MAG2 NEWS MENU

憲法に抵触しないのか。防衛省がSNS“ステマ”工作研究に着手の危険

SNS全盛の現代社会において、時に憧れの眼差しさえ向けられることもあるインフルエンサー。しかし彼らは気づかぬうちに、意図していない「企て」に加担させられる恐れもあるようです。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、防衛省が研究に着手したというSNSで国内世論を誘導する工作の内容を紹介。インフルエンサーに「防衛省にとって有利な情報」を発信させるよう仕向ける手口を明らかにしています。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

防衛省が“ステマ”工作研究? 自称インフルエンサー、所詮は利用される運命

防衛省がAI(人工知能)の技術を使い、SNSで国内世論を誘導する工作の研究に着手していたことが分かった。

研究の主眼は、インターネット上でとくに影響力ある「インフルエンサー」が、無意識のうちに防衛省に有利な情報を発信するように仕向け、防衛政策への支持を広げたり、有事の際に特定国への敵対心を醸成させたり、国民の反戦・厭戦の機運を払拭したりする、ネット空間におけるトレンドづくりを目標とするもの(*1)。

一方、防衛省は、「AI技術を使って国内世論を誘導する工作の研究に着手した」などとする一部報道について、「全くの事実誤認であり、防衛省として、国内世論を特定の方向に誘導することを目的とした取り組みを行うことはありえない」
と明確に否定。

そのうえで、「厳しさを増す安全保障環境やIT技術を含む技術革新の急速な進展等に伴い、認知領域を含めて、これまでの戦い方の抜本的変化に対応していくことが重要となる中、防衛省としては、情報戦対応も含め、必要な体制整備を適切に実施していく」とした。

目次

  1. 憲法に抵触? 日本も「ゲームチェンジャー」図る
  2. 自称インフルエンサー、所詮は利用される運命
  3. 防衛省や自衛隊によるインターネット発信活動、2020年の夏ごろから活発に

憲法に抵触? 日本も「ゲームチェンジャー」図る

今年4月、SNSを使った発信の真偽や意図を分析し、フェイクニュースによる世論誘導を防ぐ役割を担う「グローバル戦略情報官」が防衛省に新設。

防衛省では、こうしたフェイクニュースによる情報戦に対処できる体制の構築と対外発信の強化、あるいはAIを活用した公開情報の自動収集・分析機能を整備することなどが検討されている。今後改定される安保関連3文書に中にも盛り込まれる見通しだ。

防衛省が、このような姿を隠したまま世論誘導を図る行為は、基本的には、「ステルスマーケティング(ステマ)」と同様の行為。

防衛省は、「企業のコマーシャル技術と同じで違法性はない」(*2)とするが、しかし研究段階であっても、憲法が保障する個人の尊重(13条)や思想・良心の自由(19条)に抵触する可能性がある。

中国やロシアなどは、人間の心理の捜査やかく乱を図る「情報戦」にすでに積極的に取り組んでいる。防衛省は、日本においても、このように戦闘形態を一変させる「ゲームチェンジャー」の一形態とみて、この分野における能力の獲得が必要であると判断した。

ゲームチェンジャーとは、これまでの考え方や事態の推移を一変させる役割を果たす言葉 (*3)。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

自称インフルエンサー、所詮は利用される運命

防衛省が構想している世論操作は、まずAIの技術を駆使し、SNS上にあふれる大量のビッグデータを収集・分析し、どのような対象に工作をするのがふさわしいかなどの全体計画を策定。そして、ネット上で発信力があり、防衛問題でも影響力がありそうな「インフルエンサー」を特定。

さらにインフルエンサーが頻繁に閲覧するSNSやサイトに防衛省側の情報を流し、インフルエンサーが“無意識に”有利な情報を出させようと仕向けるというもの(*4)。結果、防衛省が望むトレンドづくりをしようとする。

すでに2021年秋には、インフルエンサーらに対し、「厳しい安全保障環境」(*5)を説明、防衛費の増額について発信をしてもらう計画が、省内で打ち出されていた。

インフルエンサーとは、影響、感化、効果などを意味する「Influence」を語源とし、社会に対して大きな影響力をもつ人たちのこと。具体的には、タレントやファッションモデル、スポーツ選手や特定の分野の専門家や知識人、あるいはインターネット上で強い影響力を持つブロガーなどが該当。

