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クーデター発生の可能性も。“子飼い”で周辺を固めた習近平が抱える新たな火種

5年に一度の共産党全国代表大会を経て発足した第3期習近平政権ですが、前途洋々とは行かない可能性が高いようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、軍事クーデター等を含む習近平氏が抱える複数の火種を挙げ各々について詳説。さらに今後の中国の「版図拡大」にウクライナ戦争が大きく関わってくるとして、その理由を解説しています。

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世界は一体どこへ向かっているのか?

「世界は、国際社会は一体どこに向かっているのだろうか?」

中国で5年ぶりの中国共産党大会が閉幕し、習近平国家主席が異例の3期目を手中に収め、自らの長年の側近と子飼いを新最高指導部(チャイナセブン)に引き立て、敵対関係にあったともいわれる胡錦濤前国家主席派を排除することで、自らの権勢の基盤を強固なものにしたと言われていますが、実際にはどうなのでしょうか?

いろいろな状況を見ていると、すでに習近平国家主席の3期目は厳しいものになるだろうと予想されます。

言い換えると、習近平体制は言われているほど、安泰とはいえないと思われます。まず、閉会式で起こった胡錦濤前国家主席の退席騒動は世界にショックを与え、また様々な憶測を呼んでいますが、前国家主席をぞんざいに扱い、かつ彼が目をかけていた胡派の面々を冷遇したことで、早速、周辺に火種を抱えることになったと思われます。

共青団に対する習近平国家主席のライバル心は有名ですが、周辺を子飼いで集め、反対勢力を最高指導部から排除したことは、常々噂される政権・体制転覆に向けた機運を再燃させるかもしれません。

習近平国家主席は自身、終身国家主席・党主席を狙っているとされていますが、さすがに次はないだろうとも見られており、これから5年の間に共青団側からの反攻が起こるかもしれないとの予測も多々行われています。

2期目の間に弱点とされていた中国人民軍の制御も成し遂げたかと思われていましたが、台湾を核心的利益と位置付けながらも、米ペロシ下院議長の訪台を許し、その後もアメリカの議会関係者の相次ぐ訪台を許したことは、軍の強硬派からは看過できない大失態と受け取られており、3期目に入って以降、もし台湾情勢への対応が生ぬるいと感じられた場合には、クーデターの可能性を含むネガティブキャンペーンが実行されるかもしれません。

これまで台湾対策を一手に担ってきた子飼いも、今回の共産党大会を経て昇進して台湾海峡対応から外れたことも様々な憶測を生み、人民軍内での微妙な力のバランスに影響がでる恐れがあると、すでに分析がなされています。

いろいろな危険な憶測ゆえでしょうか。共産党大会開幕時、そして3期目が確定した際にも、再三、台湾併合への強い決意を述べていますが、現行のロシア・ウクライナ情勢の動向を受け、どこまで迅速に、軍部を納得させることが出来る行動に移せるかは微妙だと見られています。

次に習近平体制の根幹を揺るがしかねないのが、失速している経済成長率と高成長時に成長のエンジンとなっていた不動産業界への強度の締め付けに対して聞かれる不満(一応、バブル時に比べて物件価格は3割強下がり、消費者に恩恵と取られてもいいはずですが)が増大していること、そして何よりもゼロコロナ政策の徹底が経済活動を実質上停止させていることで、多くの破産・閉業が起きていることも大きな不満のもととなっているようです。

特に国家資本主義の下、中国共産党が国民生活を“指導”する役割を担っているにもかかわらず、政府の経済のかじ取りはお粗末と言わざるを得ず、ゼロコロナ対策が生み出す国内の歪みと相まって、国民の不満が噴出する可能性が高まっていると言われています。

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特に今回、李克強首相の後任として経済のかじ取りを任される李強氏(上海市総書記)は、ゼロコロナ対策の強い締め付けの結果、市民から直接罵声を浴びさせられるという失態を演じていますが、このエピソードは国民からの信頼度の低さと、国民の怒りのレベルの高さを示すものと言えるでしょう。

李強氏の総理就任は習近平氏の3期目のアキレス腱・時限爆弾とも言われており、経済対策の失敗は彼の失脚どころか、習近平体制の終焉と共青団などの勢力の復活によるパニックを生み出すことになるかもしれません。

そして今回、非常に不思議なのが、共産党大会が終わるやいなや、国営メディアも習近平国家主席の称賛のトーンを控えるか止めていますが、これは何を意味するのでしょうか?少し不穏な空気を感じざるを得ません。

【関連】中国メディアすら“称賛”をやめた、中国の新最高指導部7人の顔ぶれ

とはいえ、ついに念願の3期目を射止めた習近平国家主席と指導部は、今後、どのような外交を展開するのでしょうか?

これまで苦慮しつつも支え続けてきたプーチン大統領とロシアを、そして今年に入ってから弾道ミサイル発射を繰り返し、近々核実験を再開すると見られている金正恩と北朝鮮を、3期目を確定させたこれからも支え続け、台湾有事の際に備えて恩を売っておくのでしょうか?それともこれを機に見捨てるのでしょうか?

