金利の上昇、先の見えないコロナ禍、そして日本の深刻な少子化問題など、私たち日本人を取り巻く状況は日々変化し、これまでの生活基盤が揺らぎはじめています。そんな中、多くの人々が悩み頭を抱えているのが、「住宅ローン」「持ち家問題」ではないでしょうか。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では投資コンサルタント&マネーアナリストの神樹兵輔さんが、人口減少が続く現在の状況から日本国内で住宅ローンを組んで自宅を購入することのデメリットやリスク、そして住宅購入よりも賃貸を選ぶことのメリット、余った分ですべき「投資」など、悲惨な老後を迎えないための注意点について紹介しています。
この記事の著者・神樹兵輔さんのメルマガ
マイホーム購入の罠。人生のリスクを最大化し、貧困老後を招く危険な道筋
物価が上昇し、賃金も上がり、日本全体の人口も増えていた 1950~70年代なら 、ローンを組んでマイホーム購入もアリだったでしょう。
当時は金利も高かったですが、それ以上に不動産価格も上昇していってくれたので、少しでも早く家を買っておいたほうが、老後の資産となって安心できたからです。
つまり、借金して一日でも早く家を買っておいたほうが、 不動産価格の上昇でトク をして、さらにインフレで借金の負担が減っていき、トクをしたからです。
しかし、今後にマイホームを購入する──というのは、はたしてアリなのでしょうか。
なぜなら、日本は 人口減少 で、住宅はすでにあり余っているからです。
住宅供給が過剰で、住宅需要が減っていくと、 需要と供給のバランスが崩れ 、住宅価格が値下がりするのは、当たり前の経済学の原理です。
総務省統計局が1947年以来、5年毎に実施してきた「住宅・土地統計調査」の2018年の最新データによれば、全国の総住宅数は6241万戸あります。5400万の総世帯数より多いのです。
そのうち、空き家はすでに849万戸あり、 空き家率は過去最高の13・6% となっているのです。
この比率は毎回上昇してきたものです。
ちなみにこのうち、持ち家住宅は3280万戸なので、「持ち家住宅率」は、61・2%でした。
2013年からのアベノミクスによって、超低金利のお金ジャブジャブ政策で、都心部では不動産の値上がりも顕著でしたが、地方ではせいぜい横ばいか、むしろ値下がり傾向が目立っています。
不動産ならぬ 「負動産」 といわれてからも久しいでしょう。
大都市中心部の一部を除き、住宅の供給過剰は住宅の「値下がり」を意味しています。 少子高齢化 の人口減少は「値下がり」に拍車をかけます。
将来、価値が上がると見込めるなら、借金をしてでも「金利が低い今のうちにマイホームを購入する」という選択肢も経済合理性に適っています。
しかし、将来価値が下がっていくと思われる住宅を購入するのに大きな借金をするのは、整合性があるとは思えません。
不動産投資のバイブル本としてベストセラーになった「金持ち父さん 貧乏父さん」の著者ロバート・キヨサキ氏は 「ポケットにお金を入れてくれるのが資産」で「ポケットからお金を奪っていくものは負債」 と喝破しました。
マイホームがまさしくこれに当たります。
マイホームを購入するより先に資産を築くべき──として、優先すべきは「投資のほうが先」と主張したのでした。
投資で純資産(借金無しの資産)を増やし、 老後に小さな不動産を安く買ってマイホームにすればよい ──という提唱だったのです。
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家賃を払うよりトクと思っても、ローン完済時には家はボロボロ!
