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ほんまでっか池田教授が警告。囚われるとドツボの埋没コストとタラ・レバ妄想

1年で倍になると誘われて出資し、半年ほど経ってこのままでは損するからいくらか追加してくれと求められると、かなりの人が応じて損が膨らんでしまうことがよくあるようです。掛けてしまったコストを諦められずに酷い目に遭うのは、始めてしまった戦争をやめられず、数百万人の犠牲者を出してしまった過去の日本と同じと指摘するのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみ、生物学者の池田清彦教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で池田教授は、投資やギャンブルにおいて「埋没コスト」と「タラ・レバ妄想」に囚われると身を滅ぼしてしまうと警鐘を鳴らしています。

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埋没コスト、タラ・レバ妄想、正常化バイアス

今年7月に養老孟司と『年寄りは本気だ』と題する共著を出した。その中で太平洋戦争はミッドウェー海戦の敗退で、もはや勝てる見込みはなくなったのに、なぜずるずると戦争を続けたのかという疑問に対して、養老さんは、ここでやめれば、それまでかけたコストが無駄になると思ったのだろうとおっしゃられて、私も同意した。

沢山の人命と戦費を犠牲にしてここまで戦ってきたのに、ここで降参してしまったら、亡くなった人に申し訳ないし、費やした膨大な戦費も無駄になる。すなわちこれらは埋没コストになってしまうという理屈だろう。しかし、戦争を終結する決断をしなかったばかりに、その後、数百万人の犠牲者を出すことになった。

ミッドウェー海戦の敗北で白旗を上げていたら、その時点での埋没コストは発生しても、その後に発生するであろう更なる埋没コストは発生しなかったわけだから、合理的に考えれば、即座に敗北を認めればよかったのに、と今なら多くの人は思うだろう。尤も、合理的に考えるなら、米英と戦争を始める時点で、彼我の国力の差は明瞭だったわけで、戦争を始めたのがそもそもの間違いだったのだけれどもね。

そう主張すると、それは結果論で、勝てる芽もないわけじゃなかった、と反論する人もいると思うが、客観的な数値を見れば、総力戦である近現代の戦争で、国力が劣る方が勝つ見込みはほぼないと思ってよい。

真珠湾攻撃を仕掛けた1941年の日本のGDP(国内総生産)を1とすると、その年の米国のGDPは5.4、英国のGDPは1.7で、合わせて日本の7.1倍。普通に考えれば、勝てる訳がないが、軍事力は拮抗していたので、短期決戦で勝負を付ければ、勝てるかもしれないと甘い期待を抱いたのだ。

これは戦争末期の神風特攻にも言えることで、特攻機・1機で敵の戦艦を撃沈することができれば、こんなに効率的な戦闘方法はないわけで、実際、敵がまさかパイロットもろとも戦艦に体当たりしてくるとは思わなかった特攻の初期には、それなりの戦果を挙げたけれども、特攻に備えるようになってからは、戦艦に体当たりする遥か手前で撃ち落とされることが多くなった。

特攻というのは、特攻機の大半が首尾よく敵の戦艦に激突すれば、大勝利間違いないという、タラ・レバの妄想に基づく戦法で、合理的に考える限り、NGな戦いであるのは自明である。考え得る限り、自分にとって最も理想的な結果を想定して事を始めるのは、埋没コストを切れないことと並ぶ、物事が失敗する2大パターンで、この2つを同時にやったのでは敗戦は必定だったと思わざるを得ない。

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埋没コストを切れないというのと、タラ・レバを夢見てドツボに嵌るのは、何も戦時ばかりではなく、一般の人の日常生活においても良くみられる傾向である。少し前まで、美味しそうな投資話につられて、全財産を失ったという話がよく話題になっていたが、話を聞いてみると、これも埋没コストを切れないので、ずるずると投資を続けた結果だということが多い。

とりあえず、1年で2倍になりますからという、投資会社の勧誘員の口車に乗せられて100万円投資したとする。半年くらいして電話がかかってきて、どうも、ちょっと具合が悪くて、このままでは損してしまうのであと100万追加してくれれば、今度こそ、必ず儲かりますから、と言われて、そこでまた追加の100万円を預けてしまう人が結構いる。この人の頭の中では最初の100万円が埋没コストになってしまうのは避けたいという心理が働いている。100万円全額帰ってこなくても、私が愚かだったのでまあ仕方がないというふうには、人はなかなか考えられないのだ。

あるいはA社の株を100万円分買って、すぐに90万円に下がったとする。これは失敗だったと考えて、すぐ売ってしまう人は、株式投資に向いている。しかし多くの人は、いきなり10万円損するのは忍びないと思うのだろう。少し待ってみるかと思っているうちに80万円になり、70万円になりどんどん下がり、やがて40万円くらいで落ち着く。ここで売るくらいなら、もっと前に売っておくべきだったと後悔する人は多いが、多くの人は、そのうち戻るだろうと期待して売らずに、この株はいわゆる塩漬けになる。

売ってしまえば、埋没コスト確定だからだ。40万円で売って別の会社の株を買えば、短期で儲かるかもしれないが、なかなか、踏ん切りがつかない。どっちがいいか分からないときは、人は今までの状態を続ける方を選ぶことが多い。それで、しばらくすれば、A社の株価は徐々に回復してきて、5年後に102万円になったところで、やれやれ、損しなくてよかったよと思ってやっと売る。やれやれ売りである。

その直後に株価は急騰して、150万円くらいになる、というのがよくあるパターンだ。100万円投資して5年で2万円しか儲からなくても、銀行預金よりはましだけれども、埋没コストを過度に気にする人は投資には向いていないことは確かである。

少し前のメルマガにも書いたように、カルト宗教に嵌って抜けられないのも、埋没コストを切れないからだ。沢山お祈りをして、沢山お布施をして、死後の世界が約束されているのに、ここで離脱してしまえば、今までの精神的・金銭的な努力が水泡に帰してしまうと思うから、カルトから抜けられないわけだ。

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タラ・レバの妄想についてはどうだろう。合理的に考えればインチキ臭い儲け話に、一部の人がなぜやすやすと飛びつくのかというと、これは、100万円が1年ごとに倍々になったら、大金持ちだ、というバラ色の未来を夢見るからだ。頭の中で夢見ているだけなら問題はないが、実行に移すと、神風特攻と同じく悲惨になることが多い。ギャンブルで身を持ち崩す人も多くはタラ・レバ症候群の患者だと思ってよい。

例えば、万馬券を夢見て、馬券を買う人は多いが、短期的にはともかく、長い目で見れば、買えば買うほど、確率的には損をすることは必定なので、合理的に考える限り、馬券を買うのは愚の骨頂ということになる。配当率は大凡75%なので、100万円投資すれば、平均25万円損することになる。それでもやめられないのは、万馬券が当たった時の快感が忘れられないのと、自分が投票した競走馬が勝てば、投資額の10倍以上の払い戻しがあるというタラ・レバの夢を見るからである。

私も若い頃(ハイセイコーが大人気だった頃)に、時々馬券を買っていたことがあったが、数年でバカバカしくなってやめた。どう考えても儲からないことが分かったからだ。私の知り合いで、何十年と馬券を買っている人がいるが、この人の話によると、自分のお気に入りの競走馬の馬券を買って競馬を見るのと、そうでないのとでは、興奮の度合いが違うそうで、1000円くらいで熱い応援ができるのは、入場料を払って映画を見るのと同じで、損したという気はしないとのこと。そういう人はギャンブルで身を持ち崩す心配はない。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください、初月無料です)

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