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他国の説得も効果なし。プーチンが打って出る「ゼレンスキー斬首作戦」

プーチン氏によるウクライナへの軍事侵攻に、国際社会が翻弄された2022年。「歴史の転換点」として記憶されることが確実な年となりましたが、では2023年、世界はどのような状況に置かれることとなるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、北東アジアの安全保障や台湾問題、ウクライナ戦争の行く末を考察。さらに世界経済の展開についての予測も記しています。

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2023年の国際情勢‐協調の回復か?それとも分断の固定化か?

前回号を配信した12月23日。今号を配信する前の間は静かな国際情勢であるように祈ったのですが、実際にはクリスマスも年末年始のFestivityも忘れてしまったかのように、国際情勢における緊張感が緩まることはありませんでした。

今号では年始最初のコラムとして、通年通り、今年の国際情勢の行方についてお話ししたいと思います。

【緊張が高まる北東アジア】

北朝鮮は相変わらず連日弾道ミサイルを発射し、北東アジアにおいて進む日米韓の安保協力体制に楔を打ち込もうと威嚇を繰り返していますし、年始には核開発の再開と核戦力の拡大、そしてICBMの発射に金正恩氏が言及するなど、威嚇の度合いは高まっています。

そしてアメリカのインド太平洋地域軍も、韓国軍も、そして自衛隊も「今年にはロフテッド軌道での発射ではなく、通常軌道での発射に移るのではないか」との見方を強めていると伝えられました。

北朝鮮のICBMは大気圏再突入技術がまだ確立されていないというのが大方の見方ではありますし、弾道ミサイルに搭載できるレベルまで核弾頭を小型化出来ているかは不明と言われてはいるものの、実際にはどちらも開発と実用化は最終段階にきていると思われ、北朝鮮がICBM級を通常軌道で発射し、大気圏再突入技術に成功した段階を機に、一気に北東アジアにおける安全保障環境は一転する可能性があります。

まずICBM技術の完成度が予想以上に高いと判断された場合、大気圏再突入を果たした段階で日米韓の防空システムが本格稼働し、そのミサイルを撃墜することになると思われます。

理論上、北朝鮮のICBM火星17号(またはその改良型)は米国全土をカバーする飛距離があるとされることから、これ以上飛距離を観察する必要はなく、代わりに【ICBMは直ちに撃墜されることを明確に見せること】に重点が置かれることになりますが、これはまた北朝鮮による安保上の脅威に対するレスポンスの内容に大きな変更が加えられることを意味します。

クリントン政権以降、北朝鮮を意図的に無視し、時には瀬戸際外交に乗って融和しようとする間に、アメリカの北朝鮮対応が曖昧になり、それが北朝鮮にICBM技術と核技術の開発を進める時間的余裕を与えたことで、気づいたときには叩くには遅すぎるレベルにまで達する状況を創り出したと言えます。

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これにより「北朝鮮に核兵器を作らせない」から「いかに使わせないか」に安全保障上の重点が移ったことになりますが、それは同時に「核兵器が使われた場合、もしくは使われる強い可能性が生じた場合、どのように対応するか」という戦略のレベルアップにつながります。

それが韓国・日本を攻撃する戦術核でも、ICBMに積み込む戦略核であっても、その脅威に対して日本・アメリカ・韓国はどのように対応しうるかを具体的に考え、準備し、そして実行するための体制が必要となります。

またそのような場合、北朝鮮の後ろ盾となっている中国やロシアがどのように対応するかも、様々なパターンを想定しておく必要があることも意味します。

例えば、今、アメリカは核による先制攻撃はしない方針ですが、明らかに北朝鮮による核兵器の使用の兆しが見えた際、予防的な見地で核による攻撃をするのか?それとも通常兵器、特に精密誘導ミサイルなどを用いて核施設の限定的な破壊を行うのか?といった内容は非常に悩ましい案件となります。

もし通常兵器または核兵器による攻撃の後でも、北朝鮮がまだ核戦力・ICBMなどを持っているとしたら、自衛のために核使用に踏み切る可能性が高まると思われますが、それに対し、日米韓はどのような対応を行うのでしょうか?特に高い確率で韓国と日本は攻撃の的となりますが、日米韓はどうするのでしょうか?

またこのような場合、中国とロシアはどのような動きを見せるでしょうか?

