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涙の弔辞で国葬「政治利用」に成功。再登板を狙う菅義偉元首相“次の一手”

2020年の総裁選を制し総理の椅子を手に入れるも、わずか1年ほどでその座から降りることを余儀なくされた菅義偉元首相ですが、ここに来てにわかに「菅政権の復活」がささやかれ始めているようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、菅元首相再登板の可能性をさまざまな面から検証。さらに菅氏が返り咲きを狙えるという、自民党の人材不足の深刻さを指摘しています。

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国葬終わり、権力闘争の季節へ。菅前首相はどう動く?

反対の声が吹き荒れるなか、安倍晋三元首相の国葬が終わった。10月3日から始まる臨時国会は波乱含みだ。

国葬の強行はもちろんだが、統一教会との関係、円安、物価高と、野党が岸田政権を追及する材料には事欠かない。とりわけ統一教会との癒着は、自民党の生い立ちにもかかわる根深い問題だけに、対応を誤ると、岸田政権の命取りになりかねない。すでに内閣支持率は発足以来最低の水準に落ち込んでいる。

国葬まではと自重していた権力亡者たちの動きも、これから本格化するだろう。安倍氏の死で、党内最大派閥「清和会」(安倍派)から芯が抜け落ち、党内のパワーバランスに変化が兆しつつある。

もともと安倍派には、会長の後継をうかがう人間がウヨウヨしていたが、安倍氏が人材育成を怠ったせいか、傑出した存在がない。そのうえ下村博文・元文科相、萩生田光一・政調会長ら有力幹部に次々と統一教会との密接な関係をうかがわせる報道が相次ぎ、森喜朗氏がまとめ役にしゃしゃり出なければならない異常事態である。最大派閥の力の空白地帯こそが、これからの権力闘争の主戦場といえる。

そんななかで開かれる臨時国会に向け、野党に意外な動きがあった。なんと、立憲民主党と日本維新の会が“共闘”するというのだ。あれだけいがみ合ってきた両党が、この臨時国会で、しかも6項目についてという限定つきながらも、統一教会問題などで手を組み、力を合わせて岸田政権を追い込もうという姿勢だ。安倍・菅政権に対しては「ゆ党」とか「補完勢力」といわれた維新が、岸田政権には対決姿勢を鮮明にしたということになる。

この報を聞いて、なぜか筆者の頭に最初に浮かんだのが、菅義偉前首相の顔だ。周知の通り、維新は、松井一郎大阪市長をはじめとして、菅氏と格別に仲がいい。自民党との対決姿勢の裏に、菅氏がらみの政略が隠されているのではないのだろうか。

維新の創設者である松井氏と橋下徹氏は菅氏や安倍元首相と年末に会食するのが恒例になっていたが、今年は、安倍氏が亡くなった後の8月6日に東京都内の飲食店で3人、顔をそろえた。安倍氏を偲ぶとともに、今後について話し合ったとみられる。松井氏は政界引退を表明しているが、維新との関係を完全に断つとは思えない。橋下氏も、維新と縁が切れているわけではあるまい。

その一方で、維新は、リベラルのイメージがある岸田首相とは疎遠である。麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長ともソリが合わない。国民民主党の接近を与党が受け入れ、いわば「自公国」路線になっている現状にも不満がある。

立憲との連携には、そうした局面を打開し、当面の国会運営を有利に運びたいという思惑もあるだろう。

しかし、本音として維新が望んでいるのは、菅政権の復活ではないだろうか。

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安倍氏の死後、菅氏もまた、不完全燃焼だった総理への返り咲きをひそかに狙っているフシがある。「何もしない」とレッテルをはられた岸田首相と対比し、ワクチン接種の推進や携帯電話料金の値下げなどで示した実行力が一部メディアで評価されたのも、菅氏の自信を深めている。

菅氏は無派閥を通してきたが、今夏の参院選後に25人規模の政策勉強会を発足させる予定だった。しかし、安倍元首相の死という厳粛な状況を考慮し見送った経緯がある。

その意味で、国葬は一つの区切りである。国葬が終わり、一定の期間を経て、勉強会が立ち上げられる可能性が高い。この勉強会には菅氏に近い小泉進次郎氏ら無派閥議員のほか、麻生派の河野太郎デジタル大臣が参加する。二階派や森山派からも馳せ参じる議員がいるだろう。

筆者の見るところ、菅氏は自身の再登板を前提に、流動化しつつある安倍派にも触手を伸ばし、一大勢力を作りたいと思っているに違いない。

言うまでもなく、岸田政権は麻生派、岸田派、茂木派の三派が党内主流を形成している。安倍派の弱体化は政権基盤を強めるチャンスでもあったが、保守派の取り込みに焦って安倍元首相の葬儀を国葬とした後に、次々と統一教会問題が噴出し、「黄金の3年」どころか、政局の成り行きによっては、解散総選挙もありうる事態に陥っている。

