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日本列島を襲う大寒波で「車の立ち往生」が相次ぐ危険性。ゲリラ豪雪から命を守るには?

昨年12月19日、新潟県柏崎市の国道8号で「大雪」による22kmもの渋滞が報告され、多くの車が立ち往生したことが大きく報道されました。また一昨年の2020年12月には東京と新潟を結ぶ関越自動車道で、大雪により一時最大で2100台もの車が動けなくなるなど、大きな影響が出たことを記憶している人も多いのではないでしょうか。今年も寒波の影響で、いつ「ゲリラ豪雪」によって被害に巻き込まれるかわかりません。私たちにはどんな準備が必要で、何をすれば良いのでしょうか? 防災・危機管理アドバイザーとして、さまざまな研究や講演を行う古本尚樹さんが、全国各地の雪害の事例研究から今後の対策を提言します。

プロフィール:古本尚樹(ふるもと・なおき)

北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了 博士【医学】。東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退。防災・危機管理アドバイザーとして、さまざまな研究や講演を行う。専門分野は新型コロナウイルス対策(住民・自治体・企業対策、従業員の健康、企業業務継続計画[BCP]等)、危機管理、災害医療、自然災害防災対策、被災者の健康等。

個人HP https://naokino.jimdofree.com/

大雪の関越道で車2100台が立ち往生

昨年12月に、関越道で大規模な車両の立ち往生が発生した。また年末には「最強寒波」、更に1月に入っても北陸道などで車両の立ち往生が北陸の一般道を含め各地で多発している。

私は雪氷災害と関連した各地の立ち往生や除雪に関わる課題、医療や保健・福祉に関わる分野において、調査・分析を行ってきた。

実はこの問題は、北日本だけの問題ではなく、西日本でもたびたび問題になり、四国や私が以前、熊本大学で研究職をしていた時にも、特に凍結路面での救急搬送で、熊本地震後の道路う回による影響も大きな課題であった。

だから、この雪氷災害の課題は北から南まで課題のある分野である。

なお、調査で驚いたのは、四国の山間部ではタイヤをスタッドレスに変えるのは「普通」だと地元住民に指摘された時と、新潟県津南町での屋根雪を重機を使って除雪する光景を目の当たりにした時だった。

後者は、正直「上には上がある」と思い出す。

豪雪による犠牲者は毎年多数発生している

まず、内閣府が出している、以下の災害種別による犠牲者数(行方不明者数を含む)を見てもらいたい。

雪害(雪氷災害)による部分で、毎年コンスタントに概ね2桁の犠牲者が出ていて、3桁に及ぶ年もある。他の風水害や地震・津波等はひとたび発生すれば大きな被害が出るのとは対照的に、毎年各地で一定数の被害が出ている災害といえるだろう。

この犠牲者の内訳だが、除雪作業中の屋根からの落下や除雪機の誤操作、除雪車との事故などで、特に高齢者の犠牲者が多くなっていて、これは今シーズンのケガ人における原因でも同様になっている。

関連して、首都圏等で、降雪による影響により、駅付近での長蛇の列、また電車内での長時間の待機、いわゆる帰宅難民や出社難民の問題にも関連する(正確には帰宅困難者)。

この部分に関しては、かつてJR西日本あんしん社会財団の研究助成を受けて、JR東日本や小田急といった私鉄を含め、帰宅困難者対策に鉄道会社が取り組む内容や課題について調査・分析をした経緯がある。

降雪による、特に冬期間の滞留について、事例とともに考察したい。

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「ゲリラ豪雪」が引き起こす車の立ち往生

昨今、高速道路や一般道の幹線道路を中心に、大量な車両の立ち往生の問題が生じている。

近年だと、2016年1月に平成28年豪雪とされる、新潟県長岡市付近等での大雪で、国道8号沿線ではスタック(移動不能)車両による交通障害が多発、また九州各地で水道管破裂が多発し福岡県大牟田市などで大規模な断水となるなど、寒波が去ったあとも数週間に渡って影響が続いた。悪環境に事故が多発し、負傷者が発生、死者も出た事例。

