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ゼレンスキーを待つ地獄。ロシアは本当に不利な状況に置かれているのか?

ウクライナ戦争を巡る各種報道で、劣勢に立たされていると伝えられるロシア軍。しかしその情報は鵜呑みにできるものではないようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、この戦争に関して行われている専門家による戦略会議では、「露軍劣勢」という見立てがなされていないという事実を紹介。さらにさまざまな状況を分析した上で、この先ウクライナが厳しい状況に置かれる可能性が高いことを示唆しています。

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ロシアは本当に不利なのか?

様々な国際紛争の調停にあたる際、紛争の現場を知る軍事関係者・従軍関係者との綿密な意見交換は必須です。

ロシアによるウクライナ侵攻、またはウクライナでの戦争に対しても、元将軍や司令官などがアドバイザリーグループに入っており、頻繁な意見交換と議論を行い、実際の戦況を見極めたり、出口戦略を練ったりしています。

このような話し合い・議論をこれまでに数え切れないほどこなしてきましたが、今でもどうしても慣れないのが、元軍関係者、特に作戦司令官の皆さんが戦争をまるでスポーツのゲームを見ているか、アメフトやサッカーの試合の戦略分析を行っているかのように語ることです。

私の出身校でもあるアメリカのジョンズホプキンス大学国際問題高等戦略大学院(SAIS)にもStrategic Studiesという専攻がありますが(ちなみに私の専攻はConflict Managementですが)、授業の内容も限りなく実戦に近いシミュレーションを行い、戦略を具体的に練り上げるという演習が行われます。

議論にはペンタゴン、米軍関係者、国務省、CIAなどからも現役の人材が参加して、非常に熱気がこもった雰囲気だったのを覚えています。

そして私の在学中には、週末を潰して危機管理のための戦略作りと即応態勢を作ろうと提案し、Strategic StudiesとConflict Management専攻のメンバーに、米政府・米軍の人材、各国から派遣されてきている武官、そしてSAISに留学中の各国の軍の人材などを交えてCrisis Simulationを行いました。確かこの講座は今も継続していると聞いていますが、用いるシナリオは限りなく現実に近く、与えられる情報も実際の参加国の情報という、すさまじい内容でした(参加前に守秘義務契約を締結するほどです)。

懐かしさも手伝って話が少し横にそれてしまいましたが、現在、ロシアとウクライナの戦争に対して行われている戦略会議では「ロシアは劣勢に立たされている」という分析は出てきていません。

逆に絶対的に有利という分析もないのですが、一致している方向性は「ロシアが核兵器を使用しないという前提が成り立つと仮定すれば、この戦争は長期化し、その軍事的・経済的・社会的な被害は甚大なものになる」ということです。

その理由をいくつか挙げておきます。

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一つ目は【停戦協議がしばらくは再開される見込みがない】と思われることです。

皆さんも以前よりご存じの通り、ゼレンスキー大統領は「ロシアに奪われた領土を取り戻すまでは戦い続ける」と宣言し、前線にいる兵士たちと国民を鼓舞して徹底抗戦を呼びかけていますが、それは停戦に向けた働きかけという観点からは、もしかしたら適切ではないかもしれません。

またウクライナのレズ二コフ国防相は、ウクライナの顔として各地を回り、欧米諸国への支援の上積みを訴えていますが、その際、「ロシアが侵略したすべての領土を取り戻すまでは、協議のテーブルに就く用意はない」との立場を繰り返し、こちらでも徹底抗戦の構えを崩していません。

母国を隣国の暴君に侵略され、その不条理に立ち向かい、勇敢に戦うのだという姿勢は、個人的には心から支援したいと感じ続けていますが、紛争調停のお手伝いをする身としては、「そういいつつも、水面下では対話のチャンネルをキープしておいてくれるといいのだが…」と切に願っています。

しかし、残念ながらその“直接対話のためのチャンネル”は、非公式なものも含め、知る限り全く存在しておらず、今のところ、直接的な対決(軍事的な衝突)による反転攻勢しか策が見えておらず、していることとしては、そのキャパシティーを支えている生命線とも言える欧米諸国、特に米国からの支援が遅延なく到着することに賭けているようにしか見えません。

