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日本人の「癖」が邪魔をする。中小企業にイノベーションが生まれない訳

国内の企業、特に中小においてはほとんどと言っていいほど進んでいないイノベーション。その原因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、中小企業がイノベーションを起こせないでいる理由を考察。阻害していたのは、多くの日本人に共通する「ある考え方」でした。

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なぜ、日本の中小企業にイノベーションが生れないのか?

1.日本と香港の発想の違い

日本人は他者との関係性を重視します。例えば、名刺交換の際に年齢を確認しないと気がすまない人がいます。年齢を確認して自分と相手のポジションを確認しないと、安心して会話が始められないのです。

企業も同様で、メーカーはメーカーというポジションを守ります。メーカーは基本的に貿易を行いません。貿易は商社の仕事だと認識しています。これは日本企業だけの特徴で、海外には商社がないので、輸出メーカーは社内に貿易の部署があります。メーカーが原材料を輸入したり、製品を海外に販売するのは普通のことです。

以前、香港貿易発展局の視察ミッションで、国内メーカーと香港メーカーをマッチングしたことがありました。日本メーカーは、サンプルを見せながら、自社の技術をアピールします。香港メーカーはそれを聞いて、「それと同じ製品を半額で作ることができるが、うちにオーダーする気はないか」と言いました。日本メーカーは、「いや、うちはメーカーで、うちの商品を売りに来ているんです」と応えました。香港メーカーは、「日本には職業の自由はないのですか」と聞き返しました。

この会話の中に、日本企業が生産性が上がらず、イノベーションできない理由が隠されています。

日本のメーカーは、メーカーというポジションを頑なに守ろうとします。香港メーカーにOEM生産を委託する気はありません。香港メーカーは、日本メーカーの姿勢が理解できません。香港で半額で作れるなら、それを輸入した方が儲かるはずです。そこで「日本のメーカーには輸入できないという法律でもあるのか」と質問したのです。

第三者から見ると、香港メーカーの提案は理に叶っています。日本メーカーには技術の蓄積があり、経験もあります。香港メーカーは、同じ製品を作ることはできるが、それを発想し、企画することはできません。日本メーカーのOEM生産を受注することで、技術力を向上させることができます。

一方、日本メーカーは海外市場で販売活動をするのが苦手です。展示会に出展してもビジネスにつながりません。両社がOEM生産からスタートして、互いの信頼関係が構築できれば、欧米向けの展示会に協同出展することもできるし、日本メーカーの製品輸出に協力してもらうこともできるでしょう。

イノベーションは柔軟な発想から生れます。まず、自らの意識を変えることが重要です。

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2.生機輸入で成功した国内毛織物メーカー

日本では、国内生産か海外生産かの二者択一で考えます。国内生産のコストが合わないと海外生産を考えます。

しかし、イタリアのメーカーはもう少し細かく考えます。海外生産する場合も、いかに自社のノウハウを守るかを前提にします。例えば、アパレル生産で、裁断は社内で行い、縫製だけを海外に委託するケースがあります。これは、型紙はノウハウそのものであり、型紙を海外に送るとノウハウが流出するからです。もちろん、裁断したパーツをコピーすれば、パターンを盗むことはできるのですが、それでも余分な作業が増えます。

原産国表示は各国によって差があり、イタリアは基準が甘いので、極端にいえば、最終のボタン付けとプレスだけを行ってイタリア製だと表示することもある、という話を聞きました。

現在は、イタリアの工場が中国人に買収され、技術のない中国人労働者が働き、品質の低いイタリア製品が増えていることが問題になっています。

海外生産と一口に言うのではなく、どの工程を海外で行うか、どの工程を国内で行うかと考えています。しかし、日本は貿易は商社が行っているので、海外で完成品に加工した海外製品を輸入する形態になっています。

毛織物の分野でも、半製品(生機)を輸入して国内で染色整理して成功した事例があります。生機(きばた)とは、染色する前の生成りのウール生地です。

毛織物の風合いは染色整理で決まります。染色とは色を染めること。整理加工とは、髪の毛にリンスをするように、毛織物にリンス剤を使ってもみ洗いすることで、ウール独特のソフトな風合いを出すことです。

日本の整理加工技術は世界でもトップクラス。日本の良質な水資源と長年の技術の蓄積によるものです。中国では豊富な軟水が使えず、発色も悪く、風合いも硬くなりがちです。しかし、機織工程では、温度と湿度がコントロールできて、原材料の糸と機械があれば、どこで織っても問題はありません。

中国で安い生機(きばた)を生産し、国内で備蓄し、オーダーが来たらクイックに染色整理して納品する。これにより、納期も短く、品質も高く、価格も安い毛織物が提供できるようになりました。

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3.日本の量産はサンプル生産

日本のメーカーは、多品種少量生産を得意としています。というより、輸出ができなくなり、国内需要だけの仕事なので、小ロット(少量)の仕事しかないのです。

例えば、一般の国内アパレルの生産は数百枚の単位です。しかし、グローバル生産では最低でも数千の単位、量産となると数万の単位のオーダーになります。数百枚という数量は、グローバルではセールスサンプルのレベルです。