その答えは、よほどのサプライズが国内またはロシア・ウクライナなどで起きない限りは、そう遠くないうちに見えてくると思います。

では悪化の一途を辿り、なかなか緊張緩和のチャンスが見えて来ない対米戦略はどうでしょうか?

3期目に向けて国内の支持基盤固めと反対勢力の追い落としに邁進していたころは、反対派から「習近平国家主席は過度にアメリカとの緊張を高め、中国経済の成長率を下降させた」とか「これからアジアでの勢力圏、そしてパクスシニカ・パクスチャイナを築き上げようとしているときに、不用意に中国包囲網を形成させることになった」と非難されていたこともあり、しばらくは対立構造の明確化を控えていましたが、それもペロシ下院議長ほかの訪台を機に、国内での反米感情が高まったことで、対米強硬策が再度日の目を見ることになったと言われています。

すでに3期目を手中に収めた身としては、アメリカとの直接戦争というエスカレーションさえ防ぐことが出来れば、自身の宿願である台湾併合の実現と、名実ともに世界最大の経済国の達成のためにアメリカとの緊張を高める作戦に出る可能性が指摘できます。

不安材料は、その対米強硬策と経済的な覇権の国際的な拡大の司令塔が、3期目の指導部に存在するか否かでしょう。

しかし、習近平指導部に対して今のところラッキーに働いているとすれば、対抗するアメリカが、中国を台湾海峡情勢などに対して非難を強めているとはいえ、実際には軍事的にも資金的にも、そして政治的にも、ロシアによるウクライナ侵攻に掛かり切りで、本格的に中国対応が出来ていない点でしょう。

それに気づいているのか、中国はまた着々と国家資本主義体制のエリアを広げる動きに出始めています。そのかじ取りは、今度政治委員となった王毅外相に託されるようで、赤い経済圏の拡大はしばらく続くものと思われます。

習近平国家主席の3期目、つまりこれからの5年間で、中国がどこまで勢力を伸ばすかは、実は「ウクライナにおける戦争がいつまで続くか」に大きく関わってきます。

習近平国家主席は実際にはプーチン大統領とロシアの行いを庇いきれないと感じていると言われていますが、ロシアによる無茶苦茶な行いは、同時に中国に勢力拡大のためのスペースと時間を提供しているという皮肉な現実が、ロシアとつかず離れずの態度を継続するという決断に至っているようです。

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そこで気になるのが、プーチン大統領とロシアの出方です。一説には各地での劣勢が伝えられ、ウクライナからの巻き返しに翻弄されると同時に、欧米、とくにアメリカから供与されるハイマースなどの威力に面喰っていると言われ、劣勢を逆転するためにウクライナに核兵器を使用するのではないかと言われています。

しかし実際にはどうなのでしょうか?

私も再三、「プーチン大統領は追い込まれたら核を使う可能性が」とお話ししていますが、最近気づいた大事なポイントは「実はロシアは一度も公式に核使用について表明していない」ことです。

プーチン大統領の「ロシアは世界最大の核戦力だということを忘れるな」発言や、ロシアの軍事ドクトリンや「核抑止の分野における政策の基本」、核ミサイルを含む軍事演習、ウクライナ国境沿いへの核搭載可能ミサイルを含む兵力の展開に加え、強硬派のメドベージェフ元大統領などが核兵器使用に言及しているだけです。

実際にチェチェン共和国のカディロフ氏や、新たに総司令官になったスロビキン上級大将(Mr.アルマゲドン)などは核兵器や化学兵器の使用に言及していますし、近々、焦土作戦に打って出るのではないかとの見解もありますが、どちらにも核兵器使用の権限はありません。

ロシアの劣勢が伝えられる中、まだ核兵器使用に踏み切っていないのは、核兵器は使えないか、使いづらい兵器になったとの認識がプーチン大統領とその周辺でも共通認識としてあるからではないかと考えます。

仮に小規模核であったとしても使ったらレッドラインを超えることになりますし、実質的にウクライナの抗戦意欲を割き、NATO各国の行動を一瞬でも抑止するためには数発使わないと効果はないと言えるでしょう。

つまり、プーチン大統領の頭の中では、アメリカ(NATO)との核による直接対決を恐れる度合いが、核使用によって得られるものよりは大きいと考えられるため、“普通に考えたら”核使用には踏み切れないという結論を出せると思います。

ただし、問題は、もう政治レベルや戦略レベルではなく、恐らくプーチン大統領個人の意図と意志次第となっており、まだロシアが核兵器を使わないとは断言できません。

ところで、ロシアは追い詰められてはいると言われていますが、本当に回復不能なslippery slopeを滑り落ちているのでしょうか?

誘導爆弾やミサイルについては、経済制裁の影響で生産が追い付かないため、在庫が減少していると見られており、それは欧米の情報戦としてではなく、ロシア軍も実際に認めている状況のようです。

しかし、それは最新鋭の兵器の話であって、無差別攻撃に用いるような兵器・ミサイルはまだまだ潤沢にあり、変な言い方をすれば対ウクライナ戦線で旧型兵器の在庫一掃セールを行うことは可能と言えます。

それに加え、最近になってイランから無人ドローンが提供され、それをコントロールする革命防衛隊がロシア入りしているとの情報が多方面から確認されていますし、これは未確認情報ですが、北朝鮮が弾道ミサイルをロシアに提供しているとの情報があり、これは弾道ミサイル実験をより実際の戦場で実地的に行いたいという平壌の意図があるのではないかという分析も出てきました。もし本当だとしたら、戦争は別の様相を帯び始めていると言えるでしょう。

以前よりお話ししていますが、ロシア軍はChemicalを使うことには、あまり心理的なreluctancyはないとのことで、もしかしたら核も、私たちが考えるよりもはるかに気軽に見ているかもしれないという声が多数届いています。

小型核兵器・戦術核兵器は、通常兵器の延長線上の兵器と考えられている節があり、もしそうであれば今後、使用される可能性はあります。特に戦略核兵器とは違って、戦術核兵器の使用権限が現場の指揮官に委ねられているとしたら…。

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これに関して気になる情報が入ってみました。これも要確認であることはお断りしておきたいと思いますが、習近平国家主席の3期目が確定してすぐに、中国政府が在ウクライナの中国人リーダーに命じた即時退去と、ウクライナに伝えたとされる「ロシアによる総攻撃が近い可能性」です。

真偽のほどは分からないと申し上げておきますが、もし何かロシアから掴んでいるのだとすれば、それは中国が台湾に攻撃を仕掛ける際の戦略に何らかのつながりがあるかもしれません。

ロシアによる核兵器の使用は、どのような理由があったとしても許すことができない暴挙ですが、すでに一方的に4州を併合し、クリミアの維持に注力し、それらの地を“ロシアの領土”と位置づけ、いかなる攻撃もロシアの国家安全保障へのチャレンジだとこじつけたとしたら、支持できるか否かとは別次元で、これはロシアが定めた核兵器使用のためのドクトリンに合致するため、越えてはならないレッドラインをまたいでしまうことになるかもしれません。

日本の安全保障の立場から見れば、ロシアによるウクライナ周辺での核使用は、断固として反対し激しく非難しても、直接的な被害を受けることはありませんが、これは同時にシベリアおよび北方領土へのいかなる挑戦も…というこじつけがロシア政府によってなされた場合は、直接的な核の脅威に曝されることになります。

このような場合、本当にアメリカ政府とアメリカ軍は核の傘を提供してくれるでしょうか?

そしてもし中国が最終手段として、台湾海峡および南シナ海周辺で、自国の国家安全保障問題への懸念という理由から核使用も辞さないという状況に追い詰められ、アメリカおよびその仲間たちと対峙するような事態になったら、これはまた日本によっては直接的な脅威に曝されることを意味します。

このような場合でもアメリカは日本を中国の核から守り、同時に有事には核での報復をしてくれるでしょうか?

その答えは、現在、アメリカ政府内でも意見が分かれるところのようです。ウクライナおよびその周辺で、ロシアによる核使用の可能性が高まったという認識から、核使用の場合、アメリカはNATO同盟国を防衛するためにロシアに核での報復攻撃が出来るのか否かという問いが投げかけられています。

核攻撃に対して通常兵器で報復するというのは同盟国の目から見るとあり得ないでしょうが、核による報復に踏み切った場合は、核による報復の応酬という地獄に導かれることになります。

同盟からの信頼とアメリカ軍のプレゼンスへの挑戦と見ることが出来ますが、戦略上、答えが出ないとても重要なジレンマと言えます。

もし中国がさらに台湾海峡に圧力をかけた場合、アメリカは台湾のみならず、同盟国・日本と韓国を守ることが出来るか?

そしてロシアがなぜか息を吹き返し、シベリアで日本と韓国に対して圧力をかけた場合に、アメリカは対峙するだけの力と覚悟を持つのか?

日米安全保障条約上は、答えはclear cut YESであってほしいと思いますが、アメリカ軍部内でも疑問視されるほどウクライナに肩入れし、ハイマースなどを供与した結果、国内での在庫が追い付かない状況にまで陥っている状況下で、ウクライナ、台湾、南シナ海、北朝鮮などによる同盟国に対する脅威に責任を持って対応できるのかが今、問われているようです。

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余談ですが、今、ロシア軍を押し返し、反攻攻勢がうまく行って勢いに乗るウクライナ軍ですが、近々アメリカからの軍事的な支援が滞ると見られており、そこから一気にロシアに押し返され、戦況が再逆転する可能性が懸念されています。そうなった場合、プーチン大統領に対する反対派は一気に萎み、もしかしたら核兵器使用の脅しを後ろ盾に好き放題するプーチン大統領の姿をまた見なくてはならない状況になるかもしれません。

その時、日本はそんなロシアとどう対峙し、付き合うことが出来るのでしょうか?

私には明るい兆しがあまり見えてきません。

核使用に関する様々なシナリオと憶測が、どうかただの妄想でありますように。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Marlin360 / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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