、台湾有事への懸念が話題の中心となっている日本のメディアとは違い、「保護費」と呼ばれる“金”の問題が台湾や中国では大きな注目を浴びていると伝え、メディアが重んじる原則が物事の理解を歪ませるケースがあると指摘しています。

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西側先進国の台湾支援を「民主主義を守る戦い」と単純に考えられない理由

先進国のメディアにはいくつかの神聖な原則がある。「民主主義は正しく人権は尊い」とか、「弱者に立つ」という姿勢だ。それ自体は素晴らしいことだ。しかし善悪のすべてを、その原則に委ねるとすれば弊害は小さくない。典型的なのは民主化運動だ。

思い出すのは第二次天安門事件の取材で訪れた中国の「民主化運動の父」、作家・白樺を訪れたときだ。彼は民主化運動を否定するだけでなく、「運動に関わったことが後悔だ」とまで語ったのだ。白樺を変えたのは何か。それは民主化という美名の裏の汚れた現実と、それを報じようとしないメディアの欺瞞だった。

今年7月12日、香港高等法院(裁判所)は、「反送中民主化デモ」(2019年6月~)に関わった2人の香港の若者(19歳と18歳)に懲役5年半の判決を言い渡した。2019年11月、香港の新界上水北区で起きた事件に絡む判決だ。当時、デモ隊は香港各地で破壊行為を繰り返していた。そしてついに人命が失われた。

被害者は70歳の清掃員・羅長清さんだ。証拠となった映像には、顔面にレンガの一撃を受け倒木のように倒れる羅さんの様子が収められていた。清掃員の羅さんは、おそらく若者たちの行動を咎めようとして近づいたのだろう。その直後、2人の若者が投じたレンガが羅さんともう1人の老人を襲った。現地のネットで大きな反響を呼んだ事件だった。

だが、冒頭で触れたように「民主化が常に正しくなければならない」メディアには、この話は歓迎されなかった。ちなみに朝日新聞は事件をこう報じている。

「抗議活動が激化している香港で、住民同士の衝突に巻き込まれ、意識不明の重体だった清掃員の男性(70)が14日夜、搬送先の病院で死亡した」(「香港デモ、2人目の死者 70歳男性が巻き込まれる」2019年11月15日)

被害と加害を曖昧にすることで、民主化運動の無謬さを守っているのだろうか。こうしたメディアの体質は、情報の受け手の理解を歪めてしまう。

当時の香港には、デモ隊の無軌道ぶりを告発する情報はあふれていた。黒Tシャツの若者が口論になった中年男性にオイルをかけて火を着けて逃走し、「中国寄り」と批判された店への襲撃などだ。また電車の入り口に居座り、何時間も地下鉄を止め、券売機を破壊。道路を封鎖し救急車両さえ通そうとしなかったなどの行為だ。

だが大手メディアがこうした情報を積極的に発信することはなかった。彼らの原則は常に「中国共産党は悪で民主化運動は善」でなければならないからだ。白樺さんを民主化運動から遠ざけたのは、結局、こうした偽の正義への嫌悪である。

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そしてメディアの欺瞞は、タイトルに掲げた台湾問題の理解も歪めている。ペロシ米下院議長の訪台に対し、世界のチャイナウォッチャーの見立ては概ね厳しかった。曰く、「(ペロシの行為は)台湾を利することはない」との批判だったが、現状を見る限り、指摘は間違いではないだろう。

中国各地では、過度なコロナ対策で不満を鬱積させていた人々の不満は、ペロシの衝撃がかき消し、政権は求心力を高めた。おそらく今後、圧倒的多数の中国人は自らの懐が痛んでも軍拡に理解を示すだろう。地域の安全、なかんずく、日本にとっては何とも迷惑な宿題を残していったのである。日本はもはやメディアが好む「民主主義を守る戦い」という美名に酔っている場合ではなくなったのだ。

実は、テレビのニュースやワイドショーまでが台湾海峡の危機を喧伝する裏側で、台湾や中国大陸では別の話題が大きな注目を浴びていたのだった。それはペロシが訪台団に自分の息子を潜り込ませていたことだった。問題は息子を同行させた「是非」ではない。その狙いが何であったのか、に注目が集まったのだ。これはすなわち、蔡英文政権がペロシにどんな金銭的な便宜をはかったのか、という問題なのだ。

台湾の中時新聞ネットは、ペロシが強行軍のなかでも世界最大の半導体受託製造企業・半導体台湾積体電路製造(TSMC)のトップと会ったことに注目。国民党の立法委員が「経済的な便宜を図ったのか否かを明らかにすべき」と政権に詰め寄ったと報じている。

台湾では、自分たちに有利な言動をする外国の政治家に何らかの見返りを差し出すことを「保護費」(とくに対アメリカ)と呼ぶ。今回の訪台にも「保護費」が発生したとネット市民が疑うのは、これまで前例を重ねてきたからでもある。

例えば、トランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオが訪台したときには、台湾の公務員の退職金基金を、自らが関わる金融コンサルタントに関与させたいと要求したと報道された。4月に超党派の議員団を率いて訪台し蔡英文総統と会談した共和党のグラム上院議員や民主党のメネンデス上院議員は、ボーイング787の購入を公然と求めたと台湾の『聯合報』が報じている。

またペロシの少し前に台湾を訪れたマーク・エスパー元国防長官は、軍事予算を国内総生産(GDP)比で倍増させ、兵役も「全民皆兵」に変えて対中軍事力を強化するよう要求したという。(共同通信客員論説委員の岡田充の記事「国防長官発言が物議。日本も他人事では…」)

ただでさえ蔡政権は、成長促進剤を使った豚肉をアメリカから輸入することに道を開くなど、対米配慮が際立っていた。そもそも成長促進剤の危険性は、民進党が野党の時代に国民党を激しく追求した問題だったはずだ。

現政権の行うある種の「ばら撒き」は、いまやアメリカだけにとどまらない。例えば台湾との関係を深めたリトアニアが、中国からの制裁でビールやラム酒を輸出できなくなると、それを台湾が買い取ることになったり、多額の借款の申し出にも応じているのだ。(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年8月14日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Sheila Fitzgerald/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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