経済的に大きな繋がりがありながら、対中政策でアメリカの求めに易易と応じてしまう傾向にある日本。半導体関連の規制でも右往左往する様子に「日本の利益はどこにあるのか?」と疑問に思うのが中国人の本音のようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、知人の中国人による日本の外交政策への提言を紹介。米中対立の中でアメリカにとって重要な日本の立場を利用すれば大きな利益を得るチャンスで、反対に国益第一の振る舞いをしなければ、アジアの中で疎まれてしまう危険があると2023年を展望しています。
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
2023年、日本がアジアの「困ったちゃん」にならないためにすべきこと
日本人が中国の話題に触れるとき、よく使うフレーズがある。 「とはいえ日本は、中国とは経済の面で切っても切れない関係だ」 当然、この前には中国と付き合いたくない多種多様の理由が並ぶ。「経済の関係さえなければ……」という意味にも聞こえる。
関係を切るとか切らないとか、そうした発想そのものが子どもっぽく、外交には相応しくない。また、対立を前に、すぐに「どちらが正しいのか」という判断をしようとすることも、日本の悪しき傾向だ。
居酒屋で酔っ払いがする議論ならばよいのかもしれないが、国と国との関係では国益を基準にする以外のことは避けるべきだ。世界のほとんどの国は、自らを取り巻くさまざまな要素を組み合わせ、計算した上で、まず自国の利益を取りに動く。つまり、「とはいえ……」ではなく、経済関係が太いのであれば、徹頭徹尾それが判断のど真ん中に置かれるのが普通だ。
世界と日本のズレを意識させられる、アプローチの違いだ。ちょうど年末でもあり、今年1年を締めくくる意味でも、今号では外国と向き合う日本の特殊性に焦点を当ててみたい。
実は、日本人と中国人を比較しようとしたとき、この視点から見ると、違いはより鮮明となる。例えば、先日会った中国人のA氏の、こんな質問だ。
「半導体をめぐる中米対立で右往左往する日本を見ていて、中国人が一番理解できないのは、日本の利益はどこにあるのか、ってことなのです。アメリカの半導体産業は、なんだかんだ言いながら中国のメーカーへの半導体の提供を続けています。中国が大きな顧客であり、その代わりが急には見つからない事情を考えれば当然でしょう。だからいまアメリカは、自国企業の利益を犠牲にせず、何とか中国にダメージを与えようと、同盟・友好国からの流れを止めようとしているのです。これに従う日本は、中国とのビジネスを止めたことによって生じた損失を、アメリカが後で穴埋めしてくるという約束でも取り付けているのでしょうか?」
さらにA氏は、「中国との競争に血道を上げるアメリカにとって、日本の価値は従来にないほど高まっています。いまなら少々アメリカの意向に沿わないことをしても、日本に強硬な姿勢はとれないはず。アメリカはいま、日本のアメリカ離れを最も恐れているはずです。それなのにその最大のメリットを日本自身がまったく意識できていない。戦略的な思考ができる政治家や官僚がいれば、米中を天秤にかけて莫大な利益を日本に呼び込むこともできるのに」。
トルコやインドの強かさを基準にすることはできないが、せめて普通レベルに「自国ファースト」であるべきだと、言われているようにも聞こえる。外国人の目に「非自国ファースト」と映る日本の振る舞いが、日本の利益だけを犠牲にするのであればまだしも、いまやアジア全体の利益にも影響しかねないとあって、アジア各国に警戒が広がっている。
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象徴的な分岐点は、アメリカのジョー・バイデン大統領肝いりの経済連携構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」である。IPEFの立ち上げに際し、日本は東南アジア諸国連合を巻き込むための「橋渡し役」を演じたが、これが不評であったことはこのメルマガでも書いた通りだ。
来日時、メディアの取材に応じたシンガポールのリー・シェンロン首相やマレーシアのマハティール元首相の言葉からは、米中対立に巻き込もうとする日本の動きを、かえって警戒しけん制する発言が目立ったからだ。この動きの裏には、東南アジアの人々の対中感情が大きく改善されたという変化があった。日本人が見落としがちな事実だ。
日本のメディアは常に「『一帯一路』は失敗し、沿線国は『債務の罠』に苦しみ、中国に反感を抱いている」と伝え続けている。こうした木を見て森を見ず的な報道で、多くの日本人が誤解した。アジアの人々も自分たちと同じ対中観を共有している、と。
だが、外務省が東南アジアの9カ国を対象に行った世論調査では、G20(主要20カ国)の中で最も信頼できる国や機関という設問に対する回答は中国が19%で1位。日本の16%を上回っているのだ。
また最近発表された「グローバルガバナンス指数2022報告」によれば、2013年から2021年まで、中国の世界の経済成長に対する平均寄与度は38・6%と圧倒的で、主要7カ国(G7)の寄与度の合計さえ上回ったというのだ。つまり中国は、世界の経済成長を推進する第一の原動力であり続けているのだ。そうであるならば、対中感情がどうという以前に、世界は選択の余地のない「中国との利害共有者」というべきだろう。
マハティール氏はIPEFについて「中国を排除し、対抗しようとするものだ」と切り捨て、リー首相は、「今やアジアの多くの国にとって中国は最大の貿易相手だ。アジアの国々は中国の経済成長の恩恵にあずかろうとしており、貿易や経済協力の機会の拡大をおおむね歓迎している。中国も広域経済圏構想『一帯一路』のような枠組みを作り、地域に組織的に関与している。我々はこうした枠組みを支持している」とはっきり述べている。
二人の反応の裏側にあるのは、中国への親近感でもなければ好き嫌いでもない。むしろ中国が大きくなることへの漠とした不安を共有しているかもしれない。だが、彼らは子供っぽい発想はしない。そうした漠然とした不安に付け込まれて、米中の対立に巻き込まれ、国力を落とすような愚かな選択はしないのだ。
こうした発想は中国との親和性も高い。別の中国人のB氏は、「アジアに経済発展の強い追い風が吹くのはそれほど長くはないかもしれない。そんな貴重な時間を、米中対立に振り回されて終わらせるなら、こんな愚かなことはない」と語る。
しかし、こうした発想も日本人と共有することは難しいのだろう──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年12月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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