当の米国も先日のポーランドミサイル落下事件以降、ウクライナを見捨てるところまで行っていませんが、バイデン大統領からの“ロシアとの協議再開”の要請も拒絶したことを受け、アメリカは独自にロシア政府との協議に乗り出しています。詳細についてはお伝え出来ないのですが、“ウクライナ戦争の終わらせ方”についての話し合いでは、いろいろと具体的な内容も出てきているようです(聞いている内容の中には、私は納得できない内容もたくさんあります)。

そのような姿勢にウクライナ政府は苛立ち、怒りも爆発させているようですが、欧米諸国からの対話への呼びかけにも応じず、代わりに「この戦争は、ウクライナの戦争」と言い放つ姿勢には、NATOサイドの結束にもずれが生じてきているようです。

ロシアとウクライナの間の協議・仲介の任にフランスがずっと関心を示していることは変わっていませんが、この姿勢がドイツのショルツ首相のフランス離れを引き起こし、マクロン大統領の取り組みに対抗するかのように、同じ日にG7首脳との電話会議を主宰し、対ウクライナ支援の重要性(資金支援)を共有するという動きに出ています。

ただ懸念は、欧州各国はすでにウクライナ支援を、軍事面でのサポートから、紛争終結後のウクライナ再興に重点を移しているように思われます。

そしてそれは、“今のウクライナの苦境に対する支援”ではないという点がとても気になるところです。

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二つ目は【ロシア側の物資の備蓄とウクライナ側の備蓄量に著しい差があるという現実】です。

ロシア“不利”が伝えられ、英国の情報機関によると、「ロシアの軍事的な備蓄は来年早々に底をつき、戦争継続能力に著しい困難をきたす」という分析もある半面、アメリカの軍事筋の分析では「ロシアはまだウクライナに比べて10倍以上の数の砲弾やミサイルを温存していて、次のレベルの戦闘に対して温存できている」という“10対1”という比率に触れる内容もあり、これは読み切れないと言わざるを得ません。

ただ、数か国の情報筋によると「ロシア軍はヘルソン州撤退時や東部での対ウクライナ軍との戦闘に用いているものは、最新鋭のものではなく、非常に高性能な兵器についてはまだ温存していて、十分に戦争の継続能力はある」という見方が強いようです。

撤退については、先述の通り、確かにロシア軍にとっては痛手であったようですが(イメージ戦略上も、軍事的な意味合いでも)、ロシア軍側は肝心の補給線が途切れておらず、今回の撤退もその補給線との遮断を避けるための苦肉の策であったと分析されています。

ロシアが実質支配するクリミア半島とロシアを繋ぐ補給のための回廊(コリドー)の“質”という観点からは、ドニエプル川西岸からの撤退はその質を落とすことになったようですが、まだクリミア半島までロシアから直接に物資や人員を補給することが出来る状況には変わらないようです。

それは2014年以降、ロシアが実効支配し、先日、強引にロシアに編入したルガンスク州とドネツク州も同じ状況です。

私たちが日常的に目にする報道では、ロシアによるドンバス地方などの編入は、現在、ウクライナ軍による反転攻勢によって危うい状況になっており、ウクライナ軍によって“解放”された集落ではウクライナを歓迎しているという情報が伝えられていますが、残念ながら、地元市民は必ずしもウクライナを支持していません。

その理由は2014年以降、継続的にウクライナによってこの地域に住むロシア系住民は迫害され続けていることと、ウクライナが失地回復した後も、物資の供給は、実際にはウクライナではなく、ロシアから行われているため、住民感情としてはまだロシア寄りであると思われます。ゆえに、ウクライナ軍がこの地で完全勝利を収めることはかなり困難でしょう。

「物資さえ豊富にあれば…」との思いからか、レズ二コフ国防相も欧米諸国に必要な物資や軍備の迅速な供給を訴えかけていますが、アメリカを除けば、支援のスピードも量も期待には沿えていません。

その一因で、かつ結構重篤なのは、欧州における仲間割れです。先ほども触れましたが、フランスとドイツの間の決定的なsplitはもはや修復不可能と言われており、その対立が“支援合戦”ではなく“支援の遅延”に繋がってしまっています。

