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Teacher and children with face mask back at school after covid-19 quarantine and lockdown.

なぜ、指導する立場の人間が言うことに「一貫性」は無くてもいいのか?

ビジネスやスポーツ、学校などで人を指導する立場において「優れている」人は多いのですが、そうした指導者たちは一体何をしているのでしょうか。ロングセラー『君と会えたから』『手紙屋』などの著者として知られる作家の喜多川泰さんのメルマガ『喜多川泰のメルマガ「Leader’s Village」』では今回、指導する側がしっかりと肝に銘じなければいけないポイントを紹介しています。

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一貫性がなくても大丈夫

上司やコーチ、先生など、人を指導する立場の人にとっての仕事は大きく分けると「二つ」あります。

一つは「能力を伸ばすこと」。

もう一つは「持っている能力を最大限に発揮できる人に育てること」。

この二つはまったく異なる能力なのに、あまり区別できていない指導者が多い。

ここに10の力を持った人がいる。この人を一生懸命指導して100の力を身につけさせたとする。ところが、その指導法が原因で、その人の持てる力の10分の1しか発揮できないようになったとしたら肝心なときに発揮できる力は10ということになる。ミスをしたら懲罰を与えたり、恐怖で押さえつけて指導をすると、肝心なところで萎縮してしまい、そうなると言われていますね。「イップス」などがそれです。

一方で10の力を持った人に自分の持てる100%の力が発揮できるように指導をしたとする。でも元々の力を育てることをしなければこの人も肝心なときに発揮できる力は10ということになる。

能力を伸ばすためには、練習を繰り返したり、基礎体力をつける、広く深い知識を身につけるといった、負荷をかけることによって成長できるフィジカル面の成長が欠かせない。一方で、持てる力を最大限に発揮できる人になるためには、メンタルブロックと言われる精神的バリアを取り去る、メンタル面での成長が欠かせない。

優れた指導者というのは、そのバランスをしっかりとっている。

1年後にどうしても合格したい試験、優勝したい大会、習得したい技術がある。そのときに考えるべきは「ドリル」。つまり反復練習によって動きや知識や必要な筋力を育て、無意識のうちに動けるよう身につけることでしょう。でもそれは、明日が人生をかけた大一番というときにするべきことではない。そこでは持てる力を100%発揮できるように心も身体も休ませる必要があるし、メンタルの面をいかに前向きにしてあげられるかに変わっているはず。

一つの目標を達成するための指導においても、このように時期によって必要なことは変わってくる。

もちろんそれだけじゃない。相手の状況によっても大きく変わる。

授業は練習すれば誰もが上手になるんですね。逆に、練習しなければ上達しない。その意味では「我流」で成長しようとするよりも、良い指導者に見てもらいアドバイスをもらった方がいい。

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新人の先生の授業を指導するとき、僕が心がけていたことは、「改善点は一つだけに徹すること」。

最初からその人の授業を見て気になることをすべて指摘したら、萎縮するばかりかパニックになってどうしていいかわからなくなる。授業に限らずなんでもそうだけど、思いつくままに三つも四つも同時に指導をしている人っているでしょ。「ほら、もうあれを忘れてる。これも教えてやったのにできてない。それに、これも教えてやったのにどうしてじっとしてられないの?それに、無駄に「え~」とか「あ~」とか言ってるのも直ってない。何聞いてたの?やる気ある?」なんて、あれは育成ではない。単なる指導者の自己満足ね。二つでもダメだ。どちらも頭から消えてしまう。器用な人でも片方だけしかできない。片方に注意をしていたら、もう片方が疎かになる。だから最初から一つでいい。

「まずは生徒の目を見て話をしましょう。それができるだけで、生徒たちは先生のことを信頼してくれますから」

と指導する。もちろん最初からうまくはいかない。でも、そのことに注意しながら何度も練習をしていると徐々に意識をしなくても、生徒の目を見て話ができるようになってくる。そうすると次の課題に取り組むことになる。

「もう少し元気な声で授業をしてみましょう。それができるだけで、授業の雰囲気が一転しますから」

とかね。

ところがここで、この指導をやめたとする。そうすると指導をされた側は「目を見て、元気よく」が「いい授業」であると思い込んで、そこにとどまってしまう。そして、「それができるだけで信頼してくれるって、あなたが言ったじゃないですか!」と主張される。でもそれは「できない今よりは」という意味でしかないのは明らかでしょ。

どんな仕事でも同じで、最初に「これをやってくれればいいから」と言われたことができることが目標ではない。「今はそれで十分」なのであって、1年後はそれでは困るのが仕事だ。場合によっては3日後だってそれでは困るのかもしれない。そしてそれは新人に限らず、ベテランでも同じである。「去年はそれでいいと言ったけど、今はそれじゃだめなの」って当たり前のこと。