住宅ローンを組んでマイホームを購入する人の理由には、以下のようなものがあります。
- 「持ち家は財産になる」
- 「低金利の今が購入のチャンス」
- 「家賃を払い続けても一生自分のモノにはならない」
- 「独居老人になると孤独死懸念で賃貸住宅が借りにくくなる」
- 「住宅ローンは生命保険代わりになる(ローンは団体信用生命保険付きで借主死亡で残債がチャラになる)」
などといったところでしょうか。
一方で、大きなリスクは、25年も35年も続くローンを払い続けられるかどうか、転勤などに伴う住居移転にうまく対処出来るか、子供の独立などの家族数の変化に適応できるか──といったところが心配点でしょう。
ところで、こうしたリスクにうまく対処できるかどうかは、リスク表面化の際に、ひとえに マイホームがいくらで売れるか ──といった点が大きな鍵を握っているでしょう。
その時点でマイホームの価値が上がっているなら、途中で売却し、その売却資金でローンの残債を払えば、それで終わりです。
しかし、実際にはマイホームの価値のほうが落ちていますから、 ローンの残債 のほうが多くて売るに売れないケースが多いのです。
とりわけ、新築住宅は、購入した途端に販売業者の利益が剥落しますから、軽く2~3割は売り出し価格が下落します。
買ってまだまもない築浅でも、購入時点の7~8割の価格でしか売れないのが現実なのです。
新築でも、人が一度でも済めば中古だからです。
築浅の段階では、ローンの残債もまだまだ大きく残っていますから、マイホームは 担保割れ物件 となり、担保割れ部分を埋め合わせる資金がないと相場価格で売り出すこともままならなくなるのです。
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日本の住宅ローンは、欧米よりもリスクが大きすぎる!
マイホームのローン返済に窮して、任意売却や競売に到れば、残債がそのまま「借金」として残ります。
高い価格で買って、安い価格で売るから、そうなります。
日本の住宅ローンが特異なのは、 リコースローン (遡及型債務=そきゅうがたさいむ) だからです。
金融機関は融資するにあたって、購入する住宅に抵当権を設定しますが、融資の与信枠は融資対象者の属性によって決まります。
ゆえに、高額所得者は、信用が増すので、そのぶん余計に大きく融資が受けられます。
欧米の住宅ローンは、 ノンリコースローン (非遡及型債務) です。
住宅の価値のみへの融資なので、ローンの返済に窮したら、マイホームを金融機関に差し出すだけで、その住宅の価値が上がっていようが、下がっていようが、ローンを借りた人の責任はそこで終わりになります。
日本のように、ローン返済に窮して、融資を受けて購入した住宅を差し押さえられ、所有権を手放しても、貸出金の返済額がまだ不足している──として、さらに 残債の借金を背負わされる仕組み とは、根本的に異なるのです。
日本の金融機関は、物件の担保価値まで査定して融資したにもかかわらず、実際にはまるで 「貸し手責任」が問われない のです。
日本の金融機関が、いかに 能天気な商売 をしているかが窺えます。
金融機関は、ほとんどリスクを負わず、住宅ローンの借り手側に、ほぼ 全責任を押しつけている のです。
日本でも、欧米型のノンリコースローンを普及させないと、日本の住宅ローン利用者は、リスクが大きすぎるのです。
庶民が夢のマイホームを購入し、経済情勢の影響で会社をリストラされたら、ローンが払えなくなるのは当たり前です。
日本の住宅ローンのような、阿漕(あこぎ)な融資を許している日本人は、もっと声を上げるべきでしょう。
つまり、マイホームのために、こんなおバカなローンを借りること自体が「おバカ」だと思わなければいけません。
ハイパーインフレでも起きて、お金の価値が激減する期待でもあるならともかく、こんな危ない借金でマイホームなど買うべきではないのです。
そんな被害者がワンサカいるのが今の日本の実情なのです。
一般に、住宅ローンの返済が滞り、競売や任意売却に追い込まれる 住宅ローン破綻率 は、これまでは約2%でした。
つまり、マイホーム購入者の50人に1人が相当します。
しかし、2020年からのコロナ禍で、収入が激減して返済に困った人たちの各関連機関への相談件数は激増しています。
そして、家を奪われても、 リコースローンの呪縛 に、多くの人がその後も苛まれるのです。
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厳しい経済情勢下で住宅ローンの返済期間が延びている!
