荒井首相秘書官「見るのも嫌だ」オフレコLGBTQ差別発言は、岸田首相の代弁か?

2023.02.06
onk20230206
 

2月3日のオフレコ取材での性的少数者や同性婚を巡る極めて差別的な発言が問題視され、翌日更迭が発表された荒井勝喜首相秘書官。なぜ荒井氏は首相秘書官という要職にありながら、そのような言葉を口にするに至ったのでしょうか。今回、その理由を自らの記者体験を交えつつ考察するのは、毎日新聞で政治部副部長などを務めた経験を持つジャーナリストの尾中 香尚里さん。尾中さんは「オフレコ取材」の持つ意味を紹介しつつ、荒井秘書官が差別発言を行った意図を推測するとともに、岸田首相が置かれた立場を解説しています。

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

荒井首相秘書官「LGBTQ差別発言」は、岸田首相の認識そのものか

性的少数者(LGBTQなど)や同性婚に関し「見るのも嫌だ」などと差別発言を行った荒井勝喜首相秘書官(経済産業省出身)を、岸田文雄首相は早々に更迭した。荒井氏の発言が3日夜、更迭方針の発表が4日朝。これまで問題閣僚の進退問題でぐずぐずした対応を取ってきた岸田首相としては、異例の早さと言っていい。

危機感の表れだろう。発言が政権全体に打撃となるのを食い止めたいという、強い意思が感じられる。だが、ちょっと待ってほしい。そもそも荒井氏の発言は、岸田首相自身の国会答弁がなければ発生することもなかった、という事実を忘れていないだろうか。荒井氏が職を追われることになったLGBTQや同性婚への認識は、そのまま岸田首相のものである可能性はないのか。

荒井氏の発言を「言語道断」と断じて「トカゲのしっぽ切り」をする前に、岸田首相はまず、性的少数者や同性婚に対する自身の認識について、自らに問い返す必要がある。

本題に入る前に、この問題が表面化するきっかけとなった「オフレコ取材」について、少しだけ記しておきたい。

オフレコ取材について「内容を一切外に漏らすべきではないもの」という認識が一部にあるようだが、それは全く違う。一般的な政治取材における「オフレコ」とは「発言者の実名を表に出さない」こと。取材を受ける政治家や官僚は「実名は出さないでほしいが、話したことは国民に広く知られてほしい」と思っていることの方が、むしろ多いと考える。

新聞の政治記事の多くで「政府筋は」「自民党幹部は」などと、発言者の主語をぼかして書かれているもの、あれはすべてオフレコ取材のたまものだ。例えば「自民党幹部は『○○○』と述べ、首相を批判した」という記事があったとする。取材を受けた自民党幹部は「オレの名は出さずに、首相批判の声が党内に広がっていることを伝えてほしい」という狙いを持って話しているわけだ。

複数の記者が取材対象を「囲み取材」した場合などは、特にそうだ。「発言者の実名を出さない」暗黙のルールがあることを除けば、発言が表に出ることが前提の、事実上の記者会見状態と言っていい(だから今回の発言も、報道されることは当然あり得たし、報道されれば匿名であっても、必ず野党や識者らから発言者の特定を求められただろう。荒井氏の発言であることは、早晩明らかになる運命だったのだ)。

昔からのこうした取材慣行について、現在多くの批判があることは承知しているし、全国紙の政治記者だった筆者自身も、批判を免れない点はある。だが、今回はとりあえずその点は脇に置きたい。ここで言いたいのは、荒井氏の発言は「表に出ることが前提」、いやむしろ「表に出してほしい」との意図で語られたものだ、ということである。

print
いま読まれてます

  • 荒井首相秘書官「見るのも嫌だ」オフレコLGBTQ差別発言は、岸田首相の代弁か?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け