加えてEU内での加盟国間の意思統一の乱れが支援を遅延させています。例えば、ロシアへの依存度も高く、またこれまでにも対ロシンパシーが強いハンガリー・ブルガリアなどの東欧諸国の意見とフランスやドイツなどの西欧の意見の食い違いはすでに克服不可能とされており、EUとしてのウクライナ支援は内容に全体的な支持を得られない状況が続いています。

ポーランドについては、NATOからの軍事支援や物資支援の補給路の窓口になっていることと、アメリカから導入された最新鋭の防空システムの存在のおかげで、NATOによる対ウクライナ支援には前向きと思われますが、それでもウクライナから流入してくる避難民の国内での扱いに限界が感じられるようになり、このpro-Ukraineの姿勢もいつまでも続くか不透明です。

このような内部の争いは各国に対するウクライナへの支援にムラを作ることにあり、ウクライナが反転攻勢を行うにあたり必要な物資やサポートが届かないという事態を招き始めています。

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三つ目は【ロシア・プーチン大統領が仕掛けているウクライナ国民の日常の破壊は非常に長期化し、心理的に長い影を落とすことになる】と思われることです。

ついに意図的にウクライナのエネルギーインフラなどを破壊するように命令しているとプーチン大統領が自ら認めましたが、インフラへの徹底的な攻撃やポーランドからの補給路の遮断を目的とした攻撃は、着々と、そして黙々と進められています。

この攻撃は、核弾頭も搭載可能な高性能誘導ミサイルであるX55によって行われており、ピンポイントでインフラ施設、石油備蓄施設、そして鉄道網、道路網という補給路を破壊しています。

結果、1日に1,000万トンの補給が必要とされる支援のうち、9割を担うポーランド経由の補給手段に対する破壊が最優先され、リビウ周辺は集中攻撃に晒されています。あまり報道されませんが、この補給路の修復は追いついておらず、また代替案も見いだせていない状況のようです。

確実にロシア軍による攻撃は、軍事戦略上の第1段階と言える「軍への直接的な攻撃」から第2段階の「国民生活の維持に必要な機能、つまりインフラ施設の破壊」に移されていると思われます。

結果、ウクライナ国民の生きる希望を打ち砕き、飢えと寒さを通じて、国民を絶望の底に叩き落するという恐ろしい作戦が進められています。そして、補給キャパシティーの著しい悪化と、物資の不足は、ゼレンスキー大統領に究極の選択を迫ることになります。

これまでの発言通りに「ロシアに奪われた領土を取り戻し、ロシアを追い出すまでは徹底的に戦う」のであれば、限られた物資は前線の軍に優先的に供給されることとなり、その結果、一般市民は飢えと寒さから死を迎えることになります。

逆の選択をしたら、国民からの支持は上がるかもしれませんし、共に戦うというムードは演出できるかもしれませんが、前線で多大な犠牲を強いられながら祖国防衛のために戦う兵士たちを見捨てることになってしまいます。

どちらに向かっても、ゼレンスキー大統領に待つのは地獄というのが、プーチン大統領とロシア軍が実行している第2段階から第3段階、つまり【リーダーシップの破壊】と言われる戦略です。

ロシアからの天然ガス供給がストップし、エネルギー危機が生じるとの恐れからLNGsなどを世界中からかき集めることで何とかこの冬は越えられそうな欧州各国ですが、ウクライナにはその余力はなく、じわじわと生存のためのChoke pointを抑えられ始めています。

かつてのナポレオンによるロシア遠征や、ナチスドイツによるロシア侵攻をロシアの寒い冬が阻んだという話は有名ですが、その教訓から、戦略上「冬将軍は、補給路を確保しているものに味方する」と言われます。

この点では、ウクライナからの反転攻勢を受けている南部ヘルソン州も、ドンバス地方も、そしてクリミア半島も、ロシアからの補給路はまだ確保されており、とても変な気分ですが“ウクライナ軍による攻撃に対して冬ごもりをして堪える”のはロシア軍と当該地域の勢力という構図が見え、先ほどの戦略上では「冬将軍はロシアに味方する」のかもしれません。

