MAG2 NEWS MENU

陸上自衛隊セクハラ事件で明らかになった「個」を殺す日本の悪習

6月末のYouTube動画をきっかけに明らかになった陸上自衛隊内の女性自衛官に対する度を越したセクハラ行為について、9月末に防衛省が直接謝罪したのに続き、10月17日、加害者の自衛官4人が直接謝罪したと報じられています。この国のセクハラやパワハラはなぜ後を絶たないのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、健康社会学者の河合薫さんは、防止法案に専門家が求めた「禁止」の文言が入らなかったことを問題視。このままでは組織を守るために、「個」が殺されるこの国の悪習は続いていくと「禁止」条項の必要性を訴えています。

プロフィール河合薫かわい・かおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

この記事の著者・河合薫さんのメルマガ

初月無料で読む

元自衛官の女性による性被害告発だけじゃない。組織につぶされる「声」

4ヶ月ほど前の6月29日、あるYouTube動画が話題になりました。2020年4月に自衛隊に入隊し、半年間の研修後配属された部隊で、度重なるセクハラを受けた元自衛官(22歳)の女性が、性被害を告発したのです。

やっと、本当にやっと先月の9月29日に、防衛省は「複数のセクハラ行為が確認できた」として謝罪。一昨日の17日には、セクハラに関与した男性隊員のうち4人が、女性に会って直接謝罪し、退職する意向を伝えました。

私も6月29日の投稿でこの問題を知り、Twitterをフォローしていましたが、女性が「どうしても謝ってもらいたかった」という思いが、実現したことは本当に良かったと思います。

しかし、女性のTwitterには目を覆いたくなるような卑劣なコメントも多数書き込まれていましたし、自衛隊側の対応はあまりに酷い!としかいいようがありませんでした。

そもそも女性が受けたセクハラは、パワハラであり、暴力です。しかも、1回限りではなく、日常的に。個人ではなく集団で、卑劣な行為を繰り返した。見ている人は止めることもありませんでした。

女性をさらに追い詰めた、21年8月の山中の訓練でのセクハラは、もはや犯罪ではないかと思われるほど、ひどいものでした。男性隊員十数人の部屋に呼ばれ、「接待」を強要。酒を飲んでいる輪の中に座らせられ、男性自衛官に格闘技の技をかけられ、ベッドに押し倒された。そして、脚を無理やりこじ開け腰を振り陰部を押し当てた。周りは笑って見ているだけ。他の隊員2人にも同様のことをされたのです。女性はその後適応障害との診断を受け、休職においこまれました。

人事課にあたる「1課」にも被害を報告しましたが、「セクハラを見たという証言が得られなかった」との回答だったそうです。その後は、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊に、強制わいせつ事件として被害届を出したものの半年間も返答なし。やっと5月31日に返事がきましたが、不起訴処分です。これに納得いくわけがなく、女性は6月7日に検察審査会に不服申し立てをしました。

「このままでは自分がダメになる」──。自分の命の危機を感じた女性は、子供の頃から夢見た自衛官を断念し、退職。その直後に公開されたのが、冒頭の動画です。

この記事の著者・河合薫さんのメルマガ

初月無料で読む

18日の予算委員会でも、この問題を取り上げていましたが、そもそも日本にはセクハラ・パワハラを禁止する法律がありません。男女雇用機会均等法では、セクハラ防止措置を事業主に義務づけるだけ。パワハラ防止法でも、専門家がたちが繰り返し「禁止」を訴えたのに、パワハラ自体を禁止する文言は最後まで入りませんでした。

海外にもセクハラ・パワハラはあります。しかし、パワハラの「禁止」を法律で定めることで、どんな立場の社員でも弁護士を使って主張の正当性を確かめる権利を持てる。法律で明確にパワハラを「禁止」することで、部下に対して責任を持っている上司はパワハラ的な言動をしなくなります。しようものなら、自分の評価が下がる。自発的に部下を指導する際に圧力をかけるのをやめるのです。

たった2文字、「禁止」を法律に明記されるだけで、上司にセクハラパワハラを絶対させない、という自覚が出るはずなのに、日本はどこまでも「組織」を守ることしか考えません。いつだって日本の組織は「個」を殺します。組織が大きくなるほど、階層が厳密になるほど、「個」の声は殺され、「個」の心身は蝕まれる。

なぜ、こんなにも当事者が命をかけて戦わなきゃいけないのか。なぜ、勇気を振り絞って立ち上がっても、組織を守ることばかりが優先されるのか。つまるところ、トップ次第だと思うのです。

岸田首相は、予算委員会の答弁で、「現場部隊と防衛省、ともに対応が不適切だった」「あらゆるハラスメントの根絶に取り組みたい」と述べましたが、「禁止」という言葉は使いませんでした。ここでこそ、“検討士”の出番なのに。「禁止を検討する」と、なぜ言えぬ?

みなさまは、この問題についてどのようにお考えでしょうか? 是非ともご意見、お聞かせください。

この記事の著者・河合薫さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

河合 薫この著者の記事一覧

米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』 』

【著者】 河合 薫 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け