2002年に出版されたマルコム・グッドウェルの『The Tipping Point(邦題:「急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則」)』により初めて明示された。

防衛省や自衛隊によるインターネット発信活動、2020年の夏ごろから活発に

これまでにも、防衛省は自衛隊への支持や理解を広げようと、TwitterなどのSNSにおける発信をしてきた。今回の試みは、さらにそれを踏み込んだ形ともいえる。

「ネットは反応が早く、手応えがある。国民の理解を得るための有力なツールだ」(*6)

自衛隊のある幹部は、こう証言する。

そもそも、防衛省や自衛隊によるインターネット発信活動は、2020年の夏ごろから活発になってきた(*7)。当時の河野太郎防衛相の意向がきっかけであるという。

河野氏自身、Twitterで自衛隊の発表を積極的に引用。多くのコメントがついたという。さらに防衛省による正式な発表前の内容を、ツイートで明らかにしたケースもあった(*8)。

事実、陸海空の3自衛隊は、“競い合うように”Twitterを更新。豪雨などの災害派遣の際には、活動の様子をリアルタイムに近い形でアップ。

海外に目を向ければ、他国の世論に介入する「情報戦」の重要性も高まっている。ただ、昨今の防衛費をめぐる議論でもわかるように、結局は防衛省も“仕事”と“カネ”が欲しいだけ。国民の“利益”よりも、防衛省の“省益”が重要だそうだ。

引用・参考文献

(*1)西日本新聞「防衛省が世論誘導研究」2022年12月10日付朝刊

(*2)西日本新聞、2022年12月10日

(*3)西日本新聞「正体見えぬ情報戦 危険も」2022年12月10日付朝刊

(*4)西日本新聞「防衛省が世論誘導研究」

(*5)西日本新聞「正体見えぬ情報戦 危険も」

(*6)西日本新聞「正体見えぬ情報戦 危険も」

(*7)西日本新聞「正体見えぬ情報戦 危険も」

(*8)西日本新聞「正体見えぬ情報戦 危険も」

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年12月18日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

初月無料購読ですぐ読める! 12月配信済みバックナンバー

※2022年12月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、12月分のメルマガがすべてすぐに届きます。

いますぐ初月無料購読!

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2022年11月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月27日(月)号(11/27)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月26日(土)号(11/26)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月20日(日)号(11/20)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月19日(土)号(11/19)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月13日(日)号(11/13)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月12日(土)号(11/12)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月6日(日)号(11/6)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月5日(土)号(11/5)

2022年11月のバックナンバーを購入する

2022年10月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月30日(土)号(10/30)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月29日(土)号(10/29)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月23日(日)号(10/23)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月22日(土)号(10/22)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月16日(日)号(10/16)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月15日(土)号(10/15)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月9日(日)号(10/9)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月8日(土)号(10/8)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月2日(日)号(10/2)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月1日(土)号(10/1)

2022年10月のバックナンバーを購入する

2022年9月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月25日(日)号(9/25)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月24日(土)号(9/24)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月18日(日)号(9/18)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月17日(土)号(9/17)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月11日(日)号(9/11)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月10日(土)号(9/10)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月4日(日)号(9/4)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月3日(土)号(9/3)

2022年9月のバックナンバーを購入する

2022年8月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月28日(日)号(8/28)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月27日(土)号(8/27)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月21日(日)号(8/21)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月20日(土)号(8/20)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月14日(日)号(8/14)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月13日(土)号(8/13)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月7日(日)号(8/7)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月5日(土)号(8/6)

2022年8月のバックナンバーを購入する

2022年7月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月31日(日)号(7/31)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月30日(土)号(7/30)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月24日(日)号(7/24)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月23日(土)号(7/23)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月17日(日)号(7/17)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月16日(土)号(7/16)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月10日(日)号(7/10)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月9日(土)号(7/9)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月3日(日)号(7/3)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月2日(土)号(7/2)

2022年7月のバックナンバーを購入する

2022年6月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月26日(日)号(6/26)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月25日(土)号(6/25)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月19日(日)号(6/19)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月18日号(土)(6/18)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月12日号(6/12)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月11日号(6/11)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月5日号(6/5)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月4日号(6/4)

2022年6月のバックナンバーを購入する

image by: soraneko / Shutterstock.com

伊東 森この著者の記事一覧

伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版) 』

【著者】 伊東 森 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け