「中国生産をやめて国内生産に戻せばいい」と言いますが、多くの場合工賃が合いません。アパレル製品を国内生産に転換するなら、価格は2~4倍になるでしょう。中国生産が始まる前のアパレル製品は価格の水準に戻るということです。

「中国から東南アジアに行けばいい」という意見もありますが、一般的に東南アジアの方が中国より生産ロットが大きい。1万枚以上の数量が普通です。日本の一般のアパレル企業では付き合えないのです。実は、日本の縫製工場でも万の単位のオーダーがあれば、工賃は安く抑えられます。但し、規模が小さいので時間が掛かります。

日本のアパレル企業では、量産の前に展示会サンプルを作り、その前にデザインサンプルを作り、その前にトワル(生成りの綿布)で平面のパターンを立体に組み立てます。各段階で確認、修正が行われます。そして、サンプル段階で多くのデザインがボツになります。

このサンプル生産の問題は、テキスタイルでも同じです。いくつもの試織をして、量産になるのはその中のほんの一部であり、量産と行っても最低ロットがやっとです。これを全国で見たら、どれほどのサンプルが作られ、ボツになっているのでしょう。世界中の試作をしているようなものです。

客観的に見ると、日本のメーカーは商品開発センターであり、量産メーカーではないと認識しています。従って、グローバルな量産工場と組み、商品企画そのものを販売する企画会社になった方が有利だと思っています。サンプル生産なら工賃が高くても通ります。

しかし、多くのメーカーの社長は、「うちは企画会社ではない」と考え、企画会社としてのスキルを磨こうとはしません。あくまで、誰かがオーダーしてくれる前提の工場を死守したいのです。そして黙々と技術を磨いています。それはそれで素晴らしいのですが、もう一歩跳んでほしいなと思います。

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4.補助金で海外展示会に出ること

保守的な国内メーカーに対して、経済産業省やジェトロは、補助金を活用した海外展示会への出展を促しています。しかし、海外の展示会に出展してビジネスが成功する可能性は著しく低いのが現状です。多くの出展者は、半分は観光目的であり、旅行気分で海外出張しています。事前の市場調査もしないし、現地の競合他社の情報収集さえしていない。展示会で名刺交換しても、展示会終了後に連絡を取る人は意外に少ないのです。これでは売れるはずがありません。

本当に海外で販売したいのなら、海外のバイヤーのニーズを知ることが必要です。そして、バイヤーが欲しくなる完成品を提案することです。未完成のものでは判断できません。

多くのメーカーは技術を見せれば、注文してくれると思っています。例えば、「色は注文通りに染めます」というケースが多いのですか、これは未完成の商品ですから判断できません。そのシーズンに最適な色をつけて展示するのが基本です。

過去のアーカイブを持って行って、「こんなものができます」という展示も多いのですが、これも完成品を出展していません。見本市とは完成品のサンプルを展示して、商談する場なのです。

海外ビジネスで成功した事例の多くは、社長が完成品のサンプルを持って、海外の企業を訪問し、直接セールスしています。社長ですから、質問にも即答できるし、ビジネスの条件も決定できます。そして、社長の情熱を伝えることもできるし、経営の哲学、モノヅクリの姿勢を訴求することができます。

海外の展示会に出展するということは、そのメーカー情報、製品情報が公開されることです。新規取引先を開拓したいと考えている企業は、公開された情報を好むのか、それとも、非公開の情報を好むのでしょうか。公開した情報は競合メーカーも見ているので、手垢のついた情報と見なされます。

日本企業にとって、海外展示会に出展することは誇らしいかもしれませんが、現地の企業にとっては普通のことです。それよりも、日本から社長が直接訪問してくれた方が価値はあります。

日本の展示会にも海外メーカーが多数出展していますが、どれだけの日本メーカーが自社と競合する出展者のブースを回っているでしょうか。海外メーカーをリサーチすることで、日本の強みも分かるし、相手の弱みも分かります。それを理解した上で、海外展示会に出展すべきでしょう。

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編集後記「締めの都々逸」

「イノベーションとは 何でもやって 文句気にせず 進むこと」

イノベーションが進まないのは、自分の領域を守り、他人との対立を避けているからだと思います。

商売で勝つということは、誰かが負けるということです。もちろん、自分が負けることもあります。でも、対立を恐れていたら、前に進めない。だから、場合によっては、戦う覚悟が必要です。

しかし、日本人は争いも対立も好みません。自分でコツコツ技術を磨くのが好きなんです。でも、技術を磨くのは何のためでしょう。道を究めるのが目的であれば、それで良いのですが、ビジネスが目的ならばどこかで勝負しなければなりません。

イノベーションの第一歩は「喧嘩上等の精神」だと思いますよ。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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