中国もロシアもカギとなるのは「北朝鮮への攻撃が自国の安全保障に直接的な脅威となるか否か」という点でしょう。

脅威となると判断すれば、北朝鮮防衛のためではなく、自国の安全保障のために介入し、朝鮮半島周辺から日米韓の戦闘力を排除する動きに出るでしょうが、核兵器の使用にまで至る可能性は、自国の核使用のためのドクトリン的には条件を満たしたとしても、低いと考えられます。それは両国とも地球の終焉を意味する全面核戦争に与することは極力避けたいとの方針が根底にあるからです。

しかし、2023年に起こる話ではないと考えますが、場合によっては朝鮮半島全体が、人間がしばらくは居住不可能な死の地になり、朝鮮半島から押し寄せる難民の扱いを巡って日・ロ・中が大きな問題に晒されることになるかもしれません。中国もロシアも恐らく国境を閉ざし、国内への混乱を最小限に抑える方策を取るものと予想します。日本についても恐らく同じかと思います。

2023年にすぐに起きることではないと思いますが、北朝鮮の核兵器のレベルとICBMの実用化が確定したと考えられた場合、その可能性は一気に高まるものと予測します。

上記の内容がただの杞憂に終わることを祈ります。

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【台湾情勢はアジアおよび世界の安全保障の火薬庫となるのか?】

2023年というタイムラインで見ると、台湾をめぐる戦いは起きないと思われます。少なくとも武力紛争という形では。

ただ、昨年の台湾の地方選の際に見受けられた中国共産党と人民解放軍のサイバー部隊などによる“ソフトな侵略”は2023年も継続・強化されることとなり、来年の総統選挙に向けて民進党への徹底攻撃にでるものと思われます。

現任の蔡英文総統は2024年1月の任期までは全うするようですが、民進党の主席を辞任せざるを得なかったことで、元々は自身の路線を継続してくれる後継選びという位置づけだった次期総統選には、自らと距離を置く候補が出馬することになり、必然的に対中強硬策は鳴りを潜めることになると思われます。

国民党の候補が勝っても、新しい民進党の候補が勝っても、中国との距離を縮めようとする方向性を取ると見られており、その背景には北京が着実に進めている情報戦の足跡が見えてきます。

じわじわと中国との融和の推進というイメージが台湾の市民に刷り込まれていき、台湾企業による中国本土への投資と進出の凍結も徐々に解かれていくことで、より中国との経済的な結びつきが強化されていくイメージが次々と打ち出されるのが2023年かと思われます。

もちろん蔡英文総統は対中強硬策を崩すことは考えられませんが、すでに彼女の政権はレイムダック状態にあると言われており、台湾の政治コミュニティはすでに“次”に向けた準備を始めていると言われています。

そのような中、気になるのが、中国側が着々と進めている本土と中国を繋ぐ大橋の建設です。これはかなりの大工事になると思われますが、表面上は中台企業による合作という体を取り、融和のイメージと経済的に密接な関係のアピールを前面に出しつつ、中国が台湾併合・統一の最後の壁と考えてきた“物理的な接続”を可能にする狙いです。

以前にもお話ししましたが、仮に中国人民解放軍による“武力による併合”が行われる場合、台湾のコントロールを維持するためには相当のロジスティクス、つまり兵站の確保が必要となりますが、現時点では人民解放軍にその能力はまだなく、その獲得を阻んでいるのは噂の台湾海峡であるため、ここを橋でつないでしまうことで、海上輸送から陸上輸送による物資の供給が可能になるため、大きな弱点を克服することが可能になるようです。

もちろん、ロシア・ウクライナ戦争におけるクリミア大橋の爆破のように、何者かが爆破してしまわなければ…というbig ifがつきますが。

ただ台湾に対する北京からの圧力は一層強まることと思われます。習近平体制の第3期目も、実際の運用は3月からですが、すでに入っていると言っても過言ではなく、権力的な基盤は盤石と言えます。軍の中枢も習派が占めることから、クーデターの可能性も排除できますし、宿願である中華統一(台湾の併合)を高らかに宣言し、党内のベクトルも同じ方向に向かせたことは大きいと思われます。

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ただ、懸念材料は落ち目の中国経済成長率とコロナ感染の再爆発です。新体制ではこの対応は、李克強首相の次の首相になると思われる李強氏が担うことになるようですが(すでにコロナ対策の責任者になっている)、李強氏は中央政府での統治機構の一部の経験はなく、また副首相として部門の責任者を務めた経験もない上に、経済政策に疎いと言われていることから、中国の非常に巨大な経済を国内外向けにハンドリングすることができるか未知数だと言われています。ここは非常に優秀な経済政策のブレーンが就くことを期待しましょう。

