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完璧なリスト作りは必要なし。プロが教える「タスク管理」本当の意義とは?

「タスク管理がなってない」と上司や先輩に叱られた経験はないでしょうか。これ、小言にも聞こえますが、抱える仕事が増えるほど「タスク管理」の重要性が高まるのは確かです。しかし、リスト作りなどで情報論的な技術面にとらわれ過ぎて、タスクを管理するつもりが、自分が管理されてしまうのがよくある失敗。今回のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』では、Evernote活用術等の著書を多く持つ文筆家の倉下忠憲さんが、「タスク管理」の本当の意義は「心が整理されること」とわかりやすく説明。意義を見失わず大らかにタスクを整理すればいいと伝えています。

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タスクを整理する、心を整理する

「タスク管理」という営みにおいて、真っ先に行われるのが「タスクの整理」でしょう。言い方を変えれば、「やることの整理」です。ほとんどこれこそが「タスク管理」の中核にあるのではないかと思える行為です。

にもかかわらず、なぜそれをやるのか、という意義についてはあまり語られていない印象があります。「やり忘れを防ぐ」といった実際的な効能はよくいわれるのですが、はたしてそれだけが「やることの整理」の意義なのでしょうか。今回はこの点について考えてみましょう。

■リスト作り

「タスクの整理」の局面において、もっとも頻繁に行われるのが「リストの作成」です。タスクリストややることリストを作ること。一般的なノウハウ書でも口を酸っぱくして言われていることでしょう。

なぜ「整理」においてリスト作りが行われるのか。この点は、堀正岳氏の『リストの魔法』がわかりやすく説明してくれています。簡単に言えば、リスト作りは「はっきり」と「すっきり」に役立つのです。

まず、何をしていいのかわからない(あるいは具体的にイメージできていない)モヤモヤした状況にいるとして、そこからリストに一つひとつ項目を書いていく「言語化」を行うことで、そのモヤモヤが晴れていきます。何かを「はっきり」させるのです。clear。

次に、そうしたリストを作成し、それが手元にあることで「情報が必要になったら、このリストを見ればよい」と思えるようになります。そうなると省力傾向にある脳は、そうした情報の細部をすべて保持しようとはしなくなり、認知資源が開放されます。コンピュータで言えばメモリがクリアされるのです。これが「すっきり」的効能です。

こうした二つの効能があるわけですが、注目しておきたいのはどちらの効能においても「情報論」というよりは「心理的・認知的」な側面が強く現れていることです。どういうことでしょうか。

情報論的な側面で言えば、それぞれの情報のメタ情報を適切に管理し、しかるべき構造下に配置することが目的とされるでしょう。加えていえば、そうした構造が適切に維持されていることが、イコールタスク管理ができていると表現されます。

しかし、心理的・認知的な側面に注目すれば、そうした構造はあくまで副次的な目的でしかありません。たしかにそうした構造があった方が安心しやすいけれども、そうした構造がなくても構わないし、また構造を作ることに躍起になりすぎて心理的・認知的に負荷が高まりすぎるなら構造の重要性は落としても構わない、となるわけです。

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実際的なタスク管理において必要なのは、どう考えても後者でしょう。タスクをめちゃくちゃキレイに整理したけども、その構造の事ばかりが気になって実際のタスクが手につかないなどとなってしまえば「本末転倒」感が充満します。

私たちが「タスク管理」において目指すのは、前者のような効能です。つまり、自分の心・認知を整理することです。もう少し言えば、目の前と頭の中にある情報の整理を通すことで、自分の心を整理すること。それがタスクの整理の主要な役割であり、実際的なタスク管理において必要な営みでもあります。

■何かを「整理」すること

さて、ここで「整理」について考えましょう。梅棹忠夫は「整理」と「整頓」を分けて考えました。「整頓」は、ようするに“見かけだけ”の秩序であり、対象がどのような意味合いを持っているのかは気にしません。たとえば大きさが同じというだけで、未開封のダンボール、電子レンジ、ゴミ箱、旅行かばんを一緒に収納するような行為です。

