岸田首相が「異次元の少子化対策」と発言したことについて、世論はさまざまな意見を交わし合っています。そこで、今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、 少子化の原因や影響しているものについて詳しく解説しています。
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岸田首相「異次元の少子化対策」の行く末 「晩婚化」というウソ 奨学金問題 福祉国家でも少子化が進んでいるのというのに
岸田文雄首相が年頭の記者会見で「異次元の少子化対策」と発言したことが、広く波紋を呼んでいる。
2022年の年間の出生数は80万人割れが確実な状況だ。そもそも既存の少子化対策でさえ不十分であるというに、ただ闇雲に「異次元」発言されても、まさに岸田首相の思考回路が異次元だ。
首相がここで掲げた政策は、
1.児童手当を中心とした経済的支援の強化
2.学童保育や病児保育、産後ケアなどすべての子育て家庭への支援拡充
3.育児休業の強化を含めた働き方改革の推進
の3本柱。しかし、いずれも既存の政策の“拡充”に過ぎず、「異次元」とは名ばかりだった。さらにいえば、岸田首相の発言をよく聞いてみると、
異次元の少子化対策に「挑戦する」
としただけで、実施するとも一言も述べてはいない。所詮は、いつもの「検討使」の“バカ発言”に過ぎない。
百歩譲って、「異次元の少子化対策」と述べた理由には、一向に浮上しない内閣支持率の反転の材料としたい思惑もあったのだろう。しかし、いつの時代も子ども予算の捻出は結局、”後回し”とされてきた。
さらに、現代日本では、「結婚したいのにできない」人や、「希望する子どもの数を持てない」人が存在する。首相の掲げた政策は、どれも「子育て支援策」であり、それだけでは上記の人たちの希望へと到達しない。
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晩婚化というウソ
先日、自民党の麻生太郎副総裁が、
「少子化の最大の原因は晩婚化」
と発言。そのことに対し、「理解不足」「女性への責任転嫁」といった批判の声が出た。
問題の発言は15日、福岡県内で開かれた講演会で飛び出す。テレビ朝日の報道によると、麻生氏は少子化について、
「一番、大きな理由は出産する時の女性の年齢が高齢化しているからです」
と断言。女性の初婚年齢が、
「今は30歳で普通」
と述べたうえで、
「子どもを複数出産するには「体力的な問題があるのかもしれない」
と指摘した。少子化は女性の問題と捉えかねない発言であり、SNS上では批判の声が相次ぐ。
しかしながら、日本の晩婚化は“デマ”だ。内閣府が2020年にまとめた資料によると、日本人の平均初婚年齢は、29.4歳。この数字は、日本より出生率が高いイギリス(31.5歳)やフランス(32.8歳)、スウェーデン(34.0歳)よりも低かった。
人口問題に詳しい日本総研の藤波匠氏は東京新聞(1月24日)の取材に対し、
「05年ごろまでは婚姻率の低下が出生率を押し下げる主因だった。しかし、結婚しても子どもを持たない人が増え、16年以降はむしろ出生数の低下を加速させている。晩婚化・非婚化が少子化に与える影響は小さくなっている」(*1)
と麻生氏の指摘に異議を唱える。
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奨学金が「借金」となる 少子化へ影響
少子化の要因はさまざまだが、しかし教育の機会を保障するはずの「奨学金」が少子化を促進する要因となっていることも明らかに。
中央労福協が行ったアンケート調査によると、「奨学金の返済が結婚に大いに影響している」と回答した人が17.4%、「やや影響している」と回答した人が17.3%と、合わせて34.7%に上る。
出産については、「大いに影響している」が14.8%、「やや影響している」が12.6%と、あわせて27.4%となった。
そもそも世界的には、奨学金とは返済の必要がない「給付」を意味する。しかし、なぜ日本では奨学金=貸与型である「借金」となってしまったのだろうか。
東京大学大学院准教授の小島庸平氏によると、日本の奨学金が貸与型として設計された背景には、家族どうしの支え合い(家族主義)を維持・温存するという目的があったという(*2)。
「貸与型にするか給付型にするかという論争は、育英会設立当時からあったようです。その時に決め手となったのは、日本の家族主義的な美風を維持するという点でした。
親は子のためを思って学費を払い、子はその恩を返そうと親孝行をする。ところが、国家が直接子供たちに育英資金を与えてしまうと、親の援助が不要になるので、親に恩義を感じて老後の面倒を見るというようなことがなくなってしまうかもしれない。
貸与型の奨学金制度は、親が子に恩恵を与える余地を残す、言い換えれば、家父長制を温存するために導入されたという源流を持っていました」(*3)
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福祉国家でも少子化が進んでいるというのに フィンランド 日本より低い出生率
だが、子育て支援が日本と比べものにならないほど充実し、男女平等の社会の模範的存在ともいわれるフィンランドも、日本と同様に少子化に。
合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)は2011年から減少を続け、19年には過去最低の1.35にまで下落。 日本(同年1.36)よりも低くなった(*4)。
フィンランドで少子化が進むのは、子どもを欲しがらない人が増えているから。
同国のNGO「人口連合」が1997年以降、実施するアンケートでは、「理想的な子どもの数をゼロ」と答える人の割合は、長い間、1.5%~4%であったのが、しかし2015年の調査では14.8%まで上昇。
とくに20代の若者の間では24%にまで上った(*5)。
「男女平等が進めば出生率が上がるという理論については、それを証明する根拠が十分ではありません」(*6)
人口連合が運営する「人口研究所」でリサーチディレクターを務めるアンナ・ロトキルヒ氏はそう指摘する。そして、フィンランドで少子化が進む背景を、
「子育てを生活の中であまり重視しない考え方が広まっています。(仕事を通じた)自己実現の重要性がより強調されるようになったためだと見られます」(*7)
とした。
■引用・参考文献
(*1)岸本拓也・中沢佳子「こちら特捜部 麻生太郎氏また舌禍…女性ばかりに「期待」する自民党政治家たち 少子化問題 今何が求められているか https://www.tokyo-np.co.jp/article/226983」東京新聞 2023年1月24日
(*2)今野晴貴「『親への恩義』を植え付けろ! 奨学金が「『借金』となったダークすぎる経緯とは https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20230114-00332830」Yahoo!ニュース 2023年1月14日、
(*3)今野晴貴 2023年1月14日
(*4)岩佐淳士「少子化考 世界の現場から フィンランド、模範国に異変(その2止) 産まない選択も人生 広がる個人主義 https://mainichi.jp/articles/20220222/ddm/003/100/109000c」毎日新聞 2022年2月22日付朝刊
(*5)岩佐淳士、2022年2月22日
(*6)岩佐淳士、2022年2月22日
(*7)岩佐淳士、2022年2月22日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年2月4日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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