コロナ対策については、昨年、急にゼロコロナ対策を撤廃し、その結果、外出規制もボーダーコントロールもなくなりましたが、結果としてコロナ感染の再爆発を経験することとなりました。李強氏および中国政府はこの対策に成果を出さなくてはなりませんが、前途は多難と言われています。

ただ習近平国家主席がこれまでのようにコロナ感染の抑制に力を入れている様子はなく、高齢者偏重型のコロナ対策(高齢者層の感染防止に重点を置く)を改め、中国経済の成長率の回復に軸を移したと情報もあるため、今後、どうなるかはわかりません。

しかし、中国の感染拡大を受けて、日本をはじめとする各国が中国からの直行便での入国者に対する規制を厳格化することを決めたことで、中国政府が期待したほどのものと人の移動の再開による経済へのブースター効果は薄れるかもしれません。

とはいえ、これはお互い様となるでしょうが、まだ各国はwithコロナを叫びつつも、感染の再拡大を経済よりも重要視していることが見えてきたかもしれません。

もし中国・習近平体制が描く2023年から5年間のシナリオが崩れるとしたら、このコロナをめぐるハンドリングと李強氏の経済政策の手腕のまずさが原因になるかもしれず、その場合は、台湾をめぐるタイムラインにも狂いが出てきます。

ただ変わらないのは、恐らく習近平体制第3期の間に中国人民解放軍の軍事力は質・量ともに拡大し、アジア太平洋地域(インド太平洋地域)においてはアメリカ軍とその仲間たちの能力を超えてくるという見通しです。

アメリカ軍と違い、世界展開はしないものの、アジアにおいては強大な軍事力を築き上げ、さらに戦略運用能力を向上させることで、アジアにおける安全保障上のパワーバランスが変わり、アジアをめぐる地政学的要素も大きく変化することになるでしょう。

岸田内閣が閣議決定した安保3文書の内容は、このような懸念と現実を踏まえてのことと思われますが、財源確保の方法などまだ議論が多くある中でいかに早く実効的な枠組みと体制に落とし込めていけるかが、今後の日本をめぐる安保環境を占う大きな要素と言えます。

それによって、間接的にではありますが、もしかしたら台湾の運命も左右することになるかもしれません。

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【ロシア・ウクライナ戦争に決着はあるか?】

あと18日ほどでロシアによるウクライナ侵攻から11か月。そして2月24日には丸一年を迎えます。しかし、これまでのところ、ロシア・ウクライナともに激しく痛みつつも、勝敗の行方は見えてきませんし、落としどころも見えてきません。

ロシアも、欧米諸国とその仲間たちも、2月24日にロシアがウクライナに侵攻するという“特別作戦”を実施した際には「3日ほどでロシア軍がウクライナ全土を掌握する」と考えていましたが、2014年以降、欧米諸国から軍備を提供され、ウクライナ軍は高度な軍事訓練を受け、同時に成人の国民の多くが戦闘訓練を受けていたウクライナは、大方の予想に反して、母国防衛の旗印の下、11か月間持ちこたえてきました。

アメリカはウクライナに対して大規模な軍事支援と経済支援を行い、同時にロシア包囲網を作り上げて、ウクライナの防衛を後方から支援してきましたが、とても慎重にロシアとの軍事的な直接対決は避けてきています。

調停チームのメンバーの表現を借りると「アメリカはロシアに対峙するにあたり、非常にデリケートなラインで踏みとどまり(stay within very thin line)、ロシアによる愚行は決して許さないが、この戦争はアメリカの戦争ではない」というメッセージをロシアに送っているといえます。これはモスクワサイドも認識し、ワシントンでもシェアされているようです。

そのようなラインの下、行われたのが実は昨年12月21日から22日に実施されたゼレンスキー大統領のアメリカ訪問と言われています。

ゼレンスキー大統領の訪米はサプライズとして伝えられ、「どうやって秘密裏に彼をアメリカまで運んだか」についていろいろな議論がなされましたが、どうもワシントンはモスクワに対して事前に通告していたようです。

前回号で私は「たったパトリオットミサイル1基と追加的な軍事支援のためだけに危険を冒してワシントンに呼び寄せられて、アメリカの防衛予算成立のための最後のカードに使われただけの客寄せパンダ」と揶揄しましたが、どうもアジェンダには「ロシアとウクライナの停戦協議のためのお膳立てとアメリカのバックアップ」という内容が含まれていたようです。

