佐藤正久参院国対委員長代行が「防衛納税」というアイデアとその理由を語ったことで、ネットでは返礼品の話題が盛んになっているそうです。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、ファッション業界でその返礼品を考えられないかと、自身のアイディアを提示し、さらに自衛隊自体がライセンスを所有することの重要性についても語っています。
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防衛ファッションプロジェクトの提案
1.ふるさと納税があるなら防衛納税も
11月13日のフジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』で、自民党の佐藤正久参院国対委員長代行が「ふるさと納税があるなら防衛納税の発想もあっていい」と述べた。防衛費増額の財源にふるさと納税の仕組みを活用する案を改めて披露し、「国防は最大の福祉だ。ウクライナを見てほしい。応分の負担、安定的な財源が必要で、そこは(国民に)お願いしないといけない」とも語った。
そんな中、ネット上では防衛納税の返礼品の話題で盛り上がっているという。ふるさと納税では、各地域の農水産物等が人気だが、「防衛納税」では“海軍カレー”のレトルトぐらいしかないのではないか、と言われている。その他に、ミリタリーマニアの間では、中古ヘルメット、中古マガジン等の他、演習や観艦式などの見学チケット優先配布などを希望する声が多いとか。
ここまで議論が進むのなら、ファッション業界人の出番ではないか。ファッション業界には「ライセンスビジネス」のノウハウがあるのだ。
2.自衛隊のブランドライセンス
私が最初に考えたいのは自衛隊Tシャツ。Tシャツはメディア機能もあるので、メッセージを伝えることができる。まずは、自衛隊に対する国民の意識を高めることが必要だと思う。
当然、戦争を煽るようなデザイン、敵国を指定する内容は好ましくない。あくまで「平和を守る」「平和を維持する」というメッセージに限定するべきだろう。
自衛隊の装備品、軍用機、軍用艦等は、秘密保持に影響がなければ、モチーフとして使える。ディズニーがライセンス用に作成している電子版画像集を販売するのも良いだろう。もちろん、そこにもライセンス料は含まれる。
自衛隊の各地域の基地の名称も地域ブランドとして使えるだろう。あるいは、その基地に所属している部隊等の名称。
「ブルーインパルス」は子供服でも、親子服でも良さそうなので、ブランドとして登録して、ブランドライセンスも良いだろう。
自衛隊の制服、戦闘服のライセンスも可能だ。実は、自衛隊は予算が厳しく、制服の交換もままならない状況である。
もし、戦闘服のテキスタイルをライセンス商品として民間で使えるようになれば、生産数量も増え、価格を引き下げることが可能だ。逆に、更に高性能な素材開発も可能になるのではないか。
迷彩プリントは図案そのものを登録して、ライセンス商品として売り出すのも良い。
自衛隊で使用しているテントや寝袋はアウトドア、キャンプ用品へのライセンスが可能になる。
現在も、自衛隊の備品を放出品として販売しているが、あくまで本物であり、数量が限定されている。ライセンス商品を認めれば、数量の限定は外れ、ビジネスを成長させることが可能になる。企業が事業として取り組む価値が出てくるのだ。
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3.自衛隊の競争入札の見直しを
現在の自衛隊は、日本の最高の技術を導入できない仕組みになっている。それは競争入札だ。昔なら、競争入札にした方が癒着のない公平な取引ができただろうが、現在は状況が変わっている。
例えば、圧倒的な強度を持つ繊維が開発されたとする。当然、生産する企業は特許等で技術を防衛している。つまり、一社しか供給できない。
この場合、競争入札が成立しないので、自衛隊はその圧倒的高性能素材は使えない。しかし、その素材を輸出することは可能なので、人民解放軍が採用する可能性は否定できない。
こんな無意味な仕組みがいまだに生きている。むしろ、自衛隊は素材開発の段階で企業と共同開発し、独占するべきではないのか。そして高い価格で同盟国に販売すればいい。米国が日本に高い価格の兵器を売りつけているように。
自衛隊がライセンスという権利ビジネスの発想を持てば、自衛隊という存在が様々な資産を持ち、ビジネスの可能性を秘めていることが分かるだろう。
ライセンスを契機に、民間企業とWIN-WINで防衛力を高めるための法整備を進められればと思う。
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4.自衛隊ライセンスの運用
自衛隊が、軍の名称、部隊の名称、基地の名称、制服や装備品の意匠権、自衛隊が定めたキャラクター等の知的所有権を明確にすること。そして、その知的所有権を使ったライセンスビジネスを行うこと。ロイヤリティ収入の使い途、意思決定の仕組み、非課税か否か等を法律で決め、それを具体的なライセンス契約書に落し込むことで、自衛隊ライセンスビジネスが可能になる。
それでも、運用に課題は残る。通常のライセンスは一業種一社等の制限を設けるが、これは難しいだろう。業種や商品の制限、最低売上等の制限はなるべく外し、純粋に売上歩合とした方がいい。
問題は商品のアプルーバルだが、これは自衛隊内部と外部からの人材を含めたチームで対応するしかないだろう。
こうした構想が持ち上がれば、大手広告代理店が手を挙げるだろうし、役所としても一括して任せれば運用も容易である。しかし、彼らに任せればビジネス拡大に走り、中抜きの利権が生れ、癒着と不正が生じるだろう。
最初から大きなプロジェクトを目指すのではなく、冒頭に述べたように、まずはTシャツからでも良いかもしれない。小さなビジネスからスタートして、運用は非営利団体が行い、権利を大手代理店に独占させないことが、健全なビジネス運営につながると思う。
編集後記「締めの都々逸」
「国防予算を ケチるのならば 勝手に稼ぐ 途もある」
自衛隊ライセンスビジネスがなったら、こんな商品もできる、こんなビジネスもできる、と興奮したのですが、運用を考えると中々面倒くさい。最初からそれなりの売上が見込めるプロジェクトにはいろいろな人が群がってきます。
それを避けるには、最初は小さく、儲からないビジネスとしてスタートした方が良いのかもしれません。ま、それでも儲かり出したら、同じですけど。
それにライセンスだろうが、防衛納税だろうが、収入が発生すると、財務省がその分だけ防衛費を削減するかもしれないんですよね。なんだかなー。(坂口昌章)
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