日本の国民年金の「遺族給付」は3種類も存在します。その中でも「遺族基礎年金」は、18歳未満の子がいるひとり親のみに限るという縛りがあります。では、子供がいない場合は貰うことはできないのか、あるいは「再婚」した場合はどうなるのでしょうか? 今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 年金の遺族給付について詳しく紹介しています。
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子のある配偶者か、子にしか支給されない遺族給付と、掛捨防止のための一時金との関係
いつも生年月日からの年齢判定や年金加入月数のリンクを事例に入る前に貼り付けていますが、令和5年版から書き直してリニューアルしましたので、随時ご利用ください。
1.従来は男親が受給する余地はなかった遺族基礎年金と、その意義
国民年金からの遺族給付には3つあって、遺族基礎年金と死亡一時金、寡婦年金というのがあります。
死亡一時金と寡婦年金は国民年金独自の給付ですが、なぜ国民年金だけにあるのかというと保険料の掛け捨て防止のためです。
遺族年金としては遺族基礎年金というのがありますが、この年金は18歳年度末未満の子が居る一人親にのみに限るので、子が居なければ何の遺族給付も貰う事が出来ません。
よって、独自に今まで支払った国民年金保険料に応じて支払おうというのが死亡一時金や、寡婦年金というものです。
逆に厚生年金は子が居なくても受給できる年金であり、受給可能な遺族も配偶者、子、父母、孫、祖父母と範囲が広く受給の可能性が高いために掛け捨ては設けられていません。
さて、今回は国民年金の遺族給付を見ていきたいのですが今回は寡婦年金は扱わず、死亡一時金と遺族基礎年金の関係を事例で見ていきたいと思います。
ちなみに遺族基礎年金は18歳年度末未満の子が居ないと貰えないというのが大きな特徴です(子は障害年金の等級2級以上と同じ場合は20歳まで)。
よって、老齢世代でこの遺族基礎年金を貰っている人は僕の記憶上では、養子縁組みたいなケースだったご家庭の場合は見かける事はありました。
ほとんどは若い世代が受給する遺族給付となっています。年金制度は若い人のものでもあるんですね^^
子が居ないと受給できないのはやはり子供が居るのと居ないのでは、生活費が随分違ってきますからね。
子が居なければ比較的に再婚や、仕事に集中したりと自立が容易になりますので年金に頼らずに自立してくださいって事です。
あと、平成26年4月改正になるまでは男性には支給されないものでした。
妻が死亡して父子家庭になっても、父親には貰う権利が無かったのであります。今も遺族年金というのは男性には厳しいものではありますが、以前はもっと厳しかったんですね。
ちなみに、父親が受給不可でも子どもは受給する権利が発生しましたが、同居してる親がいると遺族基礎年金は全額停止するという性質があるので、結局は父子家庭が貰う余地はありませんでした(面倒見てくれる親がいるなら子への遺族基礎年金は停止していいでしょ?って事ですね…)。
それが平成26年4月1日以降の妻死亡の場合は、父親でも支給対象となりました。改正の目的は男女差の解消と子育て支援の意味が含まれています。
遺族基礎年金は母子世帯が貰うものであったものが、ひとり親世帯が貰うものという事に変化したのですね。
なかなか、どうしてもひとり親家庭というのは貧困に陥りやすく、それに伴って子供への影響も強くなるので、やはり遺族年金を父子家庭であろうが母子家庭であろうが支給する事は重要な事であると思います。
貧困というのは親だけでなく子供への連鎖を招きやすいからですね。国民年金からの遺族年金というのは子育て支援のための年金と考えてもらうといいです。
さて、そんな子を持つ親、もしくは子にのみに支給される遺族基礎年金ですが、今回はそれと合わせて国民年金保険料掛け捨て防止の意味を持つ死亡一時金との関係も考えてみましょう。
寡婦年金は考えずに話を進めます(婚姻期間が10年必要なので…)。
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2.遺族基礎年金
■昭和45年8月19日生まれのA男さん(令和5年1月現在52歳)
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20歳になる平成2年8月からは国民年金に強制加入でしたが、大学生だったので平成3年3月までの8ヶ月間は加入する必要はありませんでした(平成3年3月までは強制ではなかった)。この8ヶ月はカラ期間にはなります。
平成3年4月からは強制加入となるものの、免除は利用せずそのまま未納として、平成5年3月までの24ヶ月間は未納としました。
平成5年4月から非正規社員として働くも平成10年9月までの66ヶ月間は国民年金保険料を支払い、それ以降は平成不況のせいで払わなくなりました(令和5年現在は120万人程の未納者でしたが、平成10年前後は300万人程居て非常に問題になりました。そこから平成16年あたりは国会議員などの未納問題まで発展する)。
平成10年10月から平成29年7月までの226ヶ月間は未納。