【関連】単なる「客寄せパンダ」か?報じられぬゼレンスキー“電撃訪米”のウラ事情

しかし、ゼレンスキー大統領は「ウクライナは奪われた領土を取り戻すまで戦い、かつロシアに今回の侵略のコストを払わせる」とアメリカ政府からの停戦協議に関する提案を全面的に拒否し、代わりに「今必要なのは停戦協議や落としどころではなく、さらに有効な兵器、ロシアと戦い、企みを挫くための軍事支援だ」と訴えかけたそうです。

結果はご存じの通りで、かつもうすぐ射程150キロメートルのハイマースが供与されるとの情報も入っていますが、実情としてその“ハイマース”を今、ウクライナに提供できるか否かは、米軍の軍備管理上、定かではなく、決定はペンディングになっているようです。

そのやり取りが続けられている間、頑ななウクライナの主張についての報告を受けて、ロシアはウクライナ国民の生活とライフラインを徹底的に破壊する攻撃を強化する動きに出ました。それも核弾頭搭載可能のx-55精密誘導ミサイルを一部投入して送電網、輸送網、ガス施設をピンポイントに破壊し、対ウクライナ支援の9割近くが入ってくるポーランド国境に近いリビウ周辺にも集中的な攻撃を加えています。

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ここで注目するのは、自国との国境に近い町で、かつポーランド系が多く住むとされるリビウ周辺を攻撃されているにもかかわらず、ポーランドが全くと言っていいほど反応しておらず、ワルシャワでは「ロシアの攻撃がポーランドに“再び”及ぶことはないと確信している」という見解が出てきていることでしょう。

第2次世界大戦時にはナチスドイツとロシア両方に蹂躙されているポーランドですが、NATO加盟国であるがゆえにNATO憲章第5条の存在ゆえに安心しているのか、それともNATO加盟国でありながらロシアともコミュニケーションがあることが分かってきた中で、プーチン大統領から何らかの約束を取り付けているのかは分かりませんが、調停チームとともに様々なシナリオを準備している際に、このポーランドの沈黙がなぜか腑に落ちない状況です。

そのような中、一つ分かってきたのは、ロシア側が大規模な攻撃を準備しているということです。以前にも触れましたが、ベラルーシ国内も含めると、ウクライナを囲む形で約54万人の兵力が配備されており、そこに重装備の戦車、精密誘導ミサイル、核搭載可能な爆撃機や戦闘機、電波妨害用の兵器などが集結しているようです。

また、プーチン大統領からの依頼に対しても参戦を渋ってきたルカシェンコ大統領(ベラルーシ)も、先日、ウクライナからと思われるミサイルが国内に着弾したことから、覚悟を決めたのか、ロシアの核兵器の配備に加え、ロシア軍にベラルーシ領内の通過と駐留を許可し、そしてベラルーシ軍の参戦にもゴーサインを出した模様です。

これまで行われてきたインフラと輸送路の徹底破壊に加え、ついにターゲットをゼレンスキー大統領他、政権幹部に向けた“作戦の第3段階”(リーダーシップの打倒)に移す模様です。

アメリカや欧州各国はその実施を思いとどまるように伝えているとされていますが、ウクライナ国内に限った攻撃である場合、NATOが直接的に手を出すことはできないというジレンマの前に、実質的に何も効果的な手を打てていないようです。

アメリカやフランスが高性能の先頭車両を供与するとの情報もありますが、国内で高まる“ウクライナによる武器管理体制の不透明さ”に対する懸念が決定を遅らせているようで、時期・規模共にウクライナの助けとなりうるかは微妙な状況です。

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そのような中、中国政府やインド政府がロシア政府に対して大規模攻撃の実施を思いとどまるように外交的な活動を行っているようですが、同時に国際政治上、巻き込まれないようにロシアと距離を取っているのも事実であり、こちらも効果のほどは分かりません。

ただ「今回の作戦において核兵器が使用される可能性は“ほぼ”ない」という情報は少し前向きに思えますが、これはあくまでも“ロシアによる攻撃”の場合であり、ロシアに対する攻撃への反撃手段としては否定されていない点は要注意です。

例えば最近、ロシア軍の内規に反して、ドンバス地方に駐留している兵士が私用の携帯を使ったために、ウクライナ軍に位置情報がバレて、攻撃を受けて90名超が殺害されたエピソードは、ロシアがすでにドンバス地方を“併合”し、ロシア連邦に編入していることから、解釈的には“ロシアへの攻撃”と捉えられかねないという懸念があります。

