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G20からのプーチン排除に失敗した米バイデンが見誤る世界の実状

NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議において、ザポリージャ原発の問題を取り上げロシアの反発を招いたアメリカ。ロシアへの制裁もアメリカの思惑通りには動かない国が多くあり、米バイデン政権の戦略は袋小路に入っているようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、ジャーナリストの高野孟さんは、アメリカが多極化した世界の一員として振る舞うことを学ばなければ、11月にバリ島で行われるG20サミットにおいて孤立する可能性が高いと指摘。アメリカが恐れる「脱ドル化」へと進め始めた新BRICSによる動きについても伝えています。

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バイデン政権の対露「政治制裁」路線は11月バリ島で行き詰まるのか?/G7 vs G20、BRICS……

NPT再検討会議が8月26日に閉幕日を迎えながら「最終文書」の採択を諦めざるを得なかったのは、米国がウクライナ戦争の渦中にある同国南東部のザポリージャ原発の問題を何としても同文書に盛り込んでロシアを政治的に非難する機会としようとしたことに、ロシアが反発したためである。

ザポリージャ原発をめぐる駆け引き

しかし、第1に、ザポリージャ原発がロシアとウクライナのどちらの手に落ちるかは、ウクライナ戦争の1つの戦術局面として由々しき問題であるけれども、NPT再検討会議そのものとは何の関係もない。5年に一度開かれる同会議は、核保有5カ国が核軍縮義務を果たしているかどうか、非核保有国に違反の動きがないかどうかを点検して「核なき世界」の実現に向け歩を進めようというところにある。

第2に、ザポリージャ原発をめぐって何が起きているかは双方からプロパガンダ情報が飛び交っているのでよく分からないが、確認される限りでは、ドンバス地方を抑えたロシア軍はその西のマリウポリ市を拠点とする「アゾフ大隊」を壊滅させ、ザポリージャ州とさらにその西のヘルソン州の大半を占領、クリミア半島への陸続きの道路・鉄道ルートを確保したと見られる(なかなか分かりやすい地図が見つからないので防衛省「ウクライナ」ページの地図の一部を切り取ったものを示す。

元々ロシアの主要関心事は、プーチンが予め宣言したように、ドンバス2州の多数を占めるロシア系住民の安全確保にあり、最初の段階でゼレンスキー大統領が素早く停戦に動いていれば、ドンバス2州を2014年の「ミンスク合意」に従ってウクライナ国内での高度の自治体制に置くのか、それとも独立させてロシアに併合させるのかの交渉が始まっていただろう。そうせずに「第3次世界大戦の始まりだ!」とでも言うような着地点なしの大戦争に踏み切って行ったために戦局は無駄に長引き、半年後の今、ロシアにアゾフ海沿岸からクリミアを経て黒海北岸までをベルト状に抑えられてしまった。

その過程で、これも確認されうる限りでは、ロシア軍は欧州最大の原発であるザポリージャ原発を占領し、従来通りウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムの職員に運転を続けさせている。その目的はどうも電力確保にあるようで、フランスの通信社AFPニュース8月10日付によると、ロシアは同原発の電力をクリミアに送電する計画であるという。同原発では砲撃が続いていて、ウクライナとロシアの双方とも相手側によるものとして非難の応酬を続けているが、少なくともロシア軍が占領している原発を自分で攻撃するとは考えられず、ウクライナの過激派による仕業である可能性が大きい。

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従って第3に、NPT再検討会議の最終文書草案がロシアを名指しで非難しないようにしながらも同原発に関して「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現を残したのは、ロシアを怒らせるための米国の挑発以外の何物でもなかった。

もちろん、ロシアのウクライナ侵攻そのものが不当であり、そこで起きている全てのことはロシアに責任があると言えばそうに違いないのだが、米国代表が「ロシアがこの表現を嫌ったのはウクライナを地図から消そうという企てを覆い隠そうとするものだ」と言い立てたのは、このローカルな1原発の管理問題というはっきり言って些事を以てNPTの大義をブチ壊し、ロシアの悪逆非道ぶりを際立たせようという米国の対露「政治制裁」作戦の一環である。

ロシアを叩けば米国が浮上するという錯覚

米国がこのように感情剥き出しでロシア叩きに狂奔するのは、かつて20世紀には疑いもない世界No.1覇権国であった時代へのノスタルジアからのことで、その時代が終わってしまった以上、米国は必ずしもNo.1ではなくなり、例えば今世紀半ばを待たずして中国にもインドにもGDPで抜かれてNo.3になることを見通して、多極化した世界の一員として振る舞うことを学ばなければいけないのに、その悟りを開くことができないという老大国の認知障害の表れである。

現にウクライナ情勢をめぐっても、7月にジッダを訪れたバイデンにサウジのムハンマド皇太子が教え諭したように「米国の価値観を100%押し付けようとすれば、付いていくのはNATO諸国だけで、それ以外の世界の国々は米国と付き合わないだろう」(本誌No.1168参照)というのが世界の実情であるのに、米国にはそれが見えない。