平成29年8月から年金は25年ではなく10年あれば貰えるという事を知って、せめて10年は払おうとしましたが令和4年12月までの65ヶ月間は全額免除としました。
令和5年1月に私傷病で死亡。
なお、平成27年6月に婚姻した同居中だった妻(42歳)がおり、その後は子供を一人(7歳)もうけていました。
この妻や子には遺族年金は支給されるのでしょうか。
まず、遺族給付を貰えるかどうかというのは本人の死亡は当然として、それだけでは自動的に貰えません。
最初に国民年金加入中か厚生年金加入中の死亡かを判断しますが、免除期間中の死亡なので国民年金のみの加入中の死亡ですよね。
ちなみに厚生年金加入中の死亡ではないし、もしくは、国民年金加入中の死亡でも厚生年金期間がある場合は全体で未納以外の有効な年金記録が25年以上あれば、遺族厚生年金が受給できる可能性がありましたがそれは無さそうです。
記録をまとめると、
・カラ期間→8ヶ月
・未納期間→250ヶ月
・全額免除→65ヶ月
・国民年金納付→66ヶ月
有効な年金記録は389ヶ月のうち、139ヶ月しかありません。
全体の有効期間は25年以上無いですが、この記録で国民年金からの遺族基礎年金が支給されるかどうかを考えます。
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次にA男さんの過去の年金記録を見ます。先ほどの全体の25年以上の有効な記録があれば良かったんですが、それが無い場合は以下の点を確認しないといけません。
過去の加入しなければいけなかった年金記録(20歳以降ですね)のうち、死亡日の属する月の前々月までの期間で3分の1を超える未納があってはならないという点です。
そうすると20歳になるのが平成2年8月で、令和4年11月までの388ヶ月のうちカラ期間8ヶ月を除いた380ヶ月で考えます。
380ヶ月のうち、126.666…ヶ月(実際は端数は無いので127ヶ月以上の未納があるとダメ)を超える未納はダメって事ですね。
未納期間を見ると250ヶ月あるので、380ヶ月の3分の1をゆうに超えていますのでこの条件は満たしません。
しかし、死亡日の属する月の前々月まで直近1年間に未納が無いので、それで保険料の条件は満たします(特例)。
次に妻の年収は850万円無しとします。
よって18歳年度末未満の子がある妻と、その子に遺族基礎年金の受給権が発生します。
ただし、優先順位は「子のある妻」が受給してる間は、その「子」への遺族基礎年金は全額停止となります。
・妻への遺族基礎年金→777,800円+子の加算223,800円=1,001,600円(月額83,466円)
・妻への遺族年金生活者支援給付金→60,240円(月額5,020円)
給付金は遺族基礎年金受給者に支給されますが、所得制限はあります(所得が約470万円ほどあったら支給されません)
この金額が、子が18歳年度末になるまで支給されます。
例えば令和15年3月が18歳年度末なら、4月分の年金からは消滅する事になります。
なお、国民年金保険料納付期間が36ヶ月以上あると死亡一時金が発生する場合がありますが、国民年金から遺族基礎年金が支給されるので掛け捨てにはならなかったため、死亡一時金は無しです。
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3.妻が受給中に遺族年金の権利を無くしたら
遺族基礎年金は子が18歳年度末になるまでは貰う事が出来ますが、貰えなくなる場合があります。
そのケースとしてとりあえず3つだけ挙げますと、
ア.妻死亡(もしくは子が死亡したとか、子が妻と生計を同じくしなくなった等)
イ.再婚
ウ.直系血族または直系姻族以外の養子になった
などがありますが、遺族年金が貰えなくなるというのは再婚が圧倒的に多いですね。
再婚すると新たな配偶者との間に生計維持関係ができるので、遺族年金は消滅します。新しい配偶者と生活費などは何とかしてくださいねと。
妻の年金は消滅しましたが、じゃあ子はどうなるのかというと、妻の権利は消滅したので今度は子の遺族基礎年金が停止解除になります。
よって、今後は子が受給…となるのですが、同居してる親がいると結局全額停止となります^^;
そこは厚生年金からの遺族厚生年金とは違った点なので気を付けていただきたいと思います。
ちなみに先ほどの「直系血族または直系姻族以外の人との養子縁組」というのがありましたが、これは子にも当てはまります。
そうすると、もし再婚男性が正式な婚姻ではなく事実婚のような相手との養子縁組のような場合は、「直系姻族以外の者との養子縁組」に当てはまって、子の遺族基礎年金も消滅する事になります。
あと、ア.の妻死亡時や子と生計を同じくしなくなった場合は、子と同居する「親」が居ないので、子への遺族基礎年金が支給されます。
もし祖父母と暮らす事になっても、養子縁組などしなければ「親」とはならないので、子への遺族基礎年金は支給されます―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年1月4日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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