2017年1月には鳥取県などで大雪により国道373号や鳥取自動車道で合わせて300台以上の車両が立ち往生し、鳥取県は自衛隊に災害派遣を要請した事例。

2017年11月から2018年にかけて発生したいわゆる平成30年豪雪では、北陸地方を中心に、また関東でも八王子市でも大雪になったり、レインボーブリッジで約50台の車両が立ち往生するなど大きな影響が出た。

福井県北部の国道8号では最大約1,500台の車両が立ち往生した。最近は基本的にこの降雪による車両の立ち往生事例は多い。

また、関連して物流(ロジスティックス)の課題も大きく、市民生活に及ぼす影響が大きいのが特徴である。

2013年には北海道東部で吹雪により車両が相次いで立ち往生し、車内での一酸化炭素中毒や車外に出たことにより8人が犠牲になった事例もあった。

今回の関越道では高速道路上での立ち往生事例ではあるが、ネクスコ東日本社長の会見で、「予想外の大雪で…」という弁明は、どうなのか。

最近の事例からもあるように、対策が不十分であり、研究不足だと言わざるを得ない。

だいたい今回の立ち往生した近辺は新潟でも大雪で有名な魚沼市や六日町付近であり、日本でも降雪量の多い地域なので、予想外ではないと思う。

また最近のいわゆるゲリラ豪雨のように局地的に降雨が増加することを目の当たりにすることが多いが、これは降雪でも同様で、「ゲリラ豪雪」は最近多いのが現状だ。

地球の環境変化は著しく、その影響が大きいと思うが、雪の降り方が尋常ではないことを、私自身札幌の自宅にいて痛切に感じる。

ナビに降雪情報を反映させる取り組み

関越道の話に戻そう。このエリアでの主要な道路は、関越道か幹線道路だと国道17号になるが、セーフティネットとして、国道が使えない時は高速道、高速道が使えない時は一般道という基本的な考えになる。

今回、高速道で大規模な立ち往生が発生したが、関越道で仮に早期通行止めにしていたら、おそらく幹線の国道17号で同じことが起きていたと予測する。

この問題は一般道と高速道双方で対策を講じる必要がある課題なのである。

高速道での急な降雪・豪雪対策では除雪体制の強化もあるが、情報に関係する部分が特に大きい。

研究の分野で、実は自動車に利用していることが今やほとんどと思われるナビゲーションに、降雪に関する情報、また待機場所(避難)、除雪の状況やう回路を反映させることができるように、製造メーカーを中心に取り組みがされている。

VICSが渋滞情報をナビゲーションに反映させるのを、降雪関連情報によるバージョンにもするようなイメージになる。

ただ、一般向け実用化には金額的なことも大きく、まだ時間がかかりそうだ。

通常の災害であれば、ラジオが様々な情報を得るのに活躍することが多いが(例えば、東日本大震災)、この移動する車両とその同乗者への対策が、冬期間の立ち往生に関する問題では重要であり、そこに車両に取り付けられることが多いナビゲーションに目をつけているのは、期待できる。

高速道路だけでなく一般道と合わせて対策を議論し、構築する必要があることに加えて、高速道特有の課題がある。

高速道路から非常時に一般道へ避難する道路が基本的に一般車用に確保されていないことだ。

だから、今回もボランティアで近隣の人がスノーモービルや徒歩で近づいたり支援にあたったり、わずかな隙間の部分を高速道から徒歩で移動できるように、除雪して、一般道側の食堂等への移動を確保している。

こうした雪氷災害対策用にも使えるし、非常時の通行止め対策に、非常用避難道をある程度確保すべきと思われる。

詳細が把握できないという致命的欠陥

また、先述のようにこれまでの事例においても、食料や物資の提供に沿線住民が協力してくれることが多い。あくまでの自主的なボランティアの状態である。立ち往生しているドライバーや同乗者にとっては、ありがたいことと思う。

自衛隊の災害派遣も同様だが、こうした沿線の地域住民における自主的な活動に感謝しながら、災害時、特に冬期間における支援のあり方として、ボランティアでありながら、自主防災組織に近い形で、今後確固たる形で組織化できるように国や自治体も「後押し」するべきだと思う。