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四つ目は【プーチン大統領と政府・ロシア軍の見立てでは、ウクライナでの戦闘ではさほど負けていないと認識されていること】です。

私たちがメディアを通じて得ている情報と比べると混乱されるかもしれませんが、軍事専門家および戦略家の見立てでもそのような分析がなされています。

南部ヘルソン州の州都ヘルソン(ドニエプル川西岸)からの撤退はイメージ的には大きな痛手だと捉えられているようですが、ウクライナ軍側にも相当な犠牲が生じたようで、決して「ウクライナ軍による勝利」ともろ手を挙げて喜ぶことが出来る状況ではないようです。

今後、反転攻勢を強めている東部ドンバス地方(ドネツク州・ルガンスク州)における戦闘は、ウクライナ側にとって南部以上の厳しさを増すという予想がされており、それもウクライナ軍による作戦の躍進といった結論を出せない理由の一つになっています。

住民は必ずしもウクライナを歓迎していない。とはいえ、ロシアにも“戦争に巻き込まれた”との思いもあり、どちらかというとロシア寄りと言われていますが、ロシアとして暮らしていくのはまだ先になりそうです。

そして、モスクワの見立てを支えているのは、先ほども触れた軍事戦略の第2段階目の進捗が思いのほか、スムーズに進んでいるという認識です。

インフラ施設への攻撃に対する報復として、ウクライナが旧ソ連製の無人ドローン兵器を用いたロシア空軍基地への攻撃を行うという反撃があり、様々な憶測を呼ぶことになりましたが、報じられているほどの被害は出ていないとのことで、プーチン大統領とロシアにとってはさらにウクライナへの攻撃を継続するよい口実が生まれたと思われています。

またこのウクライナによるロシア攻撃は、以前よりNATOにも仄めかされていたようですが、攻撃に際し、事前の連絡がどこにも入っていなかったとのことで、それがNATO各国のウクライナへの姿勢に影響を及ぼしてきています。

アメリカは一応、数日中にパトリオットミサイルをウクライナに提供する決定をしたと言われていますが、ブリンケン国務長官やオースティン国防長官は「アメリカは報告を受けていないし、ましてやロシアを攻撃できる装備を提供していない」とアメリカの関与を否定し、ウクライナから距離を取っています。

また、このパトリオットミサイルの提供が、プーチン大統領とロシアの核使用に向けたレッドラインを超えかねないことも分かりつつ、「どこまでプッシュできるか」を測る思惑も含むようです。

とはいえ、すでに米ロ間で行われている対話、特にエンドゲームの内容の進捗状況によっては、ロシアがあからさまに嫌がるパトリオットミサイルのウクライナへの配備は、対話による解決の可能性をなくす恐れがあるばかりか、一度は危険性が下がったと思われた“ロシアによる核兵器使用”の可能性を高めることになりかねません。

核のカードをちらつかせながらも、国内で核使用を強烈に支持する強硬派の意見を巧みに抑えてきたプーチン大統領も、パトリオットミサイルがウクライナに配備されたら、ロシアの核使用ドクトリンに沿った対応を取らざるを得ない状況に追い込まれるでしょう。自らの地位と権力基盤の維持のために。

そして、未確認情報ではありますが、“不利“といわれているロシア軍は、ベラルーシと共に、ウクライナを囲い込む形で54万人の部隊と最新鋭のミサイルや重装備先頭車両の配備を済ませており、プーチン大統領からの命令が下れば、一斉攻撃に打って出る可能性が指摘されています。

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そして興味深いのは、ロシア国民からプーチン大統領への支持とウクライナへの攻撃への支持はここ最近、また回復基調にあることです。予備役召集を行った際には、国民にとって“政府がどこかで行う戦争”という他人事が、“自身の家族が戦地に送られるかもしれない”という自分事に変わって反対運動も起こりましたが、すでに“プーチン大統領とこの戦争に反対するロシア人”は国外に出ており、国内に残った国民は召集にも応じていますし、ウクライナによるロシア攻撃のあとは、最近、ウクライナのレズ二コフ国防相も認めたように、ロシアへの攻撃をウクライナが行ったことがわかったことで、ウクライナを徹底的に叩く必要性を叫んでいると言われています。

