ウクライナ戦争を巡っては、中国や北朝鮮といったごく一部を除くほとんどの国が「反露」で一致していると思いがちですが、アフリカ諸国の多くがその立場を鮮明にしていないという事実をご存知でしょうか。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、アメリカの外交専門誌掲載の記事を紹介しつつ、アフリカの国々が中立の立場を保つ理由を解説。さらにウクライナ戦争に関して、我々日本人が世界からどのように見られているかについても記しています。
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ウクライナ戦争で中立を保つアフリカ
ウクライナ戦争の報道に違和感があります。
ロシア側についているのは中国ぐらいで、あとは全世界がロシアを非難している、といった印象を受ける点です。
海外の報道を見ていると、必ずしもそうではないと分かります。
以下は、米国の外交専門誌、フォーリンアフェアーズのオンライン版9月5日に掲載された「なぜアフリカはロシアと欧米の間で板挟みになっているのか」というナンジャラ・ニャボラ氏の論文記事の要約です。
原文:Africa’s Ukraine Dilemma Why the Continent Is Caught Between Russia and the West
ロシアのプーチン大統領によるウクライナ戦争が7カ月目に突入する中、多くのアフリカ諸国はまだウクライナへの強い支持を示さず、欧米の指導者たちを困らせている。
紛争の初期、17のアフリカ諸国がロシアを非難する国連決議への支持を拒否した。ヨーロッパの外交官は侵略に反対する立場を取らないアフリカのリーダーに圧力をかけた。
しかし、欧米からの圧力は続いているものの、その後数カ月間、状況はあまり変化していない。
現在までのところ、戦争に対して強い姿勢を示しているアフリカ諸国は、ガーナ、ケニア、ナイジェリアなどほんの一握りで、それもロシアに対する特定の批判よりも、広く侵略を糾弾し、外交と平和を求める一般論に重点を置いたものであった。
アフリカ諸国がウクライナに関する欧米のシナリオを受け入れようとしないのには明確な理由がある。
アフリカは巨大で複雑、かつ多様な大陸であり、54の国と地域がそれぞれ独自の事情と歴史を持ち、ロシアや欧米との関係も異なるからだ。
アフリカ大陸の指導者たちが、即座に一つの立場に集約されると考えるのは無理がある。
ウクライナ問題でアフリカが欧米に同調しにくい理由の1つは、アフリカにおけるロシアのソーシャルメディア活動だ。
ロシアは大規模な偽情報キャンペーンを展開してきた。
戦争が始まって以来、アフリカのツイッターアカウントで広く共有されているある加工画像は、1970年代にタンザニアの自由戦士の訓練キャンプで、若いプーチンがサモラ・マシェル元モザンビーク大統領と会っていると称するものである。
現実には、そのような会合はありえない。プーチンは、この写真が撮影された時期にタンザニアにいた年齢ではない。
しかし、この写真は、アフリカ大陸における西洋の植民地的遺産に対するアフリカ人の不満を強める役割を果たしたこともあり流行した。
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解説
アフリカには多くの国があり、ロシア批判で簡単に一枚岩になれるものではない。その理由の一つはロシアのソーシャルメディアでのキャンペーンである、との意見です。
もちろん、ロシアはそれ以上の事をしています。軍事的支援です。
ロシアは重要な武器供給国である。
ストックホルム国際平和研究所によれば、現在、ロシアはアフリカへの最大の武器輸出国で、2017年から2021年の間にアフリカ大陸で購入された武器の44%を占めている(ウクライナもアフリカのいくつかの国、特に南スーダンへの武器供給国である)。
ロシアは、国連の非難決議を棄権したアフリカ諸国の多くに、ワグネル・グループなどの傭兵部隊を通じて軍事支援も提供してきた。
米国はソマリアなどの国で戦うためにウガンダの兵士を訓練しているが、ウガンダは主にロシアから武器を購入している。
フランスの大盤振る舞いの恩恵を受けているカメルーンは、ロシアによるウクライナ侵攻の直後の2022年4月にモスクワと武器取引に調印している。
マリ、エチオピア、ウガンダなど、現在ロシアに軸足を置いている政府の多くも、ロシアの支援によって政治的な存続を図っている。
ロシアはすでにアフリカ諸国への武器供給を拡大することを約束しており、明らかに彼らの忠誠心を買おうとしている。
解説
現実問題としてロシアは多くのアフリカ諸国に軍事支援をしており、そのおかげで政権を維持できている国がある、という事です。
当然ながら、それらの国がロシアを非難するはずがありません。
しかしもっと大きな問題があります。西欧がアフリカに対して行ってきた歴史です。
西側諸国の指導者たちは、植民地時代や新植民地時代の暴力的な歴史をすぐに忘れてしまうが、アフリカ諸国はその結果に対処し続けている。
アフリカの脱植民地化の戦争は古代の歴史ではない。
2018年、ケニアの英国植民地政府の生存する犠牲者たちが、1950年代のケニア独立戦争中に抑留キャンプで耐えた拷問について、英国政府を訴えることに成功した。
今年6月、ベルギー政府はコンゴ民主共和国の初代首相パトリス・ルムンバが所有していた金冠の歯を被害者の子孫に返還した。
アフリカの国の多くにとって、共産主義は西側諸国の植民地主義に代わるものであり、20世紀の独立運動の基盤であった。
冷戦時代、アフリカの戦争の多くは、ソ連とアメリカの代理戦争だった。
西側諸国は認めようとしないが、アンゴラ、コンゴ民主共和国、モザンビークなどでの紛争の遺産は、アフリカ大陸の多くの地域に長い影を落とし続けているのである。
アフリカ人が西洋と東洋の戦争に参加するよう求められたとき、国々は荒廃し、何百万人もの人々が死んだのである。
政治哲学者のフランツ・ファノンは、アフリカ諸国にとって、中立を保つことは生き残るために必要なことだと主張した。
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解説
アフリカの歴史が西側につくことを躊躇させており、中立を保とうとしているのだという論文です。
さて、振り返って日本の状況を考えましょう。
戦争の可能性があるとき旗幟を鮮明にすることは大事です。
軍事同盟(集団的自衛権)がある方が戦争に巻き込まれにくいという事は歴史が示しています。
日本はウクライナ戦争において明確に米国・NATO側に明確につきました。それは正しい事と私は考えています。
しかしながら、もし、日本人が(中国を除く)全世界がロシアを非難していると思っているならそれは間違いです。
この論文にあるように、ウクライナ戦争についてアフリカの多くは中立的な立場をとっていますし、アジアにおいても日本の対ロシア批判は目立っています。
NATO諸国と米国を除くと、日本は世界の中では特別に反ロシアであるという自覚はあった方がよいでしょう。
少なくとも世界の中でそのように見られています。(この記事はメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』9月11日号の一部抜粋です。この続きをお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
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