これはスロビキン総司令官(Mr.アルマゲドン)をはじめとするロシア軍内の強硬派がどんどん影響力を増し、プーチン大統領に対して直接的に報告することが多くなっているため、核使用に実は慎重と言われているプーチン大統領に対して核兵器の使用を進言しかねないと懸念されているからです。

今のところ、ロシアの核兵器は厳重に管理されており、臨戦態勢に置かれてはいるものの、使用されることはないと考えられますが、かつてアメリカの国防長官だったペリー氏が言ったように「人間は間違いを犯し、機械は故障する」という核兵器をめぐる安全保障コミュニティの教訓を私たちは意識しておかなくてはならないでしょう。

ウクライナ戦争において、2023年に決定的なことが起こるかは微妙だと考えますが、問題はどこまでウクライナ国民が飢えと寒さに耐え、同時にウクライナ軍による反攻攻勢を心理的に支え続けられるかでしょう。

補給路は破壊され、電気もガスも届かず、食糧の確保もままならない中、どこまでウクライナの人々が持ちこたえられるか、とても心配です。

国際社会からの支援物資や毛布、食糧などは、残念ながらウクライナ国境の反対側に長蛇の列となっている輸送トラックに中に積まれたまま、ウクライナに入ることが出来ていないようです…(私も頑張っていろいろと送っているのですが)。

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【国際経済は成長軌道に戻ることが出来るか?】

コロナのパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、世界的な気候変動災害…様々な要因・災害・戦禍が国際社会の連携を分断し、経済的な回復を阻んでいます。

ウクライナ戦争に際して導入された対ロ経済制裁は、ロシアを苦しめる以上に、途上国を苦しめ、世界的な穀物や物資の供給網を混乱させています。

エネルギー価格は高騰し、欧州各国では特に異常な値上がりで市民生活を直接的に襲っています。今年はアメリカなどからのLNG緊急輸入で何とか冬をしのげそうな感じですが、アメリカの供給能力もいっぱいの状況で、カタールやオマーンからのLNGsも欧州各国と日本などとの間での争いとなり、価格が高騰しています。

恐らく欧州各国の今年2023年の冬は、このままではかなり厳しい状況に陥ると予想されています。

また戦争ゆえに、世界の穀物庫とも呼ばれたウクライナの2022年の収穫はなく、また作付けもできていないため、2023年以降の収穫は見込めません。また黒海経由の輸送もまた実質的に閉鎖されている状況で、それにより穀物価格が高騰し、これはまた欧州、アフリカ、アジア諸国の食糧供給に大きな負の影響を与えています。

エネルギーや穀物の供給不足の穴を埋めているのが、実はロシア産のガスであり、小麦ですが、これらは欧米諸国とその仲間たちが敷くロシア包囲網をくぐり、中国、インド、トルコ経由で各国に売りさばかれていることもあり、じわじわとロシアサポーターが増えてきています。

「ロシアの侵攻は許せないが、世界の供給網をめちゃくちゃにした国々も許せない。ロシアは今、その穴を埋めようとしている。でも欧米諸国とその仲間たちは口だけで、何もしてくれない。背に腹は代えられない」

このような声が聞こえてくる中、2023年の世界経済は?

アメリカは2022年のインフレショックをほぼ脱し、2023年は回復基調に乗ると思われ、利上げもそろそろ打ち止めされるとの期待から、経済は拡大傾向になると見ています。

EUおよび英国は恐らく先述の通り、2023年は一人負けする経済となるかもしれません。一向に解決策が見つからないエネルギー安全保障、中東諸国が増産に協力的でないこと、食糧の供給も不安定で、インフレは収まる気配がないという分析から、私は悲観的に見ています。

日本については、エネルギー価格の問題やインフレの影響は懸念材料としてはあるものの、大きなショック状態には陥らず、現状維持か(何とか生き残るか)または米国や中国などの経済状況の展開によっては、成長基調にのると思われます。

では中国はどうでしょうか?先述の通り、経済の司令塔の不在は不安材料と思われ、かつてのような高成長率は望めないものの、ロシアとの経済的な連携の効果とロシアの資源・穀物の窓口的な役割を強化することから、国家資本主義圏を中央アジア、中東諸国、アフリカ、そしてラテンアメリカ諸国に広げていくことが予想されることから(反対に中東欧におけるプレゼンスは下がるが)、新体制によるかじ取りに市場が慣れてくるころからは回復・成長基調になると予想します。

国際情勢を見る際、必ず経済的な見通しもいろいろな角度から検討しますが、私はその専門家ではないと感じていますので、経済予測はこのあたりで。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Володимир Зеленський - Home | Facebook

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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