それを「成長」というのだから。

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「この仕事はこれができたら一人前だ」と言われたとしても、それができたからってゴールではない。目指すべき最初の到達点をそういう言葉で教えてくれたに過ぎない。あまりに遠くを伝えると前に進もうとする気力すら無くなるから。

そう「黒帯」と似ている。白帯の人は「黒帯」を目指すでしょ。あれ、一人前の証だからですよね。でも、いざ自分が「黒帯」を締めるようになると、ようやく入り口に立ったってわかる。「初段」という名前までついてるしね。

ところが、そういう場合にも、「言われたことはちゃんとやってる」「自分は一人前になった」「悪いのは、言ってることが変わる指導者の方だ」と思う人が多い。

指導の内容は、成長の過程において途中で変わるのが「自然」なんですね。場合によっては真逆のことすらある。「わかりやすい授業」を追求するように指導していたかと思えば、一転「もっと負荷の大きい授業ができるようになれ」という指導をしたりする。逆ができなければ、ちょうどいい塩梅というのがわからないからね。

先生に限らずどんな仕事でも同じ。

「それができるようになったら次はこれ」と全然違う課題は山ほどあるのだから。

成長の過程には段階というものがあるんですね。それを無視して、「これさえできれば大丈夫」という何かを用意して指導を一貫しようとする方が無理がある。

指導というのは「あの時はあれが必要だった。でも今はこれが必要だ」というものなんですね。そのことを大前提にしておくことが、指導する側される側、お互いにとって大切だということです。

先生の指導に一貫性がないのは、先生の成長の結果だけではないでしょ。それだけ生徒の側が成長している証でもあるわけです。

「この前言っていたことと違う」を言われても、「君が成長したからね」と言えばいいだけなんですね。

一つの目標に対してや、一人の人に対して、真剣に向き合っている指導者は指導に一貫性などなくなるのは当然のことなんですね。ところが、子どもたちは(場合によっては大人もですが)自分に対しての指導の一貫性だけでなく、周囲と同じ指導すら求めるんですね。

「他の人と違うのは『ひいき』だ」とか言ってね。

そんな人に限って「みんな違ってみんないい」という詩が好きだったりするんですが(笑)。

一人の人間のなかでも、成長段階によって指導内容は大きく異なるわけですから、別の人ともなれば当然指導内容も変わってくるのは当たり前。そのことも、日頃から伝えていくことが、受け取る側の柔軟性の育成につながると僕は思っている。

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よく話したのは「オーケストラ」。

一曲の美しいハーモニーを生み出すためには、いろいろな楽器がそれぞれの特徴を活かして、自らの役割をまっとうする必要がありますね。ずっと弾いてなければならないバイオリンや、ここぞというところで大きな音を出すトランペットなど、出す音も違えば、どのくらいの割合、曲に顔を出すかも違う。「それはひいきだ」ってみんなが言うもんだから、バイオリンも、ピアノも、ホルンも、トランペットも、トロンボーンも、すべて同じ旋律を演奏したら美しい曲になる?

それぞれが自分の良さを出しあって、一つのハーモニーを奏でる。中にはシンバルのように一曲の中に一度出番があるかどうかって楽器もある。でも、その役割を果たすって大事。出番が少なかろうが、自分の役割をしっかり果たすことで全体が一つとして美しい音色になる。やることは違えど、重要さなんて変わらないんです。ただ、それぞれの役割が違うから課題が違う。それが当たり前なんですね。

それがチームというもの。もちろん一つの教室も同じ。

というわけで今週の一言。

学ぶほどに思考が柔らかくなる人を育てるためにも「指導だって、みんな違うからみんないいんだよ」って伝え続けてあげてほしい。

指導には一貫性がなくても大丈夫です。自信を持って、指導者も柔軟に日々変わっていきましょう。

もちろん、先生(指導者)の側が、「この子に今必要なのは何か」ということを常に真剣に考え続けているのは大前提なのは言うまでもありませんが。

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image by: Shutterstock.com

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1970年生まれ。2005年「賢者の書」で作家デビュー。「君と会えたから」「手紙屋」「また必ず会おうと誰もが言った」「運転者」など数々の作品が時代を超えて愛されるロングセラーとなり、国内累計95万部を超える。その影響力は国内だけにとどまらず、韓国、中国、台湾、ベトナム、タイ、ロシアなど世界各国で翻訳出版されている。人の心や世の中を独自の視点で観察し、「喜多川ワールド」と呼ばれる独特の言葉で表現するその文章は、読む人の心を暖かくし、価値観や人生を大きく変えると小学生から80代まで幅広い層に支持されている。

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