ゆえに、ロシア政府は一切国境を閉鎖しておらず、ロシア国民の周辺国への移動も制限していませんが、一時期のようにロシア脱出を図るロシア人は出ていないため、ロシア政府の友人の表現を借りると、「ロシアは通常運転を行っている」のだそうです。

プーチン大統領はそのような声に押され、口では核兵器の存在を強調しつつも、通常の戦略に則った攻撃のステップを着実に実行しているようです。

5つ目は【欧米諸国のウクライナ支援疲れが表面化してきた】ことでしょう。

バイデン政権は、近々、ウクライナからの要請を元に、パトリオットミサイルを供与し、ロシアからのミサイル攻撃に対する防空力を高める動きをしているが、それが可能なのは2022年内だと思われます。そして来年初めに新しい議会が開かれると、予算権を握る下院のマジョリティを共和党が握ったことで、アメリカによるウクライナ支援(財政支援)にはブレーキがかかることになるでしょう。しかし、軍事支援については、共和党もバックに軍事産業がいるため、恐らく変わることはないと考えますが、欧州からの支援が滞る中、アメリカ一国による支援が突出していることに危機感を覚える声が国内で高まっている様子です。

しかし、先述の通り、欧州各国にも今、結束してウクライナをバックアップできる状況ではないことと、ウクライナ戦後を見込んで、すでに動き出している各国の思惑とは違い、ウクライナが頑なに停戦協議を拒む姿に対して「もうこれ以上は支えきれないし、ひどいインフレとエネルギー危機、食糧危機に直面する中、さらなる支援を実施することを国内向けに説明できない」というジレンマから、じわじわとウクライナからの要請から距離を置いています。

2023年、ロシアによるウクライナ侵攻を機に生じた世界的なインフレとエネルギー危機、食糧危機は、世界を苦しめ続けることになると思われます。

その中でもアメリカは政策金利の利上げも一段落し、来年には経済も回復することでインフレも収まるとの見込みがあり、日本ものらりくらりと乗り越えるという見立てがされていますが、欧州については一人負けの様相で、来年の冬にはこのままいくと地獄を見る可能性があるとの分析が出ています。

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では“途上国”はどうでしょうか?

エネルギー価格の高騰と、欧州のなりふり構わない天然ガスの買い占めによって苦しめられましたし、ウクライナの穀物の輸出が滞って食糧危機も叫ばれましたが、その穴をなんとロシアが埋めだしました。

小麦をはじめとする穀物については、ウクライナと1位2位を独占する穀倉地帯を要していますし、欧米がブロックしたロシア産の石油天然ガスはインドやトルコを経由して南アジアやアフリカ、そしてラテンアメリカ諸国に安価で提供され始めたことで、危機を脱したとの見方が強くなってきました。

これらの国はロシアが戦争を起こし、ウクライナに侵攻したことについては一様に非難していますが、世界的な危機を引き起こしたのは、欧米諸国とその仲間たちによる一方的な制裁による副作用という理解が共有され始め、感情的な側面での国際情勢の勢力図が書き換えられ始めています。

戦争により、今年は小麦などの穀物の作付けができなかったウクライナは、もちろん来年も収穫を望むことは出来ませんが、侵略したロシアは通常運転を続けていますので、来年以降の食糧マーケット(穀物など)の様相も変わってくるかと思われます。

外貨へのアクセスは、欧米諸国による制裁で切られていますが、実際には中国やトルコ、南米諸国、そして中東アラブのみなさんがカバーしており、ロシアは収入源を絶たれている状況ではありません。また在庫の枯渇が噂される武器弾薬も、イラン・北朝鮮からの供給網が出来ていますし、半導体やその他の資材もあるルートから入ってくるようなことが起きれば、ロシアの軍備の再増強も行われるかもしれません。

最近行った軍事専門家や戦略家を含む検討を追うと、ロシアが本当に不利なのかが分からなくなってきましたが、皆さんはいかがでしょうか?

来週末に迫ったクリスマスイブには、ロシアがウクライナに侵攻してから10か月が経つことになりますが、ウクライナをはじめ、世界中で起こっている絶望的な案件に解決策が与えられるきっかけが見つかればと切に願います。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Vlad Ispas / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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