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中国メディアすら“称賛”をやめた、中国の新最高指導部7人の顔ぶれ

中国共産党の党大会が10月22日に閉幕。翌23日に明らかになった7人の最高指導部メンバー「七皇」の顔ぶれは、メディアや専門家の予想以上に「習近平体制一色」を思わせるものとなったようです。多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんは、事前の人事予想の無駄を指摘していましたが、その富坂さんですら少なからず衝撃の人事だったよう。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、「七皇」の顔ぶれから透けて見える習近平の思惑を読み解き、中国メディアすらも冷ややかな反応を示した習総書記3期目の船出を伝えています。

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新たな最高指導部メンバーから習近平の思惑を読む

中国共産党第20回全国代表大会が閉幕し、予定通り新たな中央委員会のメンバーによって最高指導部メンバーが選出された。出そろった「七皇」の顔ぶれをみて改めて考えさせられたことは、やはり党中央の上層部人事の予想は難しいということだ。

そもそも外国メディアが何のストレスもなく人事を報じ、ほぼ事前の予測通りになったのは、胡錦涛の党中央総書記への就任時くらいだった。当然といえば当然の結果だ。

それにしても習指導部の情報管理は徹底していた。これまで「二人交代説」(党中央政治局常務委員=常委が二人退き二人上がるという説)に始まり「四交代説」まで予測があふれた。李克強が首相に留任するとした説や胡春華国務院副総理の首相就任説、はたまた李首相の全国人民代表大会(全人代)常務委員長へのスライド説までメディアを賑わした「説」は引きも切らない。だが、いずれも当たらなかったということだ。

筆者自身、このメルマガでも触れてきたように事前予想には無力感を感じているので、分析にそれほど熱心ではなかった。それでも「二人交代説」(栗戦書と韓正)で、丁薛祥(党中央弁公庁主任=中弁主任)と胡春華の昇格という説が一番しっくりきていただけに、打ちのめされた。

前評判の高かった李強上海市党委員会書記(上海書記)も新型コロナウイルス感染症対策で大きな味噌をつけ、加えて年齢も少し高めなので、枠が二つであれば見送られるのではないか、と予想したのだった。

二人交代説が有力だと考えたのは、現状、中国を取り巻く環境の厳しさを考慮すれば、新人事はマイナーチェンジにとどめるのではないかという判断だった。しかし習近平の大胆さは、やはり筆者の予測をはるかに凌駕していたようだ。コロナ対策での不満など一顧だにせず、むしろ大胆に首相候補としてしまった。もっとも李克強も抜擢直前に河北省の売血問題で大失敗していたのだから、前例がないわけではない。

ただ中国の国民がこれをどう受け止めたのか、という点において筆者の感覚は多少は役に立つようだ。というのも、この最高指導部メンバーに対する評判は決して良くはないようだからだ。日本では、中国のメディアは完全に当局によってコントロールされ、すべてが茶番であるかのように扱われるが、現実は決してそんなことはない。

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例えば、今回の20大(中国共産党第20回全国代表大会)への反応だ。これまで政治報告などさまざまな発信がなされてきて、その都度多くの「称賛」がネットにあふれた。しかし「七皇」のお披露目に対しては、そうした「称賛」がピタリと止んでしまったのである。なんとも分かりやすい反応だ。

不満の多くは李強の抜擢に向けられていたと思われるが、それだけではない。今後もしトップが固定されたまま首相だけが交代するという流れができれば、習の4期目もその向こうに薄っすらと見えてくるということへのささやかな抵抗だとも指摘されるからだ。

もちろん別の見方もある。それは、今回の人事から指導部はいよいよ次世代のリーダーの育成に入ったという見立てだ。そのキーとなる人物が丁薛祥である。

丁について筆者は、習がドナルド・トランプ大統領と大阪で会談した当時(2020年)から「習の意中の人」と記してきたので、期待し過ぎなのかもしれないが、立ち位置的には面白い。というのも序列第6位とはいえ、年齢を考えれば李強に次ぐポジションで、さらに李がこのまま首相を務めるならば、なおさら「次」の人材として期待が高まるからだ。

実は筆者は『週刊東洋経済』の連載で、丁のほか胡春華と陳敏爾重慶市党委員会書記の存在にスポットを当ててきた。その丁とは逆に冷や飯どころか絶望の淵に立たされたのが胡春華だ。重要ポストからは遠ざかることがはっきりしてしまった。

年齢や能力から考えて、政治局委員にとどまって「次」をうかがったとしても不思議ではない人材なのに、政治局委員からもはずれてしまったのだ。その意味では陳はまだそうしたポジションに留まったといえる。

この人事をメディアは「習近平と共産主義青年団=共青団の対立」として描くが、それだけでは説明できない。胡の能力は確かに習に認められていたし、実際に党の一つ目の100年目標である「脱貧困」では大きく貢献したとして高く評価もされている。この点を考慮すれば、単純に習近平の権力の維持にとって邪魔な存在だったと考えるのが妥当だろう。

ネットの反応もおそらく同じだ。胡を政治局委員からも外したのは、やはり習の4期目への布石だととらえたのだ。この視点に立てば、当然、丁の「次」も危ういという話になり、習の4期目は相変わらず5年後も引きずることになるのだろう──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年10月23日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Mirko Kuzmanovic/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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