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3歳女児バス死。ずさんなヒューマンエラーを生むものとは何か?

静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で起きた通園バス内置き去り事件では、安全への意識の低さとずさんな運営の実態が明らかになっています。「防げた事故」「失わずにすんだはずの命」との思いを強く抱き、原因と対策を論じるのは、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さん。1つの重大事故には300のニアミス「ヒアリ・ハット」が潜んでいて、チェックを阻む「職場の空気」と注意を散漫にする「過酷な労働環境」を放置してはならないと訴えています。

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3歳女児バス死の悲劇。ヒューマンエラーは防げるか?

3歳の園児がバスに置き去りにされ亡くなったという、痛ましい事件から1週間。「2度とこんな悲しいことが起こらないように」と、国も幼稚園も動き出しました。

今回の事件の経緯が明らかになればなるほど、「なぜ?なぜ、ここで気づかなかった?」とやるせなさが募ります。「人間がそこにいる限り、ヒューマンエラーは避けられない」といえども、あまりにずさんです。

「なぜ、ここに私はいるのか?」という仕事上のミッションが欠落した“大人たち”の愚行が子供の命を奪ったのであり、幼稚園側が行った会見での対応も「ひどい」としかいいようがない、誠意が伝わらないものでした。

重大な事故の7割から8割はヒューマンエラーによるものとされていますが、1つの大きな事故の背景には、29の軽微な事故、さらには300のニアミスが潜んでいるとされています。いわゆる「ハインリッヒの法則」です。

つまり、ニアミス、すなわち「ヒヤリ・ハット」が起きたときに、「大惨事にならなくてよかったね」と安堵するのではなく、その先に起こりうる重大な事故が起こらないために、何をすべきか?を具体的に考え、徹底することが不可欠です。

例えば、数年前に医療現場で立て続けに人為的な事故が起き、社会問題化した際、多くの医療現場では、ヒヤリ・ハットが「どういう時に起こるのか?」という調査を徹底しました。

ハインリッヒの「98%防げる」という示唆を生かすために、積極的にヒヤリ・ハットを把握することで、効果的な予防策を講じようとしたのです。私も調査側のメンバーとして参加しましたが、つくづく感じたのが「職場の空気」の大切さです。

どんなに「ヒヤリ・ハットの報告」を義務付けても、できることなら自分の失敗は言いたくない。 「こんなことを間違えそうになったわけ?」 「何年、看護師やってるのよ?」 「仕事に集中してないからでしょ?」 などと、言われるのは嫌。つまり、「正直ものがバカを見る職場」では、ヒヤリ・ハット自体が把握できず、効果的な予防策を講じることが難しいのです。

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難しさはそれだけではありません。人間の「慣れる」という心の“癖”が邪魔をし、ヒヤリ・ハットをヒヤリ・ハットと知覚しなくなってしまうのです。

特に、業務量が多い、仕事のプレッシャーが高い、人間関係が悪い、サポートを得られない、休みが取りづらい、残業が常態化している、息の抜けない作業が多い、人手が不足している、トップやリーダーの安全に対する認識が低いといった職場環境だと、「ミス」が当たり前になりがちです。

むろん、個人の資質、注意不足、ヤル気のなさが、ミスにつながることもありますが、実際には環境の影響が大きい。だからこその「働き方改革」であり、トップの存在なのです。

幼稚園など保育の現場は、これまでも重労働、低賃金が問題視されてきました。子供のケアだけではなく、報告書や書類の作成、保護者への対応、各行事の計画や準備などなど、「机での仕事」が山ほどあります。慢性的な人手不足から、保育士さんが自分の子供がほしくても我慢するという、異常事態も報告されています。

今回のような痛ましい事件が2度と起こらないためには、すべての保育士さんたちがイキイキと元気ではたらける環境づくりが、極めて重要です。対策マニュアル作り→実施の徹底だけではなく、「働いているのは人」という当たり前を忘れないでほしいです。

みなさまのご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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