もともと名産地でもないのに、お寺の参拝客のために考案された「そうめん」があるのをご存知でしょうか。70年以上前から、地元の名物にするために始まったこのメニューは、今でも行列ができるほどの人気を誇っています。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、夏になると大行列を作る参道脇のドライブインによる巧みな戦略について分析しています。
たかが、そうめん。されど、大行列。それは、70年前の名物づくりから始まった
富山県上市町。大岩山・日石寺の参道脇。「ドライブイン金龍」。
夏になると、このお店には大行列ができます。
お客さまの目当ては、「そうめん」。
そうめんの産地でもないこの地に、なぜ、多くの人が押し寄せるのでしょうか。
“夏と言えば、そうめん”というイメージを持つ人は多いのかもしれませんが、最近の厳しい暑さで常時エアコンをつけているため、冷たいそうめんを美味しく感じなくなってきています。
暑い中でこそ美味しいそうめんは、生産量も減少しています。
また、そうめんは味が単調なため、飽きやすく、「そうめん離れ」も起こっています。
しかし、あまり食べなくなったそうめんでありながら、このドライブインにわざわざ出掛けて行って、行列に並ぶのはなぜでしょうか。
ひと言で表すと、美味しいから。
家で食べるそうめんとは、まったくの別物です。
そうめんは、めんつゆに浸けながら食べるのが定番ですが、このお店では、冷たいつゆ(スープ)に入ったものが提供されています。
つゆも飲みながら、味わうのです。
この食べ方を考え出したのは、お店の先代。
70年以上前、日石寺の参拝者のために、夏でも美味しく食べられるものを、と生まれました。
そうめんは、淡路島産の手延べ。3年寝かせた「大古(おおひね)」と呼ばれる高級品を使用しています。
コシが強く、つゆに浸けても、伸びにくいのが特徴です。
そうめんをゆでて、晒す水は、この地大岩の湧水。
全部飲み干す人が多いという黄金色のつゆは、羅臼昆布、日高昆布、干し椎茸、かつお節、煮干しで出汁を取り、薄口醤油と砂糖で味つけした、料亭並みのこだわりよう。
すべてにおいて手抜きをしないこのそうめんは、明らかに家庭のそれとは違います。
美味しさに行列ができるのも納得です。
当初は、参拝者のための名物として考えましたが、月日が流れるごとに、そうめん目当ての人がやって来るようになりました。
やがて、地元の人ばかりではなく、遠くからも足を運んでくれるようになりました。
いまでは、お寺の参拝の方がついでになってきています。
そうめんで人気店になったこのお店ですが、地元ならではの料理も出し、わざわざやって来ることの楽しさを増幅させています。
「ぜんまいの煮物」「山菜天ぷら」「わらびの酢の物」「鰊の甘煮」「里芋田楽」「昆布のおにぎり」など、滋味溢れるという言葉がしっくりとくる逸品が用意されています。
「あずき白玉」「ぜんざい」「ソフトクリーム」「瓶ラムネ」なども揃え、高齢の方から小さな子どもまでが楽しめるようになっています。
世間的には存在感の薄れたそうめんですが、この地では、それを目当てに来る人がいるほどの名物として、70年以上も人気を保ってきたのです。
最近では、雑誌やテレビ、ネットなどで取り上げられたこともあり、行列がさらに伸びています。
地方の名物だったものが、全国に知れ渡ることとなり、いまや町おこしに発展したと言っても良いでしょう。
たかがそうめんですが、その秘めたる力を見たような気がします。
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