対策の中で、情報をいかに移動するドライバー等へ伝達するかは、非常に重要な部分になっている。ひとたび立ち往生が発生すれば、数百台単位で生じることは珍しくない。

気象条件とともに、通行量の把握が重要だし、特に局地的な天気の変化に対してビビットにならなくなくてはならない。

道路管理者としてはこの部分が最新で細かい配慮が必要だ。そのうえで、う回路あるいは一時避難所の確保と誘導を早める必要もある。

また、立ち往生が万が一発生した場合において、状況把握が今回不明瞭だったことも今後改善しなくてはならない。

当初、ネクスコでは立ち往生の車両数における正確な数字がわからない旨の説明をしていた。

トンネル内での状況なども把握しきれなかったようだが、これでは支援をする側の物資量や人員手配にも悪影響を及ぼす。

正確な状況把握をするための対策は急務で、例えば、Nシステムの活用や高速道入口通行時の画像把握などを検討したい。

立ち往生してしまった時の注意点とは

一方で、冬期間の豪雪地域を移動するドライバー自身も自主的な対策が重要である。

暖房対策、ガソリンなど燃料不足による暖房確保ができないこと、積雪による車両マフラーの埋まりを防ぐこと、狭い空間でのいわゆるエコノミークラス症候群対策等も欠かせない。

情報を得るためのスマートフォンの充電対策も必要である。

特に課題になるのが、食料とともにトイレの確保である。

自然災害時の避難所でも同様のケースが見られるが、トイレの利用を我慢するがゆえに、水分の補給を避ける避難者が、結果脱水症状や栄養状態の悪化、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)等の健康障害を引き起こすおそれが生じる。

健康を害する危険があるので、車内における簡易トイレのストックや、先述の一般道の例えば道の駅あるいは高速道PAへの移動確保を勧める必要がある。

その際も、優先されるのは要配慮者、すなわち体の不自由な人や高齢者、乳幼児、妊婦等である。

今回の事例でも地域住民の自主的な支援があったが、その中で、自らも立ち往生しながら、製菓会社のドライバーが積み荷の菓子を、同じ立ち往生するドライバーらに配布した例は、心に残っている。

私自身、企業の災害時における業務継続計画BCP(Business Continuity Plan)をも専門分野にして、各企業や自治体等の研修や講演を行っていて、こうした裁量を被災者自らができる環境と思いは、災害立国日本の本来望まれる姿であり、かつ社会的にも評価される部分であろう。

被災者自身も動けたり、活用できる物資を持ち合わせている時に、速やかな判断で支援にあたれる、これこそBCPでも重要な部分と、改めて認識した。

森林放置が重大な問題を引き起こすことも

今回の豪雪に関しては、兵庫県内等山間部の道路で沿線の樹木が倒れ、集落が孤立化した事例も発生した。この事例についても、記述する。

同様の事例を、かつて人と防災未来センター在職時に、2014年12月に徳島県三好市や東みよし町で孤立集落が発生した案件が参考になると思われる。

同自治体や住民の方に調査を行ったが、やはり道路沿線の倒木がきっかけになって孤立化していた。その後、徳島県では、県道沿線を中心に樹木の伐採を進め、雪氷災害対策を行っている。

また、調査でわかったが、この背景には国内の材木が利用されず、放置されていることが根底にあるとの指摘を受けた。

海外からの安価な材木に押され、国内の材木が「放棄」され、結果放置された材木が雪氷災害で悪影響を生んでいるという。

この部分に関しては、国としても防災の観点から対策が望まれるが、民有地が絡む場合があり、この対処が困難になっているだろう。

今後も局地的豪雪の可能性が高い。これまでの前例を活かした、また研究を活かした対策が望まれる。

image by : Narongsak Nagadhana / shutterstock

古本尚樹(ふるもと・なおき)

北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了 博士【医学】。東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退。防災・危機管理アドバイザーとして、さまざまな研究や講演を行う。専門分野は新型コロナウイルス対策(住民・自治体・企業対策、従業員の健康、企業業務継続計画[BCP]等)、危機管理、災害医療、自然災害防災対策、被災者の健康等。熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)、公益財団法人 地震予知総合研究振興会 東濃地震科学研究所 主任研究員(2018~2020)。

個人HP https://naokino.jimdofree.com/

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