この問題にバイデンが否応なく直面せざるを得なくなるのは、今年11月15~16両日バリ島で開かれる「G20」首脳会議となろう。G20サミットのホストであるインドネシアのジョコ大統領は18日、同会議にロシアのプーチン大統領と中国の習近平主席が揃って参加することになったと発表した。この発表は、日本のメディアでは誰一人そう解説していないが、米国の「プーチン排除」要求に対するあからさまな拒絶である。

ブルームバーグ・ニュースのコートニー・マクブライド記者によると「ロシアのウクライナ侵略直後から、米国はインドネシアに対しロシアをG20から除名せよ、プーチンをバリ・サミットに呼ぶなと圧力をかけてきた」(ジャパン・タイムズ8月22日付)が、対露経済制裁に加わることも拒んできたインドネシアがそのようなG20の枠組みを破壊するような計画に賛成するわけがない。それどころか、同じ文脈で、米国が8月にペロシ下院議長を台湾に送り込んで中国に対し無用の扇動を行ったことにも不快感を深めている。

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困ったのがバイデンで、まさかG20をボイコットしてプーチンのやりたい放題を許すわけには行かない。そこで考えた次の一手は、ウクライナのゼレンスキーをリモートで参加させて発言させることで、そうすればプーチンはいたたまれずに会議そのものをスキップするかもしれない……。

しかしワシントンでは、バイデン政権に好意的な人々の間でも、このような対決的なやり方は効果が薄いと見る人たちがいる。例えば、オバマ政権の国防長官やCIA長官を務めたレオン・パネッタはブルームバーグTVのインタビューに答えてこう言った。「もし、最終的にロシアや中国と戦争をしたいのでなければ、お互い同士の対話への意志を通じて問題解決を図るしかない」と。

もはやG7よりG20、さらにはBRICSか?

G7は、1970年代のニクソンショック、石油ショックという大変動のなか、75年に米英仏独伊日の6カ国による「第1回先進国首脳会議」として始まり、翌年の第2回からカナダが加わってG7となった。冷戦終結後の1990年代に、米クリントン政権や英ブレア政権がロシアのエリツィン大統領の経済改革を支援し、またNATOの東方拡大に対するロシアの不安を和らげるなどの思惑から、98年の第24回英バーミンガム・サミットでロシアを正式メンバーに迎え「G8」となった。

ロシアは先進国の範疇には入らなかったので、この時から「主要国首脳会議」と呼称が変更された。ロシアは2013年まで参加し、14年にはクリミア侵攻を理由に資格を停止されたので、その年からまた「G7」に戻った。とはいえ、カナダを除く6カ国とロシアは20世紀前半までの帝国主義時代の「列強」で、そこにG7/G8の本質的な限界があるというのも1つの見方である。

実際、なぜロシアが入るのに興隆著しい中国は入らないのかは理屈では説明がつかず、その辺りから「G7/G8無用論」も語られるようになり、2008年リーマンショックによる金融大崩壊の最中、「G20サミット」が創設された。これはG7プラス12の有力な途上国、国際機関として欧州連合・欧州中央銀行の20カ国・機関で、いわゆる先進国だけでは世界経済の運営を語り尽くせなくなった時代の到来を象徴する。

となると今度は、いっそのことG7を抜きにした有力な途上国だけで語らう枠組みが有効ではないかとする考えが広がり、G20の始まりの翌09年にはロシア主導でブラジル・ロシア・インド・中国の「BRIC」が、11年の中国開催のサミットでは南アフリカが加わり「BRICS」が成立した。さらに今年6月23日にサマルカンドで開かれたサミットでトルコ、イラン、アルゼンチン、サウジなどが加盟を検討しており、近々「新BRICS」8~9カ国となる方向が示唆された。

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これらの関係をG20を主舞台として描くと……、
(1)G7    米英仏独伊日加
(2)新BRICS ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカ、トルコ、イラン、アルゼンチン、サウジアラビア?
(3)その他  インドネシア、韓国、オーストラリア、メキシコ

(2)と(3)の中で米国の言うことを聞きそうなのは韓国とオーストラリアくらいで、(1)と合わせれば9カ国で数としてはほぼ拮抗するが、プーチンと習近平が目の前にいる席でバイデンが「この2カ国と訣別して私に従え」と言えるのかどうか。

新BRICSが「新国際基軸通貨」構想

この新BRICSが米国にとって脅威なのは、彼らが「脱ドル化」に向かって動き始めていることである。サマルカンドでのBRICSサミットでプーチンは、BRICSの国々の通貨バスケットによる新しい国際基軸通貨を創設することを検討中であると表明した。

習近平もこの席で「世界金融システムの支配的地位を利用して世界経済を政治化、道具化、武器化し、やみくもに制裁を加えることは、自らを傷つけるだけでなく他者をも傷つけ、世界中の人々を苦しめるだけだ」「強者の立場に執着し、軍事同盟を拡大し、他者を犠牲にして自国の安全を求める者は、安全保障の難局に陥るのみだ」と、ウクライナ戦争を機に米国がますます独善に傾いていることを強く非難した。

11月のG20サミットでは、こうした通貨を含む多極化世界の運営構想が大いに語られ、米国の孤立が浮き彫りになる可能性が大きいのではないか。(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年8月29日号より一部抜粋)

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image by:Marlin360/Shutterstock.com

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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