菅氏にとっては、不意に転がり込んできたチャンスである。うまくやれば、いったん手放した権力を奪回できるかもしれない。安倍路線を引き継げるのは自分だけと言って働きかけたら、安倍派から菅氏になびく議員も出てくるのではないだろうか。

もちろん、菅氏には敵も多く、党内の再編には老獪な力を必要とする。そのような場面では、二階氏の存在がモノを言うだろう。そもそも、有力派閥の領袖に話をつけ2020年9月に菅政権を誕生させたのは当時の幹事長、二階氏である。

その二階氏は幹事長退任後、表舞台から遠ざかっていたが、9月16日に行われたCS番組の収録で、久しぶりの“二階節”を吹かせ、存在感を示した。

安倍元首相の国葬について。「欠席する人は、後々、長く反省するだろう。世の中にあまり賢くないということを印象づけるだけだ。選挙で取り戻すのは大変だぞ」。相変わらず人を食った発言。なぜか自民党のセンセイがたは、この手の人物に弱い。

苦境に立つ岸田首相はどうするのか。このところ岸田首相の懐刀、木原誠二官房副長官あたりから「10月解散説」が囁かれているという。もちろん、支持率が下がっているだけに、総選挙となれば、かなり議席を減らすだろう。しかし、野党は弱体なうえに、準備不足だ。負けることはない。選挙で「みそぎ」をすませれば、支持率も上昇に転じるのでは。そういう甘い観測らしい。

ただし、統一教会との深い関係が明るみに出た萩生田氏、下村氏ら安倍派の面々や、後出し公表の連続で往生際の悪い山際大志郎経済再生担当大臣(麻生派)らは苦戦するだろう。安倍派や麻生派の反発を覚悟で岸田首相が解散を決断できるかについては、少なからず疑問が残る。

いずれにしても、2年後の24年9月には自民党総裁選が予定されている。支持率が低迷したままでは、岸田首相の再選は難しい。前述したように、菅氏が虎視眈々と復権を狙っているのだ。カギとなるのは、麻生副総裁がしっかりと岸田首相を支え続けるかどうかだ。

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菅氏が勉強会を発足させる動きについて、麻生氏が警戒の目を光らせているのは想像に難くない。もともと、麻生氏と菅氏の仲は良くないとされていたが、勉強会の中心人物と見られる佐藤勉氏が、ほかの議員を連れて麻生派を離脱したことも不仲に拍車をかけていた。

だが、そこは大物どうし。菅氏と麻生氏は今年5月23日、二人だけで会食をするなど、いざという時のために人間関係をつないでいる。岸田氏が不利とみれば乗り換えることぐらい麻生氏にとっては朝飯前かもしれない。

このように書いてきて思うのは、自民党の深刻な人材難だ。そもそも、菅氏の返り咲きなど、想像もしたくない話である。

さりとて、他に誰がいるのか。林芳正外相は、ハニートラップ疑惑が気がかりだ。大王製紙の元会長・井川意高氏の下記ツイート(8月8日)で噂に火がついた。


今だから言います

4月4日に故安倍元総理と食事をご一緒したとき「林さんは中国のハニートラップにかかってるでしょうね」と仰ってた。

根拠もお話になっていた。

では、国民受けが良いとされてきた河野太郎氏や小泉進次郎氏はどうか。グループの拡大をはかる菅氏が彼らを押し立ててキングメーカーに徹するという見方もできよう。

しかし、河野氏を担ぐ場合、派閥のボスである麻生副総裁の感情や立場の問題があり、その調整が難しい。それに、河野氏はスタンドプレーのイメージが強いため、幅広く党内の支持を集められるかは疑問だ。とりわけ安倍派には“アンチ河野”が多い。小泉進次郎氏への期待も大きいが、安倍内閣で環境大臣に抜擢されて以降、歯切れのいい発言が影を潜め、伸び悩んでいる感がある。

長期政権のぬるま湯に浸かり、切磋琢磨を忘れて忖度がはびこった結果、新しいリーダーが生まれてこない。それが自民党の現実なのだ。

国葬で菅氏は、友人代表として、菅氏らしからぬ情のこもった弔辞を読み上げた党内の安倍シンパは涙なしに聞けなかっただろう。その意味で、菅氏は国葬の政治利用に成功したといえるかもしれない。

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image by: 菅義偉 - Home | Facebook

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