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「登校拒否」の子と親の居場所、トーキョーコーヒーに期待する訳

10月末、文部科学省は全国の小中学校で不登校の児童生徒が約24万人、1000人当たり25.7人いて過去最多と発表しました。年々深刻化するこの問題に関しては、子供だけでなく悩みを抱える親をサポートする注目の動きがあるようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、長年不登校の問題に取り組んできた健康社会学者の河合薫さんが、奈良県生駒市発の「トーキョーコーヒー」というプロジェクトを紹介。親が居場所を得て元気に活動することで子供も心地よく居られる場所を作る取り組みは、「不登校」という日本だけの現象を解決し得るものとして、活動の広がりに期待しています。

プロフィール河合薫かわい・かおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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親と子の居場所を奪う「当たり前理論」

「学校に行きたくない・・・」──。子供からこう言われた時、親はどうすべきか?

不登校の子を持つ母親をインタビューした時に、家という閉鎖的な空間の怖さを痛感させられました。「学校に行かせなきゃならない」という焦りと、「学校に行かなくなったのは自分のせいかもしれない」という自責の念と、「子供は夫と話したがらない」「夫は帰りが遅いので私がやるしかない」といった“夫”との関係性に、多くの母親が悩んでいたのです。

そして、みな一様に「不登校には情報がない」と口を揃えた。色々と調べ、市町村の相談窓口や不登校をサポートしてくれる場所にたどり着いても、住んでいる場所や通っている学校によって使えたり、使えなかったりで、結局、子供も親たちも「居場所」を失い、それでもどうにかするしかない日々で苦しんでいました。不登校問題は年々深刻さを増しています。

10月末に文部科学省が発表した調査結果によると、全国の小中学校で不登校の児童など長期欠席者数は、約24万人で過去最多を記録(前年度196,127人)。児童生徒1,000人当たりの不登校児童生徒数は25.7人(前年度20.5人)で、不登校児童生徒数は9年連続で増加しています。

「学校に行きたくない」と悩む子供の力になれることはないか?そんな思いで今から4年前に私が関わらせていただいたのが、自宅にいながら、インターネット上のクラスを通じて、日本中の友だちと学び合い、孤立しないで友と学びあう喜びを実感する「クラスジャパンプロジェクト」でした。

こちらは順調に拡大しているのですが、「悩める親たちの居場所」は長年の課題でした。イベントなどで一時的に母親たちにアプローチできても、持続的なサポートができなかったのです。

おそらく似たような“思い”の人たちがたくさんいたのでしょう。今年8月。奈良県生駒市を拠点とする“子供と親の居場所づくり”という取り組みがスタート。支援の輪が急速に全国に広がっています。「トーコーキョヒ」を文字って「トーキョーコーヒー(TKCF)」という洒落た名前のプロジェクトです。メディアでも取り上げられているので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

主に学校に行かないと決めた子供を持つ親などが集まり農業、ダンスなど様々な活動をする中で、子育てなどについて学び合う場所を作ろう!と、クラウドファンディングで、支援者、主催者を募りスタートしました。わずか3ヶ月で、北海道から沖縄まで全国196ヶ所に広まったというのですから、世の中捨てたもんじゃないですよね。感動です!

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トーキョーコーヒーは、「モノづくりを通して信頼関係を築く」「子供が自分らしくいられる場をつくることで学ぶ意欲を引き出す」などを大切にしていています。それ以外は自由。何を、いつ、どれくらいの規模で開催するかは、それぞれの主催者が自由に決めているのです。

お母さんやお父さんたちみんなで遊んで、学んで、協働で子育てをする。親が元気になり、それを見た子供も嬉しくなる。ネガティブになりがちな「登校拒否」が、「トーキョーコーヒー」では笑顔に変わります。

不登校になる子供は、なんらかの原因があって「行きたくない」ケースがほとんどです。しかし一方で、10人いれば10通りの理由があり、原因も一つではありません。小さな「嫌!」が積み重なり、がんばりのしきい値を超えてしまう場合もあれば、大きな「嫌!」に心がクラッシュされて「行きたいけど行けない」子供もいます。

それぞれの課題はあるけど、共通して子供が求めるのは「大丈夫!」って一言です。「いいんだよ。ここにいて」という人がいて、そばで抱きしめてくれる人たちと「空気を共にできる」。たったそれだけで、暗闇の回廊から抜け出し、前に踏みだせる。「私」の道を歩くようになっていくのです。

そもそも不登校って、日本だけの現象なんですよね。欧米では「教室に行きたくない」という子供のクラスがあったり、スクールカウンセラーがサポートしたり。国によって取り組みは様々ですが、「人」を中心にして、周りの環境を変えることができます。選択の自由が、担保されているのです。

「組織に人が合わせる」が当たり前の日本とは違いです。常に中心にいるのは「人」。色々な子供を受け入れる環境を、子供の複雑で未熟な感情を受け入れる制度を、大人たちが汗をかくことで徹底して整備しているのです。

それは「道から外れてもオッケー」という多様性であり、「いつでも戻れる」という開かれたチャンスでもあります。と同時に、「子育ては社会の責任」という共助です。

いずれにせよ、不登校問題になると「学校にいくのはあたり前」という価値観と共に、「学校は行かなくていい」という考え方ばかりがクローズアップされますが、その前に子供も親も笑顔になる、居場所があることが肝心なんじゃないでしょうか。あくまでも選ぶのは「子供」であり、学校に行く時、行けない時、行かない時のすべての選択肢を捨てない環境づくりが必要だと思います。

「トーキョーコーヒー? うちの近所にあるよ!」という社会になればいいなぁとつくづく思います。みなさまは、この問題についてどのようにお考えでしょうか?是非ともご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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