一方で「整理」は、意味合いに注目します。冷蔵庫の中で、調味料は調味料でまとめ、飲み物は飲み物で収納し、足のはやい食材は先に買ったものを手前に並べる。これらは「どう使われるか」という機能に注目して秩序を作っています。

で、情報というものは“見かけ”を持たない存在なので、より一層「整理」の心構えが必要だ、というわけです。もし、物であれ情報であれ、うまく「整理」できているならば、使うときにさっと取り出せる状態が維持されているはずです。そこから逆算して、何かを収納するときはここに置いておけばいい、と計算もできるはずです。使用に基づいた秩序の効能です。

タスクにおいても同じことが言えるでしょう。行動に関する情報が必要になったとき、それがパッと取り出せるようになっていること。それがタスクが整理されている状態です。

デビット・アレンのGTDが提示した「コンテキストリスト」は、そうした状態の完全な体現と言えます。あるいはそれは「完全」を通り越して、「理想」とすら言えるかもしれません。「理想気体」と言うときの理想、つまり現実には存在しないものというニュアンスです。

複雑化した現代社会において、完璧なコンテキストリストを作ることはそもそも不可能です。また、事前には想定しえなかったコンテキストが突然生まれ、そこにタスクを放り込まなければならない状態もあるかもしれません。そんな状態ではとても完璧なコンテキストリストは作れないでしょう。

でも、それで別に構わないのです。

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■不完全なリストであっても

なぜ完璧なコンテキストリストが作れなくても構わないのか。それはこの「タスクの整理」の意義を思い出せば理解できるでしょう。この営みは、完璧な情報の構造を生成するために行われているのではありません。単に自分の心が「整理」されていればいいのです。

この理解こそが、分水嶺です。この理解の手前においては、「リスト」の完璧さや完全性に固執することになります。理念が先にたち、自分が作ったシステムに自分自身が従属してしまいます。セルフコントロールが呪いとなる瞬間です。

しかし、この理解の向こう側では、「リスト」の完璧さは二次的な話でしかありません。うまく整っているリストがあれば心が整理しやすいだけであって、うまく整っているリストがなければどうしようもない、というわけではないのです。

この点が、GTDの解説においてデビット・アレンが「言い過ぎてしまった」要素でしょう。彼はGTDの素晴らしさを伝えたいがために、リストが完全に整備されていないとうまくいかないと思わせる表現を使っています。でもそれはレトリックでしかないのです。

たしかに「水のような心」であれば物事はうまく進むでしょうし、リストが整っていることは間違いなくそれに貢献します。しかし、リストが情報的に何か足りないことがあっても、私たちは集中して物事を進めることができます。

そもそも、ひとりの人間が作るリストが、何の瑕疵もないと考えるのは相当に傲慢でしょう。単に普通に作ったリストにおいて、たいていの日常では問題は生じないから、瑕疵があるとは気がつかずにいるだけなのです。

もしこの話を否定するなら、ひとりの人間は未来方向に対して、そこで何が起こるのかをすべて予測でき、それぞれについて完璧な回答を持っている、という前提を立てる必要があります。これが傲慢でなくてなんでしょうか。

私たちが「水のような心」(いわゆるフロー状態)に入れるのは、状況を完璧に制御しているからではありません。ものすごく集中していても、大きい地震が来たらその集中は拡散するでしょう。ようするに集中に入ろうとしているときには「もしかしたら地震が来るかも」なんて考えていないのです。でもって、そういう考えを持たなくても、日常生活では問題は起きません。

結局、「リスト」は完全完璧でなくても構わないのです。単に自分の「心」が整理されるに足りるだけの整い方がそこにあればいいのです──(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2023年1月30日号より一部抜粋)

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image by: Shutterstock.com

倉下忠憲この著者の記事一覧

1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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