最近は、金利引き上げに戦々恐々としている人が増えていますが、それとともに危惧されるのは、住宅ローンの借り入れ期間が延びていることです。
住宅金融支援機構の調査によると、2019年度の新規貸し出しの約定貸出期間は平均27・0年でした。
3年前の2016年に比べて1年半ほど延びています。
借入期間が延びればその分、総額での 利息分も増える ことになります。
また、新築の場合、昨今原材料や人件費の高騰もあり、物件価格も高騰しています。
それだけ借入額そのものも増えているわけです。
さらに問題なのが、購入時の年齢が上がっていることです。
国土交通省『住宅市場動向調査』によると、2009年には首都圏の分譲住宅購入者(世帯主)の平均年齢は37.6歳でしたが、2021年では42・6歳になっています。
昔は、ローン完済時の年齢が60歳そこそこを想定していましたが、現在金融機関によっては、 完済時年齢が70歳以上 を超えて想定しているものまで沢山あります。
65歳の第2定年退職後の乏しい年金収入 になってから、いったいどうやって住宅ローンを返していくつもりなのでしょうか。
そのせいか、 親子の2世代にわたる超長期ローン をすすめる金融機関までもが増えています。
2009年から2021年までの12年間で、住宅購入の年齢タイミングが5年も遅くなっているのは、由々しき事態なのです。
当然、完済時期も後ろ倒しになっているわけだからです。
40代前半の男性会社員(正社員)の平均給与(所定内給与額)は月36・4万円で、年収は606万円です。
返済負担額(年収に占めるローン返済額の割合)の上限は35%といわれていますが、適正は20~25%といわれています。
退職金を当てこんで、40代からでも住宅ローンを組もうとする人も少なくないわけです。
しかし、退職金でローンを返済するのは、せいぜい4分の1ぐらいまでにしたほうがよい──というのが、老後資金を見据えた際の賢明な考え方です。
住宅ローンを一気に完済することで、その後の老後資金がなくなったら大変だからです。
その時はその時で、何とかなるだろう──などと思っていても何ともならないからです。
老後には、年を重ねるごとに、医療費や介護費、住宅の修繕費や葬祭費など、いろいろかかってきます。
臨時支出に備えるべく、退職金は出来るだけ残すことが、安定した老後生活にはベターなのです。
42歳で3000万円の住宅ローンを1%の固定金利で30年借りた場合、月々10万円の返済を行っていても、60歳定年時には、1300万円の残債が残ります。
そして、65歳の年金受給開始時でも700万円程度が残るのです。
収入も乏しいのに、どうやって住宅ローンを返済するのでしょうか。
リバースモーゲージという、いったん家を売却し、死ぬまで賃料を支払う──という方法もありますが、それは家の価値があっての話です。
たいてい、住宅ローンを完済できる頃には、肝心の家のほうがボロボロになって、価値がない状態──というのが通り相場なのです。土地値が低ければ、絵にかいた餅でしょう。
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安い賃貸住宅に住み、投資で蓄財を図るのが安心の老後へ!
その点、賃貸住宅に住むなら、物件はいろいろな見地から選べます。
最もおすすめしたいのは、都内でも賃料の安い地域の小さめの賃貸住宅を借りて固定費を抑え、蓄財に励み、投資のタネ銭をつくることなのです。
たとえば、東京都内なら東武東上線沿線の練馬区あたりが賃料の安い住宅が豊富にあるでしょう。
賃貸住宅供給過剰地域 だからです。
駅まで自転車で通うことを前提にすれば、駅から少し遠いところで、古い戸建てで庭付きの一戸建ての家にも、安い賃料で住めるのです。
賃貸ならば、いろいろな修繕費も大家持ちゆえに、居住コストもリーズナブルです。
東武東上線は、かつては都心の池袋駅が終点でしたが、今はさらに都心まで一直線での乗り入れがすすみ、都心部にある会社への通勤にも便利です。
こういう形で固定費を抑えることが、 投資のタネ銭作り に欠かせないのです。
一定程度のタネ銭が出来たら、都心部のワンルームマンション投資に臨むのでもよいでしょう。需要が根強いからです。
この時、その投資の一部に融資を受ける場合でも、住宅ローンを借りていなければ、それだけ金融機関からの融資もスムーズです。
住宅ローンを背負っていると、金融機関の融資枠はほぼいっぱいなので、ワンルームマンション投資でのレバレッジ(てこの原理)を効かせるのも難しくなるからです。
しかし、住宅ローンがなければ、条件次第でいろいろ投資用のローンも引けるからです。
都心部のワンルームマンション投資でなくても、株式や投信での「長期・分散・積立」を狙った金融商品での投資も悪くないでしょう。
現役時代はこのように、蓄財に努め、資産形成に励んだほうが、労働所得以外の不動産所得や金融所得といった安定的な収入が入ることによって、老後の安心感にもつながるのです。
そして、資産形成に成功し、老後に入る頃に資金的な余裕が出来てきたら、その時点でキャッシュを活かして小さなマイホームを買えばよいでしょう。
子供も独立していますから、小さなスペースのマイホームでも十分となります。
なお、たとえ独居老人になっても、ずっと賃貸住居に住み続けたい──というなら、 R65という高齢者に特化した不動産会社 が、月額980円で提供してくれる「電気メーター使用料による見守りサービス」を活用すればよいでしょう。
このシステムを利用すれば、孤独死を怖れて高齢者の入居を忌避する大家さんを説得することも可能だからです。
朝晩の電気使用量によって、異常があればスマホに通知が送られるというシステムです。
世の中、どんどん便利になっているのです。
なお、ここらで、お金についての古今の有名な格言を以下にお伝えしておきましょう。教訓になるかと思います。
★若い時、自分は人生で最も大切なものは金だと思っていた。今、年をとってみると、まったくその通りだとわかった──。オスカー・ワイルド(1854~1900年・英国の劇作家・詩人)
★財布が軽ければ、心は重い──。ゲーテ(1749~1832年・ドイツの文豪)
★本当に大切な自由はただ一つ、それは「経済的自由」だ──。サマセット・モーム(1874~1965年・英国の小説家・劇作家)
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固定費を抑え、4分の1貯蓄がお薦め!
なお、お金を貯めるには「節約が大事」とは、よく聞く言葉です。
しかし、スーパーの特売チラシを見比べ、あちこちのスーパーを巡って、数十円、数百円の「節約」に励むのは、どう考えても経済合理性に適った行動とはいえないでしょう。
小さな「節約」に励んでも、 「チリは積もれど山にはならない」 からです。大きく固定費を削減するのが最も効果的なのです。
安い賃貸住宅に住めば、家賃だけでなく光熱費も削減できます。
「収入よりも支出を出来るだけ減らす」 ことで、蓄財に励み、投資に回していくという行動では、蓄財法で著名な本多静六さんの生活指針が大きな教えとなります。
本田静六さん(1866~1952年)は、東大農学部教授を務めた林学博士で、日比谷公園や大沼公園(北海道)、大濠公園(福岡県)などを作り、「日本の公園の父」と呼ばれた人です。
収入の25%を貯蓄する 「4分の1天引き貯蓄」 が有名で、資金をさまざまな投資に回して巨万の富を築きました。
そして、子孫に美田を残すことなく、定年時に財産のほとんどを公教育などの分野に寄付しました。
はじめから、「収入の4分の3しかお金はない」と肝に銘じて生活すれば、貯蓄も苦にならないと喝破していたのです。
非常に勉強になる教えではないでしょうか。
本多静六さんは、 蓄財についての本 もいろいろ残しています。
きっと参考になることでしょう。
今回はここまでです。
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