今年も10月下旬に文科省より発表された、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」。しかしながらその内容は、「現実を捉えたもの」とは言い難いようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、問題行動調査における「数値の疑問点」を列挙。さらにこの調査の根本的な問題点を指摘しています。
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いじめの認知数、なんか数値がおかしい!
いわゆる「いじめ白書」
令和4年10月27日、文部科学省は「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」を発表した。
最も注目されるのは、いじめの認知数だ。
令和3年度は過去最多の「61万5,351件」であった。報道をみると、コロナの緩和などが原因かとなっているが、数値の推移を見れば、外部的要因はないと判断できる。唯一あるとすれば、「いいめ防止対策推進法」の施行により、いじめの定義が変わったことくらいであろう。
解消率の疑問
いじめの解消率は、毎回高水準の数値を示しているが、これは大いに疑問が残る。
なぜ疑問が残るのかといえば、いじめ解消には定義があるのだ。
いじめ解消の定義
いじめ行為が止んでから目安として3ヶ月(長くなってもよい)、被害者が心身の苦痛を感じていない状態をいじめ解消とする。
もちろん、いじめには法律定義があって、広義の意として「一定の関係性」「何らかの行為など」「当該児童などの心身の苦痛」でいじめとなるから、その軽重の差はあろう。
しかし、その被害の重さは、個人差があって、表面的な被害のみではかれるものではない。だからこそ、経過観測が必要であり、慎重に判断すべきだからこそ、一定の期間が必要だと考えられているわけだ。
いじめ解消の定義をみれば、細かな計算をしなくとも、発生したいじめが8割解消したというのは、いささか信じられない数値だと言えよう。
数値の疑問点はまだまだある。
都道府県で1,000人あたりの認知件数の平均は「47.7件」であるが、山形県が「126.4件」であるのに対し、愛媛県は「12.8件」であるのだ。
およそ10倍もの差があるのは、こうした数値として考えれば、異常値と言える。
もはや、地域差とはいえる代物ではなく、ほぼいい加減なんだろうと見るしかない状態と評価しても過言ではない。
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不登校も最多
私は「不登校」という言葉があまり好きではない。理由はいじめで適応障害となり、学校に行きたくても通えなくなった子やヤングケアラーで通う事自体がきつい状態のこの相談を受けているからだ。
さて、令和3年度は、小中学校における長期欠席の認知数も41万3,750人で過去最多であった。新型コロナウイルスの感染回避などもこの中には入るが、不登校というカテゴリーでは、24万4,940人であり、これも過去最多であった。
不登校については、その原因が毎回不透明に感じるのだ。
というのは、不登校の経験者や現在不登校の生徒が集まるという塾やフリースクールに何度か視察に行ったことがあるが、ほぼ8割の生徒が、「いじめ被害」の経験者であった。
これ自体は私の経験に過ぎないが……
不登校の要因をみると
1位「本人に係る状況」無気力、不安 121,796件
2位「本人に係る状況」生活リズムの乱れ、非行など 28,749件
3位「学校に係る状況」いじめを除く友人関係をめぐる問題 23,741件
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・・・
「学校に係る状況」いじめ 516件
とあるが、過去、NHKが不登校調査をしたときは、いじめは文科省調査の52.5倍であり、家庭に係る問題は文科省調査のおよそ3割マイナスであったのだ。
仮にこのNHK調査の数値をそのまま反映してみれば、いじめは「2万7,090件」となる。この方法は乱暴だとは思うが、数値としてはしっくりくる。
そもそも「いじめを除く友人関係をめぐる問題」とは?と聞けば、「喧嘩」とかとされるのだが、冒頭のいじめ防止対策推進法のいじめ定義を鑑みれば、喧嘩という行為によって、不登校になったのは、心身の苦痛の表れとも考えられるのだから、「いじめを除く」は適切ではない。
地方自治体に任せっきり調査はもうやめないか
文科省はこうした調査を都道府県の教育委員会などに任せ、都道府県は市区町村の教育委員会に任せ、教育委員会は学校に任せてきた。
私が思うに、こうした任せっきり体制が、地域差としては異常値をはじき出したり、総務省に勧告されるような異常報告になっているのではないだろうか。
そもそも、GIGAスクール構想によってタブレットパソコンなどはほぼすべての学校に行き渡っているはずであり、これを使えば、文科省は直接アンケートを収集できるはずなのだ。
ITをせっかく導入しているのに、いつまでも使わなければ、宝の持ち腐れであろう。
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こどもたちはいじめの定義を知らない
いじめ防止教室や道徳教育、キャリア教育などの一環で、私は学校で児童生徒対象に授業を行うことがある。もちろん保護者対象、教職員対象ということもある。
私は教員免許も持ってるし、講義は探偵学校でも毎回やっているから、こうした講演は慣れているが、その中で、いじめの定義を知っているかどうかを質問すると、正確に答えられる児童生徒はほぼ皆無と言える。
保護者に関しても、答えられたのはごく一部であり、ほとんどは答えられない。
つまり、調査対象となる児童生徒などが、いじめとはなんぞやの基本となる、いじめ防止対策推進法のいじめ定義を知らないのだ。
その上で、やれ「いじめ」は何件?とやるのは、それこそフェアではない。
何よりも先に「いじめとはなんぞや」を理解した上で、調査をしていかなければ、正確な実態把握は夢のまた夢であろう。
編集後記
本日、私は出張中。
1日に複数件、県を飛び越え、数百キロ、何時間も移動をしつつ、食事もそこそこに、一気にいじめ問題などの介入をしていきます。
そのたびに思うのは、だめな教育委員会、学校ほど、やたらと家庭のせいだと言うこと。中にはでっち上げもあるということです。
重要な資料は無くなり、あっても開示せず真っ黒塗りしてしまう。
これこそ権力乱用以外の何物でもない。そして、なぜ私がこんなにも忙しいのか…活動する団体と人が著しく少ないのです。
権力と戦うのは怖いです。私も何度も「抹殺する」と言われており、今でもそうした対策を率先してやってくるヤカラのような人たちもいます。
やっていて、良いことはたくさんありますが、デメリットもたくさんあります。なにせ権力を敵に回すわけですから。
一緒に活動したいという人がたくさん来るのは、きっと今、日本になにかの変化があるからなのかもしれません。
初期講座無料で、いじめ探偵の基礎となる「いじめGメン講座」を予定しています。
